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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
修学旅行編
24/151

ー24-

食事会が終わり、りさちんと部屋に戻ってきた私たち。

「楓ちゃん、先にお風呂入っていいよ♪」

と、今夜私におこることを全て察しているかのようなりさちんが、ソファに腰をおろして一息しはじめた私にバスタオルを差し出してきた。


「これから水樹君と逢引でしょ?」

「あ!逢引!?ち、違うよ~?!」

「でも告白、してくるんでしょ?」


…りさちんにはお見通しだったようだ。私がふうちゃんに告白しようと思っていたことを。


「…う、うん。また言えないまま、離れたくないから…」


りさちんからバスタオルを受け取ると、私は緊張からか手が震えていた。


「私もね、ゆうた君と庭園で待ち合わせしたんだ」

「そうなの?」

「うん、私もゆうた君に告白してくる」

「え?告白ってもう付き合ってるのに?」


私はりさちんの言ったことを何とか理解するために頭をフル回転させた。

でもまだ誰とも付き合った経験がない私には想像できない世界だった。

気づけば手が震えるほど緊張していたのに、バスタオルのふかふかさがわかるくらいにはおさまった。


りさちんはそんな私がおかしかったのか一笑いしたあと、まぶしい笑顔でこう教えてくれた。


「ゆうた君の模擬戦見たらさ…もっと大好きになっちゃったんだ!それに私から告白しようと思ってたのに、ゆうた君が告白してくれたから…私も告白したくなっちゃった!」


えへへ、と照れ笑いを隠すように笑ってみせたりさちんの笑顔は、窓から見える星空よりも綺麗だった。


「それに楓ちゃんも頑張ってくるなら、私も頑張りたいし!」

「りさちん…」


私は胸の奥がじんわりあたたかくなって、目がしらに熱いものがたまってきた。


「だからお互い戻ってきたら報告会しよ!」

「…うん!」

「朝まで寝かせないよ~!?」

「あははは!そしたら帰りのバスで眠ればいいもんね!」



笑い声と一緒に目がしらの熱いものが頬を伝い、どんな結果になったとしても「私は大丈夫。大好きな友達が一緒だから」。

そんな力強い気持ちが私の勇気になった。





(ひゃ~!遅れちゃう!服選びに時間かかちゃった!)


お風呂から上がり、待ち合わせ場所に向かう準備を整え、寝具用に持参していた北都ジャージに手を伸ばそうとしたら、りさちんから強めのストップがかかり「大事な告白なのに、こんなにかわいくないジャージでいいの!?」と戦闘服と制服、ジャージ、館内着の少ないレパートリーの中から勝負服を選ぶことになってしまった。

フロントに連絡すると、丁寧なスタッフさんが青と緑の甚平と、浴衣を全種類持ってきてくれた。

思わず浴衣のかわいさにテンションがあがり、あれこれ試着していたら待ち合わせ時間が近づいてきてしまい、結局着慣れた北都ジャージに着替えた。

私は浴衣に着替えているりさちんに見送られ、小走りでエレベーターまで向かっていた。


(うー!ホテルが広すぎてエレベーターまで遠い!)

(ふうちゃんもう、ロビーで待ってるかな?)


ふうちゃんに遅れる旨のメッセージを送ろうかと思ったとき、反対側の客室につながる通路から突然人が表れてぶつかってしまった。


「わっ!」


少し勢いがあったので、そのはずみで尻もちをつく形になったが、ふかふか絨毯のおかげで痛くなかった。

ごめんなさい!と謝りながら急いで立ち上がり、前にもこんなことがあったなと記憶を遡った。

立ち上がるにつれ嗅ぎなれた甘い香りがして、そのおかげで初めて二人で練習した時に波多野とぶつかって尻もちをついたことを思い出した。


(でも波多野のわけないか、謹慎中だもんね)


少し乱れた服を整えながら目の前に立つ相手に目線をうつすと、謹慎中の波多野が黙ったまま立ちふさがっていた。


「え?あ、あれ?…謹慎中じゃ…?」

「…別に関係なくね」

「ご、ごめん…」


混乱してつい波多野の地雷を踏んでしまった。

最初に口にでた言葉が「謹慎中じゃないの?」って…。

波多野のプライドを傷つけてしまったかもしれない。

だって透明な結界をはられてるみたいで、とても今までみたいに話せる雰囲気ではない。


(嫌われてた頃に戻ったみたい…)


波多野と二人きりになれる機会があれば、絶対にお礼と謝罪を伝えようと心に決めていた。

でも模擬戦闘の時に目線をそらされた時から感じてはいたが、いざ目の前にすると波多野の威圧から逃げるように後ずさりしてしまった。

それに気づいたのか目線を合わせることなく小さく溜息をついて、通り過ぎようとするところを私は「待って!」と咄嗟に呼び止めてしまった。


「…なに?」


完全に振り返ることはないが、無視せずにとまってくれたことに少しほっとした。

きっといましか伝えられるチャンスがない。

このまま学校に戻っても今までみたいに話せる機会はないだろうから。

私は全然まとまっていない波多野への気持ちを、思いつくまま伝えることにした。




「あの…ありがとう。鬼から助けようとしてくれて…」

「…」


波多野は黙ったまま聞いてくれているようだった。

その背中に安心したのか、これまでの思いとともに言葉が自然と溢れてきた。


「追いかけてきてくれた…よね、うれしかった」

「…」

「そ、それにね!夜花と光の花の時も、みんなのこと助けることができたのも練習に付き合ってくれたからだと思ってる!波多野に比べたらまだまだ弱いけど…でも強くなれた気がしてうれしかったよ…。練習に疲れてるのにいつも付き合ってくれてありがとう」


波多野がどんな顔してるのかはわからない。

でもきっと顔を見たらこんなに素直に言葉が出なかったかもしれない。

それはもしかしたら波多野も同じなのだろう。


「でも…鬼に捕まって迷惑かけてごめんなさい」


波多野には見えていないけど、私は頭を下げた。

頭を上げてもまだこっちを見てはくれないけど、気持ちの整理がついた。


波多野への気持ちの正体が。

きっとふうちゃんと再会したから気づけた。

だってふうちゃんへの気持ちと全然違うから。


波多野ともっと話したいと思う理由。

波多野と一緒にいるとドキドキする理由。

波多野との思い出を振り返ると胸が高鳴る理由。

波多野への未練なのか、それとも別の何かなのか。




これは『恋』ではなかった。


波多野への気持ちの正体は

嫌われていると思っていた波多野と

大嫌いだと思っていた波多野と

仲良くなれたことが素直にうれしかっただけなんだ。


そう、つまり私の一方的な友情だったんだ。





「…また嫌われちゃっても仕方ないかなって思ってるけど」


波多野の右肩がぴくっと動いた。

きっと嫌いなことに気づいてたことに反応したんだろう。

私もまたあの楽しい友達との時間を過ごせないと思うと、すごくさみしくなった。


でも引きずってはだめだ。

私は前に進みたい。

嫌われてるかもと、波多野の顔色をうかがったり、気にして勝手に傷つくのはやめる。

だって波多野はなにも悪くない。弱い私が悪いんだから。

いつか、波多野がまた友達になってやってもいいって思ってくれるように強くなるんだ。




目をつぶると今までの思い出がよみがえる。

教室でデコピンされたこと、波多野を治療したこと、一緒に練習したこと、一緒に逃げたこと、見晴台に連れて行ってくれたこと、修学旅行中の思い出、演習でかばってくれたこと、追いかけてきてくれたこと…

どの思い出を振り返っても、私はいつも怒ったり、驚いたり、困惑していて、笑顔でいることは少なかったね。


だから今まで友達でいてくれたお礼の気持ちを込めて、最後は笑顔でいよう。



「波多野と仲良くなれてうれしかったよ。今まで仲良くしてくれてありがとう」



背中をむけている波多野には見えないかもしれない、伝わらないかもしれない。

それでも少しでも私の気持ちが届きますように。





「あ、呼び止めてごめんね!先生にバレないように気を付けてね」


結局一度も振り返りことも返事をしてくれることはなかった。

私は波多野の背中に手をふり、エレベーターに再び向かおうとすると


「…おい」

と、今度は波多野から呼び止められた。相変わらず背中のままだけど。


「…」

「…なに?どうしたの?」


呼び止められたのに無言のままで、もしかして私の聞き間違えだったのかもと思い始めてきた。


すると勢いよく波多野が振り向き、思わぬタイミングで目が合い驚いた。

相変わらず壁は感じるままだけど、さっきよりは少しマシになった気がした。


「…お前…あいつの」

「波多野ーーー!!!!!」


波多野がまだ何か言いかけてる途中だったが、部屋を抜け出してきたことがりく先生にバレてしまい、すごい勢いで走ってくるのが見えた。


「…ちっ」


りく先生に向けて舌打ちをする波多野は、苦虫を潰したような顔をした。

私はりく先生がくる前に今なんて言おうとしたのか聞きたかったけれど、あっという間にりく先生が到着してしまった。


「お前~~~!!交代時の隙みてなに抜け出してんだよ~~」

「べつに。自販機行っただけだし」


りく先生は波多野の首を後ろから腕でおさえ、波多野は足がちょっと浮いてるのに顔色が変わらずいつもの波多野だった。

むしろりく先生の方が顔色が見たことない色をしていた。

去年、他校に喧嘩を売られ異能で怪我をさせた時にも謹慎になったはずなので、2度目の謹慎になると堂々とできちゃうものなんだろうか。私にはわからない世界だ…。



「あ、立華もいたのか」

「こ、こんばんは…」


やっと私に気づいたりく先生はちょっと顔色が戻り、私の姿をじーっと見て何かに気づいたのか

「ふ~ん。ま、あまり遅くならないうちに部屋に戻ってこいよ」

と笑いながら言い残し、波多野を回収していった。



もしかして…りく先生にもふうちゃんに告白しようとしてること、バレてたのかな…。




結局波多野がなんて言いかけていたのかわからないままだったけれど、恋だと思った勘違いは消え、私の足取りを軽くさせた。




続く

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