他人の悪意と、お勉強会
怪しげな動きが始まります。
できれば夏合宿には行きたくない。
文芸部には二十人ほどの部員がおり、その中で男は僕一人。
おまけに学園カースト上位の姉や部長、美紅先輩に三雲さんと、美女ぞろいの部だ。
僕がどんなに嫌がっても周りからは羨ましがられ、ヤッカミも酷くなるばかり。
もう、男子たちとのコミュニケーションは諦めたのでいいが、いつか背後から刺されるんじゃないかと心配になる。
姉は『私のようにいつも誰かに見られていれば、全く気にしなくなるがな』なんて言ってたけど、僕に突き刺さる視線はそれとは違い、悪意以外の何ものでもない。
畏敬の念で見られる姉と、ヤッカミの視線で敵意をぶつけてくる視線とでは、全く違うと思う。
むしろ、慣れてしまう方が問題では?
そう思わずにはいられないが、その視線が男子からだけでないことに、僕は気が付いていなかった。
放課後、僕はいつものように図書室の指定席に座り、執筆活動を始める。
黙々と作業を進めていると、いつの間にか僕の目の前の席に女子生徒が二人いて、テスト勉強を始めていた。
彼女たちはお互いに教え合っているのか、小さな声で会話しており、聞こえてくるその内容が僕の知るものだったので、たぶん一年生なのだろう。
でも、ちょっと待って。
どう見ても他の席は空いていた。
僕の普段使っている席は四人掛けで、もちろん相席でも問題ないのだけれど、わざわざ他が開いているのに、何故ここ?
そんな疑問も抱くが、だからといって問い詰めたりはしない。
僕だって毎日同じ席に座っているのだから、彼女たちがここをお気に入りと定めたのなら、文句を言う筋合いは無いのだ。
けれど、それが数日続けば、流石におかしいと気づく。
というのも先に先客がいて、いつもの席に座れなかった日にも、彼女たちは僕の前にいた。
わざとだ。
それに気づいたからといって、僕が何か言うわけではない。
彼女たちに何かされたということもないし、邪魔になっているわけでもない。
ただ、気味が悪いだけ。
次の日、それを三雲さんたちに話すと。
「じゃあ、今日から私たちと試験勉強しましょう。葵もいいよね」
「うん、面白そうだし、いいよ」
と、軽いノリで纏まった。
四人掛けの席に三人だから、流石に彼女たちも来ないだろう。
そう思っていたら、やっぱり来なかった。
「来ないね」
「もう、葵。楽しそうにしないの。それより、優ちゃん。ここ間違ってるよ」
「えっ、嘘」
「ここの公式は――――ってなるわけ。わかった?」
「うん、ありがとう」
流石は優等生。僕とは頭の出来が違う。
試験の結果は上位二十名だけが発表されて、三雲さんと白滝さんの二人は中間試験でも名前が載っていた。
それに比べ僕は……赤点が無かったことくらいしか自慢できない。
こんなところでも差を痛感するが、むしろ彼女たちは僕に教えられることが嬉しいらしい。
「ねえ、明日以降も続けていいよね。私が優ちゃんを優等生にしてあげるよ」
「なら、私もお手伝いしようかな」
そう言ってくれるのは嬉しいのだけど、心配にもなる。
「でも、二人とも自分の勉強は大丈夫なの?」
「全然平気、勉強なんて家でもできるし」
「そうだね。他人に教えることも勉強だっていうし、むしろ歓迎かな」
「ほんと、ありがとう。じゃあ、お願いします」
僕はすっかりその女子生徒たちのことを忘れ、試験勉強に励むことにした。
それが後で、あのような事件に関わってくるとも知らずに……。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
これから第二部の佳境へと向かいます。




