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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
夏休み前編
102/151

ー102-

ダイヤちゃんと一緒にいる博貴は、好物を目の前にしたあんこみたいだった。


「久しぶり!ダイヤちゃん!応援にきたよ!」

「し、知ってるわよ…楓からくるって聞いてたから…」


博貴の純粋無垢な笑顔をみたら、昼間の不安なんて吹き飛んだんのではないだろうか。

ダイヤちゃんの顔からは、照れながらも嬉しさが隠しきれないように見える。

そんな二人の様子を私はただ微笑ましく見守るしかない。


「さっきさ!ダイヤちゃんに手振ってたのわかった!?」

「あ、あなたね!あんなに東都に向かって振っちゃ変に思われるわよ!!」

「あ、じゃぁ気づいてくれたんだね~~!!よかった~~~!!」


ダイヤちゃんの心配に全く気付かず喜ぶ博貴。

その笑顔に弱かったのだろう、ダイヤちゃんも何も言い返せなくなってしまった。


「ほんとは近くで応援したいけどさ~、チームのところに戻らなくちゃだから…」

「あ、当たり前よ…今だって誰かに見られたら…」

「でも応援してるって直接伝えたかったんだ!ダイヤちゃん、頑張ってね!!」

「・・・!!」


完全に恋する乙女な顔したダイヤちゃん。

正直、こんなダイヤちゃんを博貴以外がみてもいいのかと、こちらが気まずくなってしまうほど、かわいらしくて綺麗だった。


「あ…ありがとう…」

「うん!!あ、交流会のときにもしゃべろうね!!俺の技、アドバイスちょうだい??」

「…べ、べつにいいけど…」

「楽しみにしてるね!!交流会!!」


さすがにもうダイヤちゃんの限界だったのか、湯気を出しながらこちらにむかってきた。


「か、かえで…」

「ふふ、ダイヤちゃん、私もりさちんも応援してるからね」

「うん…ありがとう…」


ダイヤちゃんの「ありがとう」には二つの意味が含まれていた。

応援にきてくれたことへのありがとうと、博貴と二人にしないでくれてありがとう、と。

博貴はダイヤちゃんが限界なことに気づかず、りさちんとゆうた君が来れなかったことを話すと、ダイヤちゃんもなんとなくわかっていたみたい。


「あ、じゃぁ私そろそろ行かないと…」

「うん!いってらっしゃい、ダイヤちゃん♪」


やはりダイヤちゃんも異能力者なのだ。

つい今しがたまでは乙女の顔をしていても、扉の前にたつと凛々しい顔つきになった。


「楓、博貴君、来てくれてありがとう。波多野君もありがとうね」

「ん、あ、あぁ…」


にこっと微笑むと、ダイヤちゃんは扉の中に入っていった。

きっと博貴に連れてこられただけとわかっていても、気遣いを忘れないダイヤちゃん。

私たちはダイヤちゃんの模擬戦が始まる前に急いで戻ろうと、足早に立ち去る。


「かえで~はやくはやく!!」

「おっせぇな、おめぇ」

「ふ、ふたりは速すぎるんだよ!!」


でも博貴と波多野に後れをとる私。


「わっと!!ごめんなさい!!」

「ひゃ!!」


ちょうど曲がり角で博貴が衝突しそうになった博貴は立ち止まり、その勢いで私は博貴の背中に思いっきり鼻をぶつけてしまった。

いったいなにがあったのかと博貴の背中から覗くと一瞬で痛みがなくなった。

そこには要注意人物、茨木先輩がいたからだ。


「おっと。北都生?」

「はい!友達に会いにきました!」

「そっかそっか、でも廊下は走っちゃいけないよ?」

「はぁ~い、ごめんなさい」


今日東都生に怒られるの2回目だ~と博貴はヘラヘラしているが、波多野からはピリッとした緊張感が漂う。

私もなるべく気づかれないように、博貴の背中に隠れた。


「あ、波多野君。僕と対戦ありがとう。君強かったね~交流会でぜひ話そうね」

「・・・」

「って僕、なにか変なこと言っちゃったかな?」

「波多野はいつもこうです!」


博貴の返答に声をあげて茨木先輩は笑っているけれど、ふうちゃんから話を聞いているからか、本気で笑っているようには感じなかった。


「君は樹属性の2年生だったよね。君も強かったよ~よかったら交流会で話そうよ」

「はい!時間があったら!俺、約束あるんで!」

「それは約束優先しなければ!えっと…後ろの子は…」


やばい。

茨木先輩に見つかる、と思ったら咄嗟に博貴の戦闘服をぎゅっと掴んでいた。


「おい、博貴。そろそろ戻らないとはじまるぞ」

「!!」


その時、波多野が博貴を小突きながら、茨木先輩の死角になるように私を壁紙にひっぱった。

驚いて視線をあげると、表情ひとつ変えない波多野が目に入り、謎の安心感を覚えた。


「あ!!ほんとだ!!二人ともいそご!!」

「今度はぶつからないようにね~」

「は~い!!ありがとうございま~すせんぱーい!!」


と、博貴と茨木先輩が動き出すと


「ほら」


と、波多野は私を博貴と波多野の間に入るように背中を押してくれた。

すれ違う茨木先輩から見えないように位置をとってくれ、私からは先輩の金髪しか見えなかった。




見学席に続く階段前に着くと、博貴と波多野は選手席から見学するとのことで「また交流会でね~!」と博貴は足早に戻っていった。

波多野も戻ろうとしたのだが、私は波多野を引き止めた。


「あの、さっきはありがと…」

「…お前、あの約束忘れてねぇよな」

「約束?」


急なことでぽかんとしてしまうと、波多野は忘れてんじゃねぇよとデコピンの態勢をとった。


「お、覚えてる覚えてる!!鬼の気配があったらいうって約束でしょ!?」

「はぁ!?それだけじゃねぇだろ!!」

「え…他になにかあったっけ??」


と、首をかしげると、波多野はデコピン態勢の腕をおろし、溜息をついた。


「…鬼の気配だけじゃなくて、危険がせまってたり、異変があったら言え。絶対に。わかったな」

「あ・・・」


確かにそんなことも言っていたなと、体育祭の打ち上げの時を思い出していると、波多野は顎をくいっと動かして「はやく行けよ」と見学席に向かうよう指図をした。

きっと茨木先輩に見つかるのが嫌で、博貴の背中を掴んでいたから、私が何事もなく見学席に向かうのを見送ってくれようとしているのだろう。

そんな不器用な友情が嬉しくて、強張っていた緊張がゆるみ、つい笑みがこぼれた。


「出来る限り守るね!ありがと!」


と言って見学席までの階段をかけあがると、下から「はぁ!?…ったく」と全然怖くない波多野の声が聞こえて笑ってしまった。




席に戻ると北都生の選手名が呼ばれ、コートに入るタイミングだった。


「おかえり、楓ちゃん!」


どうやらゆうた君は先に戻っていったようで、声色が明るいりさちんが待っていてくれた。

りさちんの様子からゆっくり、ゆうた君と話せたみたいで私も安心した。



「女子チーム!!東都高校2年!!近郷ダイヤ!!」


審判長の掛け声に合わせ、コートに足を入れるダイヤちゃん。

ダイヤちゃんは自分の名前が嫌いで、大勢の前で名前を呼ばれることを苦手にしているけれど、いまこの場に誰もダイヤちゃんの名前をからかう人なんていない。

むしろ凛としたダイヤちゃんの姿に圧倒される人、ダイヤちゃんと仲良くなりたい人たちの声と拍手でうまっている。


「さっきたかちゃんと波多野とダイヤちゃんに声かけてきたんだ」

「ダイヤちゃん、どうだった?」

「ふふ、北都にとっては強敵になりそうだったよ?」

「ふふ、それは楽しみだ♪」



北都側の選手は3年玄武組の火属性の先輩だ。

大将に選ばれるくらい実力もあり、姉御肌なのでいつも戦闘俱楽部の女子をまとめあげている。

現在は3勝3敗3引き分けと、決着が大将戦にもつれこんだ。

なのでふたりにかかる期待は学校名を背負ったもので、非常に大きい。

それでもダイヤちゃんも、先輩もそんな様子はみじんも感じない。


《ふうちゃん、これからダイヤちゃんの模擬戦はじまるんだ》

《そっか、近郷さん、大将なんだね》

《うん、しかも3勝3敗3引き分け》

《えでかはどっち応援するの?》

《もちろん決まってるよ。ダイヤちゃんだよ》


戦闘が開始すると同時に、ぶわっと会場全体にキラキラとした光が広がった。

みんなその光に目を奪われ、戦闘が開始したことに気づかないくらい。


ダイヤちゃんがベストコンディションで調整した鞭が唸る度に光もキラキラ動いている。


「ほんと、ダイヤちゃん絶好調みたい」

「うん、今日もダイヤちゃん、綺麗だね」


ダイヤちゃんの放つ光は、ダイヤちゃんの心が反映されるのだと、ダイヤちゃんが教えてくれた。

だから初めてみたときはどこか鋭く、りさちんとの模擬戦では恋のように甘酸っぱく、そして今日はとても自信に満ちている。


「こりゃダイヤちゃんファン増えちゃうんじゃない?」

「たかちゃんにはライバルがいたほうがいいと思う」

「たしかに。ちょっとは自覚してもらわないとね」


などとダイヤちゃんと博貴の行く末を想像していると、ダイヤちゃんは天敵属性ながらも果敢に先輩に攻め込んでいた。

先輩もダイヤちゃんの戦法が意外だったのか、少し押され気味ではあるが、すぐに態勢を立て直し火力をあげながら対抗しているようだ。


「ダイヤちゃん、すごい!!この前より強くなってる!!」


ダイヤちゃんと直接模擬戦したりさちんが言うのだから間違いない。

逃げ道がない攻撃でさえ、柔軟な身体をいかし、まるでバレエのようによけるダイヤちゃん。

もしコート上にダイヤちゃんしかいなかったとしても、ソロ公演として成り立つのではないだろうか。

しかも何度も強い火力攻撃を受けても、決して溶けることなく振り払う姿はダイヤちゃんを際立たせるだけだった。


「…私も負けられない…!」

「二人が模擬戦するときは、また号令かけるからね」

「よろしくね、楓ちゃん!」


でも先輩も女子チームの勝敗がかかった大将戦なだけあり、男子顔負けの大胆でパワフルな技が多い。

体育祭で朱雀組の先輩がリレーで見せた入れ替わりの術も多用しており、ダイヤちゃんの足元がぐらつく瞬間もあった。

しかし属性有利ではあるものの、いまひとつ決めきれないのは、ダイヤちゃんの強い自信が勝っているからだろう。


私とりさちんはダイヤちゃんに惜しい瞬間がくるたびに、嬉しい声を必死で抑えていた。

こういう時、堂々と応援できないのが悔しいなと思う。



そして戦闘時間が残り1分を過ぎたころ、大技の準備が完了した先輩が勝利を確信したかのようにニカッと笑った。

先輩の目の前に、コート横幅いっぱいの炎の陣があらわれ、ダイヤちゃんを炎の壁が襲った。


「あ…!!」


これでは逃げ道がないかと思ったが、ダイヤちゃんは身体を限界までさげ、先輩を天井まで振るいあげた。

それはまるで博貴が決めた技と同じで、私とりさちんは顔を見合わせた。




「勝者!東都高校!!近郷ダイヤ選手!!!」


わっと会場が盛り上がる中、そこには名前のことで恥ずかしがるダイヤちゃんの姿はなく、なにかを見つけて顔を赤らめるダイヤちゃんの姿しかなかった。




「やっぱり…ダイヤちゃん、綺麗だなぁ…」とつぶやく博貴の声は、ダイヤにしか届かなかった。




交流戦が終わり、閉会の挨拶も済むと交流会にむけて撤退の準備が進められていた。

選手たちはいったん寮と合宿所に戻り、制服に着替えてたり、治療が足りない人は治療室に向かったりしていた。

交流会は合宿所の大部屋で行うため、りさちんたち調理部隊は運び出すため、交流戦が終わるとすぐに調理室に向かっていった。

私はカメラとマイクを回収し、返却のため教官室に向かっていた。


《ふうちゃん!交流戦、終わったよ!》

《交流戦、どうだった?》

《チーム戦では北都Aチームが勝ったけど、総合では負けちゃった》

《そっか、残念だったね》

《でも東都もみんなすごかった!すっごく楽しかったよ!最終日の交流戦も楽しみ!》

《そうだね。最終日もまた実況してくれる?》

《もちろん!》


しかしさすがに3台のカメラセットと三脚を一度に持つのは限界で、途中の廊下でへばってしまっていた。

一緒に手伝ってくれる後輩はいたが、掃除の手が足りないからと遠慮してしまったのが運の尽きであった。

一度全て廊下におろし、カメラセットと三脚袋が絡まないようにゆっくり抱え直していると、ひょいと肩が軽くなった。


「お前、なにやってんだよ…」

「りく先生!」

「一人になるなって言われただろ…」

「うっ…はやくダイヤちゃんに会いたくて…」


ふうちゃんには事前に一人になることを伝えていたので、きっとふうちゃんがりく先生に伝えてくれたのだろう。

だからりく先生に小言を言われても、つい嬉しくて口元が緩んでしまった。


「ありがとうございます、りく先生!」

「ま、かわいい弟子たちの頼みですから」


きっと煙草帰りだったのかなと思うくらい、ふわっとスモーキーなバニラの香りが、教官室までの道のりを守ってくれているようで心地が良い。


「で、お前、あいつに会ったのか?」

「あいつ?」

「東都の金髪」

「あ、茨木先輩!はい…でもすぐに離れたので気づいてないかもですけど…」


りく先生は少し考えこむような顔をしながら


「いや、狙ってたと思うぞ」


と口にした。


「え!?そ、そうなんですか!?」

「あぁ、壇上から様子伺ってたんだが、お前が動き出す度に動いてたようだからな」

「そうだったんですか…」


一応茨木先輩の様子は確認していたつもりだったけど、姿が見えない間に茨木先輩も動いていたなんて想定しなかった。


「空雅さんと大雅さんの話だと、接触するとしても嫌がらせ程度だろうが、関わらないのが一番だ。俺も対策考えておくから、一週間、気つけとけよ」

「は、はい…」


なんだか楽しみだった一週間が、果てしなく長い一週間に感じ、生唾を飲み込んだ。

どうか、何事もなく、楽しく合宿を終えられますように。



続く

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