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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
修学旅行編
18/151

ー18ー


あぁ、私、死んだんだ。


だって目の前ふうちゃんがいるわけない。

きっと演習前に想像した東都の戦闘服を着たふうちゃんがあまりにもかっこよかったら、その姿で迎えにきたんだ。


この季節に雪がふるわけないし。

雪ふってるのにあたたかいなんておかしいし。

私が見せてる幻。





これが死後の世界なんだ。







「…えでちゃん!!!」

「…でさん!!」

「……で!」



りさちん、ゆうた君…迷惑かけてごめんね。

波多野も…練習に付き合ってくれたのに弱くてごめん。


そういえばさっき楓って呼んだの誰だろう…

すごく必死に呼んでくれたなぁ。嬉しかったなぁ。



「…起きてよ楓ちゃん!」


ごめんね、りさちん。

起きたくないんだ。死後の世界って気持ちいいんだね。

優しくてあったかくて、白くて青くキラキラしてるの。

まるでふうちゃんの光の中に浮いてるみたいなんだよ。




「起きて、えでか」


ふうちゃん?

随分声が低くなったね。

でもやだよ。起きたら会えなくなっちゃう。


「大丈夫だから、起きて?」


ほんとうに?


「うん。もう離れないから」


そうだよね。

ここが天国なのか地獄なのかわからないけど、死後の世界だったらずっと一緒にいられるもんね。

約束だよ?


「うん、約束する」


私はふうちゃんの声に誘われるように、ゆっくりと目をあけた。





「…え?」


「…おはよう、えでか」




私にはわかる。

私の心の奥底が震えて、求めているのがわかる。

どんなに成長してても、どんなに声変わりしようと。

透明感のある猫っ毛に、たれ目に大きい瞳、柔らかいほっぺ、笑うと目立つえくぼ。

あの頃から変わらない面影を残したまま、私を『えでか』と呼ぶ。




「…ふう…ちゃん?」

「うん、大丈夫だったでしょ?」


まぎれもない。私が間違えるはずがない。

私の目の前にいる人は、私を鬼から助けてくれたのは、私を両腕でしっかりと抱えてくれているのは、私を起こしてくれたのはー。




ふうちゃんだ。




「…いっ…いきてたの?」


体中が震えてボロボロ大粒の涙があふれる。

胸と喉が熱くてうまく声が出ないけど気にならない。


「久しぶり、えでか」


生きていると確信をしたら、これまでの感情がおさきれなくなった。

ふうちゃんの腕の中で7年分のさみしさと再会のうれしさが同時にあふれて、ふうちゃんが転校したと知らされたあの日以来、声をあげて泣いた。


「うっうぅぅ…わっわたし…!し、しんじゃったと…うぅぅ…おも、おもって…!」

「だと思ってたよ。でもほら、ちゃんと生きてるよ」


ふうちゃんが私の頭を心臓の近くに引き寄せた。


ードクン ドクン ドクン


一定のリズムで動く心臓の大きな音が聞こえる。

そしてあたたかい体温も感じる。

ふうちゃんの顔を見上げると、ふうちゃんの瞳には泣きじゃくる私が映っていた。


ひよこの目は、どこにもいなかった。





しばらく泣き続けていると、泣き疲れた私はいつの間にか眠ってしまった。

その間、東都の救援部隊が到着した。


「…はぁ…はぁ!水樹隊長!!勝手に行かないでって言ったでしょう!」

「しー」

「あっ…」


水樹に遅れて3人の救援部隊が息を切らして到着した。

マントにくるまって眠っている楓に気づき、口を閉じた。

そして楓が泣きじゃりはじめてから、ただ立ち尽くしていた波多野、ゆうた、りさも我に返った。


「あ、あの…本当に水樹くん?」

「あ!もしかしてりさっぺ?!」


恐る恐る信じられないものを目にしながら口を開いたりさは、小学3年生の時に一時的に流行ったあだ名で呼ばれたことを思い出した。

それがりさの中で水樹が本物であることを証明した。


「このままえでかのこと、救護室に運んじゃうね。演習に戻って大丈夫だよ」

「あ、わかりました…よろしくお願いします」


ゆうたは演習中であったことをすっかり忘れていたようで、緊急時のマニュアルを思い出していた。

でも一人、苛立ちを隠しきれていない男がいた。


「運ぶなら俺らが運ぶけど。同じチームだし」


波多野が水樹の前に立ちふさがり、水樹が抱きかかえている楓を「よこせ」とでも言うかのように両手を差し出した。

涼しい顔した水樹とは対照的に、りさの目には波多野からは火花が出ているように見えた。


「ここは久しぶりに会えたから譲ってほしいな」

と水樹は波多野から少しでも距離を離すように楓を引き寄せると、波多野の眉間にしわがよった。


「それにマニュアルでそうなってるから。ね?」

そう言いながら先生に連絡をし終わったばかりのゆうたに視線を送った。


「うん、そういうことだから行こう波多野。楓さんの頑張り無駄にできないでしょ」

「そういうこと♪」

満足げな水樹の笑顔に舌打ちをお見舞いし、波多野はゆうたとりさを後に続いて演習に戻っていった。



3人を無事に見送った救援部隊は、水樹にある確認をした。


「隊長、もしかして彼女が…?」

「うん…やっと会えた…」


部隊は愛おしいものを見つめる水樹の姿に胸をなでおろし、二人のそばをそっと離れた。





続く

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