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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
修学旅行編
12/151

ー12ー

「ふあぁぁ~~~~…」

「楓ちゃん、すごいあくび!」

「だってまだ眠いよー」

「楽しみで眠れなかったの?」


そう。

いよいよ待ちに待った修学旅行がやってきたのだ。

そのため初夏のさわやかさを感じながら、6時に出発するバスに乗り込むところだった。

しかし私はさわやかさとは反対に寝不足だった。

もともと早起きは苦手なことに加え、暇があると波多野のことを考えてしまうので、さわやかよりも、一足はやい真夏の灼熱さで眠れなくなってしまった。




「楽しみなのは修学旅行なのか、それとも波多野君なのか…」

「わー!!もう!!目が覚めたから言わないで~~!!」


私は慌ててりさちゃんの口をおさえた。

いくら朱雀組の女子しか乗っていないバスとは言え、どこから情報が漏れるかわからない。

おかげで眠くてぼうっとした頭に一気に血流が戻って、改めてくじでバスの一番後ろの席を当てて本当によかったと思った。



賑やかなバスの中だけど、周りに気をつけながら私とりさちゃんは会話を続けた。


「しかしこの前の夜はびっくりしたよ~!波多野君に見晴台連れてってもらってたなんて!」 


あの日門限にはなんとかギリギリ間に合ったのだが、一部始終をりさちんに目撃されていたため私はりさちんに波多野への気持ちを打ち明けた。

りさちんは驚くことなく「やっぱりね!」と答え「よかったね」と抱きしめてくれた。

ふうちゃんとのことを知っているから、りさちんは私が恋愛に前向きになったことを素直に喜んでくれた。

その後夜中まで質問攻めにあったおかげで、りさちんとゆうた君の惚気話を聞くタイミングを逃してしまったけれど。


「もー次の日寝坊して朝練の準備間に合わなかったんだから~」

「それも波多野君にからかわれてたね」

「あー…寝坊した罰だってデコピンされたね…」

「…うふふ!楓ちゃん、顔赤~い!ほんとに赤でこ、だね!」


波多野に続いてりさちんも私をからかう。

その状況に自分でもおかしいと思うけど、本当のことだからおもしろくってつられて笑ってしまう。




するとりさちんはさっきよりも小声で私の耳元にこう言った。


「で、告白、するの?」


バスの騒がしさがかき消されるほど、私の胸がドキンと大きな音をたてた。


「ゆか先輩に恋愛運最高だって言われたんでしょ?」


…りさちんに打ち明けた翌日、半ば強引に引っ張られながら、1年の山田桜に教えてもらった3年玄武組の恋愛占いが評判の佐伯ゆか先輩に会いにいったのだ。




ー 3年玄武組 ー


「あら、あなたが2年の立華楓さんね!」


佐伯ゆか先輩は『妖艶』の言葉が具現化したような先輩で、本当に私と1つしか年が変わらないのか疑うような先輩だった。

とくに栗色のウェーブがかったロングヘアが綺麗で見とれていた私に「これくせ毛なの」と、微笑んだ。



「そういえばどうして私のこと知ってるんですか?」


まだ名乗っていないのに、私のことを知っていることに気づいた。

美術部のゆか先輩とは接点がなく、山田桜から聞くまでゆか先輩を知らなかったのに。


「よく私に相談にくる子たちから聞いていたの。夢でいろんなことを教えてもらえるんだって」


ゆか先輩は距離をつめ、私の頑固なストレートな髪をくるくるしながら私を見つめている。

(あれ?この香り…どこかでかいだことがるような…)

甘くて大人びた香りが漂ってきて、記憶をたどるように香りのもとをたどるとゆか先輩の胸元で、目のやり場に困った私は慌てて目をそらした。

(わ…私と全然違う…!!!!!!)


そんな私をくすくすと笑いながら話を続けた。


「2年生にも私みたいに恋愛相談にのってる子がいるんだって知って、いつか会いたいと思っていたの。いまは『赤でこちゃん』って呼ばれてるんだったかしら?」

「え!!!!!」


私の驚きように今度は声をあげてゆか先輩は笑った。

美人で大人っぽい先輩だけど、ちょっとだけ年齢差が1つの瞬間だった。


「今日はその彼とのことで相談かな?」

と、ゆか先輩は私とりさちんを席に案内しながら聞いてくれたが、私は素直に答えられなかった。

そんな私の背中をりさちんが支えてくれて、内臓が温まったおかげで少しずつこれまでのことを言葉にしていった。



ーーーーーーーーーーーー




「ゆか先輩によると修学旅行3日間の恋愛運最高だったんでしょ?」

「うん…運命が変わるような展開が待ってるって。告白には最高にいい期間だって」


ゆか先輩の占いによると、10年に一度のレベルで恋愛運だけでなく、すべての運勢が良いそうだ。

私の運命が、人生が180度変わるような展開になるから、なにが起こってもいいように覚悟してて、と。

それがもし、私が波多野に告白してOKをもらえたりするってことなんだろうか。

波多野と付き合えることになったとしたら…全然想像ができなくて、胸の鼓動だけがうるさくなっていく。




「告白かぁ…りさちんは…あ」

「すー…すー…」


なんだか胸の鼓動がやけにうるさいなと思ったら、ほとんどの女子が眠ってしまって騒がしかったバスが静かになっていた。


(東都まで5時間以上かかるもんね)

窓の外を眺めると、いつの間にか高速道路に入っていて、私たちの修学旅行バスしか走っていなかった。



告白のことは、正直まだどうするか決めていない。

嫌われていると思っていた波多野と、こんなに仲良くなれると思わなかったし、好きになるなんて考えもしなかったから気持ちの変化についていくのがやっとなのに、告白なんてもっとわからなくなってしまう。

それにもし私が告白したことで、仲良くなる前の関係に戻ってしまうことも怖い。

いくらゆか先輩の占いから自信は持てても、怖いものは怖いよ。



でもこの修学旅行期間中に決めていることが一つだけある。


(練習に付き合ってくれたお礼は伝えたい!!)


いつ誰がいなくなってもおかしくないから。

もうあんな後悔はしたくないから。

告白することと、お礼を伝えることを天秤にかけたとき、告白しない後悔よりもお礼を伝えられない後悔の方が大きかった。

だからお礼は絶対に伝えようって決めてきた。



起きたらりさちんに話そうと思いながら目をつぶると、ゆか先輩のある一言が頭をよぎった。



ーーーーーーーーーーーー


ゆか先輩の占いを聞き終わった帰り際のこと。



「ありがとうございました…なんというか…すごかったです」


ゆか先輩の占いは自身で描いたカードを使ったもので、一枚一枚の絵がとても綺麗で、美術館に飾ってあってもおかしくないほどだった。

占い中、何度もじっくり見せてもらったりもした。


「ふふ、ありがとう。じゃぁ今度赤でこちゃんに夢みてもらおうかな」

「えぇ!!そんな恐れ多いです!!」

「あら、その光…」

「え??」


私が両手を振る素振りをしたとき、ゆか先輩の驚いた顔を初めてみた。


「…そう、そうなのね…」

なにか納得したかのように呟いていたが、小声で俯いていたのでよく聞き取れなかった。

でもそのあとすぐに優しい笑顔で「修学旅行、楽しんできてね」と手を握ってくれた。


ーーーーーーーーーーーー



もしかしたらふうちゃんとの過去が観えたのかな、なんてすっかりゆか先輩の虜になった私は先輩へのお土産をなににするか考えていたら、いつの間にか眠りについた。




続く

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