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てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
夏休み前編
100/151

ー100-

音澤先輩の戦闘は派手な雷攻撃とは対照的に、つねに冷静な戦闘運びで見ていて安心感がある。

音澤先輩なら必ず勝つって安心感が。

そしてその安心感は的中し、第一コートの9戦目は音澤先輩が勝利し、黄色い歓声がおくられた。


《さすが音澤先輩だなー、全然フェイントにひっかからないんだもん》

《きっと相手がどうくるか何パターンも想定してるからだね》


そのためには相手よりも知識と経験がないとできないだろうと思うと、個性バラバラなイケメン4人組が仲良しなのは、音澤先輩のおかげなのかな、なんて思った。


すると壇上から審判長のアナウンスがはいった。


「最後の10戦目は男子Aチーム、男子Bチーム、女子チームの順番で、第一コートで行います。第2コート、第3コートを見学席として開放するので、自由に移動して構いません。模擬戦は15分後に開始します。以上です」


とのことで、近くに座っていたクラスメイトや先輩たちは近くで小鷹先輩の戦闘がみたいとキャッキャッ言いながらコートにむかっていった。

私はビデオを回しているからコートにおりることはできないけど、おりても先輩たちに埋もれてよく見えなさそうだ。



にぎやかになった会場は綺麗に白と黒でわかれており、うめつくされていた。

するとウォーミングアップ中の小鷹先輩が栄一郎君たちに囲まれているのがみえた。

全然緊張してない様子で、むしろ茶々丸のお散歩中に会ったときと変わらないみたい。


そんな先輩たちの様子を眺めていると、模擬戦開始まで残り5分となった。

りさちんはまだ戻ってくる気配がないなと思っていると、会場から私を呼ぶ声がきこえた。


「立華、立華」

「小鷹先輩?どうしたんですか?」


私を読んでいたのは小鷹先輩だった。

つい今しがたまで栄一郎君たちと和んでいたのに、瞬間移動かと思ってびっくりした。


「あのさ、海斗に聞いたんだけど、治癒室珍しいことになってるんだって?」

「まぁ…珍しいといえば珍しいですかね?」


小鷹先輩たちの治療ができるかもと、いつもなら絶対にこない先輩たちまで押しかけてきたのだから。


「でも先輩たちがこの席とってくれましたのでラッキーです!」

「あはは、そっか!…でさ、立華にお願いがあるんだけど」

「お願い??なんでしょう??」


またたかちゃんが飲み物飲んじゃったのかな?とか、他に足りなくなったものでもあるかなと首をかすげると、小鷹先輩は意外なお願いを口にした。


「もしさ、俺が怪我したときは立華が治療してよ」

「え?わ、私でいいんですか?」

「うん、珍しい治癒室は行きずらいしね」


と、気まずそうに笑う小鷹先輩を見たら、せっかく小鷹先輩たちと仲良くなりたいっていう先輩たちには悪いけど首をたてにふるしかなかった。

それに小鷹先輩にはずっと治療の練習台になってくれた恩もある。

そんな先輩の頼みだもの、断るわけにはいかないもの。


「ふふ、わかりました!でも、怪我しないのが一番ですからね?」

「ありがとう、善処するよ」

「はい!頑張ってくださいね!!」


と言うと、小鷹先輩は満足したかのように栄一郎君たちがいる場所に戻り、ウォーミングアップを再開した。




「はぁ~間に合った~!!」

「りさちん!おかえり!調理部隊なにかあったの?」


もうすぐで模擬戦が開始する直前、すでに疲れきったりさちんが息をきらしながら戻ってきた。

さすがにぐったりしている様子から、調理部隊でなにか大きなトラブルがあったのだけはわかる。


「それがね~急な停電トラブル!しかも原因不明!」

「停電?!こっちは全然問題なかったけど…」

「そうなの!なぜか調理室だけなの!」

「えぇ?!そんなことあるの!?」


眉を下げたまま、りさちんが言うには、最初は張り切りすぎて冷蔵庫を開け閉めしすぎたからかな?とか、一気に電力使いすぎたかな?と思ったそうだが、体育祭のときとそう変わらないのだと。

だから原因がわからないまま、急いで保管していた調理済みのお料理を確認したり、魚介類の鮮度を確認したりと奔走したらしい。

しかし幸いにも対策がはやかったため、鮮度はどれも問題はなく交流会には提供ができるそうだ。


「それならよかったね!せっかくみんな頑張って準備したお料理だもん!東都生にも食べてほしいもん!」

「あはは!ありがとう、楓ちゃん!でも不思議とすぐに復活したんだよ~ほんとなんだったんだろう?」


いまは念のために氷属性と、雷属性の人がサポートで手伝ってくれているそうで、りさちんは戻ってくることができたと教えてくれた。

音澤先輩の模擬戦が見れなかったのは残念だけど、ダイヤちゃんの模擬戦までに戻れてよかったとりさちんは言った。

それでもトラブル対応の疲れがまだ消えていないので、余っていた飲み物を渡すとよろこんで受け取ってくれた。




「それでは第一コートにて、男子Aチームの10戦目を開始します」


と、審判長のアナウンスが入ると私もふうちゃんに模擬戦がはじまることを魔法で報告した。


《ふうちゃん、次は小鷹先輩の番だよ》

《小鷹先輩か…えでかがお世話になってる先輩だね》

《うん、私の治癒術は小鷹先輩譲りだよ》

《ゆうたも尊敬してる先輩だからね、俺も戦闘楽しみ》

《しっかり実況するからね!》

《ふふ、任せたよ、えでか》


静まる会場。

そして全員が注目する中、審判長の声に合わせて第一コートに踏み入れたのは…


「東都高校3年!渋谷仁!!」


相変わらず黒いマスクをしたままの渋谷先輩だった。


《ふうちゃん!小鷹先輩の相手、渋谷先輩だよ!》

《やっぱり渋谷先輩が大将だったんだね》

《なんだか…今までの東都生と雰囲気が違うね…》


白が似合わないからとか、黒いマスクを外していないからとか、そういうことではなく。

場慣れしているような、他の生徒とは場数が違うような。

つまりこれまでの東都生と比べると、出で立ちはふうちゃんに近い雰囲気だった。


《よくわかったね、えでか。渋谷先輩は異能力者っていうより異能学者なんだ》

《異能学者?》

《うん、とくに鬼神に関する、ね》

《それでふうちゃんとはよく話してるの?》

《うん、渋谷先輩も俺に興味あるからね》


そして渋谷先輩は鬼神研究のために北都に転入したかったのだが、東都に残れば陰陽省の仕事を手伝えると誘われて、しぶしぶ東都に残ることを選んだのだとか。


《じゃな渋谷先輩もふうちゃんと一緒にお仕事してるの?》

《時々ね。先輩の仕事はどちらかというと、各地の討伐レポートをまとめたり、そこから術の開発をしたりって感じだから》

《そうなんだ…》

《それに先輩、討伐はあんまり興味ないみたいでね。論文書いてるほうが好きみたい》


と言いながらも、論文に関係する鬼がでた時や、人手が足りないときにふうちゃんが頼むと断られたことはないそうだ。


《ふうちゃんにとっていい先輩なんだね》

《そうだね、こっちでは一番話してて楽しい人だよ》

《さっき渋谷先輩に会ったんだけどね、優しかったよ》


私はダイヤちゃんに伝言を伝えに行ったときのことを、ふうちゃんに話した。

するとふうちゃんは《先輩らしい》と言って笑っていて、私の胸がほっこりした。


《となると、北都にとっては強敵だね!》

《でも小鷹先輩も負けてないでしょ?》

《もちろんだよ!》


そして小鷹先輩がコートに踏み入ると、審判長の声すらかき消すような今日一番の歓声が会場を包み込む。

小鷹先輩は不思議な人だと思う。

まだ何もしていない、ただコートに入っただけ。

なのに敵も味方も関係なく、誰もが目を奪われる。

まるで冬眠からさめた動物たちが、洞窟から光を求めているかのように。


《ーカリスマ性、だね》

《…そうかも。小鷹先輩の勝利しか見えなくなるし、小鷹先輩を応援したいって自然と思っちゃうもん》


そう思うのは私だけでないだろう。

でもね、《そうだね》ってふうちゃんは言ったけれど、本当はなんて言いたかったのか私、わかるよ。


《もし、ふうちゃんと小鷹先輩が模擬戦することがあっても、私はふうちゃんしか見れないよ?》

《えでか…俺、言ったらかっこ悪いと思って我慢したのに…》

《ふうちゃんにかっこ悪いところなんてないよ。全部かっこいいよ》

《も~えでか…かわいすぎる…》


ちょうどお兄さんと特訓中だったふうちゃん。

小鷹先輩への対抗心なのか影響を受けて火攻撃を仕掛けたが、お兄さんに軽くあしらわれてしまい、挙句にはより強くなった同じ技でやり返されたと教えてくれた。




緊張感漂う中、ひとりニヤけ顔をおさえている私。

誰一人身動きすらしない中、模擬戦開始の合図が響いた。

すると轟音とともに渋谷先輩と小鷹先輩は同時に間合いとつめた。

結界もふたりが生み出す風圧にレベルをあげたのがわかった。


「すごい…」

「は、はやすぎてなにがおきてるのかわからないね…」


戦闘慣れしているりさちんでさえ、二人の姿は追えないみたい。

録画を回しているカメラ越しですら、性能が追いついていないようでタイムラグが激しい。

それに属性技だけでなく術のかけ合いも行われていて、一瞬もしないうちに何度も打ち合っている気がする。


「でも…小鷹先輩がここまで本気出してるの、久しぶりに見るね」

「確かに…でも…なんだか楽しそう」

「うん、私もそんな気がする…」


二人の姿を目で追うことすら難しいのだから、二人の表情なんて到底わからないけれど、火花のように光っては消えていく技と術が楽しそうにキラキラしているから。


《ふうちゃん、小鷹先輩と渋谷先輩の模擬戦、速すぎて全然わからないよ》

《そうだと思う》

《でもね、なんだか二人とも楽しそうに見えるの》

《へぇ、そんな渋谷先輩珍しいかも》

《そうなの?》

《うん、自分が興味あることにしか動かない人だからね。なにか気になることがあったのかな》


もう少し私にもこの速さについていける目があれば、渋谷先輩が小鷹先輩のどんなところに魅かれているのかわかったのかな。

そしたらふうちゃんにもっと詳しく説明できたかなと思った。


すると小鷹先輩と渋谷先輩は一瞬お互いに距離をとった。

あんなに動き続けて、技も術も出し続けているのに息があがっている様子もない。

でもやっぱり小鷹先輩の表情は楽しそうでキラキラしていた。

渋谷先輩もマスクで表情は隠れているけど、下で会ったときと比べると目尻が下がっている気がする。


ようやく二人の姿が見えたのに、また一瞬で間合いとつめるとさっきよりも打ち合いの激しさが増した。

その時、目の錯覚かと思ったが、渋谷先輩の手ものとがキラリとなにか光ったのが見えた。


《ねぇふうちゃん、渋谷先輩ってなにか武器使うの?》

《あっえでか、見えたんだ》

《ううん、一瞬だけなにか光った気がして》


ふうちゃんは《それでもすごいよ、えでか》と言ってくれたけれど、今はまったく見えない。

二人の姿を追うことすらできないんだから。


《渋谷先輩は『奇跡』を使うんだ》

《奇跡?それってどういうこと??》


『奇跡』自体を知らないわけではない。

私がふうちゃんと再会できたのは『奇跡』なのだから。

でも渋谷先輩が『奇跡を使う』ことは初耳で、ピンとこない。

属性的には雷属性のようだけど、雷属性と『奇跡』にどういう関係があるのかも検討もつかない。


《渋谷先輩は厳密に言えば無属性なんだ》

《無属性?》

《うん、どの属性にも値しない。奇跡を使うとき僅かに電磁波を確認できたから雷属性になってるだけ》

《そ、それってずごく珍しいんじゃ…?》

《今まで前例はないみたい》


なんだかそれって奇跡みたい。

そんな奇跡的な模擬戦を見れていることも、奇跡がつながっているみたいに思えた。


《でもどうやって戦ってるの?》

《例えばさ、もっとこうなったらいいなって思うことない?》

《いっぱいあるよ?》


もっと強かったらいいな、もっと治癒術うまくなれたらいいな、もっとみんなの役にたてたらいいな、もっとみんなと一緒にいられたらいいな。

もっとふうちゃんとお喋りしてたいな、もっとふうちゃんと一緒にいたいなって、あげたらきりがないほどに。


《ふふ、渋谷先輩はそのもっとこうなったらいいな、が現実化する人なんだ》

《え!!すごい!!ちょっとうらやましいなぁ…》

《俺もそう思う。奇跡は俺、真似できないから》

《そうなんだ?あ、属性じゃないから?》

《それもある。けど兄ちゃんは少し使えるんだ》

《???》


奇跡が使える人、奇跡が使える瞬間が限られているそうで、無欲でないと奇跡は起きないのだとふうちゃんは言う。

欲が多く、欲が強すぎると世界が変わってしまうからだろうと。

渋谷先輩は研究にしか興味がないので、模擬戦や戦闘で奇跡を何度も使うことができる。

でも肝心の研究では「もっと知りたい」という欲が強いので奇跡は起こせず、より没頭してしまうのだと。

お兄さんも渋谷先輩ほどではないが奇跡を使えるのは、興味がないことにだけらしい。

と言いながらもふうちゃんから見ると、使いこなせているふちがあるのでお兄さんがうらやましいとぽろっとつぶやいた。


《そっかぁ…じゃぁ私は奇跡は使えないなぁ。欲がいっぱいだもん》

《俺も。でも大丈夫だよ、えでかは奇跡を起こせるんだから》

《あ、ほんとだ》


私にはまだ奇跡がどういうものか、全部理解できたわけではないけど、奇跡を使うことと、奇跡をおこすことは違うってだけはなんとなくわかった。



いまだ決着のつかない小鷹先輩と渋谷先輩。

時々間合いをとっては、また打ち合いを繰り返していた。


《あれ?でもふうちゃん。いまは模擬戦に興味があるんじゃないの?》


興味があることにしか動かない渋谷先輩。

でも興味があることに奇跡は使えない。

いま小鷹先輩との模擬戦は楽しそうで、とても興味がないようには見えない。


《それはきっと模擬戦には興味はないけど、小鷹先輩に興味がある、ってことじゃないかな》

《な、なるほど…奇跡ってなんだか難しいね…》


きっと私では使いこなすことができないだろう。

だってそんな上手い具合に模擬戦と小鷹先輩とわけて考えることが、そもそもできないと思うもの。

でもふうちゃんのおかげで二人の模擬戦がすごくハイレベルなことが理解できた。

奇跡を使いこなしている渋谷先輩と、それに対応している小鷹先輩。

小鷹先輩だって、きっと渋谷先輩が奇跡を使っているなんて知らないはずなのにどうして対抗できるのだろう…。

それがカリスマ性なのだろうかと、二人の見えない戦闘に見入っていると二人の間合いが離れた。


そこからは審判長の模擬戦終了の合図と耳を塞ぎたくなるような衝突音は同時だった。

渋谷先輩のマスクは灰になってハラハラと崩れていき、小鷹先輩の戦闘服の右腕が燃え尽きたのは。




「男子Aチーム!!両者、引き分け!!」



続く

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