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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
居残り編
42/151

ー42-


ー自分の能力を極めろ。全ての属性を覆いつくすまでー


りく先生の言葉が頭の中を何度も往復する。

これまでの呪いを打ち消すかのように。

「草花は弱い」という長く根付いた価値観という呪いは、まだ全て根絶したわけではない。

これがきっかけで生まれた新しい価値観、行動は私が意識できない領域にも存在するからだ。


「どうだ?やれそうか?」


まるで私がなんて答えるか決まってるかのように聞いてくるりく先生。


「もちろんです…草花の底力、みせてやります…!!」


誰に見せるかなんてわからない。

私に「草花は弱い」って呪いを植え付けたのは「世間」という大きくて曖昧なものだから。

私だってその「世間」の一部。

自分で自分にずっと「私は弱い」って呪いをかけ続けてきたんだから。


でも私の花は死んでなかった。

小さいく小さく、生き残って、ずっとこのタイミングを待っていたんだ。

私が立ち上がる、この日を。


お腹のもっと深いところから熱いものがこみあげる。

初めて感じるこの気持ち。

やる気でも怒りでもない、この気持ち。

これがきっと私の芽。私の生命力。



「やっと芽吹いたな」

「不思議な感覚です…なんだか元気というか、力がどんどんわきあがってるような…」


まるで夜花が私にエネルギーを送ってくれた時のように、今ならどこまも動けてどこまでも行けそうだ。


「それでいい。その感覚を忘れるな。それがお前の異能だ」

「私の異能…?」

「そうだ。お前は自分の能力が草花を成長させる力、と思っているだろう」

「は、はい…」

「この力は草花や他者にむける力じゃない。草は花は誰かのために咲いているか?答えはいいえ、だ。あいつらは自分のために咲いてるんだ。だからお前の力はお前のためにある」


私の力は私のため…。

そんなこと今まで一度も考えたことがなかった。

弱い私は戦えないぶん、他のことで誰かの役にたつことをずっと考えてきていた。

元気にする力を利用して誰かを治療したり、異能ではない夢を見る特技で誰かの役に立とうとしたり。


「…私、今までやってきたこと…ぜんぶ自分のためだと思ってたけど…全然自分のためじゃなかった…」

「あぁ。自分以外に力を使うことが当たり前で、それしかないと思い込んでいたからな。だから自分の力を感じる感覚が閉じていたんだ」

「そんな…」


あまりの衝撃に胸が重くて言葉がでない。

誰かの役に立ちたい、そのために努力してきたことが水の泡になっていくようだった。


「…誰かの役に立とうとするのは、お前の優しさだ。その優しさに救われたやつも多い。これからは自分にも使ってやればいいだけだ」


私の気持ちを察して「だから無駄じゃない」と言い切ってくれた。

どうしてこんなにすぐ私の気持ちを察してくれるんだろう。

もしかしたらきっとりく先生も草花属性ゆえに悩んだ時があったのだろうか。



「じゃぁさっそく実践してみるか」

「…はい!」

「…の前にこいつら片付けなきゃな」


そう言ってりく先生は空間を埋め尽くしていた植物たちに「ふっ!」と強く息を吹きかけた。

すると青く生き生きしていた植物たちが、一斉に黒く枯れ始め、散り散りちなりながら白い練習場の床に消えていった。


「・・・・・・」


唖然とした。

躊躇いもなく自らの意志で枯れ消えようとした植物たちに。

そして何もできなかった自分自身に。


「お前いま、俺のことひどいやつだと思っただろ?」

「うっ…は、はい…」


図星をつかれた。


「まぁあいい。でもお前にはいまからこれを出来るようになってもらうからな」

「え!!???」


出来ればそんなことしたくない。例え強くなること、身を守ることにつながるんだとしても、それが本音だ。


「まずここになんでもいい。草でも花でも咲かせてみろ」


若干気が進まないまま、りく先生の教え通りに床に手を置き、目の前に花をイメージする。

ふと頭に夜花が思い浮かんだ。


「そしたらイメージした夜花の根が、この硬い床を突き破り、この学校を支えている地盤を突き破り、大地に広く深く根ざしているイメージを強くもて」


どんな異能技を受けても傷ひとつないこの練習場の床。

なかなかそんな床を突き破るイメージができない。

どうしても私の手元から床の上に伸びてしまい、夜花が倒れそうになる。


「さっきの感覚を忘れるな。その状態のまま夜花をイメージし続けろ」


額に汗が流れてくる。

自分の力を意識しようとすると夜花のイメージがぼやけてしまうし、かといって夜花に集中しようとふっと力がぬけてしまいそう。

そしてさっきの光景が頭に焼き付いてしまって、よけいに集中がとぎれてしまう。


(せっかくイメージできても枯らしてしまうのはいや…)


最初から枯らそうとするくらいなら、イメージできないほうがいいと心の中でセーブしてしまう。


「立華、夜花を信じろ」


そうだ。

夜花は強い。

なんてたって鬼を退けることができたんだから。

だからこんな床もコンクリートも夜花なら負けない。


そう思った瞬間、私の生命力が爆発するかのように、光の速さで身体中をかけめぐり、高圧な電気が台地にはしった。


「上出来だ、立華」


あまりの衝撃に視界がチカチカして、なにがおきたのか目をこらしてみると1本の夜花が床を突き破り力強く咲き誇っていた。

そう、私は自分の力でなにもないところから、夜花を咲かすことができたのだ。


「せ…先生これって…」

「あぁ、お前の力で、お前の異能で咲かせた夜花だ」


そっと触れてみても、幻でも妄想でもない。

まぎれもない、本物の夜花だった。


「これ…根はどうなってるんですか?本当に地盤突き破ってるんですか?」

「大丈夫だ。いまお前の目に映るものは現実だが、見えないところは異能力でつながっている。本当に突き破ってたら、さっきので連絡場は崩壊してただろ」

「そ、そっか…そうですよね」

「立華。そこがお前の弱点だぞ」

「え?」


りく先生は私の隣にしゃがんで、私が咲かせた夜花の隣に一瞬で夜花を咲かせた。

りく先生が咲かせた夜花は私の夜花よりも花びらがあつく、香りも強く、イメージの強さの力量を感じさせた。


「自分のことよりも花のこと、学校のことを心配する。その優しさはお前のいいところでもあるが、弱点でもあるぞ。まだ自分のために力を使うことに慣れてないから仕方ないけどな」

「あ…たしかにいま学校傷つけちゃったのかな、夜花切られちゃうのかなって考えてました…」

「これから慣れていけばいいさ」


そう言ってりく先生は、私が咲かせた夜花に優しくふれた。


「次はこっちをやってみるぞ」


でも次の瞬間、りく先生は自分が咲かせた夜花に息をふきかけた。

あんなに立派だった夜花はみるみる黒くしおれ、みずみずしさをうしなっていく。


「あっ…!!」


私はとっさに手を伸ばすと、りく先生にさえぎられてしまった。


「立華、お前はまだ草花の強さを信じ切れていない。…永遠に咲き続ける花なんてない。花はいつか枯れる。でも枯れるために咲くわけじゃない。こいつらはまた咲くために枯れるんだ。だからまた咲こうとする花にお前の優しさはいらないぞ」

「咲くために枯れる…」


なにかつかめそうなのに、虚空をつかんでは放しているようだ。


「まずはやってみろ。やり方はさっきと同じイメージでいい。大事なのはまた咲くために枯れる意識だ」

「は、はい!」


夜花の根本に手をかざす。

手の感触は連絡場の床のひんやりとした冷たさなのに、どこまでも深く力強い根が広がっているのを感じる。


(ただ枯れていくイメージじゃなくて…また咲くために枯れるイメージ…)


私はぶつぶつ呟きながら、りく先生が見せたくれたように枯れていく夜花をイメージする。

何度が「自分の力を忘れるな」とアドバイスが入り、咲かせるときよりも集中力がいる。


夜花は弱くない。

そう思ってはいても、私が枯らしてしまうという思考が働いてしまい、良心が痛みだす。


ー夜花を信じろ

ふと、りく先生の言葉を思い出した。 

その瞬間、夜花のエネルギーが変わっていたことに気が付いた。


(夜花が自ら枯れようとしている…)

(そっか…私がここで夜花に優しくしたら、夜花はもう一度咲くことができない…夜花をとめてるのは私…夜花を弱くしているのは私だ…)


私は自分と夜花をつなげていた力を、そっと離した。

すると花びらがしわしわになり、白く艶めいていた花びらが茶色く変色した。



「ま、最初にしてはよくやった」


りく先生のように粉々になって消すことはできなかったが、あきらかに夜花が枯れている。


「いまの切り離す意識をもっとタイミングをはやめるといい。力を注ぎすぎたからな。なんとなくわかったか?」

「…私、もっと花たちを信頼します。…みんな私より強いですね!」


りく先生は小さく笑ったあと、お前も十分強いんだよ、と私の頭をくしゃくしゃになでた。




続く

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