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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
修学旅行編
23/151

ー23-

「ホテル謹慎!?」


スコア記録からギャラリーに戻ってきた私は、りさちんから波多野がホテル謹慎になったことを聞かされた。

私は内臓の機能が止まったかと思うほど驚いて、何に対しての寂しさなのか、何に対してのショックなのかわからない、正体不明の感情でのど元が痛くなった。


「うん、水樹君に負けた八つ当たりで施設の柱に雷落としたんだって」

「そんな…せっかく戦闘メンバーに入れたのに…」


あぁ、この正体不明の感情は波多野の努力が無駄になってしまったことへの悔しさなのかもしれない。


「北都に帰ってもしばらく謹慎になるだろうってゆうた君が言ってた」

「そっか…」


でも波多野が八つ当たりするきっかけとなった戦闘相手がふうちゃんだし、ふうちゃんが何かズルをして勝ったわけでもない。

正々堂々とした戦闘で負けたのだから、波多野の自業自得としか言えなくて、かばう要素が見つからなかった。

それでも心に冷たい風が通ってるみたいで、塞ぎ方がわからなかった。




模擬戦闘は後半戦に移り、大きな問題もなく順調に進んでいった。

どれも目が離せない戦闘ばかりで、私の異能観察も充実する内容で、心にぽっかり空いた穴を忘れてしまうほどだった。

おかげで手元にメモ帳には走り書きでびっしり観察内容が書き込まれた。


異能観察と書き込みに夢中になっていると、男子の部は最終戦を終え、8勝5負で東都の勝利となった。

悔しい結果ではあるけれど北都には実りの多い模擬戦となり、負けたはずの北都生は笑顔で東都生と挨拶を交わしている。

中でもふうちゃんはとくに人気で、アドバイスをもらうため順番待ちができ、ゆうた君と博貴も並んでいた。

ふうちゃんは自分の出番が終わっても面倒くさがることなく、ちゃんと全員の戦闘をしっかり見ていたのだろう。

相手選手であろうと一人ひとり丁寧にアドバイスしているようで、女子の部がはじまっても終わらなかった。


私はそんな戦闘に真面目で、誰にでも優しいふうちゃんがかっこよく見えた。





ー 夕食会場 ー


今夜の夕食会場は昨日の倍の広さになり、北都と東都の交流会と題した夕食会になった。

なのでもちろん、ふうちゃんもこの場にいるはずなのだが、会場が広すぎて全然見当たらない。

朱雀女子たちかの質問攻めから逃げるように模擬戦闘後、りさちんとすぐに部屋に戻り、シャワーを浴びて夕食会場にやってきたのに、交流会を楽しみにしていた生徒たちですでに溢れかえっていた。


「楓~!なにあの水樹君って!何者!?アドバイスめっちゃわかりやすくて最高だったんだけど~!!」


一番に私たちを見つけたのは博貴とゆうた君だった。

博貴はすでに山のような揚げ物と、山のようなパスタを両手に抱えていて、近くにあったテーブルに「みんなで食べよ♪」と置いてくれた。

ゆうた君は4人分の飲み物をトレーに乗せて並べてくれた。


「たかちゃん、模擬戦闘お疲れ様!なんてアドバイスもらったのー?」

「んっとね~俺、火に負けないように水蓄えてたんだよ~。そしたら蓄えるんじゃなくて循環させるといいよ~とか、技を打つときの癖とか、もうい~~っぱい!!」


口にいっぱい唐揚げを頬張りながら、興奮気味な博貴はゆうた君にウーロン茶を渡され一気に飲み干した。


「ゆうた君もアドバイスもらってたね~!」

「うん。絶対に炎吸収されるのわかってたから、それを活かして反転術かけてたんだ。そしたらもっと気づかれないようなコツとか、見た目を変えずに火力だけあげる方法とか術の計算方法とか…とにかくすごかったよ」

「もー俺!水樹君、大好き!水樹君と模擬戦したーい!!」

「いいよ、いつでも模擬戦やろう♪」

「え!?」


私の後ろから色とりどりのロールケーキツリーを持ったふうちゃんが現れた。


「ふうちゃん!」

「水樹君!いいの!?」

「きっとこれから練習会とかあるだろうからね」

「やったー!」


練習会とかあるんだ、と思っていたら博貴は嬉しそうに万歳し、ふうちゃんに戦闘のことで質問しまくっていた。

ゆうた君もいつもだったら博貴を落ち着かせたりするところ、一緒になって話し込んでいた。

ふうちゃんも好きなことを話せる男の子ように、盛り上がりはじめた。


「もー女子たち置いてけぼりー」


りさちんは「ほんと男子って子供なんだから」と拗ねながら、ゆうた君が持ってきてくれたジンジャーエールを口にした。

でも子供っぽい男子の顔したゆうた君を見つめるりさちんも、なんだかんだ楽しそうだった。





「あれ?水樹…だよな?」


ふうちゃんと一緒に振り返ると、北都の男子が10人ほど集まってきていた。


「あれ…もしかして小林!?」

「そう小林!やっぱり水樹だよな!?」

「うわー久しぶり!」

「大雅!おれ!かずま!」


男子たちはみんな小学校の同級生で、小林は私のことを好きだった男子。

小林とはふうちゃんを通して告白され、断ったけれど、いまでは挨拶するくらいの仲になっていた。

小林の他には小4の時、同じクラスだった男子もきていた。

その中にはふうちゃんと一緒に隣町まで走ったかずまもいて、私と目が合うと再会で盛り上がっている輪からこっそりはずれ、私の側までやってきて「よかったな、立華」と声をかけてくれた。


かずまは教室で泣きじゃくった私を覚えていたのだ。

私は恥かしい記憶を覚えられていたことに照れながら「うん!」と答え、みんなと同じ小学4年生の同窓会に混ざった。


すると代わる代わる同級生たちが集まり、ふうちゃんの周りには懐かしさであふれていた。

ふうちゃんも嬉しそうで、一人ひとりとの再会を噛みしめているように見えた。

私は邪魔をしないようにそっと同窓会から離れ、りさちんたちがいるテーブルに戻った。





テーブルにのっていた山盛りのから揚げはすでに空になり、今度は山盛りのチャーハンになっていた。

りさちんとゆうた君は一緒に飲み物と果物を取りにいったようで、博貴と二人きりになった。


「でさ~楓と水樹君ってどんな関係なの~?」


ずっとモグモグしながら博貴は私の分のチャーハンも分けてくれた。


「同じ小学校で仲良かったんだよ」

「え~それだけじゃないでしょ~」


博貴は天然に見えて意外と鋭いところがある。

そしてそのゆるさから口を割ってしまう。

きっと波多野もこのゆるさにゆか先輩のことを話してしまったんだろう。


「うん…私はね…ふうちゃんはどうかわからないけどね?!」

「え、そう~?かなり楓に執着してると思うよ~?」

「執着?」

「うん、だって波多野と戦闘してるとき、楓の話してたみたいだし」


やっぱり私の名前が聞こえた気がしたのは、気のせいじゃなかったんだ。

でもなんで戦闘中に私の話になったのかはわからないけれど。


「執着か~。それでいったら私もふうちゃんには執着してると思うよ」


青いロールケーキをとりながら、自虐気味に笑った。

でも嘘ではない。ふうちゃんの死にとらわれて、前に進むこともできなかったのだから。

それに今は生きていたことで、頭の中はふうちゃんのことでいっぱいなんだもん。


博貴は残りのチャーハンをペロッと平らげ

「じゃぁお似合いじゃんね!」

と言って、勢いよく私の背中を叩いた。


思わずロールケーキを落としそうになり、なんとかキャッチをすると博貴は「頑張れ!」と言ってピンクのロールケーキを私のお皿に置いてくれた。


「ありがとう!」

その気遣いに博貴と友達になれてよかったと心の底から思った。


「あー俺にも彼女できなかなー」

「たかちゃんはどんな子がタイプなの?」

「んーーーー」


博貴は男女ともに人気があるに、私が知っている中でも博貴のことが好きで相談に来る人も少なくないのにずっとフリーなので気になっていた。

すでに今も聞き耳を立てている女子が目に入るし、中には東都生の女子もいた。


すると博貴はなにかひらめいたように

「俺より強い子!!」

と、宣言した。


私は一瞬ぽかんとしてしまったが、すぐにおかしくなって笑ってしまった。

だって博貴より強い女の子なんてほとんどいないと思うから。

聞き耳を立てていた女子も肩をがっくりと落としていた。

もしかしたらこの中から博貴より強くなろうと努力する女子がいるかもしれないが、きっと高校生のうちに博貴を超えることは難しいだろう。


「二人してなに笑ってるの~?」


飲み物と果物を持ってきてくれたゆうた君とりさちんに事の経緯を話すと、二人もお腹を抱えて笑っていた。

でも博貴だけは「絶対に俺より強い女子高生いるはずだよ!」と抗議するも、ゆうた君から「仮にいても博貴を好きになるかわからないよ」と論破されて、ちょっとだけ気の毒に見えた。




あらかた食事も終わりに近づき、ビュッフェに並んでいる料理も空になってきた。

もう食事が済んだ生徒ばかりで飲み物を片手に談笑している者ばかりだった。

交流会と題された夕食会は大成功と言っていいだろう。

北都と東都の垣根を超え、白と黒が混ざって、連絡先を交換し合っていたから。


「水樹君、これ俺の番号~!」

「ありがとう!火野君の字ってこれで合ってる?」

「うん、水樹君もこれであってたよね?」


ふうちゃんとゆうた君、博貴も連絡先を交換していた。

なんだか不思議な光景だった。ふうちゃんが転校せず、北都に進学していたらこんな風だったのかなって。

そしたらこの中に波多野もいたのかもしれないな、なんて想像してみた。


「じゃあ模擬戦できるの楽しみにしてるね」

「水樹君に負けないからね~!」

「俺も負けないよ」

「私もみんなの模擬戦闘楽しみにしてるね!」


ふうちゃんは3人との挨拶を済ませ、私とのすれ違いざまに

「あとで連絡するね」

と耳打ちした。


この『連絡』が携帯でのやりとりではなく、手のひらに届くメッセージなことを知っているのは私たち二人だけ。

私はその特別感がうれしくて《まってるね》と二人だけの魔法を使ってメッセージで返事をした。




続く

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