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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
修学旅行編
21/151

ー21ー


「勝者!北都高等学校!佐藤博貴!」


ゆうた君の歓声と違い

「たかちゃーん!!」「たかちゃーん、かわいいーー!!」

と、黄色い声が多い中、博貴が玄武組から朱雀組まで凱旋していた。


朱雀組の前にきて

「あ、楓~~!俺、炎に勝ったよ~~!!」

と、飛び跳ねながら報告してくれた。


博貴は私と同じ木属性なので、炎には一番といって言いくらい弱点なのだ。

博貴は何も考えてないように見えて戦闘センスは高いので、博貴なりにいつも弱点の克服を考えていた。


「たかちゃん、おめでとー!」


私はギャラリー席から大声で博貴に返事をした。


「今度教えてあげるね~!!」


そう言いながら先生に回収されていく博貴に、北都側だけでなく東都側からも笑いが起きた。

一瞬で学校も男女も関係なく、魅了されてしまうのが博貴の人柄だと思う。





「楓ちゃん、次、波多野君だよ」


「七回戦!北都高等学校!波多野明!」


野太い歓声が沸き上がった。とくに白虎組から。

会場が地鳴りしているんじゃないかと思うくらいだ。

六回戦も北都が勝利し、3勝する東都に追いついてきた。

ここで追い越しがかかっているからか、白虎組の波多野にかける熱量が半端じゃなかった。


波多野は白虎組のほうへ向かい、クラスメイトと楽し気に話していた。

追い越しのプレッシャーは感じていないように見えた。

そして朱雀組の前を通る際、一瞬波多野と目があった。


「…あっ」


頑張ってねとガッツポーズも交えて伝えようとしたところ、冷たく目をそらされてしまった。

まるで仲良くなる前の、嫌われていたころのように。

私は心臓に針が刺さったみたいに痛み、静かに腕をおろした。


(まだ夜花のお礼も、迷惑かけたことも謝れていないのにな…)

痛む胸を抑えながら、りさちんに気になっていたことを聞いてみた。


「ねぇ、りさちん…私が鬼にさらわれたとき、波多野…どうしてた?」

「波多野君?そうだなぁ…波多野君が一番に気づいて追いかけったんだけど、私も楓ちゃん追いかけるのに必死で波多野君のことよく覚えてないや」

「そっか…」

「どうして?」


ーー楓!!


必死に私を呼ぶ声が波多野のものだったのか知りたかった、なんてことをどうしてか聞けなかった。

もう波多野への恋心はないものの、声の主を確かめたところで意味がないと気づいたから。




「ううん、なんでもないよ。りさちんも追いかけてきてくれてありがとね」

「当たり前だよ、友達だもん」


りさちんは私の手を握ってくれた。

りさちんの土属性の力強さと、りさちんの想いが伝わってきて、あの時の恐怖が癒されたようだった。



「だから水樹君とのこと、応援するからね」


より一層りさちんの力強さが増した。

りさちんにはすべて見透かされている気がした。

ふうちゃんと再会したことで、今までの波多野への気持ちが祓われ、新たな気持ちに戸惑っていることを。


波多野とは練習に付き合ってくれたこと、私を強くしてくれたこと、見晴台につれていって元気づけてくれたこと、鬼から守ってくれたこと、私にだけデコピンすること。

思い出すとどれもすごくうれしくて楽しかったことばかりで、思い出すたびに胸は高鳴るんだけど、ふうちゃんがすべてを上書きしてしまった。

だからこの高鳴りの意味が未練なのか、それとも別の何かなのか上手く説明をつけられずにいた。


そんな自分がコロコロ好きな人が変わる尻軽みたいで、自分を批難する気持ちが強くなっていた。





「水樹君、生きててよかったね」


りさちんはそんな私の揺らぐ瞳をのぞき込みながら、優しく手を握り直した。

そのりさちんの瞳をみたら、自分を許せた気がして、ふうちゃんが生きていてくれたことに心から素直にうなづいた。



波多野にはきっとまた嫌われてしまったかもしれない。

それでも今までのお礼をちゃんと伝えよう。

そして波多野への気持ちとちゃんとお別れしよう。

私が前に進むために。私自身のために。






審判の合図でコートに入る波多野。

すでに帯電しているのか、静電気でパチパチしているのが後ろから見えた。


「東都高等学校!水樹大雅!」


「え!!」


この対戦にはりさちんも驚いてた。


(北都生として波多野のことはもちろん応援したい…けど…)


波多野が陰ながら努力してきたことは知っている。

それに北都生として北都を応援したいし、北都に勝利してほしい気持ちも嘘じゃない。



(けど…)


ふうちゃんに勝ってほしい気持ちも嘘じゃない。

むしろふうちゃんを応援したい気持ちが本音なんだけど、北都生という肩書が邪魔をして私を悩ませた。

対戦の組み合わせがこの2人じゃなければ、こんなに北都生であることを疎ましく思わなかったのに。


戦闘が開始した私は、さっきのりさちんと同じく祈るように両手を合わせて握っていた。

きっと緊張したり、不安になったり、ハラハラしているとき、人は自然とこの形になるのかもしれない。




「君、波多野君だったよね」

「あぁ、さっきはどーも」


微動だにしない二人はなにか話しているようだったが、ギャラリーには内容まで聞き取れない。


「俺はね、怒ってるんだ」


ふうちゃんが右手でマントを広げると、周りが一瞬で白銀の世界になった。

結界があるはずなのにゆうた君の炎と同じく、体感温度がぐっと下がった。


(やっぱりあの時の雪はふうちゃんの異能だったんだ…!)

(でもふうちゃんって水属性だと思ってたんだけどな…)

ふうちゃんの青い光や、手のひらに届くメッセージも、魔法をかけてるときの優しい海に包まれている感覚から勝手に水属性だと思いこんでいた。


「えでかのこと、傷つけてるでしょ」


いったい何の話をしているのかわからないけど、ふうちゃんの雰囲気が私の知ってるふうちゃんじゃないみたいだった。

顔はいつもみたいに笑っているのに、目だけは鋭く怒っていた。

ふうちゃんが怒ったところを今まで見たことがない私は何が起きているのかわからない状況に、手に汗をにぎった。


「えでか?あぁ、あいつのこと?お前、あいつの何なの?」

「君は知らなくていいことだよ」

「それに傷つけてる?」

「うん、さっきだけじゃなくて、今までもたくさん傷つけてきたよね」


ふうちゃんの空気が変わり、白銀だった世界から一転、見たことがないほどの猛吹雪になった。

その景色からふうちゃんのレベルが人間の域を超えていると誰もがわかるほどで、対戦から逃げ出したくなるレベルなのだが、それすら目に入らぬほど私たちを驚かせたのは


「楓ちゃん、水樹君の目…」

「赤い…よね」


りさちんにも赤く見えているということは、私の見間違いじゃなかった。

ふうちゃんの目が赤く光を帯びているのだ。

その目に気づいた北都側はざわつきはじめたが、東都生の反応はふうちゃんのおこす景色で何も見えなかった。


「傷つけた?俺が?なんで?」


ふうちゃんの吹雪でよく見えないが、波多野の帯電がさっきよりも大きくなっているのが見えた。

いつでもあの鬼に一撃落としたくらいの雷を落とせるくらい準備が整っているようだった。


「俺はね、えでかを傷つけるやつとは仲良くできないんだ」

「は?」


二人の力が強まって、ギャラリーの結界も強化レベルをあげはじめた。

ギャラリーも静まり、二人の戦いを固唾を飲んで見守っている…というよりも、逃げるタイミングをうかがっているようだ。


「だからお前、あいつの何なんだよ!」


先手を仕掛けたのは波多野だ。

雷鳴とともに目をふさぐほどの眩しさで会場から短い悲鳴が聞こえた。


「俺はえでかのーーだよ」


風にのって私の名前が聞こえたような気がした私は、目をふさぐのが間に合わなかった。





会場は静まりかえっている。

北都生と東都生を合わせれば400人ほど集まっているはずなのに、誰の呼吸も聞こえない。


やっと目が慣れてきて、ぼやける視界が少しずつ二人の戦況を映していった。



勝負は一瞬一撃だった。

ふうちゃんの吹雪は止み、東都側のギャラリーがよく見える。

そしてコートの中央上空には大きい水の塊がぷかぷかと浮いていて、その中で音は聞こえないがパチパチと雷が鳴っていた。

視線を下に移すとふうちゃんは最初の立ち位置から変わらず、波多野だけがコートの外にいた。



「…しょ、勝者!東都高等学校!水樹大雅!」


審判もなにが起きたわからないような顔をしながら、コートの外にいる波多野を確認し勝利宣言した。


私は驚くことばかりで開いた口がふさがらなかった。

(え?え?え?ふうちゃんって氷属性じゃなくて?え?あの水はなに?)

《どっちも俺のだよ》

混乱しているとふうちゃんからメッセージが届いた。


似た属性であれば二属性もつ者が過去存在していたようだが、ここ何十年とあらわれることがなく、絶滅したか、それとももともと存在などしない都市伝説だったのではないかと囁かれていた。


《ってことは…ふうちゃんは都市伝説…?》

《あはははは!えでかの前だから頑張ったんだよ》


さっきまで怒っていたふうちゃんの姿は会場にはなく、東都生の顔をしたふうちゃんに戻っていた。

それでも私と目が合う瞬間だけは、私が昔から知ってるふうちゃんになるんだけど。


《おめでとう、ふうちゃん》

《ありがとう、えでか》


ギャラリー中が拍手を送る中、私もふうちゃんに届くように拍手を送った。

見たことないふうちゃんの顔だったけど、何か大事なものを守るようなでとてもかっこよかった。


《ふうちゃん、かっこよかったよ》


素直な気持ちを送ると、遠くで顔を真っ赤にしたふうちゃんが見えた。

急いで後ろを向いてしまったけれど、チームメイトに気づかれて不思議な顔をされていた。

私は怪我でもしたのかと思って立ち上がりかけたけど

《ありがとう》

とメッセージが届いたので、怪我じゃなくてほっとした。




するとギャラリーの下から爆発音のような音がなり、振動でお尻がビリビリとした。

「波多野!!」

と、先生たちが走って会場から出ていくのが見えた。

ちょうど前半戦が終わり休憩時間に入ったので、私はスコア記録をとりにギャラリーからコートへむかった。

波多野になにがあったのかも気になったから。




続く


今回もお読みいただきありがとうございます!

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