ー120-
「いたた・・・」
りく先生が乱暴に投げるもんだから、尻もちをついた私。
なんで私ってこんなに尻もちばかりつくんだろうと思うくらいにお尻が痛い。
「立華、大丈夫?」
「は、はい・・・ありがとうございます」
この中で転んでいるのは自分だけなのに気づいた私は急いで立ち上がると、小鷹先輩は「慌てなくていいのに」と笑っていた。
そうは言ってもタイムリミットがある中、先輩を待たせるわけにはいかないもの。
「で、りく先からの依頼ってこの重結界の中から茨木を見つけろってことでしょ?」
「そこまでは立華の直感と嗅覚を頼れ、だって」
「なんかお前、犬だと思われてねぇ?」
「私もそう思ったよ…」
栄一郎君に不憫な目で見られている気がするが、同感だ。
さっきは反論できなかったから、次りく先生に会ったら言い返そうと思う。
「・・・でも確かに、この中から見つけ出すのは簡単じゃないかもね」
あたりを見渡す小鷹先輩。
私も遅れてなにもない空間に意識を向け、結界を見渡してみる。
「!?!?!?」
すると何十、何百…いやそれ以上に結界が重なっているのが見え、しかもいろんな色が折り重なっていて目がまわりそうになった。
確かにこれは結界感覚を閉じなければ迷子になってしまいそうだ。
「だから彼女の感覚を頼れってことなんでしょ?」
「そうだと思う。結界感覚確認しながらじゃ時間かかっちゃうからね」
「だそうだ立華、行けるか?」
音澤先輩に聞かれてドキッとした。
直感なんて意図しておりてくるものではないのに、私の不確かな情報で先輩を案内してもいいのかと。
「大丈夫だよ立華、齋藤先生の話思い出してごらん?」
「齋藤先生の・・・?」
「そう、自分の結界を強くすれば迷わないって話あったでしょ?」
「あ・・・」
どうしてその内容を先輩が知ってるのかわからないけど、私の迷いがふっと軽くなった。
そして私の結界に意識を向けた。
あぁ、突然の重責に私を囲む結界が大きく揺れている。
不安だった。怖かった。
でも立ち向かう方法は、大好きな齋藤先生が教えてくれた。
今も北都高結界を守るために戦っている齋藤先生が教えてくれた方法だ。
私は大好きなみんなと学校を守りたい。だから大好きなみんなと学校を傷つける人は私の結界には必要ない。
そう結界に強く力を込めた。
「うん、上出来!そしたら立華、意識を結界の外に向けてみて?」
「結界の外・・・」
「うん、心地いい方角と、嫌な感覚がする方角はない?」
「・・・あ、あります」
「その嫌な感覚がするほうにきっと茨木はいる」
「!!」
「ふふ、俺たちじゃ立華みたいにはっきりと感覚とらえられないから、だからりく先生は立華を呼んだんだね」
と、小鷹先輩は笑った。
そして栄一郎君も「俺も、全部おもしろそうって思うから無理だ」と言うと、みんな同じく頷いた。
「ってことで立華、道中案内よろしくね!」
「はいっ!!」
私がいることで、先輩たちの役にたつことができる。
それが北都高を守ることにもつながる。
そう思ったらなにもできない悔しさが吹き飛んで、ふうちゃんに《頑張ってくるね!》と魔法を送った。
そしたら《無理だけはしないで》って過保護な返事がきて、よけいに元気になった。
「戦闘になったら高みの見物しときな」
「そうそう!あいつぼこぼこにしてやるからな~!」
「りく先、なにしてもいいって言ってたしね~」
「じゃぁ俺、試したい技あるんだよね。神経操作してカエルにする技なんだけど」
いま結界の中にいるなんて忘れちゃうほどいつも通りの先輩たち。
夏休みに近所で遭遇したときと変わらない雰囲気で、つい先輩たちの楽しさにつられてしまう。
「その技、僕の技と力比べしてみない?」
「それいいね仁君、茨木で試そう」
渋谷先輩もこれから戦闘があるかもなんてみじんも感じない雰囲気で、ふうちゃんに報告したら《俺も混ざりたい…》とかわいい返事だった。
「どう?立華、次はどっち行く?」
「そうですね…こっちの方が行きたくないです」
「よし、じゃぁこっちだな~!」
「すげぇな、俺、全然わかんねぇ」
栄一郎君は本気で驚いてくれているようで、目を丸くしている。
「りく先、嗅覚もどうって言ってたけど匂いもすんの?」
「ちょっとだけ。いやだなって方は一瞬臭い匂いするよ」
「あはは!ほんとに犬みてぇだな!!」
「波川先輩~、私、それなら猫のほうがいいです」
と、大笑いする波川先輩に苦情をいれた。
しばらく進むとより結界の重なりが複雑になってきた。
横に重なっていただけの結界が、今度は上下にも分かれてきたり、同じ色だけど違う結界だったりと見分けるのが難しい。
でも小鷹先輩の誘導が上手なのか、毎回私の感覚で進んでいく。
「立華、このあたりはどう?」
「…こっちの方が臭いです…」
「立華、そろそろ感覚変わってきたかな?」
「はい…あっちが気持ち悪いです…」
ただ唯一つらいのが、先に進むにつれて鬼のような、生臭い匂いが強くなっていくことだ。
その匂いが目にしみてくるし、身体に染み込んでくみたいで気持ちが悪くなってくる。
「大丈夫か?少し休憩するか?」
「お前、顔真っ青だぞ…」
さすがに呼吸も苦しくなってくると、先輩たちが心配して休憩を促してくれた。
「いえ、大丈夫です…いま休憩しちゃったら感覚鈍りそうだから…いこ!栄一郎君!」
たぶん、本当に青い顔してるんだと思う。
結界の中だから気温なんて関係ないのに冷や汗で寒くなってくるし、うまく笑えているかもどうかわからない。
でもここで休んでしまったら、この冴えわたってる嫌悪感、危機感が慣れてしまう気がして、私は震える足を進めた。
「…はぁ、はぁ、はぁ…」
「お疲れさま、立華。この奥、だね?」
私は必死に首を縦にふった。
もう周りがどんなところなのか見えない、というか見えていない。
だってすでに目をあけられないところまで来ていた。
目をあけると不快感が渦を巻いているみたいですぐに目をまわしていまう。
それにとにかく臭い。
例えるなら夏場いっさい掃除をしてない水槽とか、1年ためにためた真みどりになったプールとか、高速道路にある古いパーキングエリアの汚れたトイレとか、とにかく想像するだけで嗚咽がとまらなくなる匂いだ。
そんな匂いに全身浴びてるって思うだけで発狂したくなる。
なんとか小鷹先輩がタオルを貸してくれて、それで鼻と口を覆っているけど、呼吸できないほうがましなくらい匂いがすきまから入ってくる。
「海斗、立華を浄化してあげて」
「あいよ」
「栄一郎、結界もお願い」
「了解」
「立華、ゆっくり呼吸しはじめよう」
先輩たちのおかげで身体にこびりついた匂いも、身体の中をめぐった匂いが消えていくのを感じる。
それにすきまから入り込む空気が変わった。
まるで空気清浄機みたいで、息を吸い込むたびに新鮮な空気が身体の中をめぐっていく。
「立華、大丈夫?」
「はい…ありがとうございます」
「いや、こちらこそだよ。立華が頑張ってくれたおかげでこんなに早くここまで来れたんだから。あとは俺たちに任せて」
「はい!応援してます!」
苦しくて流れてた涙をふいて顔を整えると、私は小鷹先輩に借りたタオルがよだれまみれになったことに気づいた。
「すすすすみません!!いっぱい洗って返しますから!!!」
「あはは!!そしたら早く終わらせて帰ろう!!」
「だな!立華!怪我したときゃすぐ治療してくれよな!」
「そん時は栄一郎より俺先によろしくな!」
「そこは怪我しないように、だろ。でも立華がいるのは心強いよ」
こんなに嬉しい言葉をいっぱい受け取っていいのだろうか。
まだ茨木先輩を捕まえてないのに、嬉しくて涙が出そうになる。
「…任せてください!!」
この騒動の元凶である茨木先輩は目の前だ。
なにがあるかなんて正直わからない。
でも尊敬する頼もしい先輩たちがいてくれるから、なにも怖いことなんてない。
「…水樹君に心配かけないように」
「ふふ…はい!」
渋谷先輩がこそっと声をかえてくれた。
ふうちゃんにそのことを報告したら《渋谷先輩には帰ってきたらお礼しなきゃな》って返事がきて、二人の仲の良さを知れてほっこりした。
先輩たちに続いて最奥部にある結界に足を踏み入れた。
するとそこは白とグレーを基調にしたシンプルな部屋の中だった。
壁いっぱいの本棚には異能力に関する本や、樹属性の専門書、術式指南書などたくさんの本で埋め尽くされていた。
「…なんだ…ここは?」
「誰かの部屋みたいだけど…」
「もしかして茨木の部屋?」
「それにしては男のくせに綺麗すぎねぇ?」
「それは海斗が汚すぎるんだよ」
「あ、そっか」
と、混乱した私の毒気を抜いてくれた波川先輩と栄一郎君の漫才。
でも確かに男の人の部屋っていうよりも
「…女の人の部屋みたい」
本も種類ごとにそろえられていたり、机に置いてあるペン立ても丸みがあって優しい感じもするし、清潔そうなベッドのわきには特別そうに写真立てがおいてある。
近づいて腰をおろしみてみると、笑顔いっぱい幸せそうな4人家族の写真だった。
「綺麗な人…」
お母さんだろうか、包容力いっぱいの笑顔に見守られる二人の子供たち。
大きい方はお姉さんだろう。勝気そうな笑顔のお姉さんにべったりはりついた小さな男の子。
そんな3人を大きく抱きしめるお父さん。
その顔に見覚えがあった。
「小鷹先輩…この人…」
「…茨木議員のようだね」
「じゃぁこの写真は…」
「茨木家族だね」
ということは、このお姉さんが亡くなった茨木先輩の姉で間違いないだろう。
こんな元気いっぱいのお姉さんがどうして亡くなってしまったのか…お姉さんの笑顔を見てると胸が痛くなる。
「ひゃっ!!!」
「立華!!!」
部屋が一回転すると足場が離れ、私たちは宙に浮き、空間にぐいっとひっぱれていく。
「ったく、今度はなんだよ…」
今度は尻もちをつかなかったけれど、栄一郎君に思いっきり右側をぶつけてしまった。
小鷹先輩が支えてくれてなかったら、栄一郎君も巻き込んで押し倒していたかもしれない。
「ご、ごめん、栄一郎君…」
「いや、俺は大丈夫だけど…」
「見ろよ、あれ」
音澤先輩が指さすほうを見ると、誰かのお葬式だった。
祭壇に飾られているのは、討伐員の制服を着た若い女性で茨木先輩のお姉さんに似ていた。
「うわぁぁぁぁ!!!姉ちゃん!!!姉ちゃん!!!!起きてよ姉ちゃん!!!!!」
中学生の制服を着た男の子が棺から離れなず、胸が締め付けられるような声をあげている。
きっとあれは茨木先輩だろう。
昔はお姉さんに似て綺麗な黒髪だったんだと思った。
「小鷹、あっち」
波川先輩が指さす方は、どこかの会議室のようだった。
そこにはなにかを叫ぶ茨木先生が大柄の男性たちに取り押さえられていた。
「お前たちのせいだ!!!お前たちが討伐任務を出さなければあの子は死ぬことはなかったっっっっ!!!!お前たち!!陰陽省があの子を殺したんだ!!!!!」
「茨木さん。何度も説明しましたよね?彼女が立候補したんです。我々は強制していない、と」
「でもおかしいだろ!!!!あの任務地は火山地帯だ!!娘は樹属性だったんだぞ!?!?いくら立候補したからって止めることはできただろ!!!!!」
「その件についても何度も説明しました。我々が確認すると彼女は恋人が行くから自分も同行したいのだ、と。ちゃんと同行誓約書に自らサインしています」
「うそだ!!!!!!捏造だそんなもの!!!!!!!」
「はぁ…あなたもご覧になったでしょう。彼女がサインしている映像も音声を。あなたも異能力者なのであれば、その意味が理解できないわけではないでしょう」
「!!!!・・・うっ・・・うぅ・・・」
陰陽省や討伐庁に所属する異能力者が任務を受けるには様々な決まりがある。
特別任務や例外を除き立候補であることと、任務でなにがあっても自己責任であるという誓約書にサインすること。
そしてサイン時は映像と音声で記録すること、である。
基本的に属性にあった任務が優先されるが、茨木先輩のお姉さんのように不利属性の任務になる場合や自己都合による同行の場合、指定した人物に手紙を送るよう指示される。
なぜならそれが最期になるかもしれないからだ。
だから茨木先輩のお姉さんもきっと手紙を書いたはずで、それを理解した茨木先生は成す術なく、その場に崩れ落ちた。
茨木先生の気持ち、わからないわけではない。
頭ではわかってるけど、気持ちがついていけないんだよね。
大切な人がいない世界に。
「次はあっちみたいだな」
茨木先生の声がだんたん遠くなると、音澤先輩が扉をみつけて指さした。
その扉の前には少し大きくなった茨木先輩の姿があった。
「・・・母さん、ご飯持ってきたよ」
「・・・」
「ここに置いておくね。お昼のは下げちゃうね」
「・・・」
扉を挟んだ先に見えるのは、写真にうつっていた姿からは到底かけ離れたやせ細り、虚ろな表情した母親が椅子に座っていた。
「・・・ね・・・・・・して・・・の」
「・・・母さん?」
扉から離れた茨木先輩がかすかに聞こえた母親の声に振り返った。
「・・・寧々・・・どうして・・・・・・あなた・・だったの」
静かに扉に耳をあてる茨木先輩。
「・・・どうして・・・あなただったの・・・どうして・・・・・・が残ってるの・・・」
母親の目から涙が零れ落ちた瞬間、茨木先輩は絶望を現したかのような表情をしていた。
泣きそうなのか、怒っているのか、悲しいのか、辛いのかわからない。
それとも全て混ざっているのか。
「そっか…母さんは姉ちゃんじゃなくて俺が死ねばよかったんだね…」
そう扉の前でつぶやいても、その声は母親の耳には届かない。
震える茨木先輩の手から赤いものが流れると、血でぐっと髪をかきあげ扉から離れていった。
その険しい顔つきは、私たちが踊り場でみた表情そのものだった。
「…これって…」
「次で最後みたいだ」
まるで茨木先輩の人生を追ってるようだと口にしようとすると、渋谷先輩が次の場面を指さした。
そこには私たちが知っている髪色の茨木先輩と、立派な書斎机に座った茨木先生がいた。
「いいか、正樹。必ず東都で1位を取り続けろ。最悪1位でなくても構わん。陰陽省の推薦がとれる活躍をするんだ」
「えぇわかってますよ父さん。例の術も完成間近ですし、実験も順調です」
「ならいい。それよりもあいつらだ。奇跡小僧と水樹兄弟め。忌々しい陰陽省の息がかかった連中だ。なんとしてでもあいつらを潰せ」
「もちろんです。連中の一人、水樹大雅の弱みも見つけましたから、時機に落ちるでしょう」
「ふん、ならいいがな。しくじるなよ、正樹」
「えぇ、もちろん。陰陽省復讐のために」
にっこり笑って茨木先生の部屋を出た先輩。
その唇からは血が滲んでいた。
ー 憎い ー
「!?!?」
私はとっさに耳をおさえた。
人のようで人ではない声が耳に突き刺さる。
ー なんで俺じゃない ー
ー なぜこんなに努力してるのに認められない ー
ー なぜ最初から持ってるやつばかりが選ばれる ー
ー あぁそうか、これも姉さんを殺した陰陽省のせいだ ー
ー 姉さんの死を隠蔽するために俺を排除しようとしてるんだ ー
ー 汚い ー
ー 汚くて憎い陰陽省 ー
ー 姉さんが同行した男も葬式には来なかった ー
ー あいつはいま陰陽省の役員だ ー
ー 憎い ー
ー 姉さんを殺したくせに ー
ー 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い ー
ー もう… ー
ー もう姉さんがいない世界なんていらない ー
ー 俺が新しい世界をつくり直してあげるからね、姉さん ー
茨木先輩の憎しみが脳に焼き印をつけられているみたいだ。
必死に痛みをおさえようとしても立っていられなくて座りこんでしまう。
《ふ、ふうちゃん》
《えでか!?どうした!?大丈夫!?》
《あ…頭…い、たい》
《えでか、痛みに意識を向けないで。えでかが大事に想う人に意識を向けて》
《だいじ…に?》
《うん、えでかの大事な人は誰?》
ふうちゃんの魔法のおかげで少しだけ思い浮かべる余裕ができた。
《わ、私の大事な人…ふうちゃん。ふうちゃんが一番、だいじ…》
《ありがとう、えでか。俺もえでかが一番大事だよ》
その言葉がさらに魔法になって焼き印を一つ消していく。
《あと、りさちんと…ダイヤちゃん…。お昼に、待ち合わせ、してる、の》
《うん、俺が伝言伝えたね》
《あとゆうた君に、博貴に、波多野…みんなでおしゃべりするの、好きなんだ》
《うん、俺もそうだよ》
《りく先生も、お兄さんも、櫻子お姉さんも大好き。はやく来月にならないかなってカレンダーながめてるの…》
《うん、俺も来月が楽しみ》
《齋藤先生も、さゆり先生も好き。強くて、かっこよくて、綺麗でかわいいの》
《俺も勉強させてもらってる、えでかの記録通してね》
《ふふ…あとね、小鷹先輩も波川先輩も、栄一郎君も音澤先輩も、渋谷先輩も好き。とっても頼りになる先輩たちなの》
《うん、俺がやきもちやくくらいにね》
それから太郎君も、光ちゃんも、港も、真紀ちゃんも瑠璃ちゃんも、碧ちゃんも尚也くんも、潤くんも世志輝も、家族も茶々丸も、みんなみんな大好きなの。
みんなが私の守りたいもの。
守りたい場所。
だからみんなを傷つける人はいらない。私の世界には必要ない。
「・・・な!・・ばな!!立華!!!」
ふっと体の中から私じゃないものが抜けた感覚がすると、栄一郎君の必死な声が聞こえて頭を抱えていた腕を離した。
「大丈夫か立華!!」
「え、いちろう君…」
視界がひらけると栄一郎君だけじゃなくて、私が守りたい大好きな先輩たちが心配そうに覗き込んでいた。
「立てるか?」
「うん、ありがとう」
「立華も聞いたのか?茨木の声…」
「はい…音澤先輩も?」
「あぁ。全員きいてる」
どうやら全員あの茨木先輩の憎しみがこもった声を聞いていたそうなのだが、結界が強いおかげか、かすかに聞こえる程度だったみたい。
「うん…もう大丈夫そうだね」
「すみません、小鷹先輩…」
「気にしないで。むしろよくあの幻聴から抜け出せたよ」
小鷹先輩によるとあれは茨木先輩による幻術の一種だったそう。
強く影響を受けてしまうと周りの声が届かなくなってしまうから、結界誘導できなかったそう。
なんとかこれ以上幻術がかからないよう結界をはってくれてたみたいだけど、よくひとりで戻ってこれたねってほめてくれた。
本当はひとりじゃなかったんだけどって言いかけたけど、この結界を保つようにってアドバイスをくれた。
なぜなら
「なんだ、解術できちゃったんだ」
茨木先輩が近づいてきてたから。
続く




