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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
夏休み前編
127/151

ー127-

「ダイヤちゃん…!!たかちゃん…っ!!」


砂浜では砂嵐が吹き荒れ、晴天だった空はたちまち真っ黒な雲に覆われた。

参加者と撮影スタッフが逃げる中、ただ二人だけは逃げる人並に逆らっていた。


「せ、先輩!!ダイヤちゃんとたかちゃんが…!!」


砂嵐の隙間から、この先は通さないと言わんばかりに鬼に立ちはだかるふたり。


「…わかってる。二人ならきっと大丈夫。すぐに討伐員もきてくれるから俺たちははやく批難結界にむかおう?」

「で、でも…!!」

「小鷹!立華!急げ!!批難結界閉まるぞ!!!」


遠くから討伐員が向かってきてるサイレンがきこえる。

だけど安心できない。


《えでか、りくさんももう近くにいるから。批難結界に向かって》


だってダイヤちゃんと博貴を置いていけない。

ふうちゃんの言うことも、先輩たちの言うこともわかるけど、どうしても二人に背中をむけられない。


「立華っ!!」

「栄一郎君っ!!ダイヤちゃんとたかちゃんが…!!」

「わかってるっ!!」

「…っ!」


栄一郎君に両手で頬を押さえられて、自分が動揺していることに気が付いた。


「…しっかりしろ、立華。あいつらのこと心配なのは俺たちも一緒だ。でも俺たちがやるべきことはなんだ?」

「…批難すること…」


もし街中に鬼や蟲が出没した際は、すぐに討伐員に連絡し、慌てずに近くにある批難結界に批難すること。

そして動ける北都高校生は討伐員の指示に従い、一般人の避難誘導に協力すること。

だからいま私がやるべきことは、二人を助けることではなく、批難結界に向かい、討伐員の指示に従うことだ。


でもそれよりも、私が優先すべきことは、自分を守ること。

ふうちゃんのためにも。


「栄一郎君…ごめんなさい」

「よし。幸い鬼はこっちに気づいてない。だから静かに移動するぞ?」

「うん…先輩たちもすみませんでした…」

「いいよ、ほんとに、あいつらなら大丈夫だからね」


討伐員のサイレンが大きくなってきた。

後ろ髪を引かれつつも、先輩たちと一緒に批難結界に向かおうとすると、砂嵐でよく見えなかったけれどダイヤちゃんが「またあとで」とつぶやいたように見えた。


《ふうちゃん、ごめんね、動揺してた。先輩たちと一緒に批難結界に向かうね》

《うん、二人ならすぐに追いつくから大丈夫だよ》

《うん!一緒にパフェ食べるって約束したからね!》


だから大丈夫。ダイヤちゃんと博貴なら。

ふうちゃんが大丈夫って言ってくれてる。

先輩たちも大丈夫って言ってくれてる。

そしてなにより私が二人を応援してるから。

だからはやく追いついてね、と二人の姿にエールを贈るために振り返ると


「え?」


靄の奥に人影が見えた。


「・・・・・・イカセナイ」


そして無数の黒い稲妻が降り注ぎ、私たちの足をとめた。

靄の中には私たちと、ダイヤちゃんと博貴、そして鬼しかいない。

さっきまで聞こえていた討伐員のサイレン音もいっさい聞こえなくなってしまった。


「まずいな、靄に閉じ込められたな」

「どうする小鷹?突破するか?」

「いや…まだこっちには気づかれてはいないからな…」

「す、すみません…私のせいで…」


どうしよう、私のせいだ。

先輩たちを巻き込んでしまったのは、私が未熟だったからだ。

閉じ込められてしまっては、頼みの綱であるりく先生も到着が遅くなってしまうかもしれない。

申し訳なさが目の前いっぱいに広がった。


するとぽんっと遠慮がちに頭に大きな手が乗せられた。


「大丈夫だよ、立華。あのくらいの鬼なら二人でもなんとかなりそうだから。それに避難しなかったあの二人にも責任はあるからね」

「…小鷹先輩」

「もしものときは俺らも手助けするし、立華もまた強化してあげよう。で、あとで二人にはお説教しなきゃね」

「…はい」


先輩たちはいつものようにニカッと笑った。

どんな状況でも笑える強さに、きっと私はひかれるんだろうなと思う。


私もなれるかな、そんな先輩に。





あれが人間ではないことは、判断するまでもなかった。

討伐見学や実習で何度か見たことがある蟲とはくらべものにならないほど、暗闇が深かった。

でもどこか知っている、そんな気がした。


「…ダイヤちゃん、楓、移動できた?」

「えぇ、さっきまで楓と数人の光が見えていたけど、いまは見えないから大丈夫だと思うわ」

「そっか、それならよかった」


そろそろ怪人があらわれて逃げるシーンだった。

ダイヤちゃんとは離れていたから、逃げるときに近づいて一緒に逃げたら一緒にテレビに映るかなって思って機会をうかがってた。

だから彼女が人波に逆らっていった瞬間、俺の身体も反射的に動いてた。


「…ダイヤちゃん、怒ってる?」

「怒ってるわ」


やっぱり。

楓が安全なところにいるってわかったとたん、ポニーテールが逆立ってるようで。

いつも俺のことを怒る彼女とは違う表情だもん。


「…これじゃスタッフさんたちの苦労が台無しよ。せっかく撮影していたのに…絶対許さないんだから」


うん、わかってた。

ダイヤちゃんが怒っているのは、自分がついてきたことではなく、楽しみにしていた撮影を邪魔したこと、そして大好きな仮面ランナー関係者に危害を加えようとしたことだ。


「うん、俺もおんなじ気持ち…おそろいだね!」


彼氏としては彼女には無茶なことはしてほしくない。

楓と一緒に安全な結界に避難してほしいっていう気持ちもなくもない。

いまなら大雅の過保護さの気持ちもわかる。

でもね、俺は自分の大事なもののために立ち向かうところが大好きなんだよね。

あ、それも大雅もおんなじか。


「そうね…それに博貴君なら来てくれるって思ってた」

「…!!!」


あー、今すぐ俺の彼女って男前なのにこんなにかわいいんだよって世界に自慢したい。

そのためにやることはひとつ。


「へへっ…!!ダイヤちゃん!!さっさと倒してはやく撮影に戻ろ!!」

「えぇ、もちろん。撮影中止になんて絶対にさせないわ…!!」


うんうん、この感じこの感じ。

ダイヤちゃんと一緒に戦えると思うと、いつもよりみなぎってくるものがあるね。


ダイヤちゃんが一足さきに鬼の間合いに踏み込むと、鬼は泣き声のような叫び声をあげた。

空間が切りさかれたかと思った。


「ありがとう…博貴君!!」

「あと一歩近づいてたら危なかったね~~!!」


ダイヤちゃんは鬼一直線しか見えてなかったから気づかなかったみたいだけど、ダイヤちゃんが踏み込んだ瞬間真っ黒な空が一瞬だけ光ったように見えたんだ。

だから足に目いっぱいの異能力をこめて、伸ばした腕をダイヤちゃんに巻き付けて引き寄せた。

ほんとに間一髪だったかも。


「次こそは入ってみせるわ」


まったくダイヤちゃんったら。

俺が冷や冷やした気持ちなんて全然気づかないみたい。


鬼の倒し方は知ってる。

異能力者は中学にあがると一番はじめに習うから。

結界の中から見学したことはあれど、実践ははじめてだ。


「雷属性に間違いなさそうね…!」

「そうだね、靄の中もチカチカしてる!」


四方八方から飛んで落ちてくる稲妻をよけながらなんとか距離をつめたい。

でも稲妻って砂浜の上も走るんだね。砂に交じって足元をすくわれる。

何度もお互い助けたり、助け合ったりして機会をうかがっているのだが、なかなか隙をみせようとしない。


「なんとかはやく急所を見つけなきゃ!!」


そう、鬼の倒し方はただ攻撃するだけではダメで、首をきるだけでもだめなのだ。

鬼一体ずつに急所があり、そこを適切な攻撃で十分な異能力を打ち込まないといけない。

これが模擬戦とは決定的な違いなんだよね~。


だからこうして何度も技をかえ、術を変え、タイミングをかえ、攻め込み方を微調整しているけど、いっこうに隙をみせない。

ダイヤちゃんの動きもみながら変えてるのに、何が違うんだろう。


「おっと…!!」

「博貴君!!よそ見しない!!!」

「へへっ。は~い!!」


なにか手がかりがないかなと思って鬼から目を離したら、死角から靄に喰われそうになり、間一髪ダイヤちゃんが助けてくれた。

俺としては怒られてるけど、このまま抱きしめられたままがいいなーと思っちゃう。


「ぜんっぜん弱点見つからないね~」

「…ねぇ博貴君、私、試してみたいことがあるの」

「え!!なになになになに?!なにしたいの?!」

「…少し耳かしてくれる?」


腕の中にいるダイヤちゃんは、さっきまでの険しい表情から一変して、キラキラしたかわいいダイヤちゃんだった。

そんなダイヤちゃんが試したいことといったらどのシリーズの、どのランナーの技だろうか。

ダイヤちゃんとこうやって一緒に仮面ランナーの技で遊んだりしたいなって俺は前から思ってたから、心がはしゃいじゃうし。

それに耳から伝わるダイヤちゃんの声が、戦闘中とは思えないくらい楽しそうで、きっとダイヤちゃんも同じ気持ちなんだってわかって嬉しい。


「ふんふん、ふんふん…いいねそれ!俺もそのシーン大好き!!」

「よかった。博貴君ならそう言ってくれると思ったわ」

「・・・オイ」

「じゃぁ俺、あっちのランナーやっていい?!」

「もちろんよ。ちょうどお願いしようと思ってたから」

「・・・・・・オイ」

「さっすがダイヤちゃん~~さっすが俺の彼女~~~!!!!」

「ってちょっと…!!い、いま戦闘中なんだからそんなにくっつかないでよ…!!」

「え~~でもダイヤちゃんが飛び込んできてくれたのに~~」

「あ、あれは仕方なく…」

「オイッ!!!!!ボクヲ、無視スルナ!!!!!!!!」


せっかくダイヤちゃんといちゃいちゃできるチャンスだったのに、汚い声が邪魔をする。

声を方をみると、ふるふると怒りで靄をふるわせた鬼がいた。

そうだった、いま戦闘中だった。


「あの~邪魔しないでもらえる~??いまいいところなんだけど~~」

「オレヲシカトスルナ」

「シカトっていうか、邪魔だって言ってるんだけど~~~」


だってこれから俺とダイヤちゃんは遠距離恋愛になっちゃうじゃん???

だから少しの時間も無駄にしたくないって思うのは当たり前じゃん???

だからこうやって彼女のほうから抱き着いてきてくれたんだから、離したくないって思うじゃん???

ってことを一息で言い切ると、鬼は怒っちゃったみたいで、真っ黒な雷撃を飛ばしてきた。


「ひゅ~!!ダイヤちゃん、かっこいい~~!!」


けど、ダイヤちゃんが一振りで一掃してくれて、真っ黒な空間にキラキラって光がきらめく。


「煽りすぎよ、博貴君…」

「えへへ~でも全部ほんとのことだよ~~???」


そう言ってダイヤちゃんの顔をのぞくと、顔を真っ赤にさせていた。

うん、世界一かわいい。


「・・・ナゼダ、ナゼダレモ僕ノ話ヲ、聞イテクレナイ!!!!ナゼ、俺ハ、認メラレナイ!!!!!」


鬼がなにかを叫ぶ度、まるで電波のあってないテレビのように靄の奥に人影が見える。

その中にはどこかで見たような気がする人影もあった。


「…まだなり立てのようね」


前に洋介君が教えてくれた。

急増した負のエネルギーで形成された鬼は、何十人、何百人…それこそ何千万人のエネルギーが集まってるんだって。

そしてどこかに共通点があって、それを見つけるためにあんな風に統合していき、やがてひとつの人格になるって。


「でもおかげで弱点がみえたわ」


俺の彼女はやっぱりすごいな~なんて感心していると、靄の中に知ってる人物が見えた。

その人物は「ナンデ俺ジャナイ」って言っていた。

どうしてそんなことを言うのか、俺にはわからない。

けど放っておけない、それだけはわかった。


「博貴君…」

「ん、大丈夫だよ、ダイヤちゃん。はやくあいつのところに行ってあげなくちゃね!!」

「そうね、そういう友達想いなところ、嫌いじゃないわ」

「え!!ダイヤちゃん!!それ、もっかい言って!!!」

「なっ…!!い、言わない・・・けど」

「けど???」

「あ、あとで言ってあげる…」


もうね、ダイヤちゃんを東都に帰したくない。

そう思ってもじもじしてるダイヤちゃんをぎゅーっと抱きしめた。


「あ、あのねぇ!!」

「バカニスルナ!!!バカニスルナ!!!バカニスルナ!!!バカニスルナ!!!バカニスルナ!!!バカニスルナ!!!バカニスルナ!!!バカニスルナ!!!バカニスルナァァァァァァァ!!!貴様ラニハ、俺ガ見エテイナイノカ!?!?!?!?!?!?!?僕ヲ無視スルノモ、イイ加減ニシロ!!!!!!!!!」

「はぁ~~~~・・・」


さっきから黙ってたけど、うるさいったらありゃしない。

せっかくダイヤちゃんが素直になってるんだから空気読んでよと、思う。


「あのさ~~、俺が見えてないのかって~??見えてるに決まってるじゃん~~~」

「ダッタラ、オ前ラノ、身体ヲヨコセ。オ前ラノ身体ハ、選バレテイル」

「やらないよ。そもそもね、見えたうえでダイヤちゃんといちゃいちゃしてんの。そっちこそ俺らのこと見えてないんじゃない~~???」

「ナニヲ言ウ。オ前タチノコトハ、ズット見テキタ。ダカラ、オ前タチヲ、選ンダ」

「あのね~~、ずっと見てたならわかるでしょ~。まったく、お前、彼女できたことないでしょ」


そういうと、ブチンとなにかが切れたような音がして、殺意を感じる靄が俺たちを襲った。

ありゃ、俺、地雷ふんじゃった???




「博貴君、あなた、やっぱり最高だわ」

「いこう、ダイヤちゃん」




でもね、狙ったんだ。その地雷。

じゃないと、ダイヤちゃんと試したいことが完成しないから。




「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスッッッッ!!!!!!!!!!絶対ニユルサナイ!!!!!!!!!!!!!!」


見境なく黒い稲妻が落とされ、鬼の姿も見えにくい。

でもダイヤちゃんだけはどこにいるのか見える。

キラキラ楽しそうにダイヤちゃんの光だけが躍っていて、稲妻を切り開く。

この技は、二人じゃないと完成しないんだ。

だからやりたくても相手がいなくてずっとできなかった。


ありがとう、ダイヤちゃん。

ダイヤちゃんのおかげで、俺、すっごくいま楽しいよ。




ダイヤちゃんの鞭に時がとまっていた海水が集まってくる。

まるでこの時を待っていたかのようで、雷撃すらもダイヤちゃんのもとには届かない。

そしてダイヤちゃんの輝きが、海水の中を反射して闇の中を照らす。


「よし、俺の出番だ」


ここぞって時、俺はいつも祈るんだ。

家の近くにある神社の大きな樹を。

昔、脱走したあんこを町中探しても見つからなくて、泣きながら神社に行ったらまるであんこを守ってくれてたかのように樹の下にいたんだ。

それから俺とあんこの散歩コースで、あんこも脱走しなくなって。

俺にとっては神社よりも神様みたいなものなんだ。


だから頑張りたいとき、負けられないとき、いつも目をつぶってあの樹を思い浮かべる。


「今日も力、貸して」


大好きなダイヤちゃんを守るために、そして友達を守るために。


すると一気に異能力が増大して、今まで見えなかったものまで見えるようになる。

稲妻の奥にいるダイヤちゃんの姿も、ダイヤちゃんの異能力の大きさも、ダイヤちゃんの異能の残影も、ダイヤちゃんの未来の動きも。


ビビりながらもダイヤちゃんに立ち向かおうとする鬼の中に、あいつの姿がはっきりと見えた。

あぁ、やっぱりお前だったんだね。

たしか今日は家に帰るって言ってたから、夜、部屋に行ってみよう。


「ん、この術…」


樹の神様の力とは違う、支えるような力を感じた。

その方向をみると、避難したと思ってた楓と先輩たちの姿があった。


「なーんだ、みんなそこにいたんだ」


でもありがとう、楓。

波多野となにがあったのかわからないけど、いつか話してくれるといいな。

だからはやく終わらせて、パフェ食べよう。

きっとあんこみたいにお腹すかせてるはずだから。







「シネェェェェェェェェーーーーーーーー!!!!!!!!」


鬼が靄の腕を降ろすと、特大の黒い稲妻がダイヤちゃんめがけて雲を突き破ってきた。

その瞬間、博貴はダイヤちゃんとは逆方向に向かって飛び出した。

でもきっとなにか策があるって信じて私は強化術を送り続ける。


そしてダイヤちゃんがかまえる大きな竜巻のような鞭を軽くひとふりすると、ダイヤモンドのような輝きとなって稲妻もろとも鬼の結界を両断した。

やっと会えたまぶしい太陽が鬼の真上を逃がさないとばかりに照らす。


その隙を博貴は逃さなかった。

博貴が高く拳をふりあげると、天高く鬼が打ち上げられた。


「ダイヤちゃん!!!!」


戦闘中とは思えない今日一番の笑顔でダイヤちゃんを呼ぶ博貴。

ダイヤちゃんもニッと笑って博貴に向かって走り出す。


「「せ~~~~のっ!!!!!!」」


と、二人で声を合わせ、博貴の拳に足をかけたダイヤちゃんを勢いよく打ち上げた。


「へっ…?!?!?!」


遠隔結界が途切れてしまい、奇想天外なことばかり続いていたダイヤちゃんと博貴の戦闘だけど、もうここまでくるとなにが起きてるのか、なにをしたいのか私には全然理解できない。

栄一郎君と波川先輩はゲラゲラ笑っているのが余計に私を悩ませる。


「立華、上みてごらん」

「う、上…??」


小鷹先輩に言われたまま、上を見上げた私。

見上げるとまぶしくて目をそらしたくなるけど、頑張って目をこらした。

するとふっと太陽をさえぎるように影があらわれ、目をうばわれた。


「だ、ダイヤちゃん!?!?」


そのポニーテールの影は、太陽をさえぎってもキラキラ辺りを輝かせているのは、まぎれもなくダイヤちゃんだった。

博貴が鬼を打ち上げたあと、鬼よりも高くダイヤちゃんを打ち上げたんだ。





「絶対ニユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ!!!!!!」

「私も許さないわ。私たちの邪魔をしたこと。ーーさようなら」





ダイヤちゃんに打ち落された鬼は砂浜に激突し、その衝撃で突風が吹き荒れた。

そんななか「待ってたよ!!」と博貴はお姫様抱っこでダイヤちゃんを受け止め、ダイヤちゃんの頬にキスをした。




二人の無事な姿をみて、心底安心した私。

気づけば討伐員も到着していて、すぐに批難結界にむかっていた。

鬼の姿も塵になって、パラパラと崩れていく。


「おぉ、大丈夫だったかお前ら」

「りく先生!!」

「りく先~おっそ~~」

「うるせ。お前らと違ってこっちはこれでも異能公務員なんだよ」


結界が解かれ、いつも通りのりく先生と先輩たち。


《ふうちゃん、りく先生来てくれたよ。もう大丈夫そう》

《それならよかった。怪我はないね?》

《うん、全然。先輩たちのおかげ》


私たちに気づき手を振る博貴に、手を振り返すと、今の瞬間を見られた恥ずかしさで顔が一気に赤くなったダイヤちゃん。

いつまでも降ろさない博貴にダイヤちゃんは怒っているけど、ただかわいいしかない。


そのままこちらに歩きだしたので、私も二人をむかえうようと歩き出したところ「立華!!!」と、腕を後ろに強くひかれた。


腕の正体はりく先生だったけれど、なにが起こったのかすぐにわかった。

鬼が衝突しえぐれた砂浜に、鬼の残穢が集まってきたのだ。


私もりく先生も先輩たちも、ダイヤちゃんを抱えたままの博貴も残穢から目をそらさない。

固唾を飲んで動けずにいると、ゆらりと残穢が動いた。



【 絶対ニユルサナイ 我ノ魂ハ鬼神様トトモニ 】




と、音だけを残し、風に消えていった。





続く

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