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テレパシーごっこ
そういってふうちゃんが私たちの間につないだ魔法。
「魔法ってふうちゃんの異能でつくってくれたものなんじゃないの?」
あの時はふうちゃんの指から青い光がでたり、私の手のひらに青い光が浮かび上がったり、なんて「北都以外ではみんなやってる遊びなんだ」って本気で信じてしまっていたけれど、ふうちゃんが異能でつないだパイプのようなものなんじゃないかと思っていた。
そのパイプをつないでテレパシーのように、私が呼びかけたことはふうちゃんに届いて、ふうちゃんが私にメッセージを返す。
うん。我ながら理にかなった説明ができたと思う。
するとふうちゃんは高くなった私の鼻をすぐにへし折った。
「全然違うんだ」
「えぇ?」
「普通はそう思うだろうね」
りく先生だったらこんな時「お前らこんなこともわかんないのかよ」って私たちを馬鹿にしたようにあざ笑うのに、ふうちゃんは真剣に首を横にふった。
「あれが異能だったら鬼神に居場所がバレて俺たちは死んでたよ」
「え…!」
ふうちゃんが魔法をかけてくれた時にはもう、鬼神の手下がふうちゃんを探しはじめていた。
だからあれがふうちゃんの異能だったら手遅れだったけど、でも私たちは死ななかった…。
ということはふうちゃんの力ではない。
りく先生の意地悪問題よりも難しくなって私は左手で軽い頭を抱えた。
「これはえでかに謝らなくちゃいけないんだ」
「謝る?どうして?」
私は頭をかしげると、ふうちゃんは口角をあげたまま私に意外な質問をしてきた。
「えでかは波多野君のことどう思ってるの?」
ドキンと胸が音をたてた。
どうやって話そう。どこから話そう。
ふうちゃんに私の気持ちを誤解されないようにちゃんと伝えたい。
だって自分の気持ちなのに私も誤解しちゃってたから。
友達になれた嬉しさを『恋』だって。
「…さっきね、波多野と話したの」
「うん」
ふうちゃんは私を責めるわけでもなく、何かを一つずつ確かめるようにうなずいてくれた。
「私ずっと波多野に嫌われてると思ってたんだけど、修学旅行きっかけで仲良くなることができたんだ」
「…うん、そうだね」
「うれしかった。仲良くなれて」
「うん」
「…それが好きなのかもって思ったの。波多野のこと」
「うん」
これからふうちゃんに告白するって伝わっているのに、他の男子の話をするなんて。
でもふうちゃんがどれだけ好きかって伝えるためには大事な過程。
誰よりも好きな気持ちを伝えるために。
「でもね、ふうちゃんに再会して、全然違うってわかったの」
「全然?」
「うん、全然!全然違うの。ふうちゃんと一緒にいると嬉しくなるところも、あたたかくなるところも。考えることも違うの」
波多野と仲良くなれたことは嬉しかった。
でもそれだけだった。
波多野となにがしたいか、どこに行きたいか、どんなことをしたいか、未来のことを想像できなかった。
それに波多野といると胸は高鳴るけれど、ふうちゃんは高鳴らない。
ふうちゃんはじんわりと私を優しくあたたかく、安心させてくれる。その心地よさをずっと感じていたいと思わせてくれるんだ。
「ふうちゃんのこと考えるとね、未来のこといーっぱい考えるの!一緒に行きたいところとか、やりたいこととか、大人になっても一緒にいたいって、いーっぱい考えちゃうの!」
私はどれだけふうちゃんとの未来を考えているか、繋いでいない手をブンブンと音がなるくらい「これでもか!」ってくらい何度も何度も大きく広げた。
「だからね、波多野への気持ちは恋じゃなかったの。友達になれた嬉しさだったの」
「そっか」
「まぁまた嫌われちゃったけどね」
えへへ、と自虐的に笑う私を、ニコニコ顔で聞いてくれているけれど、なんだか目が笑っていない気がする…。
もうここまでほとんど告白したようなものだ。
きっと今があの二文字を伝えるタイミングだと思って大きく息を吸い込むと
「だからね、私がずっと恋してるのは…!!」
「まだ魔法の話、終わってない」
「~~~!!!」
と言って、また私の口を閉じさせた。
ここまで引き延ばされたらいじけるよ、私。
「~それで?魔法の話の波多野の話、どう関係してるの?」
ますます口をとがらせて、ふうちゃんを睨む。
「…あの日の前日、引っ越しの準備しててさ」
「う、うん」
急に話が飛躍して睨んでいた瞼がパッチリと開いた。
「押し入れの奥に古い紙が束ねられたものを見つけたんだ」
「古い紙?」
「うん。炭でいろいろ書いてあったんだけど、全然読めなくて兄ちゃんの昔の落書きかなって思ったんだ。でもなんだか夢中になってめくってたら、それが初代の遺した術だってわかってきたんだ」
昔の書体で小学4年生には到底理解できないし読めないはずなのに、頭に流れ込むように理解だけはできたと教えてくれた。
そしてその中に特定の人と離れていても意思疎通が可能な術があるとわかり、異能ではないことから鬼神に見つかることもないし、これなら東都にいっても私と連絡を取り合うことができると思ったと。
「それがテレパシーごっこ?」
「うん。でもその術だけやけに複雑に書かれててさ、全部理解することができなかったんだ。時間もなかったしね。それで一か八か、見様見真似でやってたら成功したのが、この魔法」
ふうちゃんは術をかけたときみたいに、指先で青い光を私の手のひらにつくった。
7年ぶりに見た光は懐かしく、あの頃と変わらない輝きを放っていて私との再会を喜んでいるようだった。
「それで結局どんな術だったの?」
私はワクワクしながら前のめりでふうちゃんに聞いてみた。
だって初代が作って遺した術だって聞いたら誰だって興味わいちゃうもの。
でもふうちゃんは、そんな私とは正反対な雰囲気で、だんだん歯切れが悪くなっていった。
「あの時わかっていたことは…えでかがメッセージを送ったら、俺に届いてメッセージを返せるってことと…」
「うんうん!」
「それは…どんなに距離が遠くても可能だってことと…距離が近い場合より受信ができること…と」
「うんうんうん!」
ふうちゃんが教えてくれたことと同じだ。
距離が近いとメッセージを送ろうと意識してなくても、ちょっとふうちゃんのことを考えただけでメッセージとしてふうちゃんに届く。
ほんとまさにテレパシー!
「…で、あとからわかった効果と条件が、あって」
「まだ効果があるの?!」
「…術を受けた者の生存記録…っていうこともわかって」
「生存記録?なんかすごそうだね!」
「…」
気まずそうな顔で目線をはずずふうちゃん。
はじめて聞く効果でよくわからないから、あとでもっと詳しく聞こう!
「あと、術の成功条件として…」
「成功条件として?」
「…想いあってる男女のみ、効果が発動するってこと…」
「うんうんうん!…え!!」
え!?…え?…え!?!?!?
お、想い、あってる…!?だ、誰と誰が!?!?!?
「…術を受ける者、この場合えでかが」
「…ひゃい」
待って。まだ一つ前の『想いあってる』で気持ちが追いつかなくなっちゃったの。
え、待って待って。術が発動してるってことは…ずっと知ってたってこと…?
私がふうちゃんのこと好きだって…。
「術者、つまり俺」
「う、うん」
「俺以外に情がうつった場合…術者の命はない」
「………え?」
命は…ない?
「…また、術を受けた者が命を落とした場合、術者の命も尽きる」
浮上していた気持ちが一気に現実に戻ってきた。
ゴクンと意識しないと唾を飲み込むのを忘れてしまう。
「い、命はないって…どういうこと?」
「つまり…えでかが俺以外を好きになったら俺は死ぬし、えでかが死んだら俺も死ぬってこと」
それじゃ、この術って、テレパシーごっこなんてかわいいものじゃなくて…まるで…
「呪いだったんだ、この術」
ふうちゃんの顔がこわばっている。
無理して笑顔をつくっているのがわかった。
続く




