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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
夏休み後編
151/156

ー151-

決勝トーナメントは残すところ決勝戦と3位決定戦のみになった。

決定戦に進んだのは私たちの予想通り先輩たちの北都Aチームと、渋谷先輩たちの東都Aチーム。

個人戦で準決勝で渋谷先輩対栄一郎君、そして小鷹先輩対音澤先輩の対決となった。

表彰台を北都で占めたいね、なんて話していたけれど、渋谷先輩に負けてしまった波川先輩は悔しそうにしながらも、どこかスッキリしていた。

そして先に決勝に駒を進めたのは小鷹先輩で、少し遅れて渋谷先輩が栄一郎君に勝利した。

栄一郎君も音澤先輩も個人戦としては最後になってしまった。


「仁君との模擬戦、一番楽しかった」

「小鷹とこんなに本気で戦ったの、久しぶりかもな」


って、二人から心残りは一切感じず、むしろ3位決定戦が楽しみになったと話していた。

波川先輩も「これで俺が小鷹に勝てば実質俺が優勝だよな?」と、小鷹先輩に大会後の模擬戦を持ちかけていて、小鷹先輩も笑っていた。


「立華、これからのスケジュールは?」

「はい!いま女子の準決勝中で、それが終わったら90分の昼食になります。昼食後は陰陽省の陰陽師八神さんによる演舞披露、その後男子3位決定戦開始、になってます。」

「じゃーちょっとゆっくりできるなー」

「八神って今年陰陽師になった人だっけ?」

「そう、みたいですね。パンフレットにそう書いてあります」


手元のパンフレットには、背筋がぴんっとのびた88歳の貫禄のあるおじいさんがうつっている。

まさに誰もがイメージする陰陽師といった感じで、ふうちゃんやお兄さん、りく先生が特別なのがわかる。


「あー、その時間、お前らは練習に上の武道場の使用許可おりてる。そんな楽しいもんでもねーから少し身体動かしとけ」

「やったー♪」


陰陽師による演舞披露では、長い年月と努力によって極められた術が披露されるのだが、長時間じっと見続けるのが苦手な波川先輩は喜んでいた。


「でも決勝前に身体動かせるのはありがたいね」

「ならはやめに昼食にして武道場いかねー?」

「そうだね、そうしようか」

「立華ー、今日の弁当はー?」

「今日もVIPルームにお願いしてあるよ!」

「さっすがー♪じゃ、さっそく行こうぜー♪」


私も今日のお弁当はなんだろうと、ひそかに心を躍らせながら先輩たちに続いてVIPルームに向かった。





VIPルームに到着した頃、ちょうど会場では、ゆか先輩がサポートしている女子Cチームと南都Bチームの模擬戦が終わったところだった。

結果は残念ながら敗退。

ギャラリー席で応援していたりさちんの目から悔し涙があふれそうだった。

そんなりさちんに栄一郎君が声をかけた。


「来年、お前が仇とってやれよ」

「わ、私がですか!?」

「あぁ、お前ならやれんじゃん?」

「で、でも・・・」


栄一郎君の提案に涙は引っ込んだみたいだけど、戸惑っているりさちん。

でも私も栄一郎君に同感だ。

りさちんは調理の腕を磨きたくて医療術やサポートに特化した朱雀組を希望したが、戦闘俱楽部でも引けを取らない実力をもっている。

体育祭でも栄一郎君と活躍することも多かったので、栄一郎君お墨付きとあらば、来年りさちんのメンバー入りの可能性は高い。

それにダイヤちゃんとの模擬戦でも五分五分だったのに、どうして迷うのだろうと不思議だ。


「うん、俺、りさと一緒に全国大会でれたらうれしいよ」

「私も。渋谷先輩たちみたいに、来年りさと決勝戦で戦えたら一生の思い出になりそう」

「ゆうた君…ダイヤちゃん…」

「わ、私も…その時はりさちんのサポートとして選んでくれたら嬉しいな…」

「楓ちゃんまで…」


今度は違う意味の涙がりさちんの目に浮かんでいた。

もしりさちんとダイヤちゃんが決勝戦であたったら、どっちを応援したらいいのかきっと混乱しそうだなって思ったけれど、私にも一生の思い出になりそうだ。


「みんな…ありがとう…私、先輩たちの模擬戦みてて、あまりにも実力が違うって弱気になっちゃってた……でも私もみんなと一緒にあの会場に立ちたい!だから畑中先輩!私、やります!来年は絶対、私たちで優勝します!」


そう力強く宣言したりさちん。

いまにも燃え上がりそうな闘志が目に浮かんでいて、涙も引っ込んだようだ。

その姿をみた栄一郎君も同じ土属性の先輩としてうれしそうに、ニカッと笑って「おう、期待してるからな」と、先輩らしかった。


「あー!!先輩たち来てるー!!」


すると一際元気な博貴の声がギャラリー席まで届いた。

振り返るとちょうど記念グッズを見に行っていたそうで、付き合わされたであろう波多野が少し疲れてるように見えた。


「ってことは楓もいるー?!」

「ここにいるよー?」


私を探す博貴の声がしたので、ギャラリー席から室内に顔をだして手をふった。


「あのさあのさあのさー!!楓いつまで東都にいるんだっけ!?」

「ギリギリまでこっちにいる予定だよ」

「ほんと!?じゃあさじゃあさじゃあさー!!近くでおまぐふっ!!!!!」

「た、たかちゃん!?」


かけよってきた博貴は、話の途中でりさちんとダイヤちゃんに口を封じられ、そしてゆうた君に羽交い絞めにされてしまった。

それをみた栄一郎君は「静かになっていいな」と、からかっていたけれど、博貴は苦しそうにゆうた君の腕をタップした。


「ぶはっ!!はぁ、はぁ!!もう~みんなしてひどい~!!」

「博貴君、ちょっと」

「え、あ、はい」


顔は笑顔のままのダイヤちゃんだけど、なにかを感じ取った博貴は急に大人しくなり、首根っこをつかまれたままVIPルームを出て行ってしまった。

私はダイヤちゃんが怒ったところをはじめてみたのにも驚いたし、博貴相手に怒れるまで仲が進展したことにうれしくなった。


「ダイヤちゃんとたかちゃん、だいぶ距離縮まったんだね」

「毎晩お兄さんたちに特訓つけてもらっててね、それでダイヤちゃんもたかちゃんの本気に心動いたみたい」

「うぅ~なにその話!詳しく聞きたすぎる…!!」


りさちんたちが東都にいる間、どこかで私もお邪魔できるといいなぁと思っていると、ダイヤちゃんに怒られて反省した博貴が小さくなって帰ってきた。

先輩たちも初めてみる博貴の姿に、ダイヤちゃんのすごさを実感したみたい。

でも結局博貴がなんて言おうとしたのかわからないままだった。


「あ、私そろそろお弁当受け取りにいってくるね!」

「一人で大丈夫~?」

「うん!ありがとう!大丈夫~!」


VIPルームにむかうとき、受付の人にお弁当をはやめに受け取りたい話をしたところ、10分後にまた来てと言われていたのだ。

時間もぴったりに受付にむかうと、先輩たちと私の分だけ先に用意してもらったので、ひとりでも十分にもてる量だ。


「こちらお飲み物はどうされますか?」

「あ・・・」


両手にお弁当を抱えてしまった私は、人数分のペットボトルのお茶があることを失念していた。


「す、すみません!これ置いたらまた来ます!」

「かしこまりました」


受付から私たちの部屋まで、さほど近いわけではないので、急いでお弁当を置いて、また戻ってこなくちゃっと考えながら受付の人にペコリと頭をさげると、ふっと両手が軽くなった。

あれ?と思い、頭をあげると意外な人物がお弁当を持っていた。


「う、右京先輩!?」

「手伝ったるから、そって持て」

「え!?」

「なんや。なんか文句あるんか?」

「な、ないです!ないです!」

「ほな、はようせい」

「は、はい…!!」


どうしてここにいるのか、身体は大丈夫なのかとか、いろいろ聞きたいことはあるはずなのに、右京先輩の有無を言わせない圧に反射的に身体が動いてしまった。

受付の人からお茶を受け取ると、右京先輩は黙って歩きだした。


「あ、あのう…?」

「なんや」

「か、身体は大丈夫なんですか?大学病院に運ばれたって聞きましたけど…」

「あぁ、それやったら鬼酒草の影響をずっと燃やしてたおかげで、すぐに回復できたみたいでな。ほんまはまだ外出禁止やけど、あいつらの模擬戦見んとちゃんと終われへん思て、少しだけ外出許可もろうてきたんや」

「そ、そうだったんですね…」

「・・・」

「・・・」



なんだろう。

受付から部屋までの距離がとても長く感じる。

昨日の出来事を鮮明に覚えているからこそ、沈黙に耐えられなくてなにか話題を探さなければと頭を働かせる。


「あ、あの、妹さんには会えたんですか・・・?」

「ほんまにはまだ会えてへんけど、今朝元気な声、聞かせてもろたわ」


そういえばふうちゃんが言ってたっけ。

人質はみんな西都の異能大学病院に運ばれたって。

だからまだ直接の対面はできていないけど、妹さんの元気な声をきけたってことは、妹さんも順調に回復してるんだなって安心した。

それに妹さんの話になった途端、妹さんの声を思い出したのか、声がやわらかく聞こえた。


「…右京先輩って優しいんですね!」

「お前…バカにしとるんか?」

「し、してませんしてません!!」

「…あっそ。じゃ、あとは自分で頑張れ」

「わっ!!」


近寄りがたいと思っていたけれど、妹想いなところを知ったことで口をすべらせてしまった私。

慌てていると、するっと右京先輩が持ってくれていたお弁当と私が抱えていたお茶が宙に浮き、風呂敷で綺麗に包まれた。

呆気に取られていると、私の手元にずしっと戻ってきて右京先輩の姿が隠れてしまった。


「あ、あのありがとうございました!あの、これ…!」

「そうや、決勝戦、あのいけ好かないとことやろ?」

「いけ好かない…?し、渋谷先輩のことですか?」

「あー、そんな名前やった気ぃするわ。一応、北都応援しとるわ。そっちのほうが性格よさそうやし」

「あ、ありがとうございます!」


そう言って右京先輩は西都結界とつながっていた隣のVIPルームに入っていった。

そしてこの上等そうな風呂敷をどうすればいいのか聞き忘れたままだったことを思い出した。


(隣の部屋だったらまた会えるかな・・・)


と、思わぬ右京先輩からの親切に心があたたかいまま、先輩たちに報告すると皆右京先輩が来ていたことに驚いていた。


「でも元気そうでよかったなー」

「右京君が応援してるなら、なおさらかっこ悪いところ見せれないね」

「ふふ、性格よさそうだから応援するって言ってくれてましたよ」

「それって仁君の性格が悪そうってこと?」

「よく見抜いてるなー」


と話していると、もしかしたら今、渋谷先輩はくしゃみしてそうだな、なんて思ったりした。

ふうちゃんにも右京先輩に会ったことを報告したら、お忍びで来てることがバレないようにVIPルームに案内されたと教えてくれた。


「あら、小鷹君にかっこ悪いところなんてないわよ?」

「!!」

「栄一郎も今度はかっこいいところ見せてよ」

「瑠璃…真紀…あんま小鷹からかうなよ…」

「うふふ、ごめんなさい♪ついおもしろくって♪」


瑠璃ちゃんが小鷹先輩を後ろから驚かせてしまったのか、咳き込んでしまった小鷹先輩。

でもあれはきっと私でも驚くだろうなと思う。


「・・・えっと、が、頑張ります・・・」

「ふふ、でもほんと、応援してる。後悔のないよう頑張りなさい、小鷹君」

「うん…ありがとう」


いつも明るい瑠璃ちゃんだけど、いまの言葉には重みがあった。

ずっと小鷹先輩をみてきたからこその、重みと、説得力を感じた。

あぁ、やっぱり瑠璃ちゃんは頼りになる先輩だなって思わせるようで、小鷹先輩にもそれが伝わったかのようでスッと空気が変わったように見えた。




私たちがお弁当を食べ終わえた頃、入れ替わるようにみんなお弁当を食べ始めた。

今日も波多野はゆか先輩とご家族で食べるようで、博貴にニヤニヤしながら見送られていた。

Cチームの模擬戦が終わったとき、望遠結界でゆか先輩が泣いていたのが映されていた。

ゆか先輩の夏も終わってしまったんだと思ったけれど、少し足早に出ていく波多野をみて、新しい夏がはじまっている予感がした。

北都に帰ったら受験勉強に入ってしまうけど、時間のあるとき恋バナできたらいいなって思う。

ゆか先輩の引退式も兼ねて。



「私、お弁当返してきますね!」

「よろしく~」

「立華が戻ってきたら武道場行こうか」

「はい!」


空になったお弁当と飲み物は行きよりも軽く、真紀ちゃんが袋を貸してくれたので一度に持つことができた。

受付にお弁当とペットボトルを返した私が、右京先輩のいる部屋をノックしてみた。

風呂敷を返したかったのだけど返事がない。

少し待ってみようと思ったけれど、先輩たちを待たせることはできなかったので、急いで部屋に戻った。

きっと決勝戦が終わるまではいるはずだから、また返しに行こうと思う。





ー 武道場 ー


武道場は1コート分の広さで、みんなでストレスしたり基礎練するには十分な広さだった。


「おっ、早かったな」


りく先生もちょうど来たばかりのようで、上座にゴロンと寝転がった。

あくびが茶々丸より大きくて、ほんとうに疲れてるんだなと思ったけれど、先輩たちにとっては「吸い込まれそう~」と、いつもの風景みたい。


「小鷹、次の東都戦、対策は考えてあるんだろ?」

「はい、海斗、石井、栄一郎の前3人で勝てるのが理想ですけど、きっと仁君はそれを見越してます。仁君は大将戦に持ち込むつもりだと思うので、それを逆手にとるつもりです」

「まぁ、まずまずだな」


小鷹先輩はりく先生に渋谷先輩はどう考えていて、それを逆手にとるためにカウンター狙ったり、ここは攻めていくなど戦法を伝えた。

小鷹先輩の戦法を聞いていると、そんなに細かく戦略が練られていたのかと驚くことばかりだった。


「~~~戦略は以上です」


いつの間にか起き上がっていたりく先生は、顎に手を添えたまま、口を開いた。


「相手が仁のチームじゃなければ正解だな」

「・・・やっぱりその裏、かいてきますよね」

「あぁ、その先すらあいつは読んでるだろうな」


先輩たちとりく先生の真剣は話に、ごくりとのどがなる。


「まぁ、俺もあいつとは無関係ではないが、勝負となっては別だ。徹底的に勝つぞ、あいつらに」

「「はい!」」


悪そうだけど、でも楽しそうなりく先生の表情につられて、先輩たちの目が輝いた。

でもきっと私もだと思う。

りく先生の負けず嫌いの火が飛び火したみたい。


「当然あいつらも前3人で勝負してくるって想定はしてるだろう。だから大将の仁まで守りを固めて、こっちが崩す瞬間を狙う作戦は立ててるはずだ。でもあいつらの対戦表みてみろ」


そうりく先生が私をチラッとみたので、急いでパンフレットに記録した対戦表を先輩たちに広げた。


「うぇ!?全勝!?」

「あぁ、ただ守りが固いだけじゃない。ちゃんと戦えるやつらがそろってるんだよ」


たしかによくよく見てみると、東都Aチームは先鋒、次鋒、中堅ですべて勝敗が決まっている。

大将戦にもつれこんだ対戦はなかった。


「対戦チームがどういう戦略できているのか、判断し、瞬時に戦略を切り替えてるんだ。守りを崩してくる相手にはカウンターを、大将戦にかけてるチームには攻め込む。仁の息がかかったやつらだからな、頭きれるやつらだよ」

「じゃぁ俺らはそれを利用すればいいってこと?守りを崩すふりして、カウンター返しを狙う、みたいな?」

「あれ?でもそれも読まれてるとしたらカウンター返しのカウンター返しの・・・あれ?」


と、波川先輩の頭がグルグルしてしまった。


「あんま難しく考えすぎるな。あいつらに勝つのは難しくないぞ」

「え?!そ、そうなんですか?!」

「あぁ。この作戦の要は立華、お前だ」

「・・・へ?」



にやりと笑うりく先生。

なんだか嫌な予感がするよ…。




続く

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