表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
てのひらの魔法  作者: 百目朱佑
はじまり
10/151

ー10ー


「ふうちゃん…昨日は今日も学校くるって言ってたのに…」


放課後まで待ってもふうちゃんは学校に来なかった。


やっぱり昨日、具合悪かったのかな?

顔赤くなってたし熱でもあったのかな?

心配になって昨日ふうちゃんに繋いでもらった“魔法”をつかって何度も呼びかけた。


《ふうちゃん、大丈夫?》

《ふうちゃん、おしゃべりしよう》

《ふうちゃん、あそぼう》


呼びかけるたびに何度も私の手は青く光るのに、ふうちゃんからの返事は返ってこない。




「立華さーん、そろそろ帰りなさーい」

気づけばとっくに下校時間を超えていて、部活動で残っている高学年の生徒しかいなかった。


後ろ髪を引かれながらも

「明日はきっとくるよね!」

そう信じて教室を後にした。




でも、ふうちゃんは次の日も次の日も、学校に来なかった。

そして一度も学校にくることがないまま、夏休みをむかえた。


貯まったプリントを先生に相談すると、子供ながらに気を遣われているなと感じるような笑顔で

「先生が代わりに届けてくるね」と言った。

私は「あ、先生、ウソついた」となぜか感じた。




夏休みに入っても毎日のように“魔法”でふうちゃんに呼びかけることは続けていた。


《ふうちゃん、あそぼう》

《ふうちゃん、もう夏休みだよ》

《ふうちゃん、宿題やってる?》


でもふうちゃんから返事がくることは一度もなかった。



日に日に私の不安は大きくなり、眠るたびに目を閉じると、あの日私の脳裏に焼き付いたふうちゃんの寂しそうな目と目が合う。

見つめていると寂しさと、不安で目をそらしたくなるのに1ミリもそらすことができなくて、胸騒ぎを抱えたまま眠りにつく毎日だった。




そして毎日夢をみた。


それは毎日同じ夢。


悪夢を毎日繰り返しみた。




ふうちゃんが死んでしまう夢。




この時はまだ自分の夢をみる能力に気づいていなかったから、不安でこんな夢をみるんだろうと思ってた。

だからいつも起きるとお母さんが怒って起こしにくるまで、正夢じゃありませんようにってベッドの上でいるかもわからない神様に必死に祈っていた。




私はあきらめずに、いつか返事がくるかもしれないと信じて、毎日呼びかけ続けた。

《ふうちゃん、おはよう》

《ふうちゃん、もうすぐ夏休み終わるね》

《ふうちゃん、自由研究やってる?》

《ふうちゃん、おやすみ》

一向に返事は返ってこず、青い光に向かって独り言のようだった。




それでも呼び続けたのは呼びかけるのをやめたら、本当に正夢になってしまいそうだったから。




夏休み最終日の夜。

《ふうちゃん、明日から学校だよ》

《明日は会えるかな》

いつものようにふうちゃんに呼びかけしながら、青い光を両手で包みむようにして《明日、会えますように》と強く念じて眠りについた。




その日も夢を見た。

毎日毎日うなされたあの悪夢ではなく、ふうちゃんが家まで送ってくれたときの過去夢だった。

ほんの2カ月くらい前のことなのに、すごく遠い過去のようで、夢でもふうちゃんに会えたことがうれしかった。


ーーーーーーーーーーーー



「…明日も学校くる?」

「…うん」


(でもふうちゃん、学校来なかった…)


「よかった!じゃぁ明日ふうちゃんのプリント渡すね!」

「うん、よろしく。早く家、入りなよ」

「うん!また明日ね!」



繋いでた手が離れる。

(あぁもっと繋いでいたかったな)


繋いでいた手で大きく手を振る私が見える。

ふうちゃんの方を振り返ると、あの時みた光景と同じく小さく手をふるふうちゃんがいた。


ーーバタン


手を振りながら玄関をしめる私を見つめながら、ふうちゃんがなにかつぶやいた。



「■■■■、えでか」



ーーーーーーーーーーーー



ハッと目が覚めた。

時計をみると目覚ましが鳴る10分前だった。


久しぶりに悪夢じゃない朝をむかえて清々しい気持ちだった。

「今日はいいことありそう!」

夢でふうちゃんに会えたことはきっと今日、正夢になる!

きっと今日からいつもみたいに、また学校で会える!

そんな気がして駆け足で学校に向かった。




「おはよー!」

「楓ちゃん、久しぶりー!」

「久しぶり~!」

みんな夏休みの課題を大量に机の上に並べ、約1か月半ぶりの再会を楽しんだ。


私はそわそわしながら教室のドアが開くたびにふうちゃんを待ちわびた。



「おはようー、はい、みんな席について~」

「先生、おはようございます!」

ふうちゃんの到着よりも先に先生が教室にやってきた。

気づいたらもう朝の挨拶の時間になっていた。




(ふうちゃん、遅いな)

課題で山盛りになった机だらけの教室を端から端まで見渡すと、少しおかしい感じがした。




「みんなにお知らせがあります」




ふうちゃんがまだ来てないのに、課題がのった机しかない。




ーーふうちゃんの机がない。

「水樹大雅くんは、家庭の事情で夏休み中に東都に引っ越ししてしまいました」




息が止まった。

クラス中の視線が私に向いている気がしたけど、頭がクラクラして先生もみんなもよく見えない。

それに先生がまだ何か話してるのは聞こえるのに、記号みたいで頭に入ってこない。




なんで?今日からまたいつもみたいに会えると思ったのに。

会ったらテレパシーごっこのこと聞こうと思ってたのに。

ちゃんと呼びかけられてたのかなって。

ちゃんと届いてたのかなって。

なんで返事くれなかったのって。

私のやり方間違ってたのかなって。

たくさんたくさん、おしゃべりしたいことあったのに。

なんで?なんで教えてくれなかったの?

なんで黙って引っ越しちゃったの?

一緒に帰ったときにはもう引っ越すことわかってたの?

だからテレパシーごっこ教えてくれたの?

でもなんで返事くれないの?

もうふうちゃんに会えないの?




私、ふうちゃんに好きって伝えられてないのにーー。




「うっ…うぅぅぅぅ」

涙がどんどんあふれてきた。


あの時、ふうちゃんに《他に 好きな人 いるから》って伝えた時、大好きだって伝えればよかった。

一緒に帰ったとき、いつでも伝えられたかもしれない。

そう思うとよけいに涙がとまらなくて、子供みたいに教室の中心でわんわん泣いた。




あぁ、今日、夢で最後にふうちゃんが言ったのはあの日と同じバイバイじゃない。





「ごめんね、えでか」だったんだ。





私こそ気づかなくてごめんね。

私に焼き付いた、あの日のふうちゃんの目は『ひよこの目』だったんだ。




必死に正夢じゃありませんようにって祈ってたけど、もう遅かったんだね。






ふうちゃんはもう、いないんだ。





その日から、私は呼びかけるのをやめた。




続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ