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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
夏休み前編
131/151

ー131-

静かな静かな朝の時間。

私の手をひく茶々丸の力がかわいい時間。

私は茶々丸に会いたくて陽が昇るとすぐに実家に帰り、両親もまだ寝起きだったけれど茶々丸だけは元気いっぱいでお散歩にむかった。


朝早すぎて、人の気配を感じない散歩道。

まるで私と茶々丸二人きりの世界みたいと感じていると、潤くん家の目の前にやってきていた。

門の角に気持ちよさそうに頬をごすごずしてる。


そんな茶々丸をながめていると、ガチャリとドアが開き玄関から潤くんの姉・みっちゃんがやってきた。


「あれーかーちゃん、久しぶり~」

「みっちゃん!久しぶり!」


みっちゃんは私と潤くんの1個上のお姉さんで、あおちゃんと同級生。

潤くんと同じく異能東高校に通っていて、ソフトボール部の部長だ。

こんがりとした日焼け具合から今日もこれから夏の大会にむけた朝練なのだろう。

みっちゃんと茶々丸をなでながら大会結果の話や、東高校でのあれこれを聞いていると「あっ!」と立ち上がった。


「かーちゃん!ちょっと待ってて!!」

「う、うん?」


突然すぎて茶々丸もまだ撫でられ足りてないみたい。

するとなにやら玄関先が騒がしくなって見上げると、姉弟喧嘩しながら潤くんが顔を出した。


「おはよ、潤くん。すっごい寝起き!あはは!」

「…はよ…ってう、うるせぇな!みっちゃんが急に起こすから悪いんだよ!」

「だからさっき起こしたときに起きればよかったんじゃん!」


二人の仲も幼稚園のころからかわらなくて微笑ましい。

でもちょっと髪の毛がぼさぼさな潤くんがおもしろくて、目があうたびに口元がゆるんでしまう。


「で?なんで俺つれてこられたわけー?」

「あんたも明日の試験受けるんでしょ?今日太郎塾で自習するって言ってたじゃん。かーちゃんもつれてってあげなよ」

「別にいいけど。え、俺、それだけでたたき起こされたの?」

「は?なに?悪い?」

「…いいえ」


私は一人っ子だからわからないけど、鈴村姉弟もそうだけど姉って立場強いんだなと思わせる圧だった。


「じゃ9時になったらむかえいくから」

「ありがとう潤くん!」


試験前の今日は家で勉強しようと思っていたのだけど、茶々丸がいる誘惑に勝てなさそうだなと思っていたので、みっちゃんの思いつきと潤くんに感謝しかない。

「俺は二度寝する」といって家に戻った潤くんと、朝練にむかったみっちゃんを見送った。

そして慌ただしくなってきた西村家を通り、ガレージがしまった尚也君家を通り、茶々丸のお気に入り柱があるあおちゃん家を通り、やっと自宅に帰ってきた。

満足した茶々丸はいつもの窓辺のベッドでさっそく開いている。


ちょうどお母さんが朝食の準備してくれていたので、久しぶりの我が家の味を堪能すると朝早くに寮をでてきたからか、一気に眠気が襲ってきて、倒れるように茶々丸のベッドを枕にかりて二度寝した。

これにはふうちゃんも笑っていた。


そして夢みることなく、玄関のチャイムで一瞬で現実に戻り状況を把握する私。

やばい、寝すぎた、と。


恐る恐る玄関をあけると、寝ぐせが直った潤くんがむかえにきていた。


「…なんでさっきとおんなじ格好なんだよ」

「…ね、寝ちゃった…ごめんー!!ちょ、ちょっとだけ待ってて!!」


と、慌てて部屋に戻り着替える私。

こんな時でもふうちゃんは笑っている。

茶々丸は私が慌てていることなんて気づかないくらい熟睡していた。


「お待たせ!」

「意外と早かった」

「まぁある程度はさっき準備終わってたから」

「ふーん。でも枕のあとついてるけど」

「うそ!!」

「うっそ~~~」

「・・・・・・」

「じゃ、行こうぜ」


潤くんのこういうところ、ほんと幼稚園生のときから変わってない。

そして潤くんに続いて外にでると、待っていたのは尚也君だった。


「今日母さん夜勤でまだ帰ってこないから、尚也君に送ってもらうことになってんだ」

「職場が近いからついでな」

「ありがとう!」


素人からみても中も外も派手に改造された赤い車に乗り込んだ私と潤くん。

潤くんはよく尚也君が送り迎えしてくれてるみたいで、乗りなれた顔してるけど、初めての私は興味津々。

「このライトはなに?」「なんでカーテンなの?」「なんで音が違うの?」と尚也君を質問攻めにしてしまったが、ひとつひとつうれしそうに教えてくれた。


太郎塾に到着すると尚也君のバイト先が太郎君の会社なことに驚いた。

潤くんは前から知っていたみたいだけど、言われてみると小さな田舎町にある自動車整備会社は太郎君家しかないなと気づいた。

尚也君のバイトが終わる夕方ごろにまた送ってもらえることになったので、私と潤くんは太郎君に挨拶して塾に入った。

塾には私と潤くんしか来る予定がないみたいで、二人で太郎君から今年の傾向対策やリスニングの練習問題など受け、合宿期間に遅れた分を取り戻せた気がした。


その後太郎君のお母さんがお昼につくってくれた素麺とおにぎりを食べながら休憩する私たち。

よくテスト期間とか、試験前にみんなで自習に集まると作ってくれて、自家製の梅干しおにぎりが絶品なのだ。

そしてタイミングよく太郎君が切り分けたスイカを持ってきてくれて、自習疲れが吹き飛んだ。


「つうかさ、北都高で試験受ける人、かーくらいじゃないの?」

「んーそうかも」

「なんで受けることにしたんだよ」

「だって英語の勉強楽しいもん。太郎君のおかげで」


そういうと太郎君は嬉しかったのか、目を潤ませた。


「だから明日会場では浮くだろうなー」


明日の会場は北都東高校で行われ、しかも学生たちは皆制服で受験しに行くので私だけ目立ってしまうだろう。

なにせ異能力者に英語の実力は関係ないので、熱心に資格を取ろうとする北都生が私くらいかもしれない。

でももしかしたら小学校の友達に会えるかもしれないと思うと、プチ同窓会みたいで楽しみな気持ちが勝った。


「~~やるよ」

「ん?なに?」

「あ~~~明日も一緒に行ってやるって言ってんだよ!尚也君が連れてってくれるって言ってたからついでに!」

「ほんとー?ありがとー!助かる~」

「じゃぁ試験終わったらうち寄って答え合わせするか?」

「あ、それいい!答え合わせしていく!」

「俺もそうする」


太郎君が名案を出したことで、また太郎塾に来れる楽しみができた。


「帰りも尚也に乗せてってもらえよー。最近鬼蟲災害増えたからなー」

「はーい」


実は修学旅行後ほどではないけれど、強化合宿に入ってから鬼蟲災害が増えていた。

りく先生がいうには、東都の匂いにつられて活発化したそうで、砂浜にあらわれた眷属を倒してからはピタリとおさまっていた。


だから一人にならない状況はとてもありがたい。

でもこうしていると、もし私が北都東高校を選択していたら、こんな日常を送っていたのかもしれないと思った。

なにも知らず、ふうちゃんのいない世界を。


「でもよ、もしなにかあってもかーが助けてくれんでしょ?」

「・・・え?」


潤くんが両手を頭のうしろで組みながらにかっと笑った。


「えって、なにぽかんとしてんだよ」

「ご、ごめんごめん!…ふふっ、うん、そうだね…!潤くんは私が守るからね!」

「頼んだぜ、かーちゃん」


そうだ、私は異能力者だ。

北都東高校を選べたとしても、きっと私が異能力者への道を選んでる。

たとえふうちゃんがいない世界だったとしても。




だから




だから




怖いなんて思っちゃいけない。






ー 試験当日 ー


勉強疲れからか、最近背中が重いので背中から首まわりのストレッチをこなし、茶々丸のお散歩もおえた私と潤くんは尚也君の運転で北都東高校にむかっていた。

東高校にはやはり東高校生がほとんどで、若干私服の大学生、そして私。

潤くんに「目立つな」とからかわれながら教室に向かうと、小学校の友達に何人かと再会できた。


「えー!!いつぶり~?!去年の秋桜祭以来~??」

「そうかも!!去年すれ違ったよね!!」

「ってか楓ちゃん、その制服似合う~!!」

「えへへ、ありがとう~」


潤くんにすすめられて少し早めにきて正解だった。

お楽しみ会のリーダー、みきちゃん、えりちゃんにも再会すると周りに懐かしい友達が集まってきた。

連絡先は知っていても、とくに用事がないとなかなか連絡することはないけど、こうやって会うと話がとまらなくなってしまうものだなと思う。


「そういえばね、長田と美羽ちゃん付き合ったんだよ」

「え!!うそ!!すごい!!」

「小5からずっとうだうだやってたからね~長かったよね~」

「さっちゃんはね、実は最近失恋したんだよ」

「そ、そうなの…?」

「そうなの~、この前メールで小林に告ったんだけどダメだった~」

「えぇ!!こ、小林だったの~!?」


みんな私の新鮮な反応が楽しいのか、試験前の緊張感は皆無だ。


「お前らさ~、少しは復習しろよ!」

「寺中うるさい~」

「寺中はいいじゃん、よく楓に会えてるんだからさー」

「てか、寺中だってこの前ゆきちゃんに告られてたじゃん。あれ返事したの?」

「え!!じゅ、潤くん告白されたの!?」


ゆきちゃんと言えば北都小では学園一かわいいと言われていた女の子だ。

ふうちゃんが集めた学年恋愛模様図でも人気があったのを覚えている。

かわいくて、それでいてさっぱりした性格なので誰とでも仲が良く、頭もよかった。

秋桜祭ですれ違うこともあったが、年々美人度が増していっていたなと思っていた。

だから今日はいないのかなとクラス中を見渡していると、潤くんが慌てたように「きょきょきょ今日は来てない!」と輪の中に入ってきた。

今日は受験しない吹奏楽部員は町民体育館で練習中なのだそう。


「へ~でもゆきちゃんが潤くんを・・・へ~!!」


満更でもなさそうに照れてる潤くん。

潤くんも実はかわいらしい弟キャラで人気があるので、二人が並ぶ姿を想像するとお似合いでワクワクしてきちゃう。


「で?いつ返事すんの?」

「ゆきちゃん、ずっと待ってるよ」


どうやら夏休み入る前に告白されていたみたいで、潤くんは「ちょっと考えさせて」と逃げてきたらしい。

だから女子に圧をかけられている潤くん。

蛇に睨まれた蛙みたいに、怯みながらも口をひらいた。


「~~…こ、断るつもり…」

「はぁ~~~???!!」

「なんで!!!??」


さすがに私も驚いた。

だってあんなかわいい子に告白されたら嬉しいはずなのに。


「べべべべ、べつになんだっていいだろ!!あと10分で試験はじまるぞ!!」


よく学級委員を任せられていたって聞いていたからだろうか、圧の強い女子軍団に負けじと対抗する潤くん。

「えー、もう気になって試験どころじゃないわ!」とつっこむみきちゃん。

でも私もゆきちゃんを断る理由が気になって、試験に集中できないかもしれない。


帰りに教えてくれるかなーと、考えていると、潤くんに追い払われるように席に戻る女子。

するとえりちゃんが「あれ?」と後方の扉をみて声をあげた。


「北都生だ、珍しいね」


そういって後ろを振り返ると、ちょうど見慣れた制服が私の後ろに着席した。


「楓ちゃん、知り合い?」


私は言葉につまった。

だって私の後ろに座って、気まずそうな顔をしているのは紛れもなく波多野だったから。




続く


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