ー147-
ふうちゃんからの返事はないまま、音澤先輩の出番まで進んできた。
なんとか能面を割れないか試してみるとのことで、コートに入った音澤先輩。
こういう時、なぜか「音澤先輩ならなんとかしてくれるかも」って思えるのは音澤先輩のすごさだなといつも思う。
恥ずかしい私なんかとは、大違いで。
「…立華?どうかしたか?」
「す、すみません!!なんでもないです!」
…さすがりく先生。
もう一人の私に引っ張られそうになったのに気づいたのか、声をかけてくれた。
これから音澤先輩の模擬戦がはじまるのに情けないところみせられない。
音澤先輩はいつも冷静で、戦況をよくみて自分の立ち回りを考える。
勝ち星が続いたら練習していた技を試したり、自由に戦うことが多い。
逆に不利な状況のときは、相手の戦闘タイプに合わせて、相手の苦手な戦い方をする。
そして巧みに油断を誘い、戦況を覆してくれるのだが、いま目の前にいる音澤先輩は果敢に攻め込んでいて、こんな音澤先輩は初めてみる。
攻めすぎるとその分隙がうまれたり、カウンターをくらうことも多いので、引き分けが続いた状況でこんな戦い方をするのは珍しい。
でも攻めれば攻める分、能面を破壊するチャンスが増える。
きっと攻め込んで模擬戦としては負けたとしても。小鷹先輩がなんとかしてくれる、そんな信頼もあって攻め込んでいるのかもしれない。
(音澤先輩…こんな戦い方もできるんだ…すごい)
雷でできた虎を使役したり、速さをいかして相手が技を繰り出す前に体術でカウンターを出したり、雨のように雷が降ることってあるんだと魅入ってしまう。
「啓、いつの間にあんな技編み出してたんだろうね」
って、小鷹先輩も笑っちゃうほどだった。
ふうちゃんにも音澤先輩の模擬戦、見て欲しいけれどまだ返事はない。
どうしたのかなと、少し心配にもなってきた。
模擬戦も中盤をすぎるころには、何度か能面に触れることができていた。
また怯えた西都の監督から抗議が入り、むやみに戦闘服に触れる行為は違反だとして反則が入ってしまった。
これにはりく先生も正当な指導だとして、なにも言い返すことができずにいた。
「…勝者。北都高校、音澤啓」
今日一番の歓声が会場をわかした。
指導がはいったあと、能面に近づくことなく、問答無用でコート外に押し出したことで音澤先輩は勝利した。
音澤先輩の身体を確認すると、怪我は見られなかったが、異能力を消耗しているようだったので回復の治療をすることに。
「ありがとう、啓。おかげで楽できそうだよ」
「実力はそこまでって感じだったからな。でも悪い。反則とられちまって」
「問題ないよ。チャンスは1回もあるってことだから」
にこっと笑う小鷹先輩からは、少しも焦りも不安も感じなかった。
おそらく小鷹先輩も音澤先輩のように何度も能面を狙うことはできない。
今回たっている審判も西都側であるため、能面への攻撃はより敏感になってしまったからだ。
小鷹先輩も反則をうけてしまっては、チームとして不利になってしまい、最悪西都の不戦勝ということにもなりかねない。
なのにこの状況で「チャンスは1回もある」って捉えられる強さと余裕が、かっこよすぎて私には遠くてまぶしい。
「しかし栄一郎の言った通りだった。能面に触れると助けを呼ぶ声や、悲鳴で気味悪かった。石井が解呪してくれていたから近づくのは容易だ。そう考えると解呪できなかった術は、人質との縁だと思う」
「そっか…本人が望んでいたら簡単に解術はできなねーよな」
「それを切ったら殺されると脅されているのか、悲鳴でも生きてる証だからか解術を受け入れなかったんだろうな」
「うん。でもそれ以外は解術できた、近づけたってことは、きっと助けを求めてるってことだね」
「あぁ、間違いない」
西都生、本人の意識はなくても本能的に解放されたい、助けてほしい、そう思っているから近づくことを許された。
模擬戦中に解術されるとは西都側も思っていなかったのだろう。
審判の顔が曇っていくのと、監督の震えがそれを物語っていたから。
「でも無効化するには、それも解術しなきゃだろ?なにか策はあるのか?」
波川先輩が小鷹先輩に声をかけた。
どうやらいま他の結界は解術できていても、人質との縁が切れないかぎり、復活する可能性はあるとのこと。
解放を望んでいても、人質のことを考えたら受け入れることが出来ないからだ。
しかし身体も限界が近づいているため、結界が復活するか、限界を超えるか、どちらが早いかの状態らしい。
「そうなんだよね~…無理矢理切ることもできるけど、チャンスは1回で一瞬だけだろうから、それまでに火力をあげとく必要なあるかな。人質が無事だってわかれば受け入れてくれるんだろうけどね」
「幻術で無事を見せるのは?」
「そうだね…それでいこうか。どんな人質がわかれば見せることはできるからね」
「バレないようにしなきゃだけど」って、小鷹先輩は笑って言う。
それでもまだなにか考えているようで、う~んと唸っていた。
そんな小鷹先輩にりく先生は背中をぽんっと軽く叩いてこう言った。
「…こっちのことは大丈夫だ」
「!」
すると小鷹先輩はなにかに気づいたかのように、パッと顔を明るくした。
「…ほんと、俺は頼りになる仲間が多くて恵まれてるね」
どこか軽くなったように見える小鷹先輩は、大きく伸びをして振り返った。
「よし、みんながつないでくれたこのチャンス。絶対に無駄にはしない。みんな、ありがとう。あとは任せてよ」
やっぱり眩しいな、小鷹先輩は。
どんな状況でもみんなを安心させてくれる。
「小鷹ならいけるっしょ」
「うん、小鷹君なら解術もできるよ」
「俺たちまだ通過点だしな」
「あぁ。明日のためにも勝つぞ、小鷹」
「うん、ありがとう」
ひとりひとり、先輩たちと拳を合わせる小鷹先輩。
コートに入る前、先輩たちが行うルーティンだ。
そして私の目の前にきて、拳をだしてくれた。
「立華も、なんか一言ちょうだい?」
先輩たちのルーティンに私も混ぜてもらえたことに、驚きと嬉しさがまじりあう。
ドキドキしながら私も右手で拳をつくり、小鷹先輩の拳にコツンと合わせた。
「絶対、絶対勝ってきてくださいね!小鷹先輩!」
「ふふ、任せて」
小鷹先輩は「行ってくるね」とコートに入ると、一気に会場から応援の声と拍手があがった。
北都だけではないのがわかるほどで、西都対、北都・東都、南都のように思うほどだった。
そんな中にふうちゃんからの返事がまだなくて、少し寂しい。
《ふうちゃん、小鷹先輩と右京先輩の大将戦はじまったよ》
開始の合図がなると、先に動いたのは右京先輩のほうだった。
廊下で会ったときは立っていられないほどだったのに、鬼酒草の影響なのか、まるで蛇のように一瞬で距離をつめた。
右京先輩もここで勝たないと西都チームの敗北で終わってしまうため、小鷹先輩に勝って延長戦に持ち込むつもりなのだろう。
小鷹先輩は無効化のために火力を溜めているため、右京先輩の火力に何重にも重ねた結界で防いでいる。
「ドウシタ?守るので、精一杯なんか?」
「そっちこそ。だいぶ鬼化が進んでるみたいだけど?」
「それが何やねん。オ前ヲ、殺セバ、問題ナイ…」
右京先輩は周りを巻き込むような赤黒い炎の渦巻きで、小鷹先輩を引き寄せた。
右京先輩が技を出すたびに、私の鼻が鬼酒草のアルコール臭でいっぱいになる。
それだけ鬼酒草を注入しているってことだし、こんなに離れているのに匂いがするってことは、身体にもう収まっていないのだろう。
渦巻きに巻き込まれないよう踏ん張っていた小鷹先輩は足元から土術でできた分身たちをつくり、渦巻きに巻き込ませた。
その瞬間、小鷹先輩は右京先輩から距離をとったけれど、土術の分身たちは灰になってバラバラと消えていった。
「…っ!!」
距離をとった小鷹先輩だけど、とっさに腕で鼻を覆った。
そうだ、ここまで鬼酒草の匂いがするってことは、一番近くにいる小鷹先輩にも匂いがしているってことだ。
匂いだけでは鬼酒草の影響はないはずだが、小鷹先輩の顎に汗がたまっているのが見えた。
「分身にしたのがまずかったか…」
りく先生の解説によると、大量に摂取した鬼酒草と残穢の影響によりすでに鬼化が進んでいるそう。
自分の分身をつくったことで小鷹先輩と残穢が判断し、小鷹先輩を取り込んでしまったという。
いつもなら自分を分身にはしないはずなので、本体の小鷹先輩にも鬼酒草の影響を受けているかもしれないと教えてくれた。
「だ、大丈夫…ですよね?小鷹先輩…」
「時間の問題だな。このまま集中的に鬼酒草の影響を受け続けてきたら一時的に異能が麻痺するかもしれんな」
「そ、そんな!」
小鷹先輩が受けているのは匂いによる酔いの影響、分身が受けている影響で、分身が身代わりになっている分、小鷹先輩に直接的なダメージはないが、一度に大量に受け続ければ身体が勘違いして倒れる可能性はあるとのこと。
小鷹先輩の汗の量からみて、右京先輩のように鬼酒草の影響を燃やしているようだけど、無効化のための火力を優先しているようだ。
「…あっちはまだか…」
ぼそっとりく先生がつぶやいたのを耳に入った。
あっちってどういうことだろうと思ったけれど、もしかしたらふうちゃんと関係があるのかもしれない。
《ふうちゃん、お仕事中…だよね?もしかして西都の関係あるのかな》
《なにがあったのかわからないけど、ふうちゃん、頑張ってね。戻ってくるの待ってるからね》
もしかしたらふうちゃんも戦ってるのかもしれない。
詳しい事情はわからないけど、りく先生の一言で私の勘がそう確信した。
こんなに返事がないのは再会してから初めてだから、さみしい気持ちも怪我してたらどうしようって不安な気持ちもあるけれど、ふうちゃんもが戦っているなら私は信じて戻ってくるのを待つのみ。
だから頑張れ、頑張れふうちゃん。
そう両手に汗をにぎった。
模擬戦が進むにつれ、私の鼻がアルコール臭で麻痺しはじめ、なんだか少し頭がぽーっとするし、体力が奪われていくのを感じる。
もし目の前にお布団があったら吸い寄せられるように眠ってしまいそうだし、大きいステーキがあったらご飯いっぱい食べたいくらい体力がなくて、なんとか意識を保っている。
りく先生に「鼻おさえておけ」って言われたけれど、小鷹先輩がもっと強い匂いの中戦っているのに私だけ抑えるわけにはいかない。
それにもしかしたら、なにかに変化があるかもしれないし、匂いを防ぐ方法があるかもしれないもの。
その後の小鷹先輩は防戦一方だった。
このまま引き分けのままでもチームとしては勝ち進むことはできるけど、西都生を助けることはできない。
それに西都生がここで鬼化してしまったら、大会どころではなくなるだろう。
だからなんとか攻め込みたいけれど、まだ火力がたまっていないようで、チャンスをつくることができあにでいる。
会場からも祈るような声が聞こえた。
大丈夫。
小鷹先輩なら大丈夫。
小鷹先輩が任せてって言ったんだ。
だから絶対大丈夫。
「私にはなにもできないよ」
どこかからか私のような声が聞こえた。
でも私にいまできることはひとつだけある。
それは小鷹先輩の勝利を信じること。
それだけは誰にも、私にも邪魔はさせない。
身体の中が熱くなるのがわかった。
胸の奥が熱い。
でも鬼酒草の匂いが身体から抜けていくのようで、だんだんりく先生の煙草の匂い、先輩たちの匂いが安心感で私を包んだ。その時
《えでか!えでか!!》
《ふうちゃん!!よかった、無事だったんだね!》
待ちに待ったふうちゃんからの魔法が戻ってきた。
離れているはずなのに、ふうちゃんの優しいお花のような香りでいっぱいになる。
《ごめん、西都の特殊結界にいたんだ。返事もしたかったんだけど、兄ちゃんから返事をしたらえでかに影響あるかもって言うからできなかったんだ》
《そうだったんだね。ふうちゃんが無事なら私は大丈夫だよ》
《ありがとう、えでか》
ふうちゃんのほっとした気持ちが伝わってきた。
きっと私のふうちゃんが無事は気持ちも伝わったんだろうな。
《詳しくは帰ったら説明させてほしいんだけど、小鷹先輩と右京先輩の模擬戦はどうなってる?》
《それならまだ続いてるよ。時間は…あと1分》
《よかった、それならなんとか模擬戦中の小鷹先輩に伝えてほしい。西都のことだけどーー》
《!!わ、わかった!!》
ふうちゃんがなにかお仕事中だっていうのはわかってた。
でも想定していたよりも大事なお仕事で、危険なお仕事で、この状況を一変するようなお仕事だった。
はやく小鷹先輩に伝えたいけれど、でも模擬戦中の小鷹先輩にどうやって伝えたらいいだろう。
「あっ!!」
どうしようどうしようと考えているうちに、小鷹先輩の腕は右京先輩の赤黒い蛇に捕まってしまった。
「オ前ガ、ナニヲシヨウトシテイルカ、ワカッテイル…」
「わかってるなら大人しく受けてくれないかな」
「…あかん、俺だけ助かるわけにはいかない…っ」
赤黒い蛇が小鷹先輩の火力を吸ってどんどん肥大化していく。
このままでは小鷹先輩の異能力が切れてしまう。
せっかくあともう少しで火力がたまりそうだったのに!!
「違うよ。俺は、俺たちは右京君だけを助けたいわけじゃない。右京君の守りたいものも、助けたいんだ」
「な、なにヲ・・・」
小鷹先輩の左手から白い煙があがった。
ためた火力をすべて吸い取られ、空になってしまった。
蛇のお腹は吸い込んだ火力で膨れ上がっており、大きく口を開いた。
蛇は小鷹先輩に向けて火力を吐き返すつもりだ。
(だめ!!そんなことさせない!!)
そう思った瞬間、私は無意識に声を出していた。
「小鷹先輩っ!!大丈夫です!!絶対、勝ってくださいっっっ!!!」
これで伝わるかわからない。
でもふうちゃんとお兄さんたちが全ての人質を救ったこと、だから縁を切っても大丈夫なことを「大丈夫」の一言にすべて込めた。
それ以上言うと、模擬戦の妨害として反則を受けてしまうので、応援の形でしか伝えることができない。
だからお願い、どうか伝わってほしい。
「ふふ。ほんと、俺は恵まれてるね」
「ナンノ、コト…」
「右京君、君はもっと仲間を信じるべきだったね」
「なんやと…?」
「一人で背負いすぎ」
私の言葉が届いたのか、右手にコートがいっぱいになるほどの炎があらわれた。
天井がみえなくなるほどの大きさで、観客席の結界レベルも一気に上昇した。
審判も思わずのけぞっており、模擬戦を中止しようとなにか叫んでいるけれど、炎の熱でかき消されている。
「ソ、ソノ火力ハ…!!」
「蛇にあげたのはただのブラフだよ。柘榴花って知ってる?うちのチームに異能花に詳しい子がいてね、炎のように綺麗に咲き燃えるんだって」
「マサカ!!」
「うん。そして燃え尽きた後、柘榴石のように石になる」
赤黒い蛇が吸い込んだ火力を吐きだそうとした瞬間、大きく燃え上がった。
その炎はまるでガーネットの宝石のようで、深いく透明感のある、とても綺麗な色をしていた。
そして燃え尽きた蛇の身体は灰となり、ひとつの柘榴石となってコロンと光った。
「やめろ…ヤメロォォォォォ!!!!!」
「いい加減、目、覚ましな」
小鷹先輩の右手が右京先輩の能面に触れると、右京先輩の叫びが、会場中に響いた。
他のコートで模擬戦中だった選手たちも、その光景に足がとまり、全員が小鷹先輩と右京先輩の行く末を見守った。
「うっ・・・!!!」
右京先輩の抵抗に小鷹先輩の右手が燃え上がる。
しかしそれを押し返すように、右京先輩を床にたたきつけた。
抵抗できなくなった右京先輩は、「やめろヤメロヤメロヤメロ!!!!!」ともがいている。
ーーーパキッ
と、なにかが割れる音が、私だけでなく先輩たちにも聞こえた。
小鷹先輩の火力がすべて能面に消えると、カランと欠片が落ちた音がした。
右京先輩の目がみえた。
「…ようやくはじめまして、右京君」
右京先輩の能面が床に落ちると、小鷹先輩は右京先輩の頬に触れ、無効化の術をかけた。
「檜原、さすが」
すると西都生が一斉に能面をおさえながら苦しみだし、能面がぼろぼろに崩れていった。
渋谷先輩の奇跡によって無効化が連鎖されると、気を失った西都生はその場にバタバタと倒れていき、事情を知らない生徒や観客席からは悲鳴があがった。
悲鳴にかき消されるように模擬戦終了の合図が鳴り、小鷹先輩は引き分け、先輩たちの勝利で模擬戦は決着がついた。
無事にほっとした私は腰が抜けてしまった。
《えでか、お疲れ様。よくやったね》
《ううん、ふうちゃんたちが救ってくれたおかげだよ。それと小鷹先輩も頑張ってくれたから》
《えでかの声があったからだよ。信じたんでしょう?小鷹先輩の勝利を》
《!!…うん》
私が小鷹先輩の勝利を信じたから、西都生たちも、西都生の人質たちも全員助けることができた。
私が信じたから、勝利する条件が整ったんだよ、それが奇跡だよってふうちゃんは教えてくれて、なんだか少し泣きそうになった。
「右京君、大丈夫?」
「…あぁ。妹が死んだっていうのに、なんやすっきりしとるわ」
「それは妹が無事だからだよ」
「ありえへん。能面外したら、妹は殺される術がかかってたんやで」
「ふふ、あそこにいるのは妹じゃないの?」
「は?」
「ーーーほんまや・・・・・・祈里ぃ…」
小鷹先輩の治療をしながら、右京先輩の意識はまだ他の西都生に比べてはっきりしていたことを教えてくれた。
そして右京先輩を安心させてあげるために、妹と式神をみせたことも。
「まぁ、ほんの少しの親切心だよ。あのままじゃ妹の無事を確認する前に死にそうだったからね。せっかく人質は解放されたのに、会う前に死んだら妹がかわいそうだなと思って」
と、真っ白にだった左腕を確認して「上出来!」とほめてくれた小鷹先輩。
大きな怪我なく戻ってきてくれてよかったと安心した。
「それにしても小鷹、最後のあの術はなんだったんだ?」
「あぁ、あれは昔、立華が教えてくれた柘榴花からつくった術なんだ。宝石の花に見えて、からあげの匂いがするんだって。右で溜めてるって気づかれたくなかったからさ、からあげの匂いに食いつくかなと思って」
「・・・立華・・・お前・・・花は食うなよ?」
「なっ!!ち、違うよ!!お腹がすいてたから知ったわけじゃないから!!!」
小鷹先輩と柘榴花の話をしたのは中学生のときだ。
残って治癒練習に付き合ってくれていた時、たまたまお腹がすいていて、たまたま異能花の図鑑をみた時だったから話をしただけ。
「わかったわかった。昼飯のおかず、わけてやるから」
「だからほんとにたまたまで!!」
「からあげがあったら俺の分も食っていいからな、立華」
「波川先輩まで!!いらないですから!!」
「あはははは!!!」
せっかく無事に西都戦が終わったのに、私と栄一郎君との戦いは瑠璃ちゃんと真紀ちゃんに告げ口するまで終わらなかった。
続く




