相談
お姉様の登場です。
その日の夜。
僕は姉の部屋を訪ね、生方珠洲という女性について聞いたみることにした。
三年生の姉は、僕と違ってカースト上位の存在であり、学年問わず絵梨様なんて呼ばれ方をしている。
友人も多いので、もしかしたら彼女もその一人かと思ったのだが……。
「ねえ、姉貴。図書委員をしている生方珠洲って人のこと、何か知ってる?」
「おっ、なんだユウ。ああいうのが好みなのか?」
「いや、違うよ。今日、図書室で本を借りようとしたら優くんなんて呼ばれ方をしてね、もしかしたら姉貴の知り合いなのかもって思ったんだけど……」
「ああ、そういうことか。そうだな、図書委員ってことくらいで、よくは知らん」
僕は僅かな期待を込めて姉に聞いてみた。けど、やっぱり知らない人だった。
学年も違うのだから当然か。
でも、彼女もあまり目立つタイプではないのだろう。
図書室にいる時は胸が目立って他人の視線を集めてしまうようだけど、実際にはおとなしいタイプだろうしね。
だから、この姉が名前と顔を知っていただけでも、十分に凄いと思う。
特に接点もないのに知っているってことは、それだけの何かが彼女にあるのだろう。
けど、こうなってくると、余計にわけがわからない。
そもそも、あの視線の主は、彼女だったんじゃないかと今更ながらに思えてくる。
なので、そのことをちょっと嫌そうに、姉へ伝えてみることにしたのだけど……。
「えっ、そうなの。でも、僕、あの人に見られているような気がするんだよね」
僕がそう言ったら、姉は……。
「ほう、それはそれは、ユウもやるじゃないか。そりゃあ、気があるから見ていたんだろ。今度はおまえから話しかけてみたらいいんじゃないか?」
「いや、無理だし」
もともと陰キャでコミュ障を拗らせている僕に、自分から話しかけるなんて勇気なんてない。
姉もそれをわかっていて言っているんだろうけど、無理なものは無理なのだ。
「なに、相手はユウに興味を持っているんだ。話しかけたら、むしろ喜んでくれるぞ」
「ほんと?」
「ああ、間違いないだろうな。この際だから勉強だと思って、頑張ってみるといい。骨は拾ってやる」
いや、それだとダメってことだよね。
それに、いつから僕が彼女に興味があることになっているの?
彼女について、聞いたから?
そりゃあ、ちょっと可愛いかもなんて思ったけど、むしろ僕は怖れているからね。
こっちは相手を知らないのに、相手は僕を知ってるって、なんか怖いでしょう。
世の中にはストーカー被害ってのも多くあるし、僕が狙われるなんてことはないだろうけど、被害者はこんな気分なんだろうか。
そして、いつか襲われて……。
いやいやいやいや、何を考えているんだ。
僕なんかがストーカー被害なんて、おこがましい。
どっちかといえば、僕がストカーと思われてそうだしね。
でも、そんな僕の不安をよそに、姉は楽しそうな笑みを浮かべているだけだった。
「これだからカースト上位は……」
「ん、何か言ったか?」
「いや、姉貴。話を聞いてくれてありがとう」
「ああ、また何かあったら相談にこい」
「うん、じゃあ、お休み」
「ああ、お休み」
その後、僕は部屋へと戻り、陰鬱な思いで眠りについた。
明日、どうしよう……。
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