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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
夏休み前編
115/157

ー115-

か・・・


か・・・・・・


彼女~~~~~~!?!?!?!?


私とりさちんは同時に目が合いアイコンタクトした。


(いま彼女って言ったよね!?)

(言った!絶対言った!りさちんも聞いた!?)

(聞いた!え、ふたりともいつの間に!?)

(もしかして昨日の夜!?!?)

(聞いてほしいことって、そういうこと!?!?!?)


ゆうた君も小鷹先輩たちも私とりさちんのアイコンタクト具合に若干苦笑いを浮かべていた。


「…ふん、君がどこの誰とどんな関係だろうと関係ないよ。僕の術にかかればね」


でも茨木先輩の気色悪い笑みで我に返った私たち。

ごめんなさい、先輩たちはずっと茨木先輩から目を離していなかったのに完全にふざけてしまったと反省した。


「ゎ…私が誰と付き合おうがあなたには関係のないことよ。もちろん近郷グループとも」

「そうだよ。ダイヤちゃんはもう僕の彼女だから。いくら優秀な先輩でも渡さないよ」

「・・・・・・」


戦闘モードなダイヤちゃんは依然として表情を崩してはいないけど、でも動揺したいだろうなって気持ちは伝わる。


「それに僕に攻撃するなんて、どういう意味か君たちわかってる?東都への宣戦布告だよ」

「先に仕掛けたのはそっちよ。それにー」

「ってことはダイヤちゃんは俺の彼女って認めたってことだよね。じゃぁいいよ宣戦布告で」

「…それに二人は彼女を助けるために技を使っただけよ」

「俺はダイヤちゃんのために動いたよ」

「・・・」


えっと…なんだろう、この状況。

笑ってはいけないのに、笑いたくなるような状況は。


「…先輩、こいつ話通じてないみたいなんすけど」


やめて波多野。みんな真剣な顔をキープしてるのに、一人だけわけわかんない顔しないで。

これ以上私を笑っていいのかわからない状況をかき乱さないで、すぐに笑ってしまいそうだから。


「波多野、そこはつっこんじゃいけないよ」


小鷹先輩が笑いながら波多野に返してくれたので、やっと少しは笑っていいんだと気が緩んだ。

それにしてもこの場で一番怖い顔をしているのは茨木先輩よりも博貴かもしれない。

見慣れない表情に不思議とある気持ちがわきあがる。

頑張れ、たかちゃん、頑張れって。


「で、もうダイヤちゃんに用はないよね。道あけてよ」

「君…僕と同じ属性だから少しはかわいがってあげようと思ったけど、そんなに僕を怒らせたいんだね」

「ねぇ波多野。話通じないの俺じゃなくて先輩みたい」

「ふっ、ほんとだ」


茨木先輩、博貴に波多野が戦闘態勢にはいった。

さっきも思ったけれど、博貴の身体からバチバチと放電しているみたいで、波多野とのタッグ技なのだろうか。

一見樹属性には見えないほどで、初めてみるスタイルだ。


「それでも通さないっていうなら、力業で通らせてもらうわ。友達が待ってるもの」


ダイヤちゃんも髪を整えなおすと、重心をおとし構えた。

その姿は見えないのに鞭が見えるようだ。


茨木先輩は怖い顔のまま、無言で3人をにらみつけ、張り詰めた静寂が流れる。





「・・・ふん。今日は邪魔が多いからな、見逃してやる」


そう言って茨木先輩は踵を返し。階段を上りはじめた。

ダイヤちゃんたちを囲っていたファンも親鳥についていくみたいに茨木先輩の後をおった。


「あぁ、思い出した」


階段の途中で茨木先輩が立ち止まり、振り返ると上から見下ろし、ある人物を名指しした。


「ねぇ波多野君、そういえば西治癒室は大丈夫かな、なにか知ってる?」

「は?西治癒室?しら・・・」


茨木先輩がなんて言ったのかはなにか術がかけられていたのか、なにも聞き取ることはできなかった。

でも私の耳が聞き取った波多野の言葉。

その意味を理解したときには波多野はもう電光石火のごとく西へむかっていた。


西治癒室にはゆか先輩がいる。

茨木先輩はゆか先輩にまでなにかしたということなのだろうか。

問いただそうにも茨木先輩の姿はすでになかった。


「ちっ。逃げ足のはえーこと」

「逃げ足だけは、じゃない?」

「言えてる」


音澤先輩と波川先輩がクスクス笑っている声がする。


「立華、お前なんで絡まれやすいの?」

「し、知らないよ…そ、それよりも栄一郎君!ゆか先輩が西治癒室にいるの!そ、それで」

「落ち着け立華、佐伯なら大丈夫だ」

「で、でも」

「茨木のあれは嘘だから」

「う、うそ…?」


拍子抜けして変な声になった私。

そんな私を笑わずに、栄一郎君は説明してくれた。


「さっき俺たち西治癒室に行ってたんだ。そのとき佐伯はいつも通りだったし、幻術にかかった様子もなかった。それに茨木の講義にそもそも参加してないそうだ。だから茨木の存在自体を知らない」

「さゆり先生も一緒だったからね。さゆり先生がいればなにがおきても大丈夫だよ…ほら」


小鷹先輩が指さすほうをみると、さゆり先生とゆか先輩、そしてばつが悪そうな波多野が3人一緒にこちらに向かっているのが見えた。

ゆか先輩も私と目があうと、にこっと微笑んでくれて本当に茨木先輩の嘘だったことがわかって床にへたりこんだ。


「か、楓さん?!大丈夫?!」

「あはは…大丈夫です…」

「波多野君もすごい顔で飛んでくるんだから…もう、いったいどうしたの?」

「…べ、べつに」


私がへたりこんだら慌てて駆けつけてくれたゆか先輩。

よかった。いつも通りのゆか先輩だ。


「あら~立華さん、まだ貧血残ってる~?」

「いえ、それはもう大丈夫です」

「あぁ、あの鼻血な」

「もう!瑠璃ちゃんに真紀ちゃんに言いつけるからね!」

「げっ!じょ、冗談だって!」


私と栄一郎君のやり取りで私の元気が証明されたのか、現場の状況をやっと把握したさゆり先生とゆか先輩。

すぐに吹き抜けの天井まで破損がないか確認作業が行われ、倒れたままだった東都生もゆか先輩と波多野が治癒室へ運んでいった。


「じゃぁもうすぐ夜練はじまる時間だけど、みんな本当に大丈夫ね~?」

「えぇ、大丈夫です。それに練習はじまったら、みんなもっと元気になりますから」

「うふふ、そうね~じゃ遅れずにむかうのよ~?」

「はーい!さゆり先生またね~」


状況報告のためこれから会議招集だと言うさゆり先生を見送ると、踊り場から動かない二人に視線が集まった。

二人の動向が気になるところだけど、空気の読める音澤先輩が「そっとしといてやれ」と声をかけ、私たちは先に夜練に向かった。

ダイヤちゃんから事の顛末がきけるのが、いまから待ち遠しくて、結局りく先生がどこにいたのかわからずじまいだったことを忘れてしまった。





ー 練習場 ー


「おー…今日も床と仲良しだな」

「…床じゃなくてクッション草です」


レギュラーチームの元気いっぱいな夜練が終わると、お腹いっぱいの私はりく先生との特訓中だった。

解呪で元気になったみんなが集まった食堂はいつもよりにぎやかで、つい食べ過ぎてしまった私。

でも昨夜は調子がよかったのに、今日はいろんなことがあったからだろうかイメージが散らばってしまって空中感覚の特訓が始まって以来のダメさ加減。

気持ちだけは頑張りたいのに、すぐに頭と体がクッション草に直進してしまう。


「ま、今日は朝から疲れただろうからな。ちょっと早いが休憩するか」

「…はい」

「ほら、座れ」


りく先生は前にも見せてくれたハンモックを一息でつくってくれた。

私はゆっくり腰をかけると、りく先生はあっという間に寝転んでいた。

いつもながらリラックスのお手本まで見せてくれるりく先生。

なんだが私も急にほっとして、長かった1日がやっと終わりを迎えることに安堵した。


「そういえばりく先生、茨木先輩と遭遇したときどこにいたんですか?ふうちゃんは近くにいるって教えてくれましたけど…」

「あー、俺は天井の上にいたんだよ。あの時、正面玄関周りも囲まれててな、あそこが中も外も見張れるところだったんだ」

「え!?そ、外にもいたんですか!?」

「あぁ。外には式神がな。だからあいつらにお願いしたんだ。ちょうど近くにいたからな」

「そうだったんですね…」


りく先生の話によると、他の生徒とは別のレイヤー層につながるよう結界を張られていたらしい。

だからあの騒動を知っているのは私たちだけなのだそう。


「でもさゆり先生、会議があるって言ってましたけど」

「それもな、東都側…つうか茨木一派に潰されたよ。生徒同士の喧嘩なんてよくあるだろってな」

「そんな!ひどい…」

「ほんと、大した権力も実力も実績も頭脳もねーのに金だけ持ってるやつが一番めんどくせえ」


と、りく先生は低い声で鬱憤を吐き出した。


「まっ空雅さんが動いてるからな、お前はそれまで茨木一派に絡まれないよう気ぃつけろよ?」

「うぅ…気をつけてるはずなんですけど…」


ふうちゃんと約束したように一人で行動しないようにもしているし、目立つ金髪の気配がないか気を配ってるはずなのに、いつの間にか結界を張られていたら今回みたいに知らずに入ってしまうこともあるだろう。

そんな疑問をなげかけると、りく先生は「あ」と、なにか思い出したようだ。


「そういや齋藤先生の講義受けに行ったんだったな。明日も行くのか?」

「はい、ダイヤちゃんが受けたいみたいなので」

「ならお前も受けるといい。齋藤先生も結界師だし、北都結界師協会の理事でもあるんだ。だからいい勉強になるはずだぜ」

「そ、そうだったんですか?!齋藤先生ってそんなにすごい方だったんですね…」


そりゃどこか近寄りがたいオーラがあることに納得だ。

といっても今は町で齋藤先生を見かけたら、つい声をかけてしまいそうなほど大好きな先生の一人だが。


「そうそう。前に鈴村姉が櫻子の恩師から結界術を学んでるって話したろ?その恩師が師事したのが齋藤先生なんだよ」

「へぇ~…って、あれ?…そ、そしたら…齋藤先生っていくつなんですか…」

「さぁ?俺の担任だったころと変わってねーからな…だから裏で魔女って呼ばれてたのは秘密な」


きっと北都高の教師陣のなかでは一番教員歴が長いと聞いたことがあるので、普通に考えて年齢も高いはずだ。

でも周りに引けを取らないほど、実力と実績が齋藤先生を若々しくみせているのだろう。

私も齋藤先生みたいに年をとっていけたらと思うので、いつか秘訣を教わりたいなと思う。




りく先生から魔女って呼んでいたのがバレて過去一怒られた話を聞いていると、りく先生は伸びをしながら起き上がった。


「さ、休憩は終わりだ。続きやるぞー」

「はい!おかげで今日の疲れとれました!」

「ふっ。じゃぁ高みの見物でもしときますか」


私も勢いよく立ち上がると、ふうちゃんにこれから空中感覚の特訓を再開することを魔法で伝えた。

すると意外な返事が返ってきた。


「あ…りく先生、ちょっと待ってください。今ふうちゃんから伝言預かって」

「大雅さんから?なんだ?」

「えっと…《兄ちゃんから伝言。こちらはあと2日で終わるから時間稼ぎよろしく。あとわかっていると思うけど、そっちもまだ終わったわけじゃない。なにか大きな動きを感じる。結界に気をつけろ》…だそうです…」

「って空雅さんか…なんでお前を通してきたんだよ」

「こっちのほうがはやいから、だそうです」

「はぁ…わかった。了解って返しておいてくれ」


と、りく先生は頭をぼりぼりかきながら、少し考え込んだようだった。


《ふうちゃん、りく先生が了解、だって》

《ありがと、えでか。それにしても兄ちゃんひどい。俺とえでかの魔法なのに》

《ふふ、でもちょっと楽しいかも》

《む。ならいいけど》


だって携帯よりもはやいってことだもん。

呪いのはずなのになんだか誇らしい気持ちになった。


「まぁそういうことだ。お前は2日間、茨木一派とは関わらないこと、いいな?結界については明日齋藤先生から防ぎ方をきいてこい」

「は、はい…」


せっかく昨日幻術にかかったみんなを解呪して、本来の強化合宿に戻れると思ったのに、また茨木先輩たちのせいでなにかおきてしまうのだろうか。

私もなにかできることがないか、事前にみんなを守るためにできることはないか考えてもほとんどないのが現状だ。

ならば肩を落としていても仕方ない。

私がいまできることといえばひとつしかない。


「先生!特訓お願いします!」


それは1日でもはやく、1時間でもはやく、1分でもはやく、空中感覚をマスターすることだ。


「威勢がいいな。じゃゴール地点を特別に上げてやる」

「うっ。の、望むところです!!」


そうしてもともと目標地点だった植物時計よりも2メートルあがって、練習場の天井になってしまった私は何の進展もなく、ただクッション草と仲良くするだけなのであった。





「つかれたぁぁぁぁ~~~~~」


寝る準備を波多野の電光石火のごとく整えると、私は思い切りベッドにダイブした。

空中感覚の特訓をはじめて数日、いまだゴールに到達できない焦りと悔しさが私の口をすねらせる。

りく先生は落ちる経験も必要だからこれでいいって言ってくれているけど、はやく「上出来だ」って言われたいよ。


《あはは!りくさんらしいね!》

《も~でも全然うまくいかないよー》

《そんなことないよ。りくさんのことだから、うまくいってるからゴールあげてきたんだと思うよ》

《そうなの?》

《うん、俺と同じ》

《む。ならいいかな》


猫のぬいぐるみを抱きかかえながら、特訓のことをふうちゃんに嘆いていると笑いながら慰めてくれた。

とても自分じゃうまくいってるとは思えないけど、ふうちゃんと同じならうまくいってることにしよう。


《もう高いところは慣れた?》

《う~ん、まだあんまりかも。いまはクッション草があるから安心できるけど、なかったらまだ苦手かな》

《そうだよね。そしたらさ、天井のゴール目指すより、落ちた時の特訓してみるといいかも》

《落ちたときの特訓?》

《うん、簡単に言えば受け身なんだけど、いずれすぐに攻撃態勢にはいる特訓もするはずだから》

《そっか…それなら空中感覚の特訓もできて、受け身の特訓もできて一石二鳥だね!》


今までゴールまで到達することしか考えてなかったから、ふうちゃんの発想すごい!っていっぱい魔法を返した。

ふうちゃんは照れたようで少し間が空いてから《ありがとう、えでか》と返事が返ってきた。


《ふうちゃんは特訓どう?》

《今日は櫻子姉さんも一緒だったから、二人で散々いじめられたよ》

《ふふ。楽しそうに聞こえちゃう》

《楽しいのはえでかが魔法くれるからだよ》

《そうなの?そしたらいっぱい送るね》

《うん。待ってる》


特訓優先でいいからねって言ってkるえたけど、でも私が魔法を送ることで辛い特訓も楽しくなるのなら息するのと同じくらいなんてことないんだから。

むしろ私ももっと楽しくなっちゃう。


《それでどんな特訓だったの?》


ふうちゃんから毎日聞く特訓内容は、ほぼ毎日お兄さんとの戦闘訓練のようなもので。

私たち学生の模擬戦なんてスポーツでしかないって感じさせる内容だ。

でもそれがふうちゃんにとっての日常で、私の日常にもならなきゃいけないもの。


《~~で、櫻子姉さんと兄ちゃんの結界術はいつもずるいんだよ》

《ふふ、櫻子お姉さんもお兄さんもすごいけど、でもふうちゃんもすごいよ。だって2対1なんでしょ?ふうちゃんのほうがすごいくらいじゃない?

《…もう、えでかがそう言ってくれるならそれでいいかな。嬉しいから俺の勝ちにする》

《あはは!じゃぁ明日は私がりく先生に勝ってくるね》


今日の疲れなんて吹き飛んで、永遠におしゃべりできちゃうんじゃないかと思うくらい笑っていると、博貴とダイヤちゃんのことを思い出した。

ふうちゃんにその時の様子を事細かに説明すると、ふうちゃんの博識ぶりが披露される。


《なるほど…きっと近郷さんは付き合ってるとは思ってなさそうだね》

《でもたかちゃん、ダイヤちゃんのこと彼女って呼んでたよ?》

《たぶん、博貴が先走ってるか、近郷さんが博貴の告白に気づいてないとかなのかもね》

《なるほど…さすがふうちゃん。恋愛博士だね》

《えでか…お、俺がこういう知識ついたのはえでかのこと思ってのことなんだからね?》

《んふふふ、うん、わかってるよ?》

《もう~》


でもふうちゃんのおかげで博貴とダイヤちゃんの温度差に納得がいった。


《ふうちゃん予想では二人どうなるかな?》

《えでかはどうなってほしい?》

《もちろん幸せになってほしいよ》

《じゃぁ絶対、そうなるよ。えでかがそう想っている限り》


優しい気持ちが胸の奥をあたためる。

そしてそれが明日へ私を動かしてくれる。


《ふうちゃん、私、明日も頑張るね》


結界の勉強も空中感覚の特訓も、受け身の特訓も。

きっと一人では諦めてたかもしれないけど、ふうちゃんと一緒だから頑張れる。


《俺も、えでかと一緒だから頑張れるんだ。だから明日も一緒に頑張ろう》

《うん!!》


気づけばいつの間にか夜が深くなっていた。

優しい優しい二人だけの夜。




続く

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