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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
修学旅行編
32/151

ー32-

夢のような海から名残惜しみつつも浜辺に戻ってきた私たち。

ロビーで静かなる攻防があったことも、庭園でもう一組のカップルがさらに仲良くなったことも、もうすぐ日付が変わろうとしていることも気づかないくらい、私たちは話続けていた。

中でも魔法をかけたときにもキスしたよね、と聞いてみたら今までで一番顔を赤く染めたふうちゃんがとてもかわいかった。

私のいたずら心が疼いてからかい続けていたら「…今なら兄ちゃんに見えてないんだからね」と、私の顔まで赤くさせた。

どうやら術の最後に口づけが必要だったそうだ。


「ねぇ、その時の指文字はなんだったの?結局私、当てられなくて悔しい~」

「あ、あぁ…」

「あ!あと生存…記録?ってなぁに?」

「あぁ…」


ふうちゃんといるとあれもこれも、と話たいことがどんどんあふれてきてしまい、聞きたいことがどんどん後回しになってしまう。

だってふうちゃんと話の楽しすぎちゃうから。

なのにふうちゃんの歯切れが悪い。

目線が泳ぎはじめた。


「もっかいやってみる?」

「うん!次は当てる!」

あの時と同じようにふうちゃんの指が青く光る。

そして私の手のひらに一筋の線がひかれていく。


「…ん~…やっぱりぐにゃぐにゃしてる…」

なんて書いたのかはわからないけれど、手のひらに書かれた形はずっと覚えていた。

それでも未だに正解がわからない。


「なにかヒントちょうだい~」

「そうだな~日本語じゃない…かも?」

「え!そうなの!?えぇ~じゃぁ何語なの~」

「ヒント。兄ちゃん、教科書」

「お兄さん?教科書?」

ますます意味がわからなくなってひどい顔をしているだろう私をみて、さっきからかわれた仕返しになったと満足気な顔をした。


私は悔しくて口を膨らませながらふうちゃんに詰め寄り、もう一度書いてもらうようにお願いした。

すると少し恥ずかしそうな顔をしながら書いてることに気が付いた。

それで私はハッとした。

書くのがちょっと恥ずかしくて、日本語じゃない言葉。

それはお兄さんの教科書にのっていた言葉。


「…英語?」

「そう、英語。頑張って覚えた」

「私、英語の成績良いんだよ」

「うん…知ってる。いつも夜遅くまで勉強してることも」

「I love you…って書いてくれてたんだね」

「…正解。さすがえでか」


せっかくからかい返したのに、もう形勢逆転。

嬉しくて私の顔はゆるく綻んでいる。

だって勉強が苦手だったふうちゃんが、お兄さんの英語の教科書をみて頑張って「I love you」を覚えてくれたんだから。

もう、どこまでもふうちゃんのことを好きにさせるんだから。


「…ふうちゃん、照れてる?」

「照れてる…」

「でも英語なんてずるい~!あの時英語なんて知らないよ!」

「だから英語にしたの!…東都に行く前にどうしてもえでかに気持ち伝えたかったけど、もっとえでかに寂しい思いさせると思ったからさ…英語だったらわからないだろうなって」


ふうちゃんの思考回路はつねに「私が寂しくないように」なんだってことがわかった。

そんなふうちゃんの気持ちが強く伝わってくるようだった。時間を超えて。

私は幸せを抱きしめるようにふうちゃんの腕の中にもぐりこんだ。


「えでか、空みてごらん」

「ん?」


ふうちゃんの腕の中から星空を見上げると、満天の星空の中をたくさんの流れ星が私たちを照らしていた。


「すごい!!流れ星いっぱいだよ!!」

「兄ちゃんからのプレゼント。もう日付が変わったみたい」

「え!そうなの?まだ30分くらいしか話してないと思ってた…」

「うん。えでかといると時間あっという間」


もう明日には北都に帰っちゃうのかと思ったら一気にこの暖かさが寂しくなってしまった。

いくら魔法でつながってるとはいえ、このぬくもりは直接でないと感じられないもの。


「…大丈夫だよ。えでかのこと寂しくさせないから」

「うん…」

「それに合同練習会とか増えるだろうし、忙しくて鬼神倒すまであっという間だよ」

「うん…私、いっぱい練習する。いっぱい強くなるね」

「…一緒に倒そう」

「うん…!」


北都に帰るのはさみしくないと言えば嘘になるけれど、ふうちゃんとの未来のために弱音を吐いてる時間はない。

強くなるんだ。二人の未来と、この国のために。


「でもまずはお兄さんの説得だね!」

「鬼神より手ごわいよ…」

「大丈夫!私に任せてよ!」

「ははっ!わかった、任せたよえでか」

「うん!!」


なんだかお兄さんがいま苦笑いをしてような気がしたけれど、なんとかなる自信だけはある。


「さて、じゃぁその兄ちゃんを倒しにいこうか」


ふうちゃんは立ち上がって手を差し伸べた。

私はふうちゃんの手を取りながらまた聞きそびれそうになったことを思い出した。


「あ、それで生存記録は何だったの?」

「あー…あはは、あれはね、その~…」

「なぁに?」

「別に秘密にしたかったことじゃないんだ…け、ど…」

「けど?」


ふうちゃんは罰が悪そうな顔をして、私と目を合わせない。


「あれも知らなかったんだ…そんな効果があったなんて」

「どんな効果なの?」

「…術者は、えでかの…その、離れてる間の出来事がわかるんだ…」

「出来事??」


ふうちゃんはつないでいた手を引き寄せ、顔が見られないように自分の胸に私を隠すように抱きしめた。


「…この術は呪いだったって言ったでしょ?」

「うん、言ってたね?」

「開発した陰陽師はどうやらすごく独占欲が強かったんだろうね。だから相手のすべてを把握したかったみたいで」

「すべて?」

「…離れてる間、何時に起きて、何を食べて、誰とどんな話をして、どんな気持ちで過ごしてたか…えでかに会うと一気に情報が流れてくるんだ…。だから癒しスポットのことも、波多野君とのことも、えでかが忘れてることも全部記録されるんだ、俺の中に」

「…へ??…ほんとに全部だねぇ?」


処理しきれなくて変な返しになったけれど、だからふうちゃんは知らないはずなのに夜花に「いつものようにやってごらん」って言ったんだと、納得がいった。

私が無意識に思い出したから、魔法で伝わったのかな?なんて思っていたけれど、それ以上のことがふうちゃんには伝わっていたみたい。


「それってさ、例えば中間試験の結果も?」

「あぁ、英語と現代史と異能史は90点台で、数学と鉱石学はギリギリだったね」


あ…当たってる…


「じゃ、じゃぁ、私がいつも寝る前にしちゃうことは…?」

「茶々丸の写真にむかっておやすみのチューしてること?」

「…もしかして体重も…?」

「え、うん。もちろん」


当たり前だよと言った顔で答えるふうちゃん。

体重も伝わってるってことは、服のサイズも下着のサイズも、私のだらしないところも全部伝わってるんだ…。


「どうして?えでかの身長なら標準体重なんだから気にすることないよ。それに…」

「それに?」

「毎年、誕生日祝っててくれてありがとうね」


ふうちゃんの瞳がキラキラしてみえるのは、流れ星が映っているからなのか、ふうちゃんの気持ちがあらわれているからなのか。

生存記録の恥ずかしさなんてどうでもよくさせる効果がある。


「まぁ、いっか。ふうちゃんなら全部伝わっても」


だって今までの私のすべてを知っていても、私への気持ちは変わらないのだから。

こんなに私のすべてを受け入れてくれるなんて、後にも先にもふうちゃんしかいないもの。

するとふつふつと、ある気持ちがわいてきた。


「…でもずるい。私もふうちゃんのこと全部知りたい」


どんな気持ちで朝目がさめて、どんな学校生活をおくって、どんな訓練をして、どんな気持ちで眠るのか。

楽しい気持ちも、嬉しい気持ちも、不安も辛さもさみしさも、ぜんぶ全部私も知りたい。

そして楽しいときは一緒に楽しんで、つらいときは側にいてあげたい。


「…ありがとう。ぜんぶ…全部教える。俺の全部、えでかにあげる。わかる?いまの俺の気持ち」


ふうちゃんが私をふうちゃんの中に閉じ込める。

目を閉じるとふうちゃんの世界の中にいるみたい。

私の体温とふうちゃんの体温がゆっくり混ざり合う。

指先、体の奥底まで流れていき、まるで二人でひとつの生命体になったようで、私とふうちゃんの境界線がわからないほど。

いつの間にか鼓動も重なり、お互いの心のすきまがうまった安心感で満ち溢れていた。


「ふうちゃん、大好きだよ」

「俺も大好きだよ、ずっとずっと」

「私も」

「俺の全部、えでかにあげる。えでかはー」


あぁ、これが私の幸せなんだ。

そう私が私のすべてにわからせてくる。


「えでかは俺の呪いだから」


私とふうちゃんだけの、愛の言葉に。

ずっと停滞期で更新できませんでした。

もっとこう書きたいのに!とモヤモヤしてますが、まずは完結を目指したいと思います。

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