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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
夏休み前編
123/152

ー123-

りさが鎮火し結界をはった講堂は臨時治癒室になっており、軽症者をメインに治療が進められていた。

あたりの様子を確認し終わったゆうたとりさは、そのまま講堂入口に戻ってきた。


「ひとまずこのあたりは大丈夫そうだね」

「うん、齋藤先生が講堂結界張り終わったみたいだからこれ以上攻撃はされないね」

「はぁ~…よかったぁ」

「お疲れ、りさ」


ほっとしたりさはその場にしゃがみ込むと、自分にしか見せない大好きな笑顔で労ってくれた。


「…わかった。そっちも完了したんだね、お疲れ明」


そしてすぐゆうたの元に波多野から連絡は入り、ゆうたとりさも第二玄関前の防衛が完了したことを知った。

続々と各エリアの防衛成功の連絡がはいり、安堵の空気が流れる中、残るひとつに注目が集まった。


「あとはあそこだけだね」


それは博貴とダイヤが防錆中の校庭エリアだ。

蟲をおびき寄せるための杭が刺さっていることから防衛戦開始直後から激戦が繰り広げられていた。

応戦にいきたい2人だが、北都高浄化結界をはるためには各エリアを防衛した証として主メンバーは残らないといけない。

そのため遠くから2人を応援するしかできないのが少し心苦しいりさ。


「あの二人なら大丈夫だよ、一緒に見守ろう」

「うん…!そうだね、あとで楓ちゃんとダイヤちゃんとお昼食べるんだから!」


今日のお昼のお弁当は特別だった。

ダイヤが北都でお昼を食べれるのは今日で最後なので、北都の食材をたっぷり使った特別性なのだ。

もちろんゆうたにも用意されていると伝えると、ゆうたは少し照れながらりさの手を握った。






一方激戦区の校庭では、博貴とダイヤが休む暇なく戦い続けていた。

蟲人は確保されたといえ、杭が刺さったままなので、その杭を守ろるため他のエリアよりも強敵だった。


「ダイヤちゃん!あともうちょっとだね!」

「えぇ、杭も見えてきたわ!」


しかしそんなのこの二人にはおかまいなしだった。

いくら他よりも強敵だろうと自分たちを囮に負傷者の移動に気を配れる余裕がある。


「負傷者の移動完了したわ」

「おっけー!!じゃぁこっから本気出しちゃうもんね~~!!」


博貴は自身に樹強化術をかけ、襲い掛かる蟲たちを大きく振り払っていく。

飛ばされた蟲はダイヤの鞭によって粉々に粉砕され、一瞬で塵になった。

その光景をみた博貴は戦闘中にもかかわらず、目を輝かせた。


「すごいダイヤちゃん~~!!!それどうやったの~!?」

「べ、べつに…ただこれを振るっただけよ…!」

「えぇ~!!じゃぁもういっかい見せて~~!!」


と、博貴はまるでお手玉を放り投げるかのように蟲をかきあつめ空にはなった。


「もう…!見世物じゃないのに…!」


と、ダイヤは少し怒った口調で言い返すが、でも嬉しそうな顔を隠しきれていない。


「それ、仮面ランナーバードの第46話の技でしょ?!」

「な、なんでわかったのよ…!!」

「えっへへ~~!!ねぇ、ダイヤちゃん、これはわかる!?」


博貴はそう言ってアクロバティックに強化された足で蟲を巻き込んでいった。


「…簡単。仮面ランナーダンサーの23話」

「すごいダイヤちゃん!!」

「ならこれはどう?」

「あ!わかった!仮面ランナーティーチャーの57話!!」

「そう、仮面ランナー初の女性ランナーだから7歳の時に一生懸命練習したの」

「やっぱりダイヤちゃんはすっごいやぁ!!」


なんてマニアックな会話をしながら蟲を続々と倒しているなんて、見晴台にいる楓たちも、見守っているゆうたやりさたちも、誰も知らない。

でも見晴台から見ている楓たちには、博貴がまた急に告白したんじゃないかってからかわれているくらい、二人の楽しそうな姿が見えていた。


「杭、みえた!!」

「博貴君、危ない!!」


杭が見えたことで一気に突破しようとした博貴。

しかしダイヤは異変に気付いた。


「っと…!ありがとう、ダイヤちゃん!」

「あれは…」


二人は肩を並べ、杭を守っていた一匹の蟲に注目した。

ボコボコの黒い靄が変形していき、なにかを形成していく。

4本あった足がボコボコと2本の腕になり、胴体からは2本の足が生えていった。


「ダイヤちゃん!まずい!遊んでる場合じゃなかった~!!急ごう!」

「えぇ!鬼になる前に!」


劣勢状況を察した一匹の蟲は「ア・・・ア・・・」と鳴き声をあげながら無理矢理鬼になろうとしていた。

しかしすでに防衛間近のため負の感情が足りなかったのか、半蟲半鬼の状態で苦しんでいるようだ。


「あれ・・・?」

「この術・・・」


これから最後の一戦といったときに、ふたりは連戦の疲れが消え、あたたかいエネルギーに包まれてることに気づいた。

そしてそれが誰の術なのか、誰からの応援なのかもすぐに察した。


「…博貴君、私、試したいことがあるの」


ダイヤがリボンを結び直し、気合を入れ直した。


「実は俺も、同じこと思ってた!」


ダイヤの立ち姿をみて、博貴にはダイヤがなにをしたいのか理解できた。

自分も同じことを考えていたことが嬉しくて、博貴はにっこり笑った。


「ねぇダイヤちゃん、一緒に戦うの楽しかったね」

「えぇ、あなたとなら悪くないわ」


遠隔結界で楓に伝わってきたのは、ダイヤの素直な心だった。

この戦闘がダイヤのなにを変えたのかわからないが、楓にはダイヤの「楓、ありがとう。私、もう怖くないよ」のメッセージが届いていた。


「3,2,1でいくよ、ダイヤちゃん!」

「えぇ!」


半鬼の蟲が苦しさから暴走し、叫び声をあげながら周囲に残っていた蟲を吸収しながら二人に襲いかかる。

その瞬間、二人は同時に踏み込み、伸びる黒い両腕を切り上げた。

そして半鬼が前のめりに倒れた瞬間、両足を切り落とし、切り上げた両腕が地面にささる。

胴体、両腕、両足が上空からみるとダイヤモンドを形作るように固定され、動けない半鬼。

博貴とダイヤは固定されたのを確認すると、ダイヤモンドの外からつないだ手をふりおろした。

すると上空からダイヤのようにキラキラ光る虎の顔が半鬼めがけて降りてきて、一口で飲み込み、そのまま空に帰っていった。


校庭には蟲の気配も鬼の気配もなく、ただただ清々しい北都の風が流れた。




「防衛成功です。北都高浄化結界を作動します。生徒の皆さんはその場から動かないように。…みなさん、お疲れ様でした」


北都校内に齋藤先生の声が結界を通して響き渡ると、崩れた校舎も元通りに修復され、りさの結界によって守られていた講堂も元の姿に戻っていった。

傷を負っていた生徒も、異能切れで横になっていた生徒も、なにも出来ず震えていた生徒の心も、齋藤先生の慈しみある術が結界を通して癒していった。


「…終わった?」

「うん、終わったね…」


異能切れ寸前だったことを回復されていくことで気づいた博貴とダイヤ。

徐々に見慣れた北都に戻っていく光景を目にしながら、ダイヤは口を開いた。


「博貴君」

「なぁに、ダイヤちゃん?」

「私もあなたが好きよ」

「・・・・・・え」


それは博貴にとって突然の告白だった。

あまりにも突然すぎて反応するまでに時間がかかるほどに。

でもダイヤは博貴が驚くことも想定済みだったよう。


「…本当はね、あなたが告白してくれたの、聞き間違いなんじゃないかって思ってたの。・・・ううん、そう思い込もうとしてた」

「うん、そうかなって思ってた」


くすっと笑う博貴に、ダイヤは苦笑いで返す。


「守りたかったの、自分のこと。…もう傷つかないように」

「うん」

「でも北都にきて、いろんなことがあって、いろんなことに気づかされたわ。私、もっと強くなりたい。そのためには傷つく必要もあるって」

「うん」

「そしたら不思議と人って素直になれるのね。あなたと一緒に戦ってたら、仮面ランナーのショーより楽しかった」


北都の風になびくダイヤのポニーテール。

晴れ晴れとしたダイヤの顔を博貴によく見せてくれるようで。


「だからもっと傷ついて、もっと楽しんで、もっと強くなりたい。自分のことも、あなたのことも守れるように」

「うん、俺にとってのルビーはダイヤちゃんだけだから。大好きだよ、ダイヤちゃん」

「…ありがとう。諦めないでくれて…私も博貴君が好き。…これからもついてきてくれる?」

「もちろん、俺ももっと強くなってダイヤちゃんに追いつかなくちゃ!」

「ふふ…私も負けないわ」


博貴は嬉しさが爆発し、ダイヤに思いっきり抱き着いた。

そして北都中に聞こえるくらい大声で「やったよーーーー!!!!!ダイヤちゃん、彼女になってくれたよーーーーーー!!!!!」と叫んだ。

ダイヤはさすがに想定できなかったようで、顔を真っ赤にしながら博貴を怒った。

でも怒られているのに嬉しさが隠しきれない博貴と、怒っているのについ笑っちゃうダイヤ。

幸せいっぱいの二人が、空間結界でつながったままであることを忘れ、楓に筒抜けなことに気づくのはもう少しあとの話。





北都高結界が作動し、外エリアで待機していた生徒たちが安堵の表情を浮かべながら校舎に戻っていく。

そんな中、ただ一人だけ険しい表情で校庭を見つめる男がいた。

残りの負傷者がいないか確認のため外にでたゆかが、その姿をみかけて思わず声をかけた。


「明君、どうしたの?」

「…あいつの姿がないんだよ」

「あいつって?」

「あいつも治癒隊のはずだろ?なんでいない?」

「あぁ楓さんのこと?楓さんなら寮にいて戦闘結界が作動したから出れなかったそうよ」


と、ゆかに説明されるが納得のいかない表情をうかべる波多野。

波多野は楓が寮にはいないことを、なんとなく野生の勘が感じ取っていた。


「それに小鷹先輩たちもいない。防衛戦中に急に消えたのを見たってやつがいるんだ」

「そう…」


ゆかはそれ以上なにも言えなかった。

波多野の悔しそうな顔をみたら、慰める言葉が見つからなかったから。


「きっと茨木のところにいったんだ…くっそ・・・なんで俺じゃないんだよ」

「明君・・・」

「それにそこにあいつもいたはずだ」

「え?楓さんが?どうしてそう思うの?だって結界から出れないはずよ?」

「勘」


波多野とは長い付き合いなので、ある程度波多野のことは理解しているゆかだが、最近波多野のことがわからない時がある。

それは体育祭で自分が捕まったときからだと思う。

鬼に対しての異様な執着と、楓に対する意識。

とくにどうしてそこまで楓を意識するのか理解ができなかった。

なぜならその意識は、友人に対する意識でも、チームメイトへの意識でも、異性に対する好意でもないからだ。


「つーか、どっか行くとこだったんだろ」

「あ、そうなの…負傷者の確認にいくところで」

「ふーん…」

「明君もはやく組に戻ったほうがいいわ。きっと疲れただろうから」

「あぁ」


返事はするのに動かない波多野に見送られたゆかは、波多野への心配事が増えた。

そんなことにも気づかずに、波多野はぼそっとつぶやいた。


「・・・またあいつかよ」


と、なんとなく見晴台を見上げた。

体育祭での出来事、状況報告でみんなで集まったときを思い出したから。

すると見晴台から目が離せなくなった。


見晴台にあいつと、先輩たちがいる気がする。

それにあの時、俺の足はなんでとまったんだ?


野生の勘がなにかを告げようとしているのに、頭が足りなくて受け取れきれない。

考えてもモヤモヤがつのるばかりで、苛立ちへと変わる。


「あいつ、俺に報告しなかったな・・・くそでこ」


発散先が見つからなくて盛大に舌打ちをした。

明確に、見晴台に届くように。




続く

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