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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
はじまり
2/151

ー2-

~ ある日の午後 ~


「今日は修学旅行の班決めするぞー」


教室につくなり、りく先生が声をかける。

来月はいよいよお楽しみの修学旅行。行先は東都。

東都はこことは違って流行のすべてが集まる大都会。

映画館もゲームセンターもない地域に住む私たちは浮足立つ。


「お前ら浮かれてるけどな、修学旅行の意味わかってるか?」

「思い出作り!」

と、誰かが発言する。


大きい溜息をつきながら

「はぁぁぁぁぁ。いいか!?修学旅行とは、学びを修める旅行なんだよ!だから遊びじゃないんだ!」

「えぇぇぇぇぇ!!!!!」

「そう校長が決めたんだからしょうがないだろ!!俺だって遊びたいんだから!!」

女子たちの大ブーイングは、向かいの校舎にある校長室まで届いたんじゃないかと思う。校長は反省してほしい。



「それとうちの女子だけで、隣の白虎組は男子しかいないだろ?だから合同になったから」

(…えっ)

「2人ペアを作って、くじ引きで男女4人グループをつくるからなー」


私はなんだか嫌な予感がした。

なぜなら白虎組には波多野がいる。

(まさか同じグループにならないよね…)

と、心臓がぎゅっと握られたような胸騒ぎをおさえる。


「あと白虎組は知っての通り、問題起こすやつばかりだから、問題おこさないようにちゃんと見張るのがお前らの役割だからよろしくな!」

「それって押し付けられたんじゃ…」

「はい!佐々木、進行!!」



りく先生にさえぎられた委員長の佐々木がペア決めを進行する。


「えー本来ならくじ引きにするか自由に決めるかから議論するところですが、すでに一緒にまわろうって話し終わってると思います。なので黒板にペア同士の名前書いてってくださーい」


そう。私たちは浮足立っていたので、もうすでに誰と一緒にいくか決めていたのだ。

まぁ白虎組とペアになることは予想外だったけれど。


「楓ちゃん、私黒板に書いてくるね~」

「ありがとう、りさちん!」


私とりさちんは小学校からのずっと同じクラスで、部活も同じことから親友と呼べる間柄。

当然私が波多野を嫌いなこと、波多野も私を嫌いなことも知っている。


「楓ちゃん、波多野とグループにならないといいね」

「うん…あの話聞いてからずっと胸が痛いよ…」

「大丈夫?ちょっと手、貸して?」


りさちんに両手を出すと私の手を握り、目を閉じる。


「…不安で筋肉が固まってるね。呼吸も浅くなってる…」


りさちんは土属性の異能をもち、人よりもエネルギー量が多い。

そして人体の知識も豊富なので弱っている機能にエネルギーを流して元気にしたり、潜在的に隠れているポテンシャルにエネルギーを流して才能を伸ばすことが得意。


「どう?楽になったかな?」

「うん、ありがとう…!さっきより自然に呼吸できるよ」

「よかった!」

「そういえば、ゆうた君も白虎組だったよね?」

「そうなの!だから同じグループになるといいな~」

「あとで寝てこようか?」

「ほんと!?えへへ~お願いしようか」


りさちんとゆうた君は、あれから付き合うことになった。

ゆうた君がずっと好きだったのは、りさちんだったのだ。




「失礼します。りく先生、そちらは班決め終わりましたか?」

と、ちょうど噂していたゆうた君が朱雀組にやってきた。


りさちんは小さく手をふりながら、ゆうた君は委員長なんだと教えてくれた。

白虎組にしては珍しい優等生だ。


「いまペア確定したところです」

「佐々木さんが委員長だったんですね」

「りささんじゃなくて残念ね」

「あ…いや……その………はい…」


いつも間にか廊下に不良だらけの白虎組が集まってきて、ゆうた君をはやし立てる。


「ではくじ引きでグループを決める形でよろしいですか?」

「はい、構いません。朱雀組の方からどうぞ」


「楓ちゃん、私くじ引いてくるね!」

ゆうた君と同じ教室にいること、彼がリーダーシップをとってる姿をみることが幸せそうなりさちんが飛ぶようにゆうた君のもとにむかった。


「おい!ゆーた!!顔赤いぞ!!」

「ひゅーー!!!」

と白虎組がなおもはやしたてる。


他の組から苦情きそうだな、と思いながら廊下をむくと

(げっ!)

すぐに波多野と目があってしまい、急いで目をそらした。


ニコニコしながら戻ってきたりさちんの手元には

『六』

と書かれた紙があった。

『9』と間違えないように漢字で書き分けされていた。


「さっきちょっと話したんだけど、ゆうた君のペア、波多野君なんだって」

「うわぁ。ゆうた君、かわいそう。一番の問題児押し付けられたんじゃない」

「でもあの二人も小学校からの仲で家も近いんだって~」


確かにゆうた君と波多野は正反対なのによく一緒にいるのが不思議だったのだが納得した。




「では番号読みあげるので、同じ番号のペアは黒板に名前書いていってくださーい」

興味のない波多野の話をだらだらと聞いている間に白虎組もくじを引き終わったらしい。


佐々木さんが「1番のペアの方~」「2番のペアの方~」と順番に読みあげる。

私は黒板に書かれていく名前を見ながら

(波多野はまだ呼ばれてない…)

と自分の番号が近づくたびに緊張で呼吸が浅くなる。


(せっかくの修学旅行なんだもん…)

(気まずい思いしながらなんて絶対いやだ…!!)

手に汗を握ったところで「六番のペアの方~名前書きにきてくださ~い」と佐々木が読みあげた。


「書いてくるね」

と、りさちんが立ち上がった瞬間、

「「あ」」




ゆうた君が六番のスペースに

自分の名前と『波多野』と書き始めた。




「…楓ちゃん」

りさちんは彼氏のゆうた君と同じグループになれた喜びと、私と波多野が同じグループになってしまったことを気にして複雑な表情を浮かべた。


「だ…大丈夫だよ。ほら!ゆうた君待ってるから書いてきて!」

「う、うん…」


なんて強がって言ったものの心臓の音はうるさいし、不安で胸は痛いし、呼吸ができなくなりそうで喉は厚くなるし、目頭は熱くなるし

(どうしよう、今から誰かと交換とかできないかな?)(あいつと3日も一緒だなんて嫌だ嫌だ嫌だ)

(いやむしろ当日休む?)(でもそれじゃりさちんに悪いし…)

と、どうにかできないか頭の中は思考でいっぱいで、顔の表情もこわばった。




(あいつ、きっと私と一緒でキレてるだろうな…)

怖いものみたさなのか、波多野がどんな顔をしているのか気になってバレないように目線を動かすと、またすぐに目があってしまった。


(やばい!!)

咄嗟に危険を感じて目をそらし、波多野を見たのを少しでもごまかすために枕を取り出して、波多野から私の顔が見えないように枕に隠れた。


「…ッチ」

どうしてか。グループ決めで朱雀組の女子たちも白虎組の男子たちも盛り上がっているのに、あいつの小さいはずの舌打ちだけ、はっきりと聞こえてしまう。

(あぁ…行きたくないな、修学旅行)

思わず潤んだ目からこぼれた涙が枕を濡らした。



続く

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