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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
修学旅行編
20/151

ー20-

昼食後、東都との合同演習は模擬戦闘の時間になった。

異能ホテルに隣接されている会場で、さすが全国異能選手権大会の会場になるだけあって設備は最新だし、どんな異能技があたっても傷ひとつつかない。

何十年前に建てられたものなのに、当初の綺麗さを保ったままで汚れも年期も見られない。

ギャラリー席もどの席からも見やすい設計になっているし、ずっと座っていてもお尻が痛くならなくてありがたい。


この会場で戦闘ができることは全異能力者にとって誇るべきことなので、今回模擬戦闘メンバーになるべくたくさんの生徒が血がにじむような努力をしてきた。

模擬戦闘メンバーになれたというだけで就職先には困らないし、これまで選出された先輩たちの多くは警視庁や防衛省官僚、など国の中枢以上に進むことが多く、希望する道があれば用意されるほど栄誉あることなのだ。

まあ、波多野がそんな道に進んでいる姿は想像力が拒否してしまうが。




今回北都の戦闘メンバーに選ばれたのは全部で13人。

まずは男子の部から開始ということで、会場の真ん中に用意されたコートに戦闘順に横並びになり、その中にはゆうた君、博貴、波多野も並んでいる。


そしてコートを挟んだ反対側には東都のメンバーが向かい合うように同じように並んでいる。

その中にはふうちゃんの姿も。


メンバー以外の生徒は自分たちの高校側のギャラリーで観戦することになっているため、私たちは組ごとに割り振られた席に着席していた。




「一回戦!北都高等学校!火野ゆうた!」


審判の声に合わせ、大きな拍手と声援の中、ゆうた君が立ち上がった。

昨夜のミーティングでゆうた君がトップバッターになることが決まったらしい。


「…ゆうた君…!」


ギャラリーについてから大人しかったりさちんは両手を祈るように合わせ、ゆうた君よりも緊張しているように見えた。


「りさちん、ゆうた君に声かけてあげよ」


ゆうた君がコートに向かう前にギャラリー席の前までやってきた。

りさちんもゆうた君のもとへかけ降りていった。

ギャラリー席の真ん中あたりに座っている私にはよく聞こえなかったが、ゆうた君は落ち着いている雰囲気で逆にりさちんが落ち着かされていた。


私の隣に戻ってきたりさちんはさっきまでとは違い、ゆうた君の勝利を確信している目になった。


「落ち着いた?」

「うん、私が一番応援してあげないとね!」

「私も一緒に応援するね!」

「ありがとう!」


もとから落ち着いていたゆうた君だったけど、コートに入ったゆうた君の背中がいつもよりたくましく見えた。





「それでは模擬戦闘、開始!」


ゆうた君は炎属性らしく火の玉を自身の周りに30個以上出現させた。

普通なら多くて5個程度なのに、それを凌駕する多さに会場がざわついた。

東都の生徒はサファイアのような鉱物を剣の形に変形させ、ゆうた君のもとへ攻めいった。


模擬戦闘のルールは簡単だ。

10分の時間内に相手を降参させるか、コートの外に出すこと。

もし時間内に降参させることができなかったらその勝負は引き分けとなる。

しかし戦ってみるとわかるが10分って意外と長いので、あまり引き分けになることはない。

もし引き分けになるとしたら相手の戦略によるもの、ということが多い。

なので戦闘には怪我がつきものなのだが、ここには一流の治癒師が集まっているので私の出番はないので安心して応援することができる。




戦闘はゆうた君優勢で進んでいた。

上から見下ろすコート内の戦闘は、ゆうた君の火力で炎が蜃気楼で踊っているようだ。

きっと相手が鉱物属性だから火力をあげて溶かす戦法なのだろう。

しかしいくらギャラリーには影響がない結界が施されているとはいえ、見ているだけで熱くて汗が流れる。


すると東都生のサファイア色の剣が白く色を変え、盾の形に変化し、ゆうた君の炎を吸収していった。


「え!」


私は驚いて声がでたが、りさちんは驚くことなくまっすぐゆうた君を見つめていた。

戦闘相手は属性関係なく当たるので、相性の悪い相手だったとしても知恵と工夫で戦う必要がある。

どうやら東都生は攻め入るのは分が悪いと判断し、炎に強い鉱物に吸収する術を加え、ゆうた君の火力切れを狙うことにしたのだろう。


「そうくると思ったよ」


ゆうた君が指を鳴らすと炎の色が紫色に変化した。


「うわぁぁぁ!!!!!」


盾に吸収された炎は東都生の能力を奪いながらゆうた君の指先に戻っていった。

能力を奪われた東都生は生気がなくなったかのように青白い顔で、白い戦闘服がぶかぶかになりコートに倒れた。

そしてか細い声で「…ま…ぃ…した…」となき、降参した。




「勝者!北都高等学校!火野ゆうた!」

審判の勝者宣言により、北都側から拍手喝采が起こった。

お爺さんみたいになった東都生はすぐに治癒師たちに担架に乗せられ、東都生たちからの労いの言葉をかけられながら救護室に運ばれていった。


「りさちん、おめでと!」

「ありがとう!楓ちゃん、私いってくる!」


りさちんはさっきよりも早くギャラリーの階段を駆け降り、ゆうた君のもとへ向かった。


「わっ!!」


りさちんは駆け降りた勢いで、ゆうた君の首元に柵ごしに抱き着いた。

ゆうた君は一瞬驚いた顔と、恥ずかしそうな顔をしていたけれど、すぐにりさちんをなだめるように頭をなでた。


(りさちん、本当は心配だったんだな~)


朱雀組からの微笑ましい拍手と、白虎組からの口笛が二人の勝利を祝福しているように見えた。




二人の姿を見ていたら、自然と目がふうちゃんを探してしまい、遠くに座っているふうちゃんと目があった。

にこっと笑うふうちゃんの顔をみたら、じわっと胸が温かくなって私も笑顔になる。

表立ってふうちゃんを応援できないのがちょっと辛いけど。



ふうちゃんの座っている位置を数えると13人中7人目か8人目あたりのようで、ふうちゃんの戦闘を待ちわびた。


(そういえば、ふうちゃんの属性なんだろ?)


練習山での演習で属性が判明した生徒が多かったため、事前情報がある程度集まっていたが、ふうちゃんの情報だけ全くなかった。


(気を失う前に雪ふってたような気がしたけどな~)

《そうだよ、俺がふらせたんだよ》

「え!?!?」


手のひらにふうちゃんからのメッセージが届いた。

呼びかけてすらいなかったのに突然メッセージが届いたことで驚いて立ち上がった。

遠くで口元を隠しながら笑っているふうちゃんが見えたが、私は周りが呆然としている中立ち上がっている恥ずかしさに耐えられなかった。


「か、楓ちゃん、どうしたの?!2回戦、はじまるよ?」

「ご、ごめん…」


顔が赤くなっているのがわかる。

だっていま、全身がすごく熱い。


《ふうちゃん?なんで呼びかけてないのに届いたの?》

《近くにいるから、ちょっとでも呼べば伝わるんだ。言ったでしょ?まだ魔法でつながってるって》

《言ってたけど…先に教えてくれたら恥ずかしい思いしなかったよ…》

《でも顔が真っ赤でおもしろかったよ》


何言わぬ東都生の顔に戻ったふうちゃんだけど、目元のゆるみは遠くからでもわかった。


《ふうちゃん、頑張ってね》

《応援してくれるの?》

《いくら高校が違ったってふうちゃんはふうちゃんだもん。応援するよ》

《ありがとう、えでか》


私を見つめながら、ふうちゃんのお礼が届いて、胸だけじゃなくお腹の奥底がらじわっとなにかがあふれそうだった。


《そうだ、模擬戦あと時間ある?》

《うん、ちょうど休憩のときスコア記録で降りるよ》

《よかった。えでかに会いたがってる人いるんだ》

《私に?》

《うん、だから後で紹介する》


私に会いたい人なんて東都にいるのだろうか?と不思議に思いながらも、ただふうちゃんと会える嬉しさだけで二つ返事した。





試合は5回戦目をむかえ、北都はゆうた君と博貴が勝利をおさめ、3勝の東都を追いかけていた。



続く

お読みいただいてありがとうございます!

バトル描写は難しいです。温かい目でお読みいただけると幸いです。

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