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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
夏休み前編
103/151

ー103-

ー 交流会 ー


畳式だった合宿所の大部屋を一時的にフローリングに改造された交流会会場。

調理部隊がアクシデントもありながらも下ごしらえから準備されたお料理が、バイキング形式に並べられている。

りさちんたちが張り切っていたかいもあり、頬張る東都生の顔がみな美味しそうで、私もなんだか嬉しくなった。


「ん!…これ、すごくおいしい…」

「あ、それ!うちの畑でとれたトウモロコシなんだよ♪」

「すっごく甘くておいしいわ」


ダイヤちゃんのお口にもあったようで、りさちんも嬉しそう。


「ダイヤちゃん、こっちのカルパッチョもおいしいから食べて♪」

「楓まで~ありがとう」


と言いながら私も北都がほめられるのが嬉しくて、ダイヤちゃんにもっと食べさせたくなっちゃってるんだけど。


「それはそうとさ…」

「うん…」

「楓ちゃん、すっっっっごく見られてるよね」

「あ、はは…だよね」


そう。あまり気にしないようにはしていたけれど、交流会会場に入ってすぐ東都生からの視線が集まっていることに気づいた。

好奇心の視線もあれば、嫉妬、妬みなど暗い感情の視線もあり、正直居心地はよくない。

こうなると見越していたりく先生からは、寮に戻ってもいいって言われたけれど、逆に私がいない方が変に思われそうだったし、ダイヤちゃんがいるから安心できた。

それにすぐ近くにりく先生もいてくれるから、仮に傷つくような言葉が飛んできても全然痛くない。


「楓、私のそばから離れないでね?」

「うん、ありがとうダイヤちゃん!」

「ひゃ~いまのダイヤちゃん、かっこかわいい!!」

「え!?」

「ほんとに!だからこれも食べて♪」


なんて周りのことなんて聞こえずに楽しんでいるから、徐々に視線も届かなくなっていった。

中には話しかけてきてくれた東都の3年生もいるけれど、居残りしたときに女子寮で少し挨拶した先輩たちでみんな優しかった。

ふうちゃんからは《えでかを悪く言うやつがいたら顔、控えておくから安心してね》って魔法が届いたけれど、その必要はなさそうで安心した。


「あ~~!!いたいた!!やっと合流できたよ~~~」


お腹も8分目をすぎたあたりでデザートタイムに入ったころ、博貴とゆうた、波多野も合流し、居残りメンバーが集合した。


「ダイヤちゃん、これ食べた!?おいしーよ~~!!」

「ちょ…!!そ、そんなに食べれないわよ…!!」


博貴はダイヤちゃんに会うなり、ダイヤちゃんのお皿に次々と一口サイズのケーキを乗せ怒られている。

でもダイヤちゃんに怒られるのが博貴は嬉しそう。


《ふうちゃん、ダイヤちゃんとたかちゃん、いい雰囲気だよ》

《博貴にもようやく彼女できるね》

《ん~それはどうだろう…》


博貴は無自覚にダイヤちゃんに懐いている大型犬みたいで、どうにかダイヤちゃんが北都にいる間に自覚してほしいところではある。


「ねぇ、りさちん…ってあれ?」


ダイヤちゃんと博貴の関係を進展させるために、なにか作戦会議できないかとりさちんに声をかけようとすると、隣にいたはずなのにいつの間にかゆうた君も消えていた。


「榎土ならゆうたとあっち」

「あっち??」


心細くなった私に波多野が教えてくれた先をみると、りさちんとゆうた君は東都生たちの輪の中にいた。

その中にゆうた君の対戦相手だった先輩もいたので、きっとりさちんも話を聞きたかったのだろう。

必然的に二人になった私と波多野は、大人しくデザートをつまみながら壁によりかかった。


「波多野も東都生とお話してたの?」

「あー、何人か。あんまおもしれーやついなかったけど」

「ふふ、そうなんだ」


さすがに私だけ山盛りのケーキを食べてるのは変かなと思い、波多野に「食べる?」ときくと、メロンショートケーキのメロンだけとられてしまった。


「そういえば、ゆか先輩、元気になってよかったね」

「あ?…あぁ…」


合宿準備期間中は自宅で療養していたゆか先輩。

もう大丈夫なのにってゆか先輩は明るくふるまっていたけれど齋藤先生のすすめもあり、昨日まで帰省していた。

合宿中の治癒隊も自由参加ではあるものの、体育祭の挽回をするため参加してくれている。

私は挽回するものなんてないのにって思うけど、ゆか先輩なりに思うことがあるのかもしれない。

だから同じ3年生たちと楽しそうに談笑しているゆか先輩をみて、ほっとしている。

波多野も同じ気持ちなのか、声色が優しい。


今ならゆか先輩のことどう思ってるか、とか聞いてもいいだろうかなんて迷っていると


「ってか、なんであいつ来なかったんだよ」

「あいつ??」

「おめーの男だよ」


と、言われドキッと胸がなった。

だって「私の男」だなんて改めて言われるとドキドキしちゃうもの。


「あ!ふうちゃんならお兄さんのお仕事のお手伝いで来れなかったんだ」

「大会には出んの?」

「ううん。大会もお手伝いがあるから」

「ふーーーん」


ちょっと意味深な反応で、若干の気まずさを感じているが間違ったことは言っていない。

とは思いつつも、条件反射でにらまれたら目線を外してしまうのだが。


「うぅ~…かえでぇ…」


すると楽しく二人で談笑していたはずのダイヤちゃんが限界を超えたのか、顔から湯気をたてながら私の腕にしがみついてきた。

不意打ちのかわいらしさに、私の胸がきゅんと音をたてた。


「ねぇねぇ~~!!楓はどう思う~!?」

「なに~??」

「俺の最後の決め技とダイヤちゃんの決め技!!どっちが綺麗だった~~!?!?」


まったくこの天然たかちゃんったら。

こんなにかわいいダイヤちゃんの姿を大勢の目にさらしていいのかい??

近くの東都生たちがチラチラとダイヤちゃんに視線を向けているのがわかる。


「ねぇ波多野は~!?どっちどっち~~!?」

「あ~…お前のは粗削りだったな」

「うっ!…それ、小鷹先輩にも言われたんだったぁ~…」

「じゃぁダイヤちゃんの方が上手だね!」

「もう~楓までぇ…」


博貴にライバル出現かと思われたが、ダイヤちゃんの様子をみると溜息をついて背を向けたので、私の期待ははずれてしまった。


「でも二人とも同じ決め技で勝ったなんて、すごいよね!なにか打ち合わせしてたの??」

「ぜんぜん~~!!あれね、仮面ランナーDの技なんだよ~!!」

「あっちょ…!!」


仮面ランナーファンであることを隠しているダイヤちゃんは、周りに聞こえないように博貴の口を塞いだ。

でも無意識に近づいたことに気づいて、すぐに離れてしまった。


「ごめんごめん、ダイヤちゃん~。でも俺、けっこう仮面ランナーの技真似することあるよ~~」

「そうだったんだ!全然気付かなかったよ」


すると博貴は、あの技はあのシリーズのこういう技で~と、解説をはじめてしまい、私の頭にははてなマークがいっぱい並んでいく。

波多野も小声で「またはじまったよ…」とつぶやいたのが聞こえた。


「あとね、あの時の技は~」

「博貴、その技はまだ練習中でしょ?」

「あ、小鷹先輩!」


博貴のマシンガントークをとめてくれたのは、小鷹先輩だった。


「え~まだだめですか~~??」

「あぁあの技?溜めが長すぎるからうまく術使えって言ってるじゃん」

「それが難しいんですよ~~栄一郎せんぱ~い!」


博貴の周りには小鷹先輩だけでなく、栄一郎君や波川先輩、音澤先輩も一緒にやってきた。

それにりさちんとゆうた君も小鷹先輩たちと合流したそうで、一緒に戻ってきた。


「あれ?東都生?」

「私たちのお友達なんです!」

「あ、東都2年の近郷です…」

「あぁ!博貴がいつも話してる子?!」

「そう!俺より強い女の子ダイヤちゃんだよ!!」


その言葉を聞いた者はみな気づいた。

博貴が自分より強い女の子が好きなことを。

ただひとり、本人とダイヤちゃんだけが気づいていないようだが。

見ているこちらはとてももどかしい。

いますぐ真意を確かめたくなるが、きっと博貴自身が気づかなければ平行線だろうとぐっとこらえる私たち。


「博貴…お前なぁ…」

「ん??どしたの音澤先輩??ダイヤちゃん、ほんとに強いんですよ~」

「でもたしかに模擬戦みたけど、博貴より強いわな」

「うんうん。博貴より洗練されてたしね」

「あ、ありがとうございます…」


さすがのダイヤちゃんも初めて会う北都の先輩たちからほめられ続けて、照れながらもうれしそう。

音澤先輩に武器の話をふられると、ダイヤちゃんの声もはずんでいる。


「むっ」

「たかちゃん?」

「う~ん、なんかおもしろくなぁい」

「???」


ただ博貴の様子がおかしい。

いつになく不機嫌な顔を隠しきれていない。


「なぁんか先輩たち意地悪!!ダイヤちゃん、あっちいこう!!」

「え?ちょ、ちょっとまって…」


と、博貴は持っていたスイーツ皿を栄一郎君に押し付け、ダイヤちゃんの手をとり交流会会場を出て行ってしまった。

私は博貴の珍しい行動に追いつけずにいたが、栄一郎君や波川先輩たちがニヤニヤしていた。


「あいつの天然に巻き込まれてる仕返し」

「あの子も振り回されてかわいそうに」

「栄一郎君、もしかしてわざと怒らせたの?」

「さぁね。でもこれでちっとは博貴も成長してくれればいいなと思っただけ~」


と、栄一郎君は意地悪そうににやりと笑うと、ゆうた君も「いい気つけ薬になるでしょ」と作戦会議していたことを教えてくれた。


「りさに相談されて、先輩たちと考えたんだ」

「へっへ~ん、せっかくダイヤちゃんが北都にいるんだもん、ちょっと進展したらいいなと思ってさ♪」

「ふふ、これは恋バナが盛り上がりそうだね♪」

「波多野もいつでも先輩たちに相談していいんだからな~」

「絶対に嫌ですね」


周りのことなんて見えなくなるくらい笑っていると、先輩たちの隙間から金髪の髪がスッと通ったのが見え、私の胸がぎゅっと固くなった。

茨木先輩が動いたとみて、りく先生もグラスをテーブルに置いてこちらに向かってくるのがみえた。


その時

「ねぇ、檜原」

と、金髪をさえぎるように黒い影があらわれた。


「あ、渋谷君。どうしたの?」

「明日の打ち合わせ、したいんだけど」


それは渋谷先輩で、交流会の間姿を見かけなかったので不参加なのかと思っていたが参加していたことに驚いた。


「もうそんな時間だったんだ!ごめんね」

「いや大丈夫。僕の部屋でいい?」

「もちろん!お邪魔させてもらうよ」


どうやらそろそろお開きの時間に近づいてきていたようで、すでに部屋に戻った生徒も多く人数が減っていた。

茨木先輩の姿も見かけないので、もしかしたら寮に戻るタイミングだっただけなのかもしれない。

ほっとしつつ、打ち合わせに向かう小鷹先輩と渋谷先輩と、ついていこうぜと言う栄一郎君たちを見送った。


「楓ちゃん、私これから片付けと朝食準備があるから調理部隊に戻るけど楓ちゃんはどうする?」

「そうだな~ダイヤちゃん戻ってこないからなぁ…」


と、人がどんどんまばらになっていく会場の中、ダイヤちゃんの姿を探すが見当たらず、どうしたものかと思っていると、私とりさちんの携帯が同時に音をたてた。

そして同時に吹き出した。


「ふふ、ダイヤちゃん、限界だったんだね」

「なにがあったか聞かなくっちゃね」


ダイヤちゃんからのメールにはこう書かれていた。

「心臓が痛いから先に戻るね、ごめんね。はやく話きいてほしいけど、今日はもう無理そう…」と。




ゆうた君はりさちんを送っていくとのことで、残るは私と波多野だけになってしまった。

私も特訓の時間もあるので、寮に戻ろうかと考えていると、りく先生が声をかけてきた。


「おい、お前らもそろそろ戻れ」

「りく先生!ちょうど寮に戻ろうかなって思ってたんです」

「そうか、じゃぁ寮まで送ってやるよ」


と、りく先生は波多野に「じゃぁな」と声をかけると、波多野は無言で私たちの後ろをついてきた。


「なんだよ、お前はひとりでも戻れるだろ」

「また二人で鬼がどうの精霊がどうのって話すんだろ?だったら俺も混ぜろ」


と、波多野は私たちの弱みでも握ってると言わんばかりの態度だ。

これにはりく先生も苦笑いをしているようだ。


「~~~あのなぁ、俺はただ自分のクラスの女子生徒を寮まで送っていくだけだ!それ以上でもそれ以下でもない」

「嘘だね。さっきだって東都の金髪のこと見てただろ。あいつも鬼なわけ?」

「そんな簡単に鬼があの場に侵入できるわけねーだろ。お前が見たのはただの偶然だ」


うぅ…気まずい。

波多野がそんなに茨木先輩もりく先生のことも観察していたなんて思わなかった。


「あ、あのね!茨木先輩のことは私がりく先生に相談したの!」

「なにを?なにかあったら俺に言えっていっただろ」

(うわぁぁん、どうしよう~~~)


困った私はふうちゃんに魔法を送った。


《ふうちゃん、かくかくしかじかで波多野に茨木先輩警戒してること話してもいい?》

《別にかまわないよ。りくさんも一緒なんだよね。あとでなにがあったのか教えて?》

《ありがとう、ふうちゃん》


ふうちゃんに確認をとった私は、ふうちゃんから接触しないよう言われていることを説明しようとすると


「はぁ~…このまま黙っていれば、見逃してやったんだけどな」


と、りく先生は溜息をつきながら、波多野の間合いに入った。


「知りたきゃ強くなれ、異能だけじゃなく、な」

「!?!?」


その瞬間、波多野の額に荊の花が撃ち込まれた。

何本もの荊は波多野の額の奥深くにズルズルと入りこんでいく。

まるで荊に寄生されていくように。


「お前の強さが満ちたとき、この花が解ける。お前にこの花が解けるか、俺は知らんがな」


最後の荊が波多野の中に消えると、波多野の意識はぼうっとしているようだった。


「…大丈夫か、波多野。気を付けて帰れよ」

「…は、はい…」


そうりく先生は声をかけると、波多野は頭を抱えながらとぼとぼと、寮に向かって歩いていった。

そんな波多野の姿が見えなくなると、りく先生は「はぁぁぁぁぁぁぁ」と長い溜息をついて、しゃがみこんだ。


「せ、せんせ?さっきのって…」

「いいか?黙ってろよ?」

「は、はい…」


いま私、見ちゃいけないものを見てしまったような気がする。

明日から波多野こと、いつも通り見れるだろうか…とちょっと悩むのであった。




続く

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