夏の終わりと訪問者
八月二十五日。
僕は遅めの昼食をとったあと、自宅のベッドへ寝転がり、物思いに耽っていた。
昨日は病院帰りに麻沙美ちゃんと商店街をブラブラし、その後は近所の公園で一休み。
僕はベンチに腰をおろし、彼女も隣へ座る。
うるさかったニイニイゼミの鳴き声は、いつしかにかヒグラシに変わっていて、夏の終わりをヒシヒシと感じていた。
「もう、夏休みも終わりね」
そう口にした麻沙美ちゃんに、僕は「うん」と答える。
わかっていたことだが、あと一週間で夏休みも終わり、学校へ行かなければならないのだ。
登校日にもヒソヒソと囁かれ、うんざりしたというのに、毎日となると精神的にも辛い。
そんな憂鬱な思いに浸っていると彼女が「ところで、優ちゃんは今年の夏、どうだった?」と、話題を変えた。
僕もそれは賛成なので「う~ん、そうだね……案外、楽しかったかも」と、話を合わせる。
いつもであれば引き籠っていた夏も、今年はずいぶん外へ出かけたと思う。
それが彼女たちのおかげというのは、自分でも理解しており、感謝もしている。
「へえ~、どう楽しかったか、聞いてもいいかな?」
なので、そう聞かれたとき、自然と口が動いた。
「やっぱり、みんなと遊んだことだと思う。いつも家に引きこもっていたから、外に出る楽しさっていうの。それをいっぱい感じられたよ」
そう伝えた僕は、これまでのデートを思い出し、自然と笑みが零れた。
思っていたよりも楽しかったと実感し、自分でも驚いたくらいだ。
「そっかー、それなら良かった。誘ったかいがあったというんものだよ」
「うん。ありがとう、誘ってくれて」
「どういたしまして」
そんな他愛もない会話をし、僕が疲れてウトウトし始めると。
「優ちゃん、疲れているなら寝ていいよ」
そう言ってくれた彼女の言葉に甘え、僕は少しだけ眠らせて貰った。
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(夢の中へ)
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あれ、ここは……。
『あら、優ちゃんと麻沙美ちゃんじゃない。いつも仲がいいわね』
ああ、あれは八百屋さんのおばさんだ。
でも、ちょっと若いかも。
そして、あっちは子供の頃の僕と、麻沙美ちゃん……か。
『そうよ、わたしたち、けっこんするの』
『ええー、ぼく、はじめてきいたよ』
『うふふ、もう夫婦喧嘩かしら』
『そうよ、ふうふげんかはいぬも…………なんだっけ?』
『えっと、くわないだよ』
『そう、いぬもくわないよ』
『まあ、お似合いのカップルね』
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そんなことが、あったんだ……。
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……………………
「ゆうちゃん」
…………
「優ちゃん、そろそろ起きよ。暗くなっちゃうから」
「…………あ、うん……」
「ほらほら、目をこすったらだめだからね」
「…………わかった」
「じゃあ、帰りましょうか?」
「うん……」
はぁ…………。
僕は昨日の出来事を思い出し、また深くため息を吐く。
あんな夢は見るのに、記憶は全くといって無い。
そりゃあ、小さい頃の事を完璧に記憶しているものじゃないけど、全く覚えていないなんてありえるのだろうか?
記憶喪失?
でも、いつ?
そんな時がって、もしかして……あの時か。
ずいぶん前になるけど、病院で見知らぬ女の子たちに声を掛けられた記憶がある。
母親からは『お友達の子たちよ』と教えられたけど、全く記憶になかったから『お姉ちゃんたち、だれ?』なんて言ってしまった。
でも、たぶん……。
最近気づいたことだが、僕は彼女たちと一緒にいて、眠ってしまった時に夢を見る。
それが相手に触れている時限定ってのは問題だけど、あれが全て真実だとしたら、彼女たちの僕に接する態度にも、納得がいく。
でも、麻沙美ちゃんと結婚の約束って……。
と、そんなことを考えている時だった。
ピンポン、ピンポン
と、玄関のチャイムが鳴った。
どうやら訪問者らしいけど家族は留守だし、仕方ない出るかと、僕は玄関へ向かった。
「はい、どちら様でしょうか?」
「やあ、佐山優くん。私だよ、覚えている?」
僕がドアを少し開け、チェーン越しに相手を見ると、そこにいたのは……。
「京子ちゃん?」
「あは、佐山優くんは、私のこと覚えているんだね」
「え、あー、うん。ごめんなさい……最近、思い出したんだ」
僕は隠し立てせず、素直にそう答える。
彼女と最後に会ったのはもう何年も前だけど、あまり変わっていなかったから、すぐに分かった。
「へえ~、思い出したってことは、あれも意味があったってことかな?」
「うん、最初は何するんだよって思ったけどね。京子ちゃんなら納得。だって、昔からイジワルばっかだったもん」
そう、記憶にある彼女はいたずら好きで、僕を驚かせて楽しむような、そんな子だった。
「アハハ、さすが佐山優くん。私のことわかってるね。でも、やっぱ、やり過ぎた。だから、今日は謝りに来たんだ」
「そうなの?」
「ああ、すまなかったね」
「うん、いいよ。許す」
「そっか、ありがとう」
そうして僕たちは互いに許し合い、問題は解決したかに見えた。
けど……。
「ところで、佐山優くん」
「なに?」
「これから、うちの近所で花火大会があるんだけど、一緒に行かないか?」
そう誘ってくれる彼女だけど、僕が出かけるには、まだ親の許可が必要だ。
「じゃあ、母さんに連絡してみる。許可が出たら、一緒に行こう」
僕は彼女にそう伝え、母さんの携帯にメールを入れると、『遅くならないようにね』と、返ってきた。
「うん、大丈夫」
こうして、僕は京子ちゃんと二人で、父方の実家近くで行われる花火大会へ出かけて行ったのだった。
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