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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
修学旅行編
27/151

ー27ー

今日はいったい何度、涙を流しただろう。

ふうちゃんのことになると私、泣き虫になっちゃうみたい。



「…ごめん。情けないとこ見せちゃったね」


そう言ってふうちゃんはゆっくり私から身体を離した。

ふうちゃんの体温を全身で感じていたから、ビーチにきてからはじめて肌寒さを感じた。

本当はもっとくっついていたかったと思いながらも「大丈夫だよ」と涙のあとをこすりながら答えた。


「私こそごめん。感極まっちゃった」


せっかくふうちゃんが話してくれてたのに、感情をおさえきれず話を中断させてしまった。

でも抑えたままだったら、続きを安心して聞くことができなかったかもしれない。

おかげで私はこの先にどんな話が待ち受けていようと、すべて受け入れる覚悟ができた。

だって怖くないもん。ふうちゃんが生きていることを、身体で実感することができたから。



「続き、聞かせてくれる?」


そう言うと、ふうちゃんはまた左手で私の右手を握り、私たちは当たり前のように繋ぎ直した。


「兄ちゃんが異能中学に上がって、しばらくしたら陰陽師の力を受け継いでるってことがわかったんだ」


そしてお兄さんは能力値が高く、適応するのもはやかったため高校進学の際、東都異能高校の専門クラスに転入することが決まったそうだ。


「高校1年になった頃だったかな、兄ちゃんの力が成長するにつれて俺の力も共鳴するようになって…暴走しかけたんだ」

「え?」

「それが俺たちが小4のころ」




ずっと見つからなかったパズルのピースがやっと見つかった。


「…だから学校休みがちになったの…?」

「うん。本当はすぐに東都の専門施設に入って治療を受けなくちゃいけなかったんだけど、どうしても学校行きたくてさ。毎週東都に行って、治療を受けて、調子がいい時だけ北都に戻らせてもらってた。治癒師の先生には意識があるのが奇跡的なのにっていつも驚かれてたよ」


その言葉を聞いて私はうまく言葉が出なかった。

たった数秒で話せるほど、簡単な話ではなかったはずだ。

陰陽師の力がどれだけなのかなんて今の私にはわからない。

だって普通の異能なら中学にあがることにはみんな安定するのが当たり前なのに、7年以上たっても安定することがないほどの力なんて。

そんな力と私と身長が変わらない小さい頃から命がけで戦っていたんだ。


なのに優しく私の頬をなでるふうちゃんの顔は、壮絶な日々を感じさせないほど柔らかく微笑んでいた。

でもあの日私が感じた、ひよこの目。

あれは何度も生死をさまよっていたことのあらわれだったのだろう。


「…ひよこじゃなくてよかった…」

「ひよこ?」


首をかしげるふうちゃんに、あの日教室で見たふうちゃんの目が死を予期したひよこの目と重なって、ずっと焼き付いていたことをゆっくりと告白した。

ふうちゃんはあの頃より低くなった声で「うん」「それで?」と優しく相槌をしてくれるので、思い出すのが怖かったことも泣かずに話きることができた。

話終わると「ありがとう、話てくれて」と私の呼吸を落ち着かせてくれた。



「でもえでかのその直感は当たってたよ」

「え!?」

「俺が北都にいれたはあの日が限界だったんだ。あのまま北都にいたら死んでた」

「そう…だったの?」

「もう治療も追いつかないくらい力をおさえられなくなっててさ。次の日にはもう東都に引っ越すことになってたんだ」

「それなのに学校にきてたの…?」


私が不思議を隠しきれない顔で聞くと、ふうちゃんは少し照れながら答えた。


「…死ぬかもしれないって思ってたから、最後にえでかに会いたかったんだ」




胸の奥の底から震えてきた。

これはうれしさでも、よろこびでもない。


「…ふうちゃんのバカ!」


怒りだ。




「え、えでか?」


にじむ視界に困った顔したふうちゃんがみえる。

でももう、とめられなかった。すべて受け入れる覚悟などこにいったのだろう。


「私に会いたかったからって!それで死んじゃってたらどうするの!私!ふうちゃんに会えなくても!ふうちゃんが生きてるほうがいい!!!!」

「えでか…」

「うぅぅぅぅ~~~~~!!!!ばかばか!!ふうちゃんのばか!!!」



きっと私、自分では気づかなかったけどずっと怒っていたんだ。

自分の命よりも私に会うために無茶をしたふうちゃんに。

好きって言えなかった自分に。


そして今はふうちゃんにこんな大変な力を受け継がせた安倍晴明に怒ってるけど。



ふうちゃんは右手で私を抱き寄せて、波のリズムに合わせてポンポンと私をなだめた。

私は転校のことも、力のことも、何も言わずにいなくなったことも。何度もメッセージ送ったのに返してくれなかったこと。ずっとさみしかったこと。全部ぜんぶ打ち明けた。


「それにそれにそれに!!私!!ずっとふうちゃんは死んじゃったって思ってたんだからぁ!!!」

「うん。ごめんね、えでか」


ふうちゃんは私のふうちゃんの都合なんて無視した身勝手な感情を、反論することなく、全部一つ一つ受け止めてくれた。





「…えでかは怒るけど、俺はあの時会いにいってよかったよ」

「…どうして?」

「おかげでこうして生きて、またえでかに会えたから」


今度は抱き寄せた右手を離すことなかった。

私はふうちゃんの香りに包まれながら、落ち着いてふうちゃんの話を聞き続けた。


「東都に着いたら一気におさえがきかなくなってきてさ、何度も暴走して死にかけた。全身俺の身体じゃないみたいに痛みで動けないし、俺の意識なんてほとんどないことも多かった」

「…うん」

「でもそのたびにあの時のえでかの笑った顔に救われてた」

「私の…?」


ふうちゃんの腕の中からふうちゃんを見上げると、ニコっと笑って話続けた。


「えでかの笑った顔を思い出すと、どんな痛みも和らいだし。意識が消えかけても、戻ってくることができたし。つらい治療も耐えられた」

「…ふうちゃん…」

「それに死にかけても、えでかを思い出すと絶対に生きられた。だからあの時、会いに行ってよかったって思ってるよ」


ついさっきまで、私にはどうすることもできなかった怒りで八つ当たりしていたのに、いまはお腹の底のほうから温泉のように熱い気持ちが沸き上がっていて、好きの二文字が喉元まで出かかった。

思わず告白しそうになったけれど、タイミング悪くふうちゃんが話はじめちゃったので一度飲み込んだ。



「毎日魔法で呼びかけてくれてることも知ってたよ。でも返せなかったんだ」

「…返せる状況じゃなかったんだね」

「うん…力も落ち着いてきて施設でれたのは夏休みがあけたころでさ。ちょうどえでかからのメッセージがとぎれた時だった」

「あ…」


夏休み明け、学校にいったら転校のことを知らされた時だ。

ふうちゃんが死んだと思ってメッセージ送るのをやめたタイミングだった。


「えでかからメッセージがこないと返事できないから。きっと死んだと思ったんだろうなって思ってたよ」


星空に向かってふうちゃんは笑うけど、もしあの時あきらめずにメッセージを送っていたら、こんなに長くすれ違うことはなかったんだと思ったら「…ごめん」と素直に謝るしかなかった。


「いいよ。何も言わなかった俺も悪いし」

「でも言ってくれたらよかったのに。転校のことも力のことも」

「だってそしたらえでか、絶対泣くでしょ?俺はえでかの笑った顔が見たかったんだから内緒にするでしょ」

「うっ…」


図星すぎて何も言い返す言葉が見つからなかった。

そんな私をみて楽しそうにふうちゃんは声をあげて笑う。

私はふうちゃんからそっと離れ、ふうちゃんへの気持ちを告白しようとしたが「まだダメ」と言って腕の中に戻された。



「でも落ち着いたなら夏休みとか冬休みとか帰ってこれなかったの?おばあさん、北都に残ってたんでしょう?それに手紙とか…」

「ダメなんだ」

「え?」

「18になるまで北都には帰れないんだ」




私を抱くふうちゃんの腕に力が入った。




続く


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