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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
修学旅行編
34/151

ー34ー

ー修学旅行3日目の朝ー


「楓ちゃん…おはよう…」

「おはよう、りさちん…」


目のしたにクマをつくった女子が二人、同じベッドの上で布団もかけずに目がさめた。


「二人して寝落ちしちゃったね」

「さっき寝た気がする~」


眠気眼でそろそろと目覚ましととめる私たち。

なぜこんな状況かというとーーー


あの後、私は名残惜しみつつもふうちゃんとお兄さんに見送られながら客室エレベーターに乗り込んだ。

ふうちゃんは部屋まで私を送ろうとしてくれたみたいだけど、お兄さんに「お前は残れ」と有無を言わさぬ圧に従っていた。

でも「俺も兄ちゃんに話したいことある。えでか、また明日ね」と、真面目なトーンで言っていたので後ろ髪ひかれることなく部屋に戻ってきた。


そして女子二人の長い夜がはじまった。

ふうちゃんと恋人になれたことを報告したら「水樹君と再会してわかってたことだけど、本当によかったね」と、私以上に喜んでくれた。

それと鬼神のことは伝えていないけど、大事な戦いがあること、私も一緒に戦うことを選んだことも伝えた。

りさちんは驚きつつも静かに私の話を最後までじっと聞いてくれた。


「そんな事情があったんだね…だから急に転校しちゃったんだ」

「うん、来年のふうちゃんの誕生日がすぎたら戦いがはじまると思う。だから私もそれまでに特訓するの!」

「そっか…友達としてはすごく心配だけど、楓ちゃんが決めたことだから応援する!私にできることがあったら何でも言って!」

「うん…!!ありがとう!!」


そのあと、ふうちゃんがみせてくれた海の話と、波多野に会ったことも話をした。


「波多野君、よく脱走できたね…でもそっか、波多野君の気持ちは私もわからないけど、楓ちゃんの中で整理がついてよかったよ」

「うん、前は嫌われてることにビクビクしてたけど、波多野の良いところ知れたから、もう怖くないよ。」


未だにどうして嫌われているのかはわからないけれど、波多野のことを何も知らないまま嫌われてることにモヤモヤして傷つくよりも、波多野のことを少し知れたいまは気にせずにいられる。

不器用で言葉足らずだけど、努力家で負けず嫌いな人。

きっと私とは真逆な性質なんだと思う。だから無意識に波多野の癪に障ることをしちゃってたのかもしれない。

でもいちいち考えても仕方ないもの。

私にはやるべきことがある。それが私の心を強くしてくれたのかもしれない。


「それで、りさちんはどうだったの?」

「ふふ、もちろん告白は大成功だったよ。ゆうた君すごく驚いてた!」

「浴衣もびっくりしたんじゃない?」

「それがね、庭園に向かうときスタッフの人が声かえてくれてゆうた君も浴衣に着替えたんだ~!」


そして二人きりで模擬戦闘のお祝いをした話、告白の話をたっぷり聞いてキャッキャッした後、ゆうた君の話になった。


「今日ね、関係者席に陰陽省北都支部の人がきてたんだって」

「そうなんだ!関係者席って特殊結界でわからないようになってるんだよね。場所もわからないようになってるって聞いたよ」

「そうそう。どうやら北都支部だけじゃなくて大企業もスカウト目的できてたみたい。優秀な人材を確保するには3年生になってからじゃ遅いから、いまから目をつけるみたい」


りさちんが教えてくれた企業は誰でも知ってるようなメーカーや、世界的に有名なブランド、社会人大会では常連の企業など様々だった。


「それでね、ゆうた君、陰陽省北都支部の戦略課からスカウトされたんだって」

「えぇ!!すごい!!」


北都支部の戦略課と言えば討伐戦の要となる部署で、実力だけあっても務まるところではない。

頭がきれる人材が多数集まり、一般の人々がいつも通りに日常を送れるよう裏でどう戦闘、討伐を行うか日々策略をたてているのだとか。

つまり今回の演習で、ゆうた君のリーダーシップと鬼との対応、模擬戦闘時の技術を見初められたことになる。


「でね、北都大の推薦ももらえそうで…ゆうた君に…一緒にきてほしいって言われたの」


りさちんの目が天の川みたいにキラキラしている。


「私さ、北都女子大の異能史学科に進んでその土地から歴史を読み解くような道に進みたいと思ってたんだ。でもゆうた君に一緒にきてほしいって言われて…もっとレベルの高い北都大目指すことにしたの」

「りさちん…」


私はりさちんの力強さに目を奪われる。


「だから一緒に頑張ろうね、楓ちゃん!」

「うん!頑張ろうね、りさちん!」

「だってさ、私たちがしっかりしなきゃゆうた君も水樹君もただの戦闘ばかになっちゃうと思わない?」

「あははは!たしかに!」


そんな風にお互い応援し合ったのち、いかに恋人たちが戦闘バカで戦闘オタクなのか語り合って笑いあっていたらいつの間にか眠りについていたのだ。


「今日は朝練なくてよかったよ~」

「帰りのバスでも寝ちゃいそうだね」


まだ眠い目をこすりながら朝食会場に向かう私たち。

近づくにつれバターの香が漂ってきて、だんだん目がさえてきて、お腹の余裕も増えてくる。

今日はパンにしようかな、なんてクロワッサンに思いを馳せていると


「えでか」


と、後ろから大好きな声が聞こえ、振り返ると戦闘服を着たふうちゃんとお兄さんがいた。

りさちんは気を遣って「先にいってるね」と朝食会場にむかっていった。



「おはよう、えでか」

「おはよう、ふうちゃん!」

「おはよう、えでかちゃん。朝から気持ちがいいくらい元気だね」

「お兄さんもおはようございます!二人も朝ごはん…ではないよね?どうしたの?」


同じく朝食会場に向かう東都生はジャージや制服なのに戦闘服なので気になった。


「これから兄ちゃんと結界師の仕事なんだ」

「ふうちゃんも結界師のお仕事するの?」

「うん、俺たちにしかできないことだからね」


そうか。北都から鬼神の手下たちがこれ以上侵入しないよう結界をはれるのはふうちゃんとお兄さんしかいないんだ。

この結界が国の要にもなってるようで、東都に数か所あるポイントの確認は毎朝欠かすことができない任務らしい。


「えでかたちは今日どこにいくの?」

「今日は東都タワーにいって北都に帰る予定だよ」

「そっか、東都タワー楽しんでおいで」

「はい!」

「大雅、先に駐車場に向かってる。えでかちゃん、また近いうちにね」


お兄さんは手を振りながらふうちゃんと二人きりにしてくれた。

同時に朝食会場に向かう生徒の姿が見えなくなったので、お兄さんがまた結界をはってくれたみたい。


「あれ、ふうちゃんも寝不足なの?なんか疲れた顔してるね」


疲れた顔、というよりもげっそりした顔をしている。

まるでしぼんだ風船のようだ。


「うん、昨日あれから兄ちゃんと特訓してたんだ…2140敗目…」

「ふふ、負けちゃったんだね。じゃぁあんまり眠れなかったんじゃない?」

「いや、兄ちゃんの空間結界で特訓してたから時間の概念がないんだ。だから睡眠はとれたよ、睡眠はね…」


りさちんと恋バナで盛り上がっていた間、ふうちゃんとお兄さんは数十時間に匹敵する特訓を行っていたのだそう。


「私もはやく特訓しないと…!」

「えでかもクマ、隠れてないよ。かわいいけど」


そう言いながらふうちゃんはそっと私の頬をなでてくれた。

ふわっとお花の香がただよって心地が良い。


「そろそろ行かなくちゃ…」

「そっか…毎日魔法送るからね!結界のお仕事がんばって!」

「ありがとう、えでか。待ってる」


両手で頑張れポーズをとる私を、ふうちゃんは我慢できなかったように抱き寄せた。

実は私もちょっとくっつきたかった、なんて。


「また明日ね、えでか」


それはあの日、返したくても返せなかった「また明日」

未来につながる「また明日」

私も未来につなげる言葉を返そう。


「また明日ね、ふうちゃん!」


ふうちゃんにまた会える。

それだけで私を強くする。

7年前の私に教えてあげよう。

ふうちゃんと「また明日」が言い合える未来が待ってることを。


続く

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