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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
修学旅行編
19/151

ー19ー


いい香りがする。

ずっと嗅いでいたい華やかさで、お日様みたいなほっとする香り。

お花畑の中、日向ぼっこしてる茶々丸はこんな気分なのかもしれない。


誰かに気持ちよく頭をなでられていることに気づき、泣きつかれた重たい瞼をあけると、私を膝枕している、目じりがたれた大きな瞳のふうちゃんと目が合った。



「えでか、起きた?」

うん…

「まだ眠そうだね」

…ねむい


まだ眠いというより、心地がよすぎてこのままでいたい。

こんなに身も心もあずけられて、ほっとできる場所は他にはないと感じるから。


「異能切れだね。あんなにいっぱい異能使ったから」

そうなんだ…鬼にも捕まっちゃったしなぁ…


私は話す気力もなく、ふうちゃんに埋もれながら頭の中で返事をした。


「そうそう。鬼にふれて邪気が入っちゃったから、今は大事な回復中なんだよ」

そっか……ん?

「き、聞こえてるの!?」


頭の中で返事をしていたはずなのに、自然と会話が続いたことに驚き飛び起きた。

でも異能切れの影響でそのままクラクラとふうちゃんの膝に戻っていった。


「まだ寝てて。えでかは午前中はお休みだよ」

「うん…」


ふうちゃんは私の額をおさえ、私にかかっていたふうちゃんの白いマントをまたかけ直してくれた。


「あとなんで聞こえるかっていうと、まだ魔法でつながってるからだよ」


ふうちゃんの魔法…。

離れていても私が呼びかけると、ふうちゃんから手のひらにメッセージが届くあの青い光…。

私はふうちゃんが死んだと思っていたし、それを確かめるのが怖くて呼びかけることをやめてしまっていた。

だからまだつながっていたことと、ずっと一人じゃなかったことに安堵した。


《ふうちゃん、いろいろ聞きたいこと、たくさんあるよ》

「うん、俺もえでかと話したいこと、たくさんある」


広場に簡易的に建てられた救護室はテントで作られていて、少し離れたところに先生や救援部隊が待機している。

周りからみたらふうちゃんが独り言を話してるみたいだけど、ふうちゃんの呼ぶ『えでか』がさみしかった7年間を埋めていくようで。

そしてふうちゃんもあえて呼んでいるようで、周りなんて気にならなかった。


「今夜東都もここに一泊するんだ。だから夜、時間つくれる?」

《うん…》

「じゃぁ夜にまた会おう?」

《うん…》

「だからお昼まで安心して寝てな?寝顔は守るから」


まるで王子様みたいだ、と思った。

昔、風船の変顔をしていたなんて想像できないほど、かっこよくて優しくてほっとする、理想の王子様みたい。


「おやすみ、ふうちゃん」

「おやすみ、えでか」


私は今にも夢に落ちそうなほどの眠気が誘う中、最後の気力を振り絞ってふうちゃんの名を呼んだ。

ふうちゃんが私の名前を呼ぶと私が安心するように、私もふうちゃんを安心させたかった。

そしたら嬉しそうな顔で名前を返してくれた。


いったい何回返ってこない呼びかけで『おやすみ、ふうちゃん』と送っただろう。

そして何回落胆して、さみしさをつのらせただろう。


でもやっと返してくれた。7年越しの『おやすみ』を。




目を閉じてからは夢を見る間もなくまばたきの如く一瞬だった。


「あ、おはよう、えでか。ちょうど午前の演習おわったところだよ」


いま目を閉じたはずなのに、広場には北都生と東都生でにぎわっており、日も高くのぼっていた。

確かに体も重だるさが抜け、むしろいつも以上に軽く、エネルギーに満ち溢れているのを感じる。

あまりにも一瞬の出来事のようで時間のはやさに追いつけないでいると、りさちんとゆうた君、波多野がやってきた。


「楓ちゃん、具合大丈夫~?」


3人の顔、とくに波多野の顔をみたら一気に申し訳なさが襲ってきた。


「うん、大丈夫!あの…迷惑かけてごめん…」


私が鬼に捕まってしまわなければ、そもそも夜花にお礼をしたいなんて言わなければ、もっと早く山頂にたどりつくことができたかもしれないし、後攻パートでもサポートできたかもしれないのに。

怖くて3人の顔をまともに見ることができなくて、ふうちゃんのマントを小さく握りしめた。


「なに言ってるの!?楓ちゃんのおかげで私たち助かったんだよ!」

「むしろお礼を言わせてください、楓さん」


優しい言葉に顔をあげると、いつもの笑顔でむかえてくれる2人に嬉しくて涙がこぼれた。


でも波多野は無表情のままなにも言ってくれなかった。

それが気になって不安も一緒に流れた。





ふうちゃんと離れ、昼食会場にやってきた。

東都生とは昼食会場が離れていて、ちょっと名残惜しかった。


でも私は異能切れだったこともあり、今ならすべてのビュッフェを平らげることができそうなほど食欲が無限だった。

しかし私に食べる機会を与えてくれない。

なぜなら波多野の不安を忘れてしまうほど、私はさっきからずっと質問攻めにあっているからだ。


「楓ちゃん!あの東都の貴公子とはどういう関係!?」

「いつの間にあんなに仲良くなったの!?」

「詳しく説明しないとお菓子あげないわよ!?」

「みんな落ち着いてよ~!楓ちゃん、病み上がりなんだから~!」


りさちんがなんとか対応してくれているが、間に合わないほど人だかりになってしまっている。


そんな中

「私、楓ちゃんは波多野君と付き合ってるのかと思ってた…」

と、誰かの一言で一気に静まり返り、気まずさだけが流れた。


「ち、違うよ!それにあいつには好きな人いるみたいだし…」

「「「え!?!?」」」

「あ…」


つい空腹から頭が回らず、口を滑らせてしまった…。


「ちょちょちょ!!楓ちゃん、その話、私も聞いてないよ!?」


りさちんまで人だかりに混ざってしまい、もう取集がつかなくなってきた。


「もー!!明日話すからご飯食べさせてー!!」


私は隙間をぬい、お皿をもってビュッフェに向かって走った。

後ろから「なんで明日!?」とつっこまれたけれど、今夜はだめなの。

だって今夜はふうちゃんとの時間だから。

それを言ってしまったら今度こそ本当にお昼ご飯を食べられなくなりそうだったから、みんなにはおあずけ。




続く

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