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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
居残り編
37/151

ー37-

ー 東都高校 ー


東都高校は都心から車で1時間以上離れた自然豊かな場所にあり、広大な敷地を贅沢につかって建てられていた。

これまで観光してきた東都の街とは真逆のようで、むしろ山の上で標高も高く、辺りにはビルはもちろん民家すらなかった。

そして景観を壊すことなく自然に馴染んだ造りは、キラキラした都心の街も刺激的で楽しいけれど、どことなくほっとする安心感があった。


「東都高校へようこそ、えでかちゃん」

「お兄さん!」

「また近いうちにって言ったでしょ?」

「はい!でも近すぎてびっくりしました!」


運転手さんにお礼を言い、車からおりるとストライプがはいったネイビー色のスーツを着こなしたお兄さんが出迎えてくれた。


「波多野君もはるばるご苦労様」

「…いえ」


一瞬ぴりっと空気感が変わったような気がして、車をおりた波多野の方に目線をやると、もっと奇妙な光景に目を奪われてしまった。


「えっと、りくと、あの3人は一体なにをしてるのかな?」

「えっと…ついてきちゃった…みたいです」


それにはさすがのお兄さんも困惑な表情。

玄関前で黒いオーラをまとったりく先生と、りく先生の前で正座するりさちん、ゆうた君、たかちゃん。

でもメラメラとお説教モードのりく先生に対し、3人はあっけらかんとしていた。


「お前ら…自分たちがなにしたかわかってるか…?」

「「「はい!わかってます!」」」

「いったい誰が言い出した!?」

「俺です!!そしてゆうたが策を練ってくれました!」

「私は2人が心配でついてきました!」

「ゆうたぁ!!お前がついていながら!!こいつをとめろよぉぉ!!」

「波多野と楓さんが残るで、リーダーとしていないわけにはいかないと思います!」

「…お前、変なところで頑固だから玄武組にあがれないんだよ!!!!!」


(たしかにゆうた君って時々大胆なことするよなぁ)


白虎組唯一の優等生として荒ぶる男子たちをまとめる手腕をもつゆうた君。

成績も優秀だし、実力もあるのに「どうして白虎組なの?」と玄武組から聞かれることが多い。

その理由はこういうところにある。

彼もまた、白虎組が相応しい一面をもっているのだ。


「まぁあういう子の方が、時々思い切った行動とるんだよねぇ」


お兄さんは言い訳もせず、素直にりく先生の質問に答えている3人をおもしろがるように観察していた。

観察されてるとも知らない3人は、怒られているのにワクワクした顔を隠しきれなくて私までおもしろくなってしまった。




「はいはい、りく。その辺にして、こっちはまだ授業中だからね。とりあえず談話室に案内するから」

「げっ…空雅さん」

「り~く~??」

「…すみません」


お兄さんの助太刀に思わず声に出てしまったりく先生は、お兄さんの黒い微笑みに顔を青くそめていった。


「これはお前の監督責任…って言いたいところだけど、今回だけは大目にみてあげよう。おもしろいものも見れたしね」

「え……」

「3人のタクシー代と、帰りの切符代、宿泊場所もね」


と、聞いた3人はりく先生の後ろでハイタッチをした。


でもお財布が痛まなくてよくなったのに、りく先生は何かを感じ取っているようで、ニコニコのお兄さんを見つめていた。


「…なんか企んでます?」

「さすが俺の世話役!よくわかってる!」

「はぁ…わかりましたよ…」


がっくりと肩を落としたりく先生は、元気なく私たちに着いてくるように声をかけ、とぼとぼとお兄さんの後についていった。


「まずは談話室に案内するね」


お兄さんの後についていく私たち。

おそらく正面玄関であろう厳かな扉をくぐると、外の自然豊かな景観からは想像できないほど吹き抜けが高く、あまりの壮観さに私たちは思わず玄関ホールで足をとめた。

壁や柱には中世のお城のような模様が丁寧に施されており、歴史の美しさを感じるほどだった。

授業中で静かな玄関ホールに、お兄さんの足音が心地よく鳴り渡る。


「北都高校とは雰囲気違うでしょ」

「ぜんぜん…違います…本当に学校なんですか?」


東都高校に初めて足を踏み入れた他校の私たちは全員おなじ感想をもっただろう。

私たちの北都高校は学校らしい学校なので、玄関ホールを中心に広がる構造に自分たちが今どこにいるのかわからなくなりそうだった。


「お城みたいです…!」

「北都高校も青春っぽさがあって俺は好きだけどね」

「でも迷いそうです…!」

「あとで大雅に案内させよう。みんなもね」


「やった~!」と博貴が喜ぶと、あまりの広さに溶け込むように消えていった。

反響するような声量だったので「あれ?」と顔をしていると、各教室に聞こえないように防音術がかけられているんだと。


「さ、迷わないようについておいで」


6人の足音のコーラスをホールに残し、私たちはお兄さんに続いて重厚感ある扉をくぐった。

するとまたガラッと雰囲気が変わり、暖かみのある空間が広がっていた。


「えでかちゃんたちはここでしばらく待っててね」

「わぁ!すごい!!」

「こういうのなんて言うんだっけ?!エキゾチックなやつ!」


りさちんがはしゃぐ談話室はモロッカン家具やインテリアで敷き詰められ、カラフルなのにまとまりがあり、寂しさを感じない空間だった。


「じゃぁえでかちゃん、みんな、ごゆっくり。りくと波多野君はこっち」


手を振りながら扉を閉めるお兄さん。

その後ろで溜息をつくりく先生がチラッと見えた。

落ち着いたらみんなで労ってあげたいな…。



振り返るとそれぞれすでにソファーに腰をかけ、くつろぎはじめていた。

私はりさちんのとなりの一人掛けソファに腰をかけ、クッションをだいて3人の顔と向き合った。


「もう~!!みんなびっくりしたんだから~!!」

「えへへ~東都タワーで楓が居残りって聞いてうらやましかったんだもん!」

「りさちんまで~!」

「えっへへ~楓ちゃんびっくり作戦大成功だね!」


やっと落ち着いて事のあらましを聞くと、あきらめきれなかった博貴がゆうた君に相談し、バスに式神を乗せる策を考え付いたのだとか。


「じゃぁ私がバスで見送ったりさちんは式神だったの?!」

「そうだよ~今頃みんなバスで寝てると思うよ?」

「全然気づかなかったよ…」


どうやら博貴の木術で人形の骨組みを作り、りさちんの土術で肉付け、ゆうた君の火術で体温をつくったのだと。


「それで遠隔術で会話してたから、会話したのはちゃんと私だよ♪」

「これにはりく先生も驚いてたね」

「あれ絶対俺たちのことほめたかったと思うよ~!」

「でも行先までは読めなかったから、タクシー代は誤算だったな…」

「りく先生の財布に感謝!!」


吞気そうにはしゃぐ3人を見ていたら、だんだんつられて私もちょっと参加したかったな、なんて思った。


「でも楓だけ居残りなんだと思ったら、波多野も居残りだったんだね~!なんでぇ?」

「明は騒動起こしたから謝罪にきたんだよ」

「あ、そっか、波多野、謹慎中だもんね!忘れてた!な~んだぁ~一緒に遊べるかと思ったのに~」


がっくりと背もたれになだれ込む博貴。

ここに来るまでも波多野に「ひさしぶりぃ~!」と肩を組み、「お前らばかなの?」と言われていた。

波多野の顔も隠しているようで嬉しさが隠しきれていなかった。

ゆうた君は波多野の謹慎なんてなれているかのように、いつも通りにふるまうので、波多野にとっても2人が残ったことは友情を深めただろう。


「それで楓ちゃんはなんで居残りになったの?」

「私もまだ詳しくは聞いてなんだけど、ふうちゃんのお兄さんからの指示なんだって」

「へぇ~なんだろうね、指示って」


4人で首をかじげていると、授業を終える鐘が鳴った。

北都のよくあるチャイムと違い、ゴーンゴーンと低く高級感のある音を学校中に響かせた。

するとバンッと重い扉が勢いよく開いた。


「えでか!!!…ってあれ!?りさっぺに佐藤君に火野君!?」


思わぬ珍客に驚くふうちゃん。

珍しい表情が見れた嬉しさで私の口角がきゅっとあがった。



続く

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