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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
はじまり
11/151

ー11ー

思えば私が『意図したことを夢にみる』ことができるようになったのは、この日からだったと思う。

起きてるとふうちゃんを思い出して泣き続けてしまうし、だからと言って目を閉じて眠ろうとしてもふうちゃんの目と目があって、また泣いてしまうから

「ふうちゃん以外の夢を見れますように」

って意図しはじめたのがきっかけだった。




「あれからもう7年経つのかー」

ふうちゃんのことを思い出していたら、あっという間に部活が終わっていて、流れるまま練習場裏のお花スポットに座り込んでいた。

私の癒しお花スポットだったけど、今では波多野との練習スポットになってしまった。


私は両手を見つめながら、あの青い光を思い出した。

もう何年も“魔法”は使っていない。

確かめてはいないけれど、“魔法”は最初からなかったんだと思う。

きっと私が少しでも安心できるように光だけ残してくれたのかなって思ってるから。

だから“魔法”を光らせることだけはできると思う。やっていないだけ。




本音を言うと光らなかったら本当にふうちゃんとのつながりが何もないことを実感してしまうから、出来ずにいるだけなんだけど。





「おい、なに自分の手見ながらぼーっとしてんの」

「わっ!!びっくりした!!」

後ろから波多野に声をかけられたからか、それとも波多野に会ったからか、ドキドキしはじめた。


「ねぇ、そういえば看板、立てられてるよ」

「看板?」


そう、私と波多野が特訓をはじめてから、毎晩のように練習場を覆いつくすように草花たちを成長させてはそのままにして逃げるように寮に帰るもんだから、とうとう注意看板を立てられてしまった。


『いたずら異能禁止』


「別にカメラで撮られてるわけじゃねーしバレねーよ」

「そっちは良くても、こっちは罪悪感半端ないんだけど…」

「はぁ?楽しそうに帰ってるじゃん」

「うぅ…」


もちろんちょっと悪いことしてる気分は楽しいけれど、朝練前に覗きにきたら警備員さんや用務員さんが一生懸命異能抜きをしたり、刈ってるのをみて胸が痛んだ。


「だって片付けるの大変そうだっだもん…」

「ふーーん…」


せっかくハードな部活終わりに私の練習に付き合ってくれているのに、やる気のない態度に見えてしまったかもしれない。

後ろに立つ波多野の声が冷たく聞こえて、振り返るのが怖くなった。




「なんか元気ないじゃん」

「え?」


てっきり怒っているのかもと思ったから、心配してくれて胸が温かくなった。


「おい、出かけるぞ」

「出かける?どこに?」

「黙ってついてこい」

「え!?ま、待ってよ!」


何の迷いもなく鞄を持って波多野は歩きはじめ、慌てて波多野に駆け寄った。

勘違いかもしれないけど、練習し始めたころに比べて波多野の歩くスピードが遅くなった気がする。

いつも私の1メートルくらい前にいた波多野が、手を伸ばさなくても袖を掴める距離にいてくれる。

待ってって言うと小言を言うのは変わらないけど、嫌な顔せずに待っててくれる。

そんな小さな変化に気づいて少し口元が緩んだ。




「ね、ねぇ、寮通り過ぎちゃったよ?」

波多野との変化に浮かれていたら、寮を通り過ぎ、学校の裏山の方へ進んでいた。

それでも波多野は黙ったまま歩き続けた。


「ねぇ…外出届出してないのにいいの?」

「今までバレたことないから大丈夫」

「ん?ってことはたまに外出してるの!?」

「普通するだろ」

「普通しないよ!」

規則を守っているのは私なのに、規則を破っている波多野に鼻で笑われた。



(バレるバレないで判断して~~!!!)

(バレたらどうしよーーー!!!)

頭の中は寮母と寮長にバレたとき、なんて言い訳したらいいのか、とか、素直に謝るしかないか、とか。

反省文かかされるかな、とか。謹慎になって修学旅行行けなくなったら、とか。

最悪な状況で頭がぐるぐるしていた。


「寮の裏の柵、抜け穴があんだよ」

「え?そうなの?」

「ゆうたと彼女も使ってるよ」

「え!!うそ!!!」

「この前も門限過ぎに帰ってっきてたし」

「え…知らなかった」


だから大丈夫だ、と言うように私の心配事を減らしてくれた。

おかげで寮に帰ったらりさちんに詳しく話聞かなくちゃって頭がいっぱいになった。




30分くらい登ったところで、波多野の歩みが止まった。

裏山に入る前と変わらず汗一つかいてない波多野とは真逆で、息もきれてるし、太もももぷるぷるしてるし、歩くスピードを合わせる優しさはあっても体力まで気遣ってくれる優しさはないの!?

と文句を言うのに顔を上げると開けた見晴台になっていて、一面の星空が広がっていた。



「わぁ…!すごい…きれい」


学校と寮のわずかな光しか残っていないためか、星がひとつひとつ輝いているのがはっきりとわかる。

そして初夏の夜らしい匂いと、海風の涼しさが星の輝きをより引き立てた。


「裏山にこんなところあったんだ」

「有名だけどな」

「私、全然知らなかった!すごいすごい!きれい!」


こんな景色を前にすると、汗も足の疲れも消え去り、ぴょんぴょん飛び跳ねた。


「飛ぶほどかよ」

「だってすごいんだもん!」


私の興奮ぶりに苦笑する波多野だったが、それでもじっとしていられないくらい綺麗だった。


「危ないから座れよ」


ずっと上を見上げて飛び跳ねていたので気づかなかったが、二人掛けのベンチが2つ並んでいて、右側のベンチに波多野は座っていた。




(これは…どっちに座ったらいいんだろう)


私は悩んだ。

私が座れる余裕はありそうだし、波多野の隣に座ってもいいのだろうか?

で、でも、隣に座ってもいい仲と言っていいのだろうか?

仲が良いと思ってるのは私だけって可能性は捨てきれないよね?

でもほんとはほんとは隣に座りたいーー!!


「………」

(なにしてんの?)って目でみてるーー!!

波多野を見たら消えたはずの汗と足の震えが倍になって戻ってきた。


(もーーー!!!!)

私は座るベンチを選んだ。

こっちが正解だと信じて。




「…なんでそっちなんだよ」

左側のベンチを選んだが、どうやら不正解だったようだ。

欲望に素直に従っていればよかったと後悔した。


「あ、汗!汗かいたから!それに広い方がいいじゃん!またおでこ叩かれるかもしれないし!」

私はショックを隠すように早口で強がった。


「まぁいいけど。…元気なったじゃん」

「あ」


そういえば私、今日の午後はずっとふうちゃんのこと思い出してたんだ。

元気のつもりだったけど、元気じゃなかったんだ。


「だから連れてきてくれたの?」

「お前、練習しても全然だめだから俺がサボりたくなっただけ」

「だっだめじゃないもん!ちょっとは強くなったはずだよ!」

「まだ全然よえーよ」

「んーー!!!」



『サボりたくなった』って口では言うけど、本当は私を元気づけるために連れてきてくれたんだって自信をもって言える。

問題ばかり起こすし、からかわれてばかりだけど、本当は面倒見がよくて本当は優しいところがあるって知ってるから。

ずっと嫌いなままだったら気づかなかった。


17歳の誕生日に見た夢は、私が波多野に恋する予知夢だったのかもしれない。

トクン、トクンと高鳴る胸が教えてくれるようで。




「うるさいから目つぶれ」

「わ!!!」

ぼうっとした一瞬で、まるで瞬間移動したみたいに私の隣にやってきた。

心の準備ができてない近さに心臓がとまりかけた。


「はやくしないと門限すぎるぞ」

「うそ!?」

デコピンの準備をしながらニヤニヤ笑っているが、嘘ではなさそうだ。


すでに外出届を出さずに規則を破ってしまったが、門限を過ぎる違反までは犯したくなかったので嫌々目を閉じる。

なんて、目を閉じる言い訳をいつも考えているけれど、本当は波多野とのくだらないやりとりを少しでも長く続けたいだけなんだ。


だから頭と心は波多野に悟られないように持てるIQをフル活動させているのに、額はいつも受け入れ態勢万全で、パチンと軽やかな音とともに素直に受け入れる。


「いた!!!!」

「ぷっ!!終わったからはやく帰るぞー」

「もーー!!」




私はいつも嘘をつく。

本当は全然痛くない。音が鳴るだけで痛みは全く感じない。

でもそう言えば、デコピン後もおしゃべりできるんじゃないかなって思うから嘘ついちゃうんだ。




これは私と星空だけの秘密。




続く

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