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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
修学旅行編
35/151

ー35-

朝食をたっぷり満喫した後、東都高校とホテルに挨拶を済ませ、東都タワーに向かうためバスに乗り込んだ。

遠ざかっていく景色を見ながら、たった2日過ごした場所だけれど、私の運命が大きく変わった場所、思い出がたくさんできた場所にひっそりと感謝を告げた。



バスの中は静かだった。

どうやら他のクラスメイトたちも夜中まで騒ぎ通していたらしく、席についた途端目を閉じる女子だらけ。

りさちんもすやすや寝息をたてている。

私はふうちゃんに元気をもらったおかげで目が冴えていたので、北都では見られない高いビルが並び、個性豊かな人々が行き交う東都の景色を楽しんだ。


1時間ほどで東都タワーに到着し、皆まだ寝たりない顔で背伸びをしながらバスを降りた。



「楓ちゃん、東都タワーの自由行動なんだけどさ…」


りく先生が注意事項や集合時間など説明してる中、りさちんがこそっと話かけてきた。


「んふふ、わかってるよ。ゆうた君とまわりたいんでしょ?もちろんいいよ、楽しんできて♪」

「ありがとう~!!でも楓ちゃんは大丈夫?」

「私のことは心配しないで♪きっと行きながら誰かにつかまるだろうから…」


そう、昨日からふうちゃんとの関係を待ちきれない女子に捕まってばかりなので、一人になった瞬間狙われることはわかっていた。

なので一人さみしく東都タワー、といったことにはならないので、りさちんには安心してゆうた君との東都タワーデートを楽しんでもらいたい。


「帰ったら惚気話きかせてね!」

「もちろん!」


足早に白虎組に向かうりさちんを見送り、クラスメイトの目が光った瞬間

「楓~~!!」

と、人懐っこい声が青龍組の方から走ってきた。


「たかちゃん?!どうしたの?!」

「楓ひとりならさ、一緒に東都タワーまわらない?」

「いいけど…いつも仲良しのグループでまわらないの?」

「それがさぁ~みてよ、あれ」


博貴が親指でさす方を見ると、いつも博貴とよく一緒にいる男子たちが、仲良く女子とペアになっているのが見えた。


「昨日の模擬戦闘の後にさ~、みーんな彼女できちゃって。これが修学旅行マジックなの~?」

「ほんとだ…それでたかちゃんも一人なの?」

「そーなの。それに…ちょっと耳かして」


そう言われ、博貴は私の耳もとで「水樹君に頼まれたんだ、楓のことよろしくって」と、ささやいた。


「ふうちゃんが…」

「そ!だから一緒にまわろう!」

「…うん!」


ふうちゃんがどんな意図でたかちゃんに頼んだのかはわからないけれど、私の知らないところでも私をさみしくさせないように考えてくれてるんだってことが伝わって嬉しかった。


《ふうちゃん、たかちゃんから聞いたよ。ありがとうね》

と、すぐに魔法でメッセージを送ると

《博貴君なら安心だからね。東都タワーはどう?》

と、返事を返してくれた。




《スターツリーもすごかったけど、東都タワーの方が好き》

《神社があるから行ってみるといいよ》

《わかった!行ってみる!》


エレベーターの中、たかちゃんと話ながら魔法でメッセージを送り合う私たち。

さっそくふうちゃんに教えてもらった神社のことをたかちゃんに伝えた。


「たかちゃん、あとで神社いってみない?」

「神社なんてあるの~?いいね~俺にも彼女できるようにお願いしよ~」

「あはは!たかちゃんより強い女の子ね!一緒にお願いしよ!」


同じエレベーターに北都の生徒たちも同乗しているが、みなカップルだらけで私たちの会話に興味がないようだった。


《今度ふたりでいこうね》

《楽しみいっぱい増えていくね》


ふうちゃんと魔法を繰り返していると、手のひらが心地良く、手をつないでいる感覚になる。

だからさみしくはない。


展望フロアに到着すると、北都生のカップルであふれかえっていた。


「楓、神社あっちだって~」

「みんな景色に夢中でゆっくり参拝できそうだね~!」


とてもこんな観光スポットにあるとは思えないくらい厳かで、この辺りだけ空気が澄んでいる。

ふわっと風が吹いた気がしたけれど、窓が開いてるわけもないので私の気のせいだと思う。


「さ、たかちゃんに彼女ができるようにお願いしようか!」

「神頼み~!」


お賽銭を入れ、鐘を鳴らして手を合わせる。

すると合わせた手のひらからふうちゃんの力を感じたので、たかちゃんの彼女をお願いする前に、ふうちゃんとまた出会えたお礼を伝えることにした。

そしてふうちゃんを守ってくれていたことも。



一通り伝え終わり、隣のたかちゃんをみると眉間にしわを寄せ、ぶつぶつと力強くお願いしていた。


「俺より強い彼女ができますように、あと赤点もとりませんように、あと寮のフェンス壊したのがバレませんように、あとあと~…波多野の謹慎がはやくとけますように」


あまりの必死さについ顔が緩んでしまったけれど、たかちゃんの友達思いなところに胸を打たれ、私も再び手を合わせた。


「たかちゃんの願いが叶いますように」


私が波多野の謹慎についてお願いできる立場ではないから、せめてたかちゃんの願いが一つでも多く叶うようにお願いをした。




そして景色の写真を撮ったり、クラスメイトや戦闘倶楽部のメンバーと集合写真を撮ったり、後輩やゆか先輩に渡すお土産を両手いっぱいになるほど購入したりと、あっという間に時間はすぎていった。



「もうすぐ集合時間だね~」


休憩スペースでミルクティーを飲みながら、りさちんとゆうた君を待つ私たち。

博貴はランチにピザを何枚もおかわりしたのに、ホットドッグ片手においしそうに頬張っている。


「そういえば水樹君と付き合えたんでしょ~?」

「うん!たかちゃんが応援してくれたおかげだよ!ありがとね!」

「おめでと~!俺ははやく水樹君と模擬戦したいよ~!」

「ふふ。ふうちゃんも楽しみにしてると思うよ」

「でもその時は楓、水樹君のこと応援するんでしょ?」


二本目のホットドッグにケチャップをかけながら当たり前のことを聞いてきたので「もちろん!ごめんね?」と、いたずらに返した。


「いいな~!俺も楓と水樹君みたいになりたぁ~い!」

と、やけ食い気味にホットドッグにかじりつく博貴が、おかしくて笑っていると


「楓、本当に幸せそうに笑うようになったね」

「え?そうかな?」

「うん、前も笑ってたけど、ちょっとミステリアス感があったというかさ~頑張ってる!って感じがあったんだよね~」

「頑張ってる?」

「そそそ。頑張って幸せになろうとしてるような~、ん~、うまく言えないや!まっとにかく楓が幸せそうでよかったってこと!」


自分じゃわからないけど、そんな風にみえてたんだ…。

いつも能天気にみられることが多いたかちゃんだけど、人のことを視る目は人一倍。

それは戦闘でもそう。誰よりも相手を深く深く観察してる。

そして人一倍、いや、何十倍も器が大きいと感じる。

だから私はいつも博貴に感謝してる。

私でも気が付かない私に気づいて教えてくれるから。


きっと今は、私が思っているよりも何十倍も何百倍も、幸せなんだろうね。



「あ、楓ちゃ~ん!あれ?二人一緒だったんだね!」


博貴とのんびり話ていると、りさちんとゆうた君がやってきた。


「そそ♪楓に俺に彼女ができるように神頼みしてもらった♪」

「博貴より強い女子がいればいいけどね…」

「ゆ~た!笑ってる~!俺は本気なのに~!」

「あははは!」


りさちんとゆうた君がやってきたということは、もう集合時間がせまっているということだ。

私たちはそれぞれお土産を抱えたところで、意外な人物が声をかえてきた。


「おーい、お前らでこのフロアにいるの最後だぞ。はやくバスにむかえ~」


最後の見回りにやってきたりく先生だった。


「あれ~せんせ~じゃん!せんせ~も写真とろ~!」

「そんな時間ねーよ」


と言いながらも、りく先生の足は休憩スペースから展望スペースに向かっていた。

なんだかんだ言いながらも、生徒思いな先生だ。


「なんか、先生も楽しそうだね」

「ふふ、たしかに」


男子たちで写真を撮り合ってる中、こっそりりさちんとクスクス笑いあった。


「あ、立華。そういえばお前に言わなきゃいけないことあったんだ」

「私に?」


地上に降りていくエレベーターは私たちしかおらず、りく先生と私の声がよく通る。


「今日は修学旅行最終日で金曜日。明日は土曜日だろ?」

「はぁ、そうですね?」


私に言わなきゃいけないことがあると言いながらも、使い見どころのない話をするりく先生に、私含め全員が首をかしげた。

そんな私たちをよそに、顔色ひとつ変えず、むしろいつものめんどくさそうな顔で私を指さした。




「立華、お前、修学旅行居残りになったから」




「・・・・・・・・・」


個性豊かな声がそろう。


「「「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!?!?!?」」」」



続く

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