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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
居残り編
38/151

ー38ー


「あはははは!!すっごい行動力!!!」


ふうちゃんの笑い声が談話室にはじける。

博貴たちからここまでの経緯を聞いていたのだが、話が進むたびにふうちゃんが笑うので談話室がいっきに賑やかになった。


「それで~急いでタクシーに乗り込んでさ~、前の車おってください!って映画みたいだったよね~」

「運転手さんもノリがよくてよかったよね」


私も聞くのは2度目だけど、たかちゃんとゆうた君の掛け合いがおもしろくて、初めて聞くかのように何度も笑ってしまう。


「そうだ!俺たち日曜日に帰る予定なんだけどさぁ、水樹君も明日一緒に遊ぼうよ!」

「いいね!って言ってもこのあたり観光できる場所なんてないからさ、昨日約束した模擬戦はどう?」

「やりたーーーい!!」

「うん!俺も!」

「じゃぁ練習場借りておくね♪」


模擬戦のことになると目の色が変わる3人をみて、隣のりさちんがこそっと私に「ほらね、戦闘バカばっかり」と耳打ちして二人だけでこっそり笑った。


模擬戦話で盛り上がりはじめたころ、談話室の扉がひらいた。


「大雅ぁ~いつまでのんびりしてるつもりだ~?5限目はじまるぞ!」

「わ!兄ちゃん!」

「学校では先生!はやく教室戻りなさい!」

「せっかくえでかもいるのにぃ~。じゃ、放課後またくるね!」

「いってらっしゃい!ふうちゃん!」

「またね~水樹君~!」


授業開始の鐘と同時に名残惜しそうに談話室から出ていくふうちゃんを、お兄さんは「やれやれ」と言った表情で見送った。

その変わり、謝罪を終えた波多野とりく先生が談話室にやってきた。


「おっ、波多野~おかえり~!」

「波多野君はこのまま寮で謹慎の予定だったんだけど、予定外にお客さんが増えちゃったから今空室の準備中なんだ。それまで波多野君もここで待機してるといいよ」

「…はい」


波多野は博貴に促され、男子3人ぎゅうぎゅうになってソファーに座った。

広い談話室には他にも一人掛けソファーや余裕のあるソファもあるのに、「あつい~!」って言いながら並んで座る3人が微笑ましい。


「授業が終わったら大雅に寮まで案内させるから。女子寮は女子生徒に頼んであるからね。放課後まで待たせちゃうけど、待っててね」

「お兄さん、ありがとうございます」


お兄さんが説明してくれてる間、疲れ切ったりく先生が横長のソファにうつぶせでダイブした。


「あれ?えでかちゃん、寝不足?」

「は、はい…クマ目立ちます?」

「疲れてるなら仮眠室で休むといいよ」

「え!そんな悪いです!」


両手を胸の前で大きく振りながら断ると、私にしか聞こえない声でお兄さんはこう続けた。


「夜になったら残ってもらった理由、話すから今のうちに休んでおきなさい」


「ね?」とほほ笑みながら、私の頭をポンっとなでた。

大きい包容力ある手が隠していた眠気を誘う。


「榎土りさちゃん、だよね?」

「は、はい!」

「君も一緒に夜更かししちゃったでしょ?大丈夫?」

「式神がいまぐっすりなおかげで私は大丈夫です!」

「わかった。もし休みたくなったらそこに電話があるから僕に連絡してね」

「ありがとうございます!」


私は一気に襲ってきた眠気でりさちんとお兄さんの会話が遠くに聞こえていた。


(なんかりさちん…緊張してるみたい…)


今にもまぶたがおりてしまいそうなのを、懸命にこらえる。

このまま目をとじたら夢の世界に入りそうで、必死に夜どんな話があるのかな、とか、ふうちゃんはいまなんの授業受けてるのかなって気をそらしていた。

でもこのままみんなと談話室にいても私だけ寝ちゃいそうなので、お兄さんの言葉に甘えることにした。


「さ、えでかちゃん、仮眠室案内するね。足元気を付けて」

「…はぃ」

「りく~、お前は休んでる暇ないよ~」

「えぇぇ…!?」


お兄さんの手につかまりながらソファから立ち上がり、りさちんたちに「おやすみ~楓ちゃん」と見送られながら私はお兄さんとりく先生と一緒に談話室を後にした。

が、私が頑張れたのはここまでだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


見慣れた空間。

どこを見渡しても、何も見えないくらい眩しくて

どこに向かえばいいのかわからない時

いつも誰かが手を差し伸べてくれる。


あぁ、この手だ。

いつも私を引っ張ってくれるのは。


差し出した手を優しくひいてくれるのに

どんどん眩しくて目を開けていられないから

あなたが誰なのかわからないの。


あれ?でも私いま、目、開いてる。

眩しいのに目閉じてない。


ーえでかー


あぁ…ふうちゃんだったんだね。

ずっとそばにいてくれたんだね。

どうして気づけなかったんだろう。

ごめんね。


微笑みながら首をふるふうちゃんを、私は思い切り腕を伸ばし抱きしめた。


ありがとう、ふうちゃん。大好きだよ。


空間に溶け込んでいくように意識が遠くなる。

そろそろ目が覚めようとしてるんだ。

きっとふうちゃんが、迎えにきてくれているから。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


目がさめると談話室と同じようにモロッカン風インテリアでそろえられた仮眠室で目が覚めた。

赤と紫を基調とした寝具を肩までしっかりとかけ、大きめの枕に包まれているようで気持ちが良い。

談話室もそうだが、暖かみある雰囲気が全身を癒してくれるようで寝心地がいい。


ゴロンと横向きに寝がえりをうつと、大好きな瞳と目が合った。


「おはよう、えでか。むかえにきた」

「おはよう、ふうちゃん。私、いつの間に寝ちゃったの?」

「兄ちゃんが術かけたんだ。えでか、朝から眠そうだったから」


そういえばお兄さんが私の頭をなでた時から、急に眠くなったことを思い出した。

ふうちゃんの話によると、談話室を出たとたん、今にも倒れそうなほどの睡魔に襲われたそう。

談話室から仮眠室はすぐ近くではあるが、あまりにもふらふらで危険だったためお兄さんとりく先生が抱えようとしたが頑なに「…らいりょうえす…」と断り、自分の足で仮眠室までたどり着いた、と。

そこからは慣れた手つきでベッドにもぐりこみ、行儀よく眠りについたことまで生存記録でみたことを教えてくれた。


私を起こしてくるようお兄さんに言われたとき、「えでかちゃんは本当にお前のことが好きなんだね」とふうちゃんにこぼしたんだと。


「ふふ、お兄さんには何でもお見通しだね」

「でも上書き」


そう言ってふうちゃんは、私の頭をゆっくりなでた。


「少しは眠れた?」

「眠れたけど…また寝ちゃいそう」


お兄さんの大きい手とは違う、ふうちゃんの大きい手。

お兄さんの慣れた手つきとは違い、ふうちゃんの手からは私のために私のことを想いながらなでてくれるのが伝わる。

その愛しさが、また眠りを誘ってくる。


「俺もこのまま一緒にいたいけど、そろそろ談話室いかなくちゃ。起きれる?」

「うん、大丈夫。ねぇ、ふうちゃん」

「ん?どうした?えでか」

「あの夢、ふうちゃんだったんだね」


私はさっき見た夢の話をした。

17歳の誕生日を機に何度か繰り返しみてきた夢。

誰かに手をひかれるように、まぶしい光の中に近づいていくが、いつも誰なのか見えなかった。

あの頃は波多野のことかと思っていたけれど、最初からふうちゃんだったんだ。

きっとこうやって再会できることを伝えにきてくれてたんだ。


「そんな術、俺は知らないけど、俺のえでかの気持ちがみせてたのかもね」

「ありがとね、ふうちゃん」


私は夢にきてくれたふうちゃんに伝えるように、ふうちゃんの背中に手をまわした。




続く

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