マガジン・フィクション
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絶対的な正義なんてない……。正義なんて夢想だ。そういう人びともいる。たしかにこの複雑怪奇な世の中で絶対的な正義を求めることは、馬鹿らしいし、ともすれば危険な行為だ。なぜなら絶対的な正義という免罪符を手に入れた人という生き物はそれを旗印にどんな凶行にも及びかねないからだ。度重なるジェノサイド、人権を無視した施策は、正義という旗印のもとで行われてきた。だが、それでも世界には正義があるのではないか、ヒーローは存在するのではないか、それを求める心は気高いのでは?
そう彼はおもわずにはいられない。何故なら彼は幼少期、住んでいた街を怪獣に襲われ、家を壊され家族は死んだ、それでも彼がいまだ生きているのは、ひとえに彼を救ったヒーローの為だ。ヒーローは怪獣を倒し、街を救った。救われた一人である彼は、世界に対して正義を、ヒーローを求めるようになった。後に記事となったこの事件はこう報道された。「ヒーロー怪獣を倒し、街を救う」「正義の味方参上!街を救う」その記事は瞬く間に彼の目を輝かせた。やがて彼は家族を失った悲しみを、ヒーロー探究で埋め合わせするようになった。ちまたの雑誌やネットのアングラ記事には、ヒーローに関する記事が大量に載っていた。「古代エジプトの秘宝、ゲームで悪を裁く者」「怪人を倒す謎のライダー」「怪獣を倒す謎の巨人」彼はその存在を『正義の味方』だと思った。この世には悪が存在しそれを倒し平和と自由を守る正義の味方がいるのだと。だがそういった記事や事実が彼が成長するにつれて消えていった。もう彼が高校生になる頃には、世界はその存在を忘れたかのように、それは世界から姿を消した。高校生になった彼は相変わらずヒーロー探究に熱心だったが、幼少期と違いそれらを目にする機会は減った。彼は大人になったのだと悟りつつあった、ヒーローや正義の味方など子供の観念であり、大人はそんなことを考えているべきではないのだ、と。やがて卒業の時がきた、進学か就職か、彼は選択を迫られた。だが彼はどちらも選ばなかった。どこか心にしこりがあったのだ、幼少期見たヒーローや正義の味方はどこに行ってしまったのか、と。養父母は心配したが、結局彼は地元の新聞会社に勤めることにした。かつてヒーローを報じていたのは、雑誌の記事やアングラなネット記事、もし新聞社につけば、再びそれを目にすることが出来るかもしれないと思ったのだ。翌年彼は新聞社に就き『ヒーロータイムズ』という雑誌を担当することになった。その雑誌はかつて世界に存在していたヒーローを取り扱う中年向けの、いわば滅びゆく雑誌であったのだが、彼の人生の探究には合致したものだった。
「ヒーローはいる!」「この世界には絶対的な正義が存在し倒すべき悪があって、それを倒したとき世界は救われるんだ」こうした考えに取り憑かれれいた彼は、何故世界からヒーローが消え、絶対的な正義と呼ばれるものがこの世界に本当にあるのかどうか?それを目にすることになる。