ー152-
「それではこれより男子3位決定戦を開始します」
控室でアナウンスをきいた私たちは、武道場でたてた戦略をふりかえる。
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「あいつらに勝つのは実は簡単なんだよ。仁に注目がいきやすいだけで、チームとしては大して強くはない」
そう言い切るりく先生の言葉に説得力を感じる私。
「なにぼけっとしてんだよ。お前が言ったんだろ?あっちのチームにはあるものがないって」
「あっ・・・」
そうだ、先輩たちにはチームワークがある。
渋谷先輩たちにはない、誰にも負けないチームワークが。
「そうだ。お前からみて、こいつらのチームワークが発揮されてるときってどんな時だ?」
「え?先輩たちのチームワークが発揮・・・」
そもそもチームワークなんてなかなか言葉で説明することができないものだ。
しいて言うなら、先輩たちの間にある見えない絆というか、信頼関係というか。
そういう場面を私は何度もみてきたはずなのに、いざそれが発揮されてる時を説明しようとすると言葉が出てこない。
「言い方を変える。お前がこいつらにチームワークを感じたのはどんな時だった?」
「えっと・・・」
先輩たちと言えば何よりも文化祭で披露するバンド。
毎年体育館があふれるくらいの大人気で、石井先輩も音響監督したり、ライト演出などこだわっていて、とても本格的。
あの場にいたら誰もが何もかも忘れてしまうほど。
あと最近の出来事だとまずは体育祭。
小鷹先輩の短くも適格なアドバイスを活かして、小鷹先輩を総合優勝に導いた。
そして合同合宿。
茨木先輩の結界に先輩たちと入ることになるなんて思わなかったけど、でも私の嗅覚を信じて進んでくれた。
間違ったらどうしようって思ってたけれど、でも「間違ってもなんとかなる」って。
それは鬼酒草を判定するときもそうだった。
「もし違ってもすぐに上書きできるから」って。
「・・・そう、先輩たちはむしろ間違ったらおもしろそうだってくらいで・・・・・・あっ」
「気づいたか?」
「・・・たぶん」
「「???」」
先輩たちはいまの思い出話のどこにヒントがあったのかわからない様子で、首をかしげていた。
「教えてやれ。こいつらにとっては当たり前すぎて、わかってないことなんだよ」
そのりく先生の一言で、自信がなかったけれど確信に近づいた。
先輩たちのチームワークが発揮されるとき、そして先輩たちのチームワークが先輩たちをさらに強くするとき。それはー
「先輩たちが、楽しんでるとき…」
「あぁ、大正解だ」
先輩たちの不思議そうな顔が並んでいる。
でも私にはわかる気がする。
先輩たちが楽しんでいるとき、先輩たちのチームワークが一番強いって。
「ほらな、本人たちにはまるで自覚がない」
「いや…だって、そんなこと言われても…楽しいもんは楽しいし…」
栄一郎君がそう口にすると、みんな静かに首をたてにふった。
「いいか?一度しか言わんぞ。お前たちがどんな状況でも楽しめるのは、お前たちの才能だ。お前たちがどんなときでも楽しんできたからこそ、チームワークが強くなったんだ。次の決勝、実力は互角だ。だったらどうすりゃ勝てる?そこで発揮されるのはチームワークの差だよ。見せつけてやれよ。あいつらは体験したことない状況でも、ピンチでもお前たちは楽しんだんだぞって。その才能は、奇跡をも超えるぞ」
武道場がしんっと静まった。
でも心が震える音がする。
私だけではない、先輩たちの心も震えている。
りく先生がめずらしく先輩たちをほめてるから?
りく先生がめずらしくアドバイスしてるから?
ううん、違う。
りく先生には見えてるんだってわかるから。
先輩たちが渋谷先輩たちに勝った未来が。
「だからお前ら、決勝戦、大いに楽しめ。いいな」
りく先生が見せてくれた未来に応えるように、先輩たちの声が武道場に響いた。
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そして私はいま、人生で一番緊張をしている。
3位決定戦が終了し、先輩たちとコートわきの選手席にやってきた。
午前中までは会場いっぱいにコートが用意されていて、何チームの模擬戦を繰り広げていたのに、いまはたった一つのコートだけ。
その一つに大勢の視線が集まっている。
(先輩たち・・・すごい・・・こんな中模擬戦するなんて・・・)
私はサポートだとしても、逃げ場のないこの視線の中、いつも通りな先輩たちをより尊敬してしまう。
ただ私の気が弱いだけなのかもしれないけど。
「お前、緊張してんのか?」
「…し、してますよ…こんな大きな場所に立つの初めてなんですから…」
先輩たちは開始された3位決定戦を見学しており、足が震えて壁から動けない私にりく先生が近づいてきた。
「言ったろ?お前がこの作戦の要だって」
「は、はい…」
「なんでかわかるか?」
私は大きく首を横にふった。
少し頭を使って考えてみたけれど、みじんも理由が思いつかなかった。
治療やサポートではないとなると、私にできることなんて限られるし、ましてや模擬戦に出るわけでもないのだから。
「あの作戦はな、お前も含んでんだよ」
「私も…ですか?」
「お前も楽しまなきゃ、あいつらも楽しめないだろ?」
ふっと穏やかに笑うりく先生と目があうと、私の中にあった錆が吹き飛んだような気がした。
その時、小鷹先輩が振り返って私を呼んだ。
「立華、そうだこれ見てよ」
そう言って目に飛び込んできたのは、戦闘服のポッケから取り出したりさちんと一緒に選んだ黒猫のタオル。
「でさ、なんで俺はゴリラなの?」
「栄一郎にはゴリラしかないでしょー」
「石井は梟なんだ、いいね」
あの後、2年生たちから先輩たちへのお守りがわりとして、ファンシーショップで先輩たちの分をそろえたのだ。
それがいま、目の前に先輩たちと一緒に並んでいる。
「ふふっ、やっぱりぴったり!」
決勝戦の作戦に私も混ざっているのがとても不思議だし、理由を言葉にすることはできない。
というよりも、本当はわかっているけれど、言葉にするのはおこがましい気がしちゃうけど。
先輩たちの仲間として、一緒に楽しんでもいいよね。
「こっち来いよ」「よく見えるぞ」って手招きする先輩たちの元へむかった。
白熱した三位決定戦が終了し、決勝戦準備のため結界師の方たちが傷だらけになったコートを整備しはじめた。
私たちも選手待機場所にむかうと、各学校の色にそまった観客席が圧巻で、目の前のコートが小さく感じた。
すると同じタイミングで渋谷先輩たちの東都Aチームもやってきた。
相変わらず黒いマスクをつけた渋谷先輩だけど、誰も口を開くことなく、静かに待機席に腰を下ろした。
対して先輩たちは「あの技はどう?」とか「こうしたらおもしろくね?」と笑い声もあり、対照的のようだった。
「それではこれより男子決勝戦を開始します」
と、審判長のアナウンスがあると一瞬で会場は静まり、大きな拍手がわきあがった。
《ふうちゃん、いよいよ決勝戦はじまるよ》
《だね。こっちで兄ちゃんと見学してるよ》
《そうなんだ。ふうちゃんも気になるもんね》
《うん。ちゃんと勉強しろってさ》
くすっとしてしまいそうなふうちゃんの返事に、圧巻な空気感に緊張していたのがゆるんだ。
ふうちゃんとお兄さんは結界の中から見学するみたいで、急いで担当層の警備を終わらせたって話ていた。
「なぁなぁ、立華」
「はい!どうしました波川先輩?」
「お前、なんの技で勝つとこみたい?」
「???」
もうすぐ出番とは思えない思わぬ質問にきょとんとしてしまった私。
そんな私を「なんちゅー顔してんだよ!」って笑い飛ばす波川先輩は、きっと緊張なんて辞書には載っていないのだろう。
「だ、だっていきなりでびっくりするじゃないですか…!!」
「わははっ!!で、なにがいい?!」
と、おもしろい答えを期待されているように目をキラキラさせた波川先輩。
期待に応えられるかわからないけれど、ふっと浮かんだものがあった。
「あの、技じゃないんですけど、びっくりしたいです」
「びっくり?」
「はい!波川先輩の模擬戦、次はこうくるかなって思ったらそれがフェイントだったりで、私いつもびっくりするのが見てて楽しいので」
「ふ~ん、そっか。あっ、いいこと思いついたわ!」
「え、なんですか!?」
「ふっふーん、秘密」
そう言ってなにか企んでいるような笑みを浮かべたまま、波川先輩はコートへ足を踏み入れた。
そして東都Aチームの対戦相手もコートに入った。
「男子決勝先鋒戦、開始!!」
審判の合図と同時にコートいっぱいに水があふれ、対戦相手も波川先輩と同じく水属性なのがわかる。
「あっちも同じ属性順なんだよ。おそらく仁が合わせてきたな…」
「渋谷先輩が…でもどうして同じ属性にしたんでしょう?普通なら有利にできたのに…」
「まぁこいつらにとっちゃ不利属性がくるほうが楽だからだよ。不利属性、天敵属性との模擬戦なんて一番やってきただろうからな」
少し引き攣った顔したりく先生は「ほんと嫌な性格してるよ、あいつ」と、渋谷先輩に向けて呟いていた。
「同じ属性だったり、戦闘タイプが似てるほうがやりにくいんだよ。得意なところも、弱点も熟知してるし、次はこうくるだろう、こうくるだろうからこうしようって考えも似てる。裏をかこうと思っても、それすら想定範囲内だと厄介なんだ」
「そ、そうなんですね…」
私は模擬戦に参加したことがないし、もし参加したとしても同じ草花属性の相手と対戦することなんて滅多にないだろう。
だから選手側の視点がまったくないことに気づいた。
いくら戦闘メモをたくさんとったとしても、それはやはり観る側の視点でしかなく、実際に戦う側となるとメモなんて役に立たないくらい想定していないことのほうが多いのかもしれない。
「ま、普通は、だがな」
「え?」
わっと会場に驚きと歓声がわきあがる。
東都生を取り囲むように水の竜巻がいくつも発生していて、東都生は身動きができない。
竜巻を壊そうと攻撃をしかけてもすべて跳ね返されてしまい、波川先輩が先制をとったことで、北都側の歓声がとくに大きい。
「な、立華!あれ、どれがいい!?」
「え?どれがいいって…どういうこと?」
「あれ、お前みるのはじめて?」
「あの竜巻はみたことあるけど、なにか違うの?」
栄一郎君は私が知らないと答えると、にやっと笑った。
あの技はロシアンルーレットになっていて、正解だと波川先輩の勝ちが確定で、不正解だと東都生が有利になってしまうそう。
しかも正解がひとつしかなく、それを私に選んでもらうのを待っていると教えてくれた。
「え?!正解ひとつしかないの?!普通ぎ、逆じゃないの?」
「それじゃつまんないだろ?」
「そ、そうかなぁ?」
間にはさまれた小鷹先輩は苦笑いをして、りく先生はあきれた顔をした。
だってここまで有利な状況まで追い込むことができたのに、ほとんど東都側に優しいロシアンルーレットなんだもの。
それじゃつまらないと思う栄一郎君や波川先輩の感性は、やっぱり独特だ。
「海斗も立華が選ぶの待ってるぞ。どうする?」
「う~~~~ん…」
波川先輩がこっちを見ているが本当に私が選ぶのを待っているのかはわからない。
けど、東都生も困惑しているのがわかる。
そりゃそうだよね、急にどこかひとつに飛び込まないと抜け出せないって言われたらそうなると思う。
でもどれかひとつ選ぶとしたら…
《ねぇふうちゃん、ふうちゃんだったらどれにする?》
《俺?んーそうだなぁ…どの竜巻も違いがないもんね》
《うん、だからよけいに迷っちゃう》
《えでかはどれ選んだら楽しそう?》
《・・・私だったら・・・》
なんとなく、ひとつだけ気になった竜巻がある。
よく見ても他の竜巻となにも変わりはない。
波川先輩が誘導しているわけでもない。
だけど、あの竜巻をみると、心の奥がわくっとする。
「決まったか?」
「うん…あれが一番気になるかな」
「じゃぁ当たったら今度学食でおごってやるよ」
「ふふっ!じゃぁ一番高いメニューにしちゃお!」
「おう、大盛でもデザート追加でもなんでもこい」
なんて話していると、東都生がひとつの竜巻に飛び込んだ。
それは私のあんみつがかかった竜巻とは違うもので、東都生の叫び声があがった。
竜巻に飛び込んだ東都生は姿が負えないほど一瞬で浮き上がると、もとの位置にもどっており「またぁ!?」と驚く東都生は、全身わかめに絡まっている。
「あ、あのわかめって…」
「体育祭のやつだね」
「あれ、身体から生えてるんだ。だからすっげぇ動きずれーの」
体育祭で波川先輩に絡まっていたときは腕だけだったのに、波川先輩は応用したのか、東都生の白い戦闘服が見えないくらいわかめだ。
ギリギリ嫌そうな顔が見えるだけ。
ずるずるわかめを引きずりながら、さっき飛び込んだ竜巻の隣に飛び込んだ東都生。
でも今度はたくさんの貝が食いついていて、竜巻の風になびいてガチャガチャ音が鳴っている。
決勝戦の緊張感の糸が緩んだのか、それとも決勝戦という緊張感がよけいに引き寄せるのか観客席からくすくすと、笑いをこらえている人が多い。
東都生のどこにあるのかわからない耳にも届いたのか、顔が真っ赤になっていて、なんだかタコみたい。
「栄一郎君、あれ本当は当たりじゃないの?」
私が選んだ当たり以外を選び続けている東都生。
もうどれが正解で不正解なのかわからないくらい。
外れたら東都生の有利になるはずなのに、いっこうに波川先輩の有利の状況は変わらない。
「一応抜ける方法はあるんだけどなー。それに気が付かないうちは海斗に遊ばれ続けるだけなんだよ」
実はあの竜巻ルーレットにはいった時点でもうすでに波川先輩の勝ちは確定しているようなもので、波川先輩の遊び心というわけらしい。
どうやら脱出するには正しい順番で竜巻を選ばないといけないのだそう。
「それを知らずに包囲された東都は最初から負けてたってわけ」
「同属性だからって油断してたんだろうね」
「ほらみてみなよ、仁君の顔」
どこか声がうきうきとした音澤先輩に言われて渋谷先輩を見ると、マスクでも隠しきれない黒い圧が漂っていた。
そして「仁君でもあんな表情するんだ」と、小鷹先輩はつられて笑っていた。
「ったく、あいつ顔に出すなよ」
「いいじゃないですか、あんな仁君珍しいですし」
「ま、ある意味いい収穫になったな」
と、りく先生もなぜかうれしそうで、私はなんでみんなうれしそうなのかよくわからない。
だってこのまま波川先輩に負けたら、渋谷先輩にきっと怒られるのかなとか、どうなっちゃうのかなって心配になっちゃう。
とはいえ、かわいそうだからといって負けてあげるわけにはいかないんだけど。
《ふうちゃんも珍しい?あの渋谷先輩》
《うん、俺も初めてみたよ。だからあの先輩がどうなるか、俺もわかんない》
《ふうちゃんもうれしそうだね》
《そうだね。仁先輩、あんな風に人前で感情出すの滅多にないから。同じ高校生なんだってうれしいのかも》
《そっか…だから先輩たちもうれしそうなんだね》
《仁先輩、いい友達もったね》
そんな話をしていると、残る竜巻も私が選んだひとつになった。
東都生は姿の原型がないほどわかめに貝にタコとイカとヒトデなどと合体しており、深海魚のような提灯がついている。
ずる、ずるっとゆっくりと最後の竜巻に近づいていく。
観客席も波川先輩のペースに巻き込まれているようで、最後はどんな技が待っているのか期待値が高まっているようだ。
「いよいよだな、立華」
「うん…なにがおきるか、楽しみ」
そう。期待値が高まっているのは私もだ。
どの竜巻を選んでも同じ技がひとつとしてなく、まるでショーをみているみたいに楽しくて私の想定を超えてきた。
《ふうちゃん、ドキドキするね》
《うん、俺も楽しみになってきた》
期待を裏切らない波川先輩のことだ。
最後はなにがおきるか、東都生が一歩一歩近づくたびに口元がゆるんでいく。
ずる
ずる
ずる
わかめとタコの足がぐぐぐっと伸びたのが手だとわかると、竜巻にそっとふれた。
そのとき、波川先輩がにやっと大きく笑うのが見えた。
「ピンポーーーン!!!だいっせいっか~~~い!!!!」
と、波川先輩の声をともにパンパカパンと祝いの音楽がなりはじめ、竜巻ははじけて紙吹雪が会場中に舞う。
「わっ!きれい!」
見上げると水滴に反射してキラキラ舞う紙吹雪はミラーボールみたいに空間を照らして、遠くの観客席まで見通せた。
わかめや貝の術が少しずつ解けて、ぽかんとした顔でその光景を見上げていた。
「!!」
東都側から怒号が聞こえ、ハッとすると紙吹雪がぱっとかわいいおさるさんに変身して東都生をかこった。
出だしが遅れた東都生はおさるさんたちを払うように技をくりだしているけど、おさるさんたちの動きは素早く、からかうように飛び跳ねている。
すると一匹のおさるさんが水球をバシャンといきおいよく顔にぶつけた。
何度も顔をぬぐった東都生が顔をみせると、会場から笑い声がどっとわいた。
「…っ」
「立華、我慢しなくていいんだぞ?」
「だ、だって…」
「ふっ、立華、海斗みてみなよ」
なぜなら東都生の顔がおさるさんになっていたから。
自分の顔がおさるさんになってるなんて気づいていない東都生は、困惑しながらもなんとかおさるさんたちを攻撃しようとしてるけど、顔と行動が一致してなくて、そのギャップがおかしくて。
観客席はまだしも、私が笑っちゃ失礼だと思ってこらえてるけど、じっと見てるのも苦しい。
だから両手で顔を押さえているんだけど、音澤先輩に言われて指の隙間から波川先輩を覗き見た。
「あははは!!!もう無理ですよ!!こらえきれません~!!!!あはははは!!!」
堪えていたものがあふれるかのように、笑いだしたらとまらなくなってしまった。
だって波川先輩、おさるさんの真似してるんだもん。
あれ、りさちんと選んだタオルのおさるさんだ。
続く




