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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
修学旅行編
33/151

ー33-


「・・・・・・」

「・・・・・・!!」

「・・・・・・」


ロビーで見つめ合う私とふうちゃん、そしてお兄さん。

ふうちゃんを後ろから援護するかのようにお兄さんと見つめ合っているが、お兄さんにはどうやら及び腰。

そんなふうちゃんの様子なんて全く気づかないくらい、お兄さんから目をそらさない私。

お兄さんもなんとか私を諦めさせようと、首を縦にふらない。

ロビーに戻ってきた私たちは、かれこれ1時間このような状況が続いていた。



「…えでかちゃん、俺はね、えでかちゃんには危ない戦いにはいってほしくないんだよ?」

「私、お兄さんにも安心してもらえるくらい強くなります!!だからふうちゃんと一緒に戦います!!」

「鬼神は今日出会った鬼なんかよりもずっと強いんだよ?安全なところで大雅の帰りを待っててくれないかなぁ?」

「ふうちゃんの隣が一番安全です!!だから一緒に戦って、勝って、一緒に帰ります!!」

「…えでかちゃん…」


何周目だろうか、この両者一歩も譲らない戦いは。


「…兄ちゃん、俺からもお願い。絶対にえでかを守るから一緒に戦いたい」


ふうちゃんが私とお兄さんの間に入ってきたおかげで、話し合いにもならなかった時間がやっと進みはじめた。


「大雅、お前一人で戦うのならともかく、えでかちゃんを守りながら戦えるのか?責任って言葉じゃ計り知れないものを抱えながら戦うんだ。俺はその時一緒に戦ってやれない。手助けができないのわかってるか?」

「うん、わかってる。でも、えでかと一緒だと未来がみえるんだ。なにか想定してない、おもしろいことが起こせる気がするんだ。俺にはえでかが必要なんだよ、兄ちゃん」


ふうちゃんの想いに厳しい顔で押し黙ったお兄さん。

さっきまで私を説得していたお兄さんではなかった。

きっと私にも強く駄目だって、きつく言いたかったんだと思う。


「…えでかちゃん、鬼神との闘いは本当に危険なんだよ。もしかしたら死ぬかもしれない。それでも本当に戦うのかい?」


それでも優しい顔で、私の心にささやきかけるように問いかける。

お兄さんに私の気持ちを伝えるのは、これが最後の機会だと思う。


「戦います」

「本当はね、えでかちゃんには安心な場所で笑っていてほしいんだ。例え大雅が死ぬことになっても。…えでかちゃんにもしものことがあったら、大事な弟と妹を同時に失うことになる。そんな可能性は少しでもなくしたいのが兄心なんだけど、それでも戦うかい?」


再会してから余裕のある大人なお兄さんしか見てこなかったけど、声をつまらせる姿に、はじめて年相応の青年のお兄さんを見た気がした。

お兄さんにとったら弟を一人失うかもしれない戦いで、きっとかなり前からその覚悟はきまっていたのだろう。

なのに覚悟がきまっていた戦いで、妹のように思ってくれてる私まで失う可能性がでてきた。

そんなお兄さんの気持ちを考えたら、思わず固まっていた私の気持ちも溶かされそうになったけれど、私の気持ちは変わらない。


「戦います。いっぱい、いっぱい練習して訓練して、来年までに強くなります。…まだ私の能力でどうやったら強くなれるのか、どうしたらいいのかわからないこといっぱいあるけれど。ふうちゃんとの未来をただ待ってるだけなんて嫌なんです。だから一緒に戦います」


鬼神を倒したら、ふうちゃんと行きたいところ、やりたいことたくさんある。

待ちきれないくらい楽しくて、幸せな二人の未来が待ってるのに、ふうちゃんだけに戦わせるなんて私にはできない。

…もしふうちゃんが負けちゃったとしても、7年前みたいに何もできずに離れるなんて嫌だもの。

だから二人の未来のために、二人で戦う。

もし私が死ぬことになったとしても、二人の未来のために戦って死ぬのなら悪くない。


でもなにがあっても私は死ぬわけにはいかないの。

だって私が死んだら、ふうちゃんをさみしくさせちゃうから。





「・・・・・・」




無言の時間が流れる。

ビーチから戻ったときに流れていたピアノもいつもなにか止まっていた。

ただただ時が止まったかのよう。




「・・・はぁ~~~」


静寂をやぶったのはお兄さんの長い溜息だった。


「降参だよ、えでかちゃん」


そう言ってお兄さんは両手を挙げて、力が抜けたように笑った。

つられて一気に力が抜けた私は、ふうちゃんに支えられながら近くのソファに崩れ落ちた。

自分でも気づかなかったけれど、全身に力が入るくらい緊張してたみたい。


「ね、兄ちゃん、俺言ったでしょ?こうなったらえでかは絶対に負けないって」

「あぁ、俺を負かすくらいだから、もしかするかもしれないな」

「もしかするかもじゃないです。絶対に勝ちますもん」


ふうちゃんとお兄さんは一瞬驚いた顔をして、二人で声をあげて笑いはじめた。

私にとっては突然のことで、ぽかんとしたまま二人を眺めることしかできなかった。

それが二人にしかない兄弟のつながりに見えて、ちょっとうらやましくなった。


「ほんとにおかしくて、かわいい妹だよ、えでかちゃんは」


そんな私の気持ちに気づいたのか、お兄さんは私にそう言った。

ふうちゃんとお兄さんの血のつながりに混ざることはできないけれど、妹と呼んでくれるお兄さんの気持ちが本当にうれしかった。


「それより兄ちゃん、いつまでえでかって呼ぶつもり?」

「お前が俺に勝てるまで、かな~。今のところ2134勝0敗だからな~」

「くっ…!!」

悔しそうに顔を歪めるふうちゃん。

今まで一度もお兄さんに勝てたことがないことが一瞬でわかる。



「さっ、もう遅いからそろそろ部屋に戻りなさい」

「わ!もうこんな時間!」

「あ~戻りたくないなぁ~~」


お兄さんが指をならすと瞬きより早く、見える範囲の空気感が変わった。

あまりの速さに驚く間もなく、結界を解いたのだ。

それでも時間が時間なので従業員も生徒も誰一人気配はなかった。


「えでかちゃん」

「はい!」

「戦うのは許可するけれど、これだけは約束してくれる?」


私の肩にポンと手を置くお兄さん。


「うん。鬼神に勝とうとしなくていい。1年しか時間がないでしょ?だから鬼神を倒すのは大雅に任せて。俺がえでかちゃんを守りながら戦えるように大雅を鍛えるから、えでかちゃんは身を守る訓練をしなさい。いいね?」


だんだんと肩に手を置かれたお兄さんの手に力が込められていくのを感じた。

決して痛くも重くもない。力強い『兄心』が伝わってきた。

これにはさすがに勢いで「私が全部倒してやる!」と勘違いしか見えなくなっていた視野が広がっていくようだった。


「はい…!頑張ります!」

「よし!ではお兄さんが特別なプレゼントを送ってあげるから、楽しみに待っててね!」

「兄ちゃん、手、長い」


プレゼントがなにか気になっていたところ、ふうちゃんにペッペっと手を払われて「ひど~い」とわざと目を潤ませた。


「遅くなったけど、二人ともちゃんと話合えたんだね」

「あ、はい!流れ星とか素敵な景色ありがとうございました!」

「ありがとう、兄ちゃん、二人にしてくれて」

「夜花もうれしかったです!」


私がどれだけ嬉しかったか、どれだけ綺麗だったか全身を使って表現しているのと、ふうちゃんも「俺流れ星つかめたよ」と冗談を言いながら一緒になって真似しはじめた。


とても深夜1時を過ぎたとは思えない光景に、お兄さんはフッと笑いながら

「こんな弟だけど、よろしく頼むね、えでかちゃん」

と、私とふうちゃんを両手で抱き寄せた。


「あ!!兄ちゃん!!近い!!えでかと近い!!」とふうちゃんが騒ぐ中、ふうちゃんに負けないくらい大きな声で「はい!もちろんです!」と二つ返事で返した。




ねぇ、7年前に教室でなきじゃくった私。

今日、私、世界で一番大好きな人と恋人になって、心強いお兄さんまでできたよ。

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