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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
居残り編
41/151

ー41-

「や、えでかちゃん」


ふうちゃんが連れてきてくれたのは誰もいない練習場だった。

そこにはお兄さんとりく先生が待っていた。


「前髪切ったんだね」

「あ、はい…でもちょっと切りすぎちゃいました」

「うん、でも懐かしくてかわいいよ」

「兄ちゃん、それさっき俺言った!」

「ふふ、ありがとうございます♪」


切りすぎたときは落ち込んでたけど、ふうちゃんのおかげでこの前髪も気に入りはじめているのでお兄さんの言葉も素直に受け取れた。


「こうしてみると、えでかちゃんも東都生みたいだね」

「そうですか?ダイヤちゃんが用意してくれたんです」

「ダイヤちゃん?あぁ、近郷さん?」

「うん!部屋も私好みに準備してくれてたんだよ♪」

「近郷さんがそこまでするなんて珍しいね」

「そうなの?」


ふうちゃんとお兄さんの話によるとダイヤちゃんは海外にたくさんの鉱山をもっていることで世界的に有名なダイヤモンド会社で、ダイヤちゃんはそのご息女なんだと。

そして名前のことで引っ込み思案な面もあり、周りからは高根の花と近寄りがたい存在になっていたと教えてくれた。

本当はかわいらしい面を隠しきれず、仲良くなりたい生徒たちが多いことも。

そんなダイヤちゃんが自分から積極的に動くなんて、よっぽどえでかたちと仲良くなりたかったのかもね、とふうちゃんが言うので私は明日の女子会がもっと楽しみになった。




「じゃぁえでかちゃんに残ってもらった理由、そろそろ話そうか」

「お願いします!」

「えでかちゃんにプレゼントがあるんんだ」

「プレゼント、ですか?」

「そ、これがプレゼント♪」


居残りになった理由がプレゼント、ということが頭の中でつながらず「?」を浮かべている。

だって広い練習場の中は私たち4人だけで、プレゼントらしきものは見当たらないから。


「えっと…どれがプレゼント…ですか?」

「これだよ、こ~れ♪りくがプレゼントだよ♪」

「り、りく先生がプレゼント???」


もっと意味がわからない私とは反対に、ふうちゃんは理解したようで「あ、なるほど」と口にした。


「はぁ…空雅さん、それじゃわかんないですって」

「わかってるよ~わざとだよ、わざと!」


薄々感じていたことだけど、りく先生といるときのお兄さん、いたずらっ子みたいで私の前で見せる姿より楽しそう。

りく先生の反応をおもしろがってるみたい。


「鬼神との戦いで、えでかちゃんには自分の身を守れるようになってほしいって昨日約束したでしょ?」

「は、はい!」

「そのためにりくから守り方を教わってほしいんだ。これがお兄さんからのプレゼント」

「りく先生から?」


もし北都高校に最新の学園の七不思議があるのだとしたら、真夜中に練習場を覆う突然の草、寮の上にある高台から聞こえる男女の笑い声、目にもとまらぬ速さで大男達を一瞬で気絶させる少女などがあげられるだろう。

そしてもうひとつ。

誰もりく先生の異能を見たことがないのだ。

いつも出席記録や日誌などで軽くあしらうことはあっても、属性すら誰も知る人はいなかった。

だから実はかわいらしい能力だから見せられない、とか、実は中二病で右腕に封印されているとか噂されることがあった。


「じゃあとはりくに任せるね。僕と大雅は特訓はじめよう」

「は、はい!」

「またあとでね、えでかちゃん、りく」

「頑張ろう、えでか」

「うん…!!」


お兄さんの空間結界に入っていくふうちゃんを笑顔で見送った。

結界に入ると二人の姿は見えなくなり、空間結界の入口も見えなくなった。


「ふぅ~…こっちもはじめるか」

「よ、よろしくお願いします!」


肩に手を置いて首を伸ばすりく先生。

なにが起こるかわからない私はとりあえず身構えてみた。


「そう身構えなくてもいい。とりあえず今お前ができることをみせてみろ」

「できること?」

「練習場の裏で波多野とやってたことだ」

「え!!あ、あれバレてたんですか!?」

「まぁな。俺も片付けてたからな」


俺も、ってことは朝練前に覗きにいってたことも先生は気づいているってことだ。

警備員さんや用務員さんたちが片付けてくれてたことに罪悪感を感じてたから。


「で、でもここお花がないからどうすれば…」


そう。

いくらりく先生に「みせてみろ」と言われても、花がひとつもない空間ではどうすることも私にはできない。


「これならどうだ?」


と言いながら同じく着てた東都ジャージから手を出し、パッと私の足もとに練習場裏のお花スポットを再現させた。


「こ、これ、先生が…?」

「説明はあとだ。それでやってみろ」

「は、はい…」


状況が読み込めず困惑したまま土に手をかざすと、見た目だけでなく土の状態、根の張り方まで再現されていて、まるで北都からもってきたようだった。


「えっと、できました」


波多野がいない分、やはり一人では2階あたりまでしか成長させることしかできない。


「よくわかった。お前は自分の能力をどう思う?」

「…戦闘向きじゃないって思ってます。今回波多野のおかげで力になることはできたけど…私ひとりじゃ戦うことも自分の身を守ることも向いてないって思う…」


私がずっと感じてる劣等感が少しこぼれてしまった。

私ひとりでも戦えるようになりたい、そう思って努力してきたけれど、草花を成長させることしかできなかった。

今回波多野の機転や、夜花のおかげで結果的に鬼に対抗はできたけれど、それがいつもうまくいくとはかぎらない。

自分の異能を見つめ直せば見つめ直すほど、自分の目標とはかけ離れていて劣等感だけが強くなっていった。

そんな私の受け止めるかのように、りく先生は私の頭にポンと手をおいた。


「それは違う」

「え?」

「草花属性は攻撃向きじゃないと思うか?」

「は、はい…卒業生とか討伐庁で活躍してる人はいないって聞くし…どっちかというと園芸コンテストとかライブイベントとかで活躍してる人が多いから…」


数年前、調べたときがあった。

草花属性でも戦闘で活躍している人がいないか、を。

草花属性の卒業生の進路先はもちろん、陰陽省の人が講演会にきたときにこっそり聞いてみたり、地域の蟲退治を管轄している討伐庁に見学にいったときに勤めてる人たちの属性を調べたり…。

だが多くの草花属性の異能力者は異能アーティストとして活躍してる人が多かった。

とくに『花を自由自在に咲かせる異能』や『永遠に綺麗な状態を維持させる異能』、『花吹雪を吹かせる異能』などが有名で、私のただお花を元気にさせる能力程度ではとてもアーティストとして活躍できるはずもなく。

もっとも草花属性で戦闘に進んだ人は一人も見つけられなかった。


「じゃぁなんで属性の中に草花があると思う?」

「え?ど、どうして?…ど、どうしてだろう…」


ゆうた君のような火属性、りさちんのような土属性、波多野のような雷属性。

ふうちゃんのような水属性や雪属性。

そして同じ属性でもあるたかちゃんの木属性。

様々な属性があるがもとは大きく火、水、土、金、木の5属性に分けられ古くから存在した。

そこから徐々に雷や雪のような能力が派生されたと言われている。

なので草花は派生能力とは違い、古くから木属性として存在していたのだが攻撃向きではなく地味なことから「木属性のおまけ」と揶揄されることもあった。


「それぞれ他とは違う特徴があるから存在しているわけだろう?じゃぁ他の属性にはなくて、草花属性にしかない特徴はなんだ?」

「草花属性にしかない特徴…?」


考えたこともなかった。

たしかにどうして攻撃に特化した属性が集まってる中に、草花が含まれているんだろう。

火には燃やすつくす強さ、土には恵みを育む力もありながら足元を揺るがす大きな強さもある。

それぞれにしかない強さはすぐに考え付くのに、草花だけどれだけ考えても強さに結びつかなくて頭を抱えた。


するとりく先生は私の頭をポンポンたたきながら

「まぁこれは世間が悪いのもある。草花は弱いって印象を強く与えすぎた。そんな呪いは必要ない」

と、優しく声をかけてくれて、私の長く頂き続けた劣等感を慰めるかのようで思わず目に涙がたまってきた。


「この世界には力の強い者が自分の都合のいい世界にするために、何も知らない頃から都合のいい教育をするやつがいる。だからそんなやつの声をきくな。それが強さじゃないのはお前もわかってるだろ」

「…はい」


袖で涙をぬぐいながら「そんな都合のいい大人たちに負けたくない」とお腹の底から熱いものがわいてきた。


「…ふっ。それが草花の強さだよ」

「え?」

「お前、いまそんなやつらに負けるかって思ったろ?」

「は、はい…」


私の目が錯覚じゃなかったら、りく先生の足元からするする伸びてる草はなんだろう。

細い草から、茎がりく先生を何人分もの太さまで成長した花で見る見る練習場が埋め尽くされていく。


「も、もしかしてりく先生の属性って…」


七不思議のひとつ、誰も知らないりく先生の属性。

りく先生も私と同じ草花属性だったなんて。

目の渇きがまばたきを思い出した瞬間、あんなに広かった練習場が空間ごと植物で埋め尽くされた。


「いいか?どんなに踏まれても焼かれても刈られても、花は必ず立ち上がり、必ず芽吹く。全ての属性の中で生命力の強さが草花の特徴なんだ。だから草花は弱くない。むしろどこまでも根を張り伸び続ける」


きっとこの光景がなかったら、こんなに説得力はうまれない。

どうして気づかなかったんだろう。

ずっとお花のお世話していたのに。

そうだ、嵐に吹かれて花が散って茎が折れても、台風の大雨で根が腐っても、いたずらで踏まれても、どんなにもうだめかもって思っても、必ず復活する。

時間と手間をかければ応えるかのように芽を出し、例え倒れているのに気づかなくても少しでも根が残っていれば時間をかけて必ず立ち上がり、また綺麗な顔を私にみせてくれる。

こんな強さをもっているのは、草花だけだ。



「もしこの地球から人間が全ていなくなったらどうなると思う?」


唐突で想像しがたい質問に私の想像力だけでは答えがでなかった。


「いま俺たちがいる建物も、北都の高校も、スターツリーも東都ツリーもいつか風化する。この世界を占めてでかい顔してる建物はすべていつか風化して崩れる。でもな、草花はそれらを覆い尽くすように広がり伸び続けるんだ。それは同じ属性でも木にはできない」


りく先生の目に力がはいる。

いつも気だるそうにしながらも、見てる世界は私たちよりもっと遠い未来をみていたのだろう。

そのとき、私たち人間が存在していなくても。


「俺たちは太陽と水、土という環境があり続ける限り成長する。お前にはいま世界で一番の環境の中にいる。だから能力を極めろ」




「全ての属性を覆い尽くすまで」




続く



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