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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
修学旅行編
17/151

ー17-

濃い霧で辺り一帯は白く濁って隣り合ってる私たちしか見えないのに、はっきりと人の形をした黒い人ではないものたちが立ちはだかっている。




「オマエラ、ホクトカラキタモノカ」




(鬼がしゃべった…!!)

私は驚いて声が出そうになったのをとっさに両手でふさいだ。


喋る鬼は鬼の中でも強さが桁違いに高い。

無駄に知恵がある分、巧みな話術で人を惑わし、悪の道へと引きずり込む。

だから波多野は「もっていかれる」と言ったのだ。



「お前たちには関係ない」


毅然とした態度でゆうた君が対応する。

私をかばう波多野の腕から微量の電気を感じた。

足元の地面もわずかに動いているのが伝わる。

波多野もりさちんも、いつでも攻撃できるように体制を整えているのだろう。

私にもなにかできることがないかと鬼にバレないように周りを見渡すが、なにせ霧が濃くて何も見えない。




「ヒドイ。ナカヨクシタイダケナノニ」

「僕たちは仲良くしたくない」

「ナカマハズレニスルノ?」

「そもそも仲間じゃない」


ずっと聞いていると頭がおかしくなりそうなやり取りをゆうた君と鬼が続けている。

会話になにか突破口を見つけようとしているようだ。


鬼がゆうた君との会話に気をとられている隙に、波多野が私に口を動かさずにこう言った。


「霧をどうにかしろ」


私は口元をおさえたまま、無理だよと目で訴えた。


「俺たちは動けない。お前しかできるやつがいない」


訴える目には恐怖と不安で涙がたまってきた。


「大丈夫」


波多野の目はずっと鬼を離さなかったのに、一瞬だけ私の目を見た。

その瞬間、私の震えがとまった。

でも恐怖も不安は消えてない。

だけど波多野が大丈夫って言ってくれたから、なんとかなるかもって思えた。




「イマヤマニタクサンノヒトガイルナ。ナンニンダ?」

「答えない。教える必要がない」

「オレガヨワイカラオシエテクレナイノ?」

「関係ないから教えないだけだ」


私は波多野の腕にしがみつきながら、ぎゅっときつく目を閉じた。

ゆうた君が鬼と会話を続けてくれている間に頭を動かせ。

なにか見つけろ、なにか感じろ、なにか思い出せ。

山に入ったとき、歩いてるとき、いまを突破できそうなものがなかったか。

あたりになにかおかしなことはなかったか。

なにか変わったことがなかったか。

いつもと違ったこと。





…夜花



いつもと違うこと、なにか変わったこと、おかしなこと。

夜花しかありえない。


私は夜花に関する知識を図書室で読んだ時の記憶、ネットで調べた時の記憶、先輩治癒師の話、治癒講師の話…思い出せる限りのあらゆる過去の記憶を走馬灯のようにさかのぼった。



(違う違う違う!!この記憶じゃない!!)

(なにか夜花の記憶があったはずなのに…!!)


手詰まりで諦めかけた時、ふわっと波多野の香水の匂いがした。




(あ…思い出した)


ゆか先輩に占ってもらったときのことだ。




ーーーーーーーーーーーー


「わっ、このカード綺麗です!」


私はあるカードに目を奪われた。

白と深い青の2色で描かれたとは思えないほど、深い夜と花の関係性が表れたカードだった。


「それは夜花をイメージして描いたものなの。夜花って月の光をあびると儚く美しいのに、太陽の光は毒になるでしょう?でもね、それはまだ成長途中なの。成長した夜花は昼でも輝く光の花とよばれて、とても美しく闇を祓うのよ」


「このカードがでたってことは、急展開が待っているのね。そして光の花のように眩しくて、焦がれてしまうほど、美しい展開が」



ーーーーーーーーーーーー



これだ。

夜花を成長させてしまえば光の花の力で霧をはらすことができる。

鬼がまだゆうた君に夢中な今、かすかな音もたてないように私はゆっくりと地面に手をついた。

りさちんが地中を動かしてくれていたおかげで夜花まで簡単にたどりつくことができた。

12本の夜花に私は栄養を送る。お願い、力をかして、と念じながら。




「オイ、ソコデナニシテル」




一気に空気が変わった。

霧も一段と深くなり、鬼の怒りに合わせて従えていた2匹の蟲がどんどん大きくなり、1匹獣の姿に変化した。

私が夜花を成長させていることが気づかれてしまった。

夜花はさっき囲った茎をまだ壊せずにいるというのに。




「オレノハナニサワルナァァァ!!!!」


鬼の叫びと共に獣がこちらに向かってきた。


(お願いお願いお願い!!みんなを助けるのに力をかして!!!)


ゆうた君とりさちん、波多野が私を囲うように戦闘態勢に入った。

ゆうた君の炎を受けて怯む獣をりさちんが土で動きをとめようとするが、獣のほうが一瞬はやくかわされてしまった。

それを予見したかのようなタイミングで波多野が特大の稲妻を落とした。


その時だった。

波多野の稲妻に誘発されたかのように、夜花をとらえている異能の手触りが変わった。

私が異能を送らなくてもぐんぐん成長しているのを感じる。

むしろつながっている私が回復されているほどエネルギーに満ち溢れている。




点々と植えられていた夜花は、囲った茎を壊し、共鳴しあうかのように同時に光の花へと開花した。




「霧が…はれてく…」


光の花の輝きが霧を追い払い、朝露がおりたように木々や草花も輝きだした。


「アァァァマブシイ!!!!オレノハナガァァァァ!!!!!」


鬼は目元を覆いながら苦しむように、靄がだんだん小さくなっていった。



「ユルサナイ!ユルサナイ!ユルサナ…」



消える間際の鬼は私を指さしながら、波多野の稲妻を直撃して麻痺していた獣と一緒に灰となって消えた。




「…おわ…った?」

「楓ちゃん、すごいすごいすごいよ~~~!!!」

腰が抜けてしゃがみこんだままの私に、泣きながらりさちんが抱き着いてきた。


「ありがとう、楓さん」

「ゆうた君が時間稼ぎしてくれたからだよ」

一番神経を使っただろうゆうた君の顔にもほっとした笑顔が戻った。


「波多野もありがとう」

「あぁ」

波多野の香水のおかげでゆか先輩との会話を思い出して、鬼を退けることができた。

それにゆか先輩にも出会ってなかったら、光の花のことを知ることができなかった。

考えると切なかった記憶が私に力をくれたようで、二人がもし想いあっていたとしたら心から祝福したいと思った。

光の花が波多野への恋心も一緒に祓ってくれた気がするほど、心が軽くなった。





ゆうた君と波多野が念のため辺りを確認し、問題がないことがわかった。

どうやら鬼の電波妨害により携帯が圏外になっていたようで、鬼が消えてすぐに先生と連絡をとることができた。

先生たちも私たちの状況が確認できなかったので、なにか問題が起きたと察し救援部隊を送ったところだったそうだ。


「問題がなければ救援部隊待たずにこのまま頂上に向かってOKだって」

「じゃあいこっか~!」

「あ、待って!」


先に進もうとする3人と止め、私はあるお願いをした。


「助けてもらった光の花にお礼したいから、ちょっと待っててもらってもいいかな?」

「もちろん!」

「ありがとう!」


りさちんとゆうた君は快く快諾してくれ、何か小言言われるかなと思った波多野も珍しく「いーけどー」と優しかった。




私はいつものように地面に手をつけ、光の花の根を探す。

すると光の花のほうから私の異能を見つけにきてれて、すぐにつながることができた。

(みんなを助けてくれてありがとう。素敵な姿を見せてくれてありがとう)

そう伝えるとやっぱりこっちが元気になるくらい、エネルギーを送ってくれる。

最後の光の花への挨拶が終わると一斉に花が閉じ、小さな夜花の姿に戻り壊した茎の陰に入った。

本当に神秘のお花だった。




安心したのもつかの間。

つながっていた異能を夜花から離した瞬間、地面から私の異能ではない異能が私の腕にからみついた。


「きゃ!」


一瞬で腕から肩まで伸び、まばたきして目を開けた時には声がでないように口の中にまで入ってきた。


「んーー!!」

(この靄の色…さっきの鬼だ!!)


鬼に触れているからだろうか、悲しみ、寂しさ、恐怖、不安、怒り、絶望、全ての負の感情が私の感情かのように流れ込んでくる。


「楓!!」

異変に気づいた波多野とゆうた君、りさちんが走ってくるのが見えた。

しかし私は身動きがとれないまま山の奥に引っ張られていく。


(やだ!そっちにはいきたくない!)

引きずり込まれていく先は同じ山とは思えないほど暗く、本能が死を感じさせた。


縛られていないもう片方の手を波多野へ必死に伸ばす。

でもどんどん距離が離れていき、ついに波多野の姿も見えなくなってきた。




あぁもうだめかも


そう死を覚悟した時、私を呼ぶ懐かしい名前が聞こえた。




「ーーえでか!!!」




「…え?」




初夏のはずなのに雪がふっていた。

優しく、あたたかく肌に落ちてくる。

縛られていた腕も、口も自由になって目を開けると



「…久しぶり、えでか」


「ふ…う、ちゃん?」





白いマントをなびかせ、17歳になったふうちゃんがいた。




続く

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