三雲さんと廊下を歩く
文芸部の部室へ向かいます
お昼休み、僕は三雲さんと並んで廊下を歩く。
でも、陰キャの僕が彼女のような陽キャと一緒にいたら、おのずと注目を集めてしまうので、別々がよかった。
「おい、見てみろよ。あの三雲さんが妙な奴と一緒だぞ」
「なんであんな冴えない男が、彼女と歩いているんだ?」
「それより、あいつ誰だよ!」
予想通り酷いヤジに、僕は辟易してしまう。
けど、一緒に噂されている三雲さんは全く気にした様子もなく、むしろ嬉しそうにしていた。
これから彼女が慕う僕の姉に会いに行くのだからわからなくもないが、こんな僕と一緒でいいのだろうか。
そんなことが気になり見入っていると、不意に彼女が振り向いた。
「なに? 私をジッと見て」
「あ、いや……。僕と一緒でよかったのかなって思って」
「ふ~ん、どうして?」
「いや、僕ってあんま良く思われてないだろうし、三雲さんは人気者でしょう。一緒に並んでいると不釣り合いっていうか、もっと離れていた方がいいんじゃないかと思って」
僕がそんな陰キャな部分を吐き出すと、三雲さんは不機嫌そうな顔をする。
「ねえ、佐山くん。どうしてそんなに自分のことを悪く言うの? あなたは絵梨様の弟なのよ。もっと自信を持たなきゃ、失礼だわ」
「あ、うん……」
その激しい剣幕に、僕はより一層萎縮する。
彼女の言いたいことはわかるけど、僕と姉は違うんだ。弟だからって、自信を持てるわけではない。
けど、彼女は僕を認めてくれているんだ。
少しだけど救われた気がした。
そんな彼女に感謝しつつ、僕は黙って隣を歩く。
コミュ障の僕に自分から話しかけるようなスキルは無く、ちょっとだけ気まずい思いをしていると、唐突に彼女が口を開いた。
「それより、さっきのアレって、何だったの?」
「えっと、アレって言うと?」
何となくわかっているが、敢えてそう尋ねてみた。
できたら誤魔化したいと思っているけど、たぶん無理だろう。
「アレよアレ。柔らかかったってやつ」
「……」
うっ……、やっぱ忘れてなかったか。
「どうしたの、黙って? ふ~ん……ってことは、やっぱりアレってエッチなことなのよね」
それはもう、ド直球。まるであの現場を見ていたかのような発言だ。
僕も動揺を隠せず、なんとか言い訳を考える。
思い出せるのは、朝寄った駅前のコンビニだ。
「ち、違うよ。あれは今朝食べた、パン。そう、朝寄ったコンビニのパンが凄く柔らかくて、美味しかったんだ」
僕もまさか彼女の口からそんな言葉が飛び出すなんて思っていなくて、苦しい言い訳をしてしまったが、その後の彼女の言葉はさらに衝撃だった。
「へえ~、そんなに美味しいなら、私も食べてみたいわね。どう、今日一緒に帰らない?」
「えっ……」
いったい何を言い出すんだ、この人。
怪しむどころか、僕の話を信じて一緒に帰る?
確かに帰りは同じ方角だけど……クラスどころか、スクールカーストでも上位にいる彼女と一緒にって、この距離だけでも厳しいのに。
というか、無理。
それに、パンの話はデタラメだから、一緒に帰ったらバレるし。
僕がどう断ろうかと悩んでいると、彼女は不意に僕の腕を取り……。
「あら、私とのデートは嫌なの?」
そう言って、腕を絡めてくる。
「ちょっと、何して……」
僕はその行動に困惑。
彼女とはほとんど話したことも無いのに、いきなりデートだなんていわれても。
それに、さっきから腕に当たるフワっとした柔らかい感触で、ドキドキが止まらない。
なんですか。
この人も距離感バグっているんですか。
と、僕がわかりやすく動揺していると……。
「なによ。ハッキリ言いなさいよ」
って、その上目遣いはズルい。
僕はその三雲さんの可愛さにやられ、更に激しく動揺。
けど、文化部の部室は、もう目の前だ。
「あら、もう着いちゃったのね」
「えっ?」
「いえ、なんでもないわ。入りましょう」
「うん……」
なんだか少し気になる言い方だったけど、僕は開放された安心感からか、あまり考えす黙って彼女の後について文芸部の部室へ入った。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。