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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
居残り編
39/151

ー39-

談話室に戻ると波多野は一足先に男子寮に入り、謹慎しはじめたようで姿が見えなかった。

博貴の話によると、とてもこれから謹慎をするようには見えないくらい元気そうだったようだ。

「でもなんか雰囲気変わったような気がする~」とぽろっとこぼしていたのが少し気になった。


「じゃぁ寮に行く前に校舎案内するね」

「まってました~!!」


ふうちゃんに続いて勢いよく談話室を飛び出す博貴。

顔には出さないようにしつつも、足取りには出ちゃってるゆうた君。

3人の後ろをりさちんと私でついていく。

「私たちがしっかりしなきゃね」と約束したのにもかかわらず、私たちもやっぱりうきうきしちゃう。


「まずここの通りは来賓用の談話室と、教官室、校長室なんかが並んでるよ。えでかが休んでた仮眠室は、宿直の先生が使うところだね」

「そんな偉い人が集まってる近くで騒いじゃってたけど大丈夫だったかな…」

「それなら大丈夫だよ、りさっぺ。各部屋ごとに防音結界がはってあるんだ」


ほっと胸をなでおろすりさちん。

私も一緒に騒いでしまったけれど、仮眠室に向かった後、さらに賑やかに過ごしたのが3人の様子からなんとなく伺えた。


「じゃぁホールに戻るよ」


来たところと同じ道を戻り、玄関ホールに戻ると、来た時とは違い、放課後の時間を過ごす東都生であふれていた。

戦闘服と同じく白を基調にしたブレザータイプの制服はデザイン性がとても高く、似合う人を選ぶだろうにすれ違う東都生みな着こなしていた。

なので黒と赤の制服は一目で他校だとわかるので、広い玄関ホールの中、私たちはとても目立っていた。


「東都はね、このホールを中心に各学年、各教室、実習室や練習場、部室、寮、すべてにつながってるんだ」

「練習場!?」

「明日行くけど見てみる?今なら誰か模擬戦してるかも」

「うん、いってみたい!」

「じゃぁこっちだよ!」


私は黒が集まってる中、楽しそうに案内を続けるふうちゃんを改めてみていた。


(そういえば制服姿のふうちゃん、初めましてみるな~)


合同演習の時は戦闘服だったし、一緒にビーチを歩いたときはお互いにジャージだったから、まじまじと観察をした。


(制服姿のふうちゃんもかっこいいなぁ。変に着崩したりしてないのに、着こなせてるのはふうちゃんがかっこいいからだろうなぁ。白地のブレザーなんてなかなか着こなせないもん。青とシルバーのラインがいいよね、もっとふうちゃんに合う)


などど、いろんな角度からの制服ふうちゃんを満喫していると


「水樹君、顔赤いけど大丈夫?」

「あ、ほんとだ~!水樹君、ゆでだこみたぁい!!」


と、ゆうた君と博貴に心配されたていた。


ふうちゃんは腕で赤くなった顔を隠しながら「だ、大丈夫…」と答えながら、私に魔法で《えでか、恥ずかしいから勘弁して》と送ってきた。

私は「あっ」と今脳内で制服ふうちゃんを堪能していたのが伝わっていることを思い出した。

なんとか態勢を立て直し、何事もなかったかのように案内を続けるふうちゃんに《本当のことなのに》

と送り返した。

そして耳だけ赤くなったふうちゃんを、私は見逃さなかった。



ー 練習場 ー


「「すごーーい!!!ひろーーーい!!!」」


博貴と声がそろう私。

表情も同じ顔をしていたのか、ふうちゃんはうずくまって笑いをこらえていた。


練習場への扉を抜けたら、何の装飾もないシンプルな空間が広がり、模擬戦のコートがいくつもわけられていた。

無機質ではあるが、おかげで隅々まで見通すことができ、色とりどりの異能で華やかだった。


「あ!あれゆうたの対戦相手だった人じゃない!?」

「ほんとだ、もう回復して練習してるんだね」


ふうちゃんが案内してくれたのは練習場の見学スペースで、練習場の2階にあたる場所だ。

博貴が気づいてもらおうと一生懸命手をふっているが、みんな練習に夢中なのか一向に気づいてもらえない。


「下の練習場からはこっちは結界で見えないようになってるんだよ」

「な~んだ!俺、嫌われたのかと思った!」

「だから思う存分視察してくれて構わないよ♪」

「ふふ、じゃぁ遠慮なく」


戦闘の話になったら夢中になってしまうところは気が合うようで、奥で対戦中の模擬戦を見にむかった。


「ねぇ、楓ちゃん!私たちも女子の模擬戦見てみない?!」

「見たい!いってみよう!」


ふうちゃんたち3人が向かった方とは逆のコートに進むと一際激しくキラキラしているコートがあった。

その光景がとても不思議だった。

目に飛び込んでくる一つひとつの光は多くの女性を虜にするような美しさなのに、大量に集まると肌に冷たく、鋭さを感じる光に変わるのだ。


「…わっ、綺麗な人…」


その光を発していたのは同じ高校生には見えないくらい大人びた女子生徒だった。

ゆか先輩も一つしか学年が離れているようには見えないが、光の女子生徒はまた別の大人の表情を持っていた。


「3年生かなぁ?」

「昨日の模擬戦に出てなかったもんね」


練習場を見渡すかぎり、女子の中ではトップクラスの実力なのが目に見えてわかる。

技を放つタイミング、攻撃と受けの見極め、どれひとつ無駄がなく頭何個分も抜きんでていた。

これほどの実力なら昨日の模擬戦メンバーに間違いなく選ばれていただろう。

でも私たちの記憶では、彼女は参加していなかったのでおそらく先輩なのだろう。


「鉱石タイプの先輩みたいだね。あれはダイヤモンドかな?」

「楓ちゃんの天敵タイプだね」

「そうだね~、あれで剣とかナイフされたら太刀打ちできないかも…」


草花タイプの私は鋭いナイフや、鉱石でつくられた剣などの攻撃をうけると他の属性よりも受けるダメージが桁違いに大きい。

回復に時間がかかったり、時間差でメンタルに損傷がみられたり…攻撃に特化していない異能なのでよけいにダメージをもらってしまう。

使い方次第では私の能力を底上げしてくれたり、磨いてくれる相性でもあるらしいが、諸刃の剣でもある。


「ねぇ楓ちゃん!よくみたら相手男子だよ!」

「えぇ!ほんとだ!相手、火属性だったのに圧勝だったね…」

「私でも苦戦しそう…」


結局私たちも戦闘バカな女子なのだろう。

ふうちゃんに声をかけられるまで、鉱石先輩の模擬戦に夢中になっていたのだから。




「じゃぁそろそろ寮に案内するね。ホールに戻って隣の扉からでもいけるんだけど、練習場と寮つながってるんだ」

「便利~!うちは寮が離れてるんだよね~もう寮着くころにはヘロヘロ~」


練習場の奥の扉をくぐると、もう外は真っ暗になっていて、夏の訪れを知らせる虫たちの合奏が行われていた。

東都高校に入ってから、あまり外の景色をみる機会がなかったことに気が付いた。

外には異能野球部や、異能蹴球部、異能陸上部などのグラウンドがあるようで、校舎内同様、外の設備も北都以上に整っているのだろうなと思った。



そんな風に外の景色を眺めていると、いつの間にか寮の扉の前に到着していた。


「あ、そういえば言い忘れてたんだけど、空き部屋なかったみたいで波多野君と3人同じ部屋になるんだ。ちょっと狭いけどごめんね」

「やったぁ~~!!」

「波多野、謹慎中なのにいいのかな?」

「今回だけ特別だって兄ちゃんが言ってたから大丈夫だよ。でも問題おこしちゃだめだよ、だって」

「は~~い!!」


たかちゃんはまるで修学旅行が延長になったかのように、嬉しそうに返事しているが、私とりさちんはちょっと不安になった。


「あ、女子寮の案内人もきたから、俺たち男子寮入っちゃうね」

「ありがとう、ふうちゃん。東都高校楽しかった!」

「私も楽しかったよ~!水樹君、ありがとう!」


ふうちゃんに校舎案内してもらいながら、普段ふうちゃんはここで授業を受けて、友達とおしゃべりしたり、練習したりしてるんだと思うと、ふうちゃんの新しい一面をたくさん知ることができてうれしかった。


「じゃぁえでか、またあとでね」

「うん!」

「また明日ね、りさ」

「ゆっくり休んでね。ゆうた君」


それぞれ恋人に挨拶を済ませていると、一人残された博貴がいじけて「あれ!?俺だけ彼女なしじゃ~ん!!さみしいよ~!!」と男子寮に入っていったので、博貴の背中に二人で「たかちゃん!大人しくしててね!」と声をかけたのをふうちゃんとゆうた君は笑っていた。




男子寮の扉がしまると同時に、後ろから声をかえられた。


「北都高校の立華さんと榎土さんですよね?」

「あ、はい!」


凛と張りのある声に振り返ると


「「あ!!」」


練習場で私とりさちんを夢中にさせた鉱石先輩が立っていた。



続く

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