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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
夏休み後編
150/151

ー150-

ー 全国大会3日目 決勝トーナメント ー


今日は決勝トーナメントということもあり、昨日よりもはやめに会場に到着した私たち。

参加選手も少ないからか、まだ会場入りしている選手はいない模様。

決勝戦にふさわしい気持ちのいい天気に背伸びをしたくなる。



「…えでか、本当に大丈夫?」

「うん、全然大丈夫!心配かけてごめんね?」


正面ゲートに向かいながら、ふうちゃんは眉尻を下げた。

私の夢のことで、こんなに心配させてしまってこっちが心配になるほどに。


私がふうちゃんの名前を呼んだとき、ふうちゃんは私の異変に気付いて特訓を中止させて部屋まで飛んできてくれた。

その後も私が泣き疲れて眠るまでずっとそばにいてくれた。

起きたときには目がパンパンにはれてしまっていたけれど、ふうちゃんがすぐに治してくれたので、それだけで私は元気になれた。


「ほんとに大丈夫だよ?動いてるほうが気紛れるし、それに今日は決勝戦だからね!先輩たちのために頑張らなくちゃ!」


決して強がっているわけではない。

今日は先輩たちのために頑張りたいから、夢のことでくよくよしている場合ではないもの。


「それにそれに!お兄さんも言ってたじゃない、鬼酒草の酔いの影響だって。だから本当に平気だよ!」


と、元気さをアピールしてもふうちゃんはまだ納得していないようで、正面ゲートに到着したのに結界層に入ろうとしない。

お兄さんも少し困った顔をしていた。


《…ふうちゃん、今日だけ。今日だけまだ頑張らせて》

《今日だけ?》

《うん》


正直もうお手上げ。

昨日あんな夢をみてしまっては、もう自分一人ではどうすることもできないって悔しいけれど実感した。

もうふうちゃんに甘えて、ふうちゃんにあの私はなんなのか教えてもらって、どうすればいいのか聞いてしまいたい。


《今日までは頑張りたいの。先輩たちと一緒に》


先輩たちをサポートできるのは今日で最後だから。

最後までしっかりサポートできるように集中したい。


《…わかった。そこまで言うなら俺も我慢頑張る》


私の意図をくんでくれたふうちゃんは、仕方ないなと言うような笑みで優しく頬をなでてくれた。

私はこのふうちゃんの大きくて優しい手が大好きだ。

あたたかいパワーをもらえてるようで、今日もおかげで頑張れる。


「じゃぁ行くね。昨日みたいなことはないけど、なにか異変があったらすぐに知らせてね」

「うん!警備頑張ってね、ふうちゃん!」


少し安心したようなふうちゃんに手をふると、お兄さんと一緒に結界層に入っていった。

今日だけ、そうふうちゃんに言えたからか、心が少し軽くなった気がした。





ー 北都控室 ー


先輩たちが来る前に治療セットの準備や飲み物の準備をしようと控室に向かうと、心臓が飛び出る光景が待っていた。


「り、りく先生!?」

「あ…?なんだ…お前か…」


なんと控室のベンチにりく先生が昨日の服装のまま、ぐったりと倒れ込んでいたのだ。


「だ、大丈夫ですか?」

「すまん…もう少し…寝かせてくれ・・・」

「は、はい…」


と、私の返事を聞く前にりく先生は寝息をたてはじめた。

私は先生を起こさないよう、そっと荷物を置いて治療セットを確認しはじめた。


《ふうちゃん、控室でりく先生が寝てたよ。びっくりしちゃった》

《あぁ、りくさん、帰ってこないなと思ったらそこにいたんだ》


ふうちゃんの話によると、あのあと西都に買収された審判の粛清、そして新たな審判員を選定し審判控室の結界を張り直したりと朝まで大忙しだったそう。

しかもりく先生の影も北都に残っていたり、東都の影も陰陽省内で任務をこなしていたため、ほぼ一人で対応していたらしい。

それじゃお疲れだなと、私はもう少し寝かせてあげようと、静かに控室を出た。



控室を出たものの、どこに行こうか考えていると、ふうちゃんからVIPルームにいるといいよって返事がきた。

音澤先輩が許可証を持っていたけれど、ふうちゃんが受付の人に話を通してくれるそう。

みんなが到着するまでまだまだ時間があるので、せっかくならVIPルームでゆっくりしようと足をのばした。


正面ゲートの前を通ると、スタッフの方たちが廊下の壁一面に決勝トーナメント表を貼りだしていた。

西都高校のチームと対戦予定だったチームはすでに不戦勝になっており、同じ高校同士で対決するチームも多いようだ。

先輩たちも順当に勝ち進めば北都Bチームと対戦する可能性もあり、決勝戦で渋谷先輩たちとあたるにはハードルは高そうだ。


(でも、先輩たちならきっと大丈夫)


北都Aチームの赤い線が真ん中まで、一番長く引かれて、ここでみんなで写真とれたらな、なんてことを想像していると、ぽんっと肩をたたかれた。


「おはよう、立華。こんなところでどうしたの?」

「小鷹先輩!おはようございます!」


振り返ると小鷹先輩だけでなく、先輩たち勢ぞろいだった。

「強いチームは遅くきてはやく帰る」がモットーな先輩たちにしては到着がはやくて驚いた。


「先輩たち珍しくはやいですね?」

「りく先に呼び出されてるんだ。どこにいるか知ってる?」

「着いたから連絡してんのに、りく先電話でないんだよー」

「ふふ、りく先生なら控室で仮眠とってますよ」


りく先生が朝まで大忙しだったことや、これからVIPルームでゆっくりしようと思ってたことを伝えると、音澤先輩が許可証を取り出した。


「俺らもあとで行こうと思ってたから、さきに渡しておくわ」

「あとで迎えきてなー」


そう言って先輩たちは控室にむかっていった。

VIPルームにむかうと受付で栄一郎君と一緒にきた瑠璃ちゃんと真紀ちゃんに鉢合わせ、なんだかんだ先輩たちがくるまでのんびり過ごすことができた。

でも瑠璃ちゃんが気になることを言っていた。


「ねぇ立華ってあの男子と仲良いの?」

「あの男子?」

「ほら、同じ部屋にいる男子でなんて言ってたっけ…あの背が高くて元気な子じゃなくて…」

「波多野君って言ってなかった?」

「そうそう!波多野君!なんだから立華のことよく見てる気がしたのよねー」


瑠璃ちゃんの勘によると、Aチームの対戦中、先輩たちの模擬戦よりも私の動向を気にしているようだったそう。

でも波多野には私は男子に見えているはずだから、もしかしたら知らない男子がいるって警戒してたんじゃないかなって話をした。

瑠璃ちゃんと真紀ちゃんは私にかかっている術にびっくりしていたけれど、瑠璃ちゃんは「そうかしら…」って首をかしげていた。

そんな話をしているとりさちんたちもやってきて、話が途切れてしまった。





しばらくすると先輩たちもVIPルームにやってきて、瑠璃ちゃんと真紀ちゃん、みんなから激励をうけていると参加生徒は会場に集まるよう呼び出しのアナウンスがあった。

3日目開始の短い挨拶が終わると、すぐに模擬戦は開始され、決勝トーナメントということもあり、最終日は昨日よりも大盛況だった。

とても西都高校が棄権したとは思えないほどの盛り上がり。

むしろ昨日の西都高校の件で注目が集まっているようにも思えた。


「先輩!次の模擬戦は2戦後です!いまのうちに回復しておきましょう」

「そうだね、次の対戦相手の属性はわかる?」

「はい!リストあります!」

「ありがとう。そしたら属性結界もみんなにお願いできるかな?」

「わかりました!」


そして先輩たちも順調に勝ち進み、次はいよいよ準決勝まで進んでいた。


「海斗、次はあの術が使いどころかも」

「栄一郎、さっき癖出てたからこう意識し直しせ」

「啓さっきのあれよかったね。あれもっとこうしても~」


と、先輩たちの集中力も切れることなく常に次の模擬戦に向けてアドバイスしあっていて、監督であるりく先生はじっと黙って見守っている。

きっとりく先生が言うことないくらいなんだろうなって思った。


「立華~次は東都のEチームだっけ?」

「うん、そうだよ」


栄一郎君の次の対戦相手は水属性という情報があるため、水属性の結界を栄一郎君に施す私。


「あー、なら負けにくるだろうね」

「え!?な、なんでですか?」


栄一郎君への結界が完了すると、音澤先輩が私の前に座りながらそう言った。


「本命は仁君のいるAチームだからだよ」

「あ…なるほど…」


おそらく東都は渋谷先輩たちの東都Aチームに威信をかけているため、対戦チームのデータはすべて渋谷先輩たちに集められているそう。

渋谷先輩いわく「僕にはそんなデータ必要ないけど、周りが勝手に持ってくる」そうで、迷惑そうに話していたらしい。

なんとなく渋谷先輩の迷惑そうな顔が想像できてしまう。


「しかし東都のチーム、昨日の西都よりも戦いずれぇわ!」

「たしかに。それ、俺も思ってた」


と、波川先輩と栄一郎君が顔を見合わせていた。

東都は実力者はそろっているけれど、チームワークはかけている、というのが二人の印象だという。

まるで個人戦してるみたいだと。

私にはその違いはなかなかわからないけれど、先輩たちと違ってあまり仲良くはなさそうだな、とは思っていた。


《ねぇふうちゃん。東都ってそんな感じなの?》


もっと詳しく知りたいなと思ってふうちゃんにいまの話を魔法で送ってみた。

するとふうちゃんは一笑いしたあと、《さすが栄一郎君たちだね。その通りだよ》と返事がきた。


《とくに3年生はわりとそうかな。親が陰陽省の敵対派閥同士だったり、ライバル企業同士って生徒が多いから仲は良くないね》


お兄さんが学年主任している2年生は比較的穏やかなんだけど、3年生は教師の目が届かないところで見えない戦いがよく勃発していると教えてくれた。


《漫画みたいなこと、ほんとにあるんだね…》

《漫画のほうがかわいいもんだよ…》


ふうちゃんももしかしたら苦労してるのかなって想像したら、思わずくすっと笑みがこぼれた。


「立華?どうした?」

「あ!え、えっと、栄一郎君たちの話がおもしろくてつい…」

「ただうるさいだけじゃないのか?」

「そんなことないですよ?いつも聞いてるとおもしろくて元気でます!」

「ふっ。そうか」


音澤先輩に指摘されたときはドキッとしたけれど、でも先輩たちと一緒にいると楽しくて元気になるのは本当だから、うまく返せたと思う。


「それにいまの話きいて、先輩たちなら優勝できるって確証になりましたもん」

「いまの話で?」

「はい!だって先輩たちには東都にはないチームワークがありますから!確証になりました!」


先輩たちや洋介先輩たちをずっと見てきたからわかる。

実力が互角なとき、奇跡をおこせるのはチームワークなんだって。

だから先輩たちなら優勝できる、そう強く思えた。

なのに控室には先輩たちの笑い声でいっぱいになる。


「え、え?な、なにか変なこと言いました…?」

「いや…立華らしいなと…」

「???」


私らしいと言われても、音澤先輩の目に涙が浮かぶまでおもしろいことを言ったつもりはないので、よけいに理解ができなかった。


「でもありがとな。おかげで緊張ほぐれたわ」

「い、いえ・・・」


音澤先輩でも緊張するんだ、と驚いたけれど、でも音澤先輩だけじゃなく先輩たちみんなキラキラしてみえた。

そんな先輩たちをみてたら、私の一言で先輩たちをほぐすことができてちょっとうれしかった。


「てか、北都で残ったのは俺らだけか…」

「思ったより少なかったね」

「女子はCチームだけらしいな」


女子のCチームはゆか先輩がサポートしているチームで、りさちんの先輩でもあり調理部隊の隊長が率いるチームだ。

Cチームはトーナメント運がよかったのか、西都チームと対戦して戦力が落ちたチームと対戦することが多く勝ち上がれたと開始挨拶前に残った消毒液やガーゼなどを持ってきてくれたゆか先輩が教えてくれた。

それに女子チームも昨日の西都チームとの対戦で怪我をすることが多かったそうで、Cチームはなんとか無傷でここまでこれたのだと。

きっとゆか先輩のサポートがすごかったのかなと思うと私も気合が入ったし、いつもよりなんだかいきいきしているゆか先輩と話せて、波多野とうまくいってるのかな、なんて思ったりもした。


「でもどこのチームがきても俺たちは勝つだけだよ」


力強い声に私たちの視線が小鷹先輩に集まる。

そして燃えるような瞳の奥の熱に、見たことがない景色が見えるかもしれない可能性に胸が熱くなる。

先輩たちのサポートをさせてもらえるなんて、この先一生ないだろう。

これまでのたくさんの恩を返せるよう、尊敬する背中に続いて控室を出た。




続く

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