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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
修学旅行編
22/151

ー22-

ギャラリーから1階に降りると今の騒ぎで人だかりができていた。

人ごみで波多野の様子が全くわからないので、先に会場に入りスコア記録をとることにした。


戦闘会場に足を踏み入れると空気が引き締まる感覚がした。

そしてギャラリーにいる人の顔も遠くまで見渡すことができる。

こんなに多くの人の前で戦闘するなんて相当なプレッシャーだろう。

でもプレッシャーなんて気にならなくなるくらい、足元から力が湧いてくる。

これが全国大会がひらかれる会場に施される一流の結界なんだと、実感した。


(私もこんな結界がはれるようになりたいな)


一人スコア台に座り、これまでの戦闘結果を記録しながら一流の結界を心行くまで体感し、記録係になれたことに役得を感じていた。


すると男性が近づいてきて、私に話しかけた。


「えでかちゃん、だよね?覚えてるかな?」


長身で大人の色気をまとった男性は私を「えでか」と呼んだ。

ふうちゃんしか呼ばない名前に驚いていると、東都の白い戦闘服のマントに教員バッチがついているのに気付いた。

それでも今まで北都から出たことがない私には、東都に知り合いなんているはずもなく、ましてや年上?

ふうちゃんが東都で生きていたのを数時間前に知ったばかりなのに全く心当たりがなかった。


でもどことなく知ってる雰囲気に答えが出ず、頭にはてなマークを浮かべたままでいると、彼は笑いながら胸元についた名札をみせてくれた。


「これでわかるかな?」

「水樹…くうが…水樹空雅…あ!!!!」


点と点が気持ちよくつながった。


「ふうちゃんのお兄さん!?あの、よく忘れ物届けにきてた!?」

「思い出してくれてよかったー」


お兄さんはほっと胸をなでおろし、

「大きくなったねー。昔と変わらず大雅よりしっかし者って感じだね」

と、親戚の女の子に再会したような声色でお互い懐かしんだ。


「ふうちゃん、もう忘れ物してないですか?」

「今は寮だからね、でも昔よりは減ったけど全然だよ」


どうやらふうちゃんの忘れ物癖は変わっていないようで、お兄さんの疲れ具合からこれまでの苦労が伺い知れた。


「夜、大雅と話するんだってね」

「あ、はい!もう聞きたいこと山ほどありますよ!」

「そうだよね…」


するとお兄さんは伏し目がちになり

「今までたくさん心配かけたよね、ごめんね。話、きいてやってね。」

そう言い、私の目をみながら頭をなでた。お兄さんの瞳はふうちゃんとそっくりで、大きくたれていた。


「できれば、これからも弟と仲良くしてやってくれると嬉しいよ」

そんな当たり前のことを心配されるなんて、いったいどんな話が待っているのだろうと頭をよぎったが

「もちろんですよ」

と、心の底からお兄さんに伝えた。


お兄さんは目を細めながら安心したような顔つきになって、つられて私もなんだか安心した。


すると

「兄ちゃん~~~?俺より先にえでかと仲良くしないでよ」

と、私をお兄さんから引き離すように背後からふうちゃんが現れた。


お兄さんは呆れたような溜息をつき

「変わらないな、お前は」

と、深みをこめて笑いながら言った。


私は東都生の顔したふうちゃんではなく、弟の顔になっているふうちゃんがなんだかかわいくて、ついつい忘れ物を届けてあげたくなる気持ちになった。

お兄さんもなんだかんだふうちゃんのこと大切で、かわいいから面倒みてあげたくなるんだろうなって思った。


「ふうちゃん、私に会いたがってる人ってもしかしてお兄さん?」

「そーだよー。俺が紹介する予定だったのに兄ちゃん、先にえでかに会うんだもん」

「お前がえでかちゃんに紹介するなんて聞いてなかったんだからしょうがないだろ」

「あとそれー!えでかちゃんってなんだよ!えでかって言っていいのは俺だけなのに!」


私よりも身長が高い二人の微笑ましい兄弟喧嘩を見上げていると、昔学級会で「えでかって呼んでいいのは俺だけなので他の人は呼ばないでください!」って発言して怒られたふうちゃんを思い出してお腹から笑った。


「え?えでかちゃんってえでかって名前じゃないの?」

「本名は楓って言います」

私は笑いすぎてあふれた涙をぬぐいながら改めて自己紹介した。


「ごめんね、知らなかったよ。こいついつもいつも「えでか、えでか!」って話すからてっきり…」

「兄ちゃん!」


お兄さんは私の名前を間違えて覚えていたことに慌てて謝ってくれたけど、正直「楓」よりも「えでか」のほうがしっくりきちゃってるのが本音。

もちろん、ふうちゃんしか呼んじゃいけないけど、お兄さんにならいっかなって気になった。


でもそれよりも、いつも私の話をしてるってところに嬉しいやら恥ずかしいやら気になるやらで、ふうちゃんに聞こうにも、ふうちゃんも思わぬ暴露に慌てていた。


「さっきの仕返しだよ」

どうやら慌てた様子はお兄さんの演技で、お兄さんの策にはまったふうちゃんは悔しそうに顔をゆがめた。

私はただただ微笑ましい様子に笑うことしかできなかった。





「じゃぁまたね、えで…じゃなくて楓ちゃん」

教員たちの緊急集合がかかり、お兄さんは会議室のほうへ足場に向かっていった。

私とふうちゃんはスコア台に座り、続きのスコアを記録する私を頬杖をつきながらふうちゃんは眺めた。


「もう!兄ちゃんのやつ…!」

頬を膨らませ、口をとがらせるふうちゃんは、さっきのことを根にもっているようだった。


「いいじゃない、お兄さんなんだから。私一人っ子だからうらやましいよ」

それにふうちゃんとお兄さんは似ているからか、お兄さんにえでかと呼ばれても悪い気はしないもの。

そう言うとふうちゃんはますます口を尖らせた。

こんな姿、他の東都生に見られたくないな、と思うほど庇護欲がわいてきたけれど、さっき見た実力的にふうちゃんに庇護は必要なさそうだ。



するとふうちゃんはハッと何かを思い出し

「ねぇ、えでか!これ覚えてる?」

と、スコアを押さえていた私の左手をとり、上にむかせ指文字をかきはじめた。


「…応援、ありがとう…?」

「正解!さすが、えでか!」


その顔は昔、小学生のころ何度も何度も繰り返し遊び、何度もみた笑顔と変わらなかった。

魔法で送り合うメッセージとは違い、直接触れながらのやりとりはまた違った懐かしさを呼び起こした。

でもなんだか胸の奥底にあのころには感じたことのない、初めてのくすぐったさがあった。


「もちろん覚えてるよ!じゃぁこれは?」

「…助けてくれてありがとうね…」


やっと伝えることができた。

倒れていたとき眠くて気力がなかったし、起きたらふうちゃんはすぐに東都に戻っちゃったから伝えるタイミングがないままだった。


ふうちゃんは目を細めながら

「助けるなんて当たり前だよ」

と、指文字で返した。私たちはきっと、言葉で伝えるより、指文字で伝え合うほうが多くのことを伝えられる。そんな気がお互いしているんだ。






そんな二人の様子を会場入り口から眺めている男がいた。


「波多野、荷物もってきたよ」

「…あいつら」

「ん?」

「あいつら何してんの?」


その男は波多野だった。

波多野は水樹との戦闘後、会場をでたロビーの柱に負けた腹いせで特大の雷を落とした。

あの時の衝撃音と振動は波多野によるものだった。

すぐに先生たちに捕まり、騒ぎをおこしたことで残りの修学旅行中はホテル謹慎になった。

ゆうたとりさは波多野の荷物を渡すため、波多野に会いにきていた。


「さぁ…俺は知らないけど。楓さん、東都に知り合いいたんだね」

「…知り合いってもんじゃねーよ」


波多野は遠くから二人を睨むように見つめていた。


「りさは知ってる?水樹君のこと知ってるんだよね?」

「うん、私たち同じ小学校だったから…」


波多野は一瞬だけりさの方をみたが、すぐに視線をもどした。


「あれは二人だけの秘密の遊び、二人はいつもそう言ってたよ」

「秘密の遊び?」

「うん、手のひらに指で文字を書き合って何を書いたか当てる遊びが流行ってね。あの二人は何を書いたのか絶対にわかるの。どんなに長い言葉でも」


ゆうたは顎に手を添えて「へー」と何か考えこんだ。


「試しに他の人と書き合っても当たらないの。あの二人にしかできなかったの」

「波長が合うんだろうね。だから深く同調もできるんだ」


波多野はりさの話を聞き、ある言葉を思い出した。


「俺はえでかのーーだよ」


自らいら立ちを大きくさせたことに気づきもせず、いら立ちに比例した大きい舌打ちを鳴らした。

その音にゆうたとりさは驚いて波多野に振り向いた。


「波多野?どうした?」

「…べつに」


りさは波多野の心境がわからなかった。

(波多野君が楓ちゃんのこと嫌っていた時期があったけど、それは本当だと思う。でも最近はむしろそうじゃなさそうだったのに…今はあの頃以上に嫌ってるみたい…)


「おい、波多野、ホテルに戻るぞ」


白虎組の担任がやってきて、ゆうたとりさに別れをすませた波多野は会場に背を向け

「あれは同調なんてもんじゃねーよ」

と、捨て台詞を吐いた。




続く

お読みいただきありがとうございます!

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