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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
居残り編
36/151

ー36-

「じゃ、じゃぁ楓ちゃん…私たち先に帰るね…?」

「う、うん…」


理由も聞かされずに修学旅行居残りと宣告され、バスに乗り込むりさちんとクラスメイトたちを見送る私とりく先生。

私の宿泊用の荷物や大量のお土産とお菓子たちはりさちんにお願いすることにし、必要な手荷物だけ持ち、呆然と立ちすくんでいた。

時計は12時をすぎ、陽も高く昇っていたのに私の影だけ細くのびているような気分だった。


「とうとりんの生クリーム大福…着いたらみんなで食べて…?」


辛うじて賞味期限が今日中のスイーツを思い出し、寮でみんなで食べようと楽しみにしていた分、元気がなくなった。


「そろそろバスに乗れ~、もう出発するぞ」

「あ、は、はい!じゃぁ日曜日にね、楓ちゃん!元気だしてね!」


りさちんが慌ててバスに乗り込んですぐ、玄武組のバスから順番に北都に走りだしていった。

青龍組のバスが通ったとき「俺の残りた~い!」と騒いでいた博貴だが、姿が見えなかったのが残念だった。

事情を知らない同級生ばかりなので驚く顔ばかりが目の前を通り過ぎていくのですごく気まずかったが、朱雀組のクラスメイトたちがみんな外にも聞こえる声量で「またね~!」「ばいば~い!」「かえで~!」と大きく手を振ってくれたのが嬉しかった。



バスがどんどん小さくなっていくのを見ながら、りく先生は

「お前そんなに大福食いたかったのか?」

と、意外そうな顔をしながら私のスイーツ心をえぐった。


「期間限定で今日までだったんですよ…行列必須の大福だったのにぃ…」

「やっぱり女子はわからん」


タイミングよくお迎えとしてやって高級感ある黒い車に恐る恐る乗り込んだ私。

初めて感じる乗り心地のよさに思わず体も緩んでしまう。

でも都会の街を楽しむことなく、私はりく先生を質問攻めにする。


「それで、なんで私だけ居残りなんですか?」


宣告から何度聞いてもかわされてきた質問に、りく先生はやっと口をひらいた。


「空雅さんからの命令なんだよ」

「え、お兄さんの命令?どういうことですか?え、そもそもりく先生とお兄さん知り合いだったんです?!」

「あー…腐れ縁、みたいなもんだな。同級生なんだよ、俺たちは」

「え!!み、見えない…」


驚きすぎて本音がでた。

だってお兄さんの第一印象といったらTHE 大人といった余裕と、多くの人を魅了する色気をあげる人が多いのに、りく先生はどちらかというと真逆の印象だから。

ぶっきらぼうでテスト期間などで忙しくなると肩まで伸びた髪の毛がボサボサになったり、すぐに私たちをからかったりいじったり、大人というよりは少し子供っぽさを感じることがある。

どちらも優しいことは変わらないけれど、お兄さんとりく先生が並ぶ姿を想像しても、優等生と不良生徒みたいで二人に関係があることがとても意外だった。


「…お前、降りるか?」

「う!うそですうそです!先生も若い!かっこいい!」


そう、こうやって大人で先生なのに私たちをすぐいじる。

でも先生らしくないところが私たち生徒にとっては親しみやすくて、相談もしやすいので人気なんだよね。


「冗談だよ。そんなことしたら俺が空雅さんにしばかれる」

「まさか~。でも空雅さんって呼び方、同級生にしては同級生ぽくないような…?」


さっきから違和感があった。

腐れ縁で同級生で、大人になっても付き合いがある関係性なのに、どこか他人とまではいかないけれど他人行儀のような…。


「あぁ、じゃぁそこから説明するか」


首をかしげる私のために、いつもの授業のトーンで空中に板書しながら説明をはじめた。


「鬼神の話はきいただろ?」

「あ、はい…十六山公園に封印されているって」


りく先生の口からまさか鬼神の言葉が出るとは思わず、運転手さんに聞かれたらまずいのでは、とミラーごしに様子をみると陰陽省の方だと自己紹介していただいた。

私は秘密の空間に安心しながら空中に書かれた白く浮かぶ鬼神の文字を見、私の眼差しも真剣になる。


「水樹家は陰陽師の家系で代々封印を守ってきた。遠い先祖が安倍晴明だからな。まぁ守ってきた、といっても今みたいに動き出すこともなかったから、周辺の蟲退治がメインだった。その時代々サポートしたり、裏方を任されていたのが俺の先祖で、江戸時代後期に組織改編があって俺の家、橋本家はもともと水樹家の分家になったわけ」

「分家?」

「そう、他にも分家はいくつかあったけど、年々異能力者が生まれなくなってな。残った分家は橋本家だけ。だから水樹家とはなが~い付き合いがあるわけ」


するすると空中に浮かぶ文字や図解が増えていく。

異能史の担当教科なのが納得のわかりやすさである。


「だからお兄さんとは腐れ縁なんですね」

「まぁ…だから同じ年に異能力者が誕生したってなったら、必然と空雅さんの世話役になるわけだ」

「世話役!?先生が!?」

「俺の方が先に異能小学校に入ってたからな。まっ、すぐに実力は追い抜かれて世話というよりげぼ…じゃなくて、世話役を全うするんだけど」


(い、いま下僕って言おうとした…?)

私は触れちゃいけない気がしたので、聞かなかったことにした。


「だから空雅さんが高校になって東都に行くってなったもんだから、急いで俺も転校手続きしたり…はぁ…あの時は大変だった…」


宙を描いていたりく先生の指が、当時の大変さがよみがえったのか、徐々に下に落ちてきた。

そしてお兄さんの指示で教員免許をとり、お兄さんの指示で北都高校に赴任し、お兄さんの指示で2年朱雀組の担任になったと教えてくれた。


「だからなんですね!2年から新卒の先生が担任って珍しいなってみんな話してたんですよ」

「…はぁ。だから結論、俺は空雅さんには逆らえないってことだ」

「よ、よくわかりました…」

「橋本さま、到着しましたよ」


でも結局お兄さんからどんな指示があって東都に居残りになったのか聞けず仕舞いで、きりがいいタイミングで車がある場所にとまった。


「あれ?異能ホテル?」


今朝出発し、別れを告げたばかりの異能ホテルにまた戻ってきていたのだ。


「お前は車でまってろ」

「はい…」


車をおりたりく先生は足早にホテルに入っていた。

待っている間、私はふうちゃんに魔法で呼びかけた。


《ふうちゃん、私北都に帰れなかったよ》

《俺もさっき兄ちゃんに聞いた。いまどこにいるの?》

《いま異能ホテルに戻ってきてるよ。なんでだろう?》

《ごめん、そこまでは俺も詳しく聞いてないんだ》

《そっか~。でもびっくりしたけどちょっと嬉しい》

《俺もうれしい》


日曜日まで東都延長になったこと、最初はびっくりしたし生クリーム大福が食べれなくて残念だったけど、ふうちゃんがいる東都に予定より長く滞在できる実感がわいてきてうれしくなってきていた。


そんな喜びをかみしめているとガチャっと扉がひらいたので、りく先生が戻ってきたのかと思ったら


「・・・は?」


切れ長な目が丸くなるくらい、驚いた顔した波多野がドアをあけたまま、お互い目が合いながら固まっていた。

でも私はてっきりりく先生だと思ったので波多野と同じく固まってしまったが、波多野に久しぶりに会った気分になった。


無言で見つめ合っていると、りく先生に「はやくのれ」と押し込まれた。


「・・・」

「・・・」


りく先生は運転手になにか告げ、車は走り出したが後部座席には気まずい沈黙が流れている。

きっとどちらもりく先生に聞きたいことがあるのだろうが、タイミングがわからずこの空気をやぶれずにいた。


「・・・ねぇ先生、これからどこ行くんですか?」


先に沈黙をやぶったのは私だった。


(前に進むって決めたんだから、嫌われてることにビクビクしてちゃだめだもんね…!)


そう思い、運転席の座席に寄りかかるように助手席のりく先生に声をかけた。

波多野は外の景色をみているのか表情はよくわからないけど、以前黙ったままで、でも不思議と昨夜ほど壁をかんじなかった。

それは私が変わったからなのか、波多野の心境に変化があったからなのか。


「これから東都高校にいく」

「東都高校?何しに行くんですか?」

「波多野の謝罪参りだよ」

「あ・・・」


昨日の模擬戦闘で問題を起こした当事者として、東都高校へ謝罪のため私と同じく居残りになったのだそう。

会場や合同演習に関わっていた責任者の方などには、昨夜すでに謝罪へ回ったそうで残るは東都高校のみなのだとか。

りく先生は修学旅行責任者として同行しているらしい。


「先生が責任者なの?玄武組のさゆり先生じゃなくて?」

「さゆり先生にはバスの引率頼んだからいいんだよ」

「ふ~~~~ん」


さゆり先生は小柄ながらも包容力のある先生で皆の憧れの的。

でも見た目とは裏腹、優秀な生徒が多い玄武組を担任するほどの実力者でもある。

そしてかわいい。

りく先生はそんなさゆり先生のことが実は好きだったりする。

本人は隠してるつもりなんだけど、我々からするとバレバレなのだ。


「…なんだよ立華」

「なんでもないで~す」


だってさゆり先生の話になると顔が赤くなるんだから、りく先生。

(ま、そんなところがかわいいってさゆり先生も思ってるんだけどね~)


春頃、さゆり先生が私の夢を聞きにきてくれたことがある。

なので私だけが知っている事情をそっと胸にしまい、りく先生の反応を楽しんだ。

気まずかった車内も気づけばりく先生の熱で熱くなっていた。


「で、その間お前は別行動。空雅さんと大雅さんに任せてある」

「え!!」

「夕方には合流して忙しくなるからしっかり休んでおけ」


窓にうつる波多野の顔が一瞬こちらをみたような気がした。

きっとふうちゃんとお兄さんに会える嬉しさが、声に出てしまったからかもしれない。


「忙しくって…夕方なにかあるんですか?」

「合流すればわかる。あ、波多野、お前は謝罪終わったら東都の寮で謹慎だからな!ぜっっったいに問題おこすなよ!?」

「…わかってる」

「わかってます、な?!」

「…わかってます」


りく先生は何度も波多野に釘をさした後、「はぁ~もう俺心配…」とうなだれた。

その後、気を取り直したりく先生から今夜のこと、帰りのことをやっと説明してもらった。

今日と明日、東都の寮の空き部屋をお借りして宿泊し、日曜日の朝、新幹線で北都に帰る予定。

新幹線の切符はりく先生の自腹なんだと。

北都についたらお菓子わけてあげようと思う。


「…あと後ろのやつらの分もな」

「後ろ?」


いつもより低い声のりく先生。

後続車をにらみつけているのがミラー越しにうつる。

どういうことかわからず、とりあえず後ろをふりかえってみると一台のタクシーがついてきていた。

北都ではあまり見かけないタイプのタクシーだなと思っていると、よく見知った顔が3つ目に飛び込んできた。


「えぇぇ!?!?りさちんにゆうた君にたかちゃん!?!?!?!?」

「…はぁ?!」


思わず声をあげた私。

波多野も驚いたようで、私に続いて後ろをふりかえった。


「な、なんで?!さっきバスに乗ったの見送ったはずなのに…!!」

「あいつら…説教だけですむと思うなよ…」


私たちが気づいたことに、3人も気づいたようで呑気に手をふっている。

助手席から黒いオーラを感じた私は、3人の無事を祈った。



続く

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