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XⅥ【村娘、王都に着く】


 馬車に揺られて数時間後。

 太陽が真上に上がったとほぼ同時刻に、アリスはセフィロード王国の王都に到着した。

 

 ……のだが。


「え? 通行税?」

「はい。銀貨二枚です」


 王都に入る直前の関所で、通行料を要求された。

 そう言えば、父の手伝いで王都へ商売をしに来る度に、この関所で通行税を払ってた気がする。

 幸いにも、故郷を発つ前に母が多めにお金を持たせてくれていた。

 しかも銀貨どころか、金貨も数枚入ったパンパンに膨れた巾着袋を…。

 一体、いつもの商売でどうやってここまでのお金を貯め込んでいたのだろうか…。

 手渡された時は「まさか家の財産全部持たせたわけではあるまいな?」と血の気が引いたくらいだ。

 しかしこのお金は母曰く、小袖料にするつもりで十年間貯め続けたお金だとか…。


 ………どっち道、受け取りづらかった。


 まぁそれでも、こういう時には助かる。

 何せ王都の金銭の流れは田舎の村とは小川のせせらぎと濁流くらいの差がある。




 ―――必要な雑貨と生活必需品以外では無駄遣いしない様にしないとなぁ。




 因みに言うと、王都での住居は騎士団の屯所を貸してもらえる事になった。

 男所帯の騎士団の屯所に女が住まう事は躊躇われる所ではあるが、王都の治安を護る騎士団員ともあろう者が不祥事を起こすとは考えにくい。


 何より、その辺の男よりアリスは自身の方が強いという自覚もあった。

 それに家賃を免除される事はこの上なく有難い。


「えっと、銀貨二枚っと…」


 出来るだけ節約しなければ、と考えながら硬貨の入った巾着袋に手を差し入れた。

 しかし。


「あぁ、アリス様。結構ですよ」

「え?」


 銀貨を手にしたアリスを制する様にして、馭者が馬車に乗ったままアリスに声をかける。

 不思議に思ったアリスは馬車の窓から馭者と関所の役人とのやり取りを覗き見た。

 馭者は何やら懐から手紙の様な物を役人に手渡している。

 手紙は上等な紙質で、間違いなく貴族や王族が書いた手紙であると一目瞭然だ。

 手紙を手渡された役人が内容を確認すると、慌てた様子で検問を解き、アリスの乗った馬車を通した。

 訳が分からず、アリスは馬車の内窓から馭者に向かって声をかけた。


「あの、今のは?」

「出立前に、ガルデロイド騎士団長様からお預かりしていた物です。何でも陛下からの王命が記載された者だとかで」

「ギルバートさんが? と言うか陛下の王命って?」

「私も詳しくは聞かされておりませんが、何でもアリス様が王都に滞在される間の一切の税金を免除するようにと―――」

「引き返して下さい! あの手紙を回収して下さい!」


 ここ最近で一番血の気が引いてしまった。

 何だその特例待遇は!

 田舎出の村娘が王命を行使させていい事じゃない!


 アリスの懇願も虚しく、馬車はパカッ、トコッ、と軽快に王都の中心へ進んで行った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


アリスが頭を抱えながら馬車に揺られて数分後。

馬車の外は道中とは打って変わった賑わいの声で活気に溢れていた。

王都の中央広場とでもいうのだろうか、繊細な彫刻が施された白く大きな噴水と、それ囲むようにして建ち並ぶ出店の数々。

飲食店は勿論、工芸品、淑女向けのアクセサリー、本まで売られている。

これ等の店は毎日この場で商いをしているが、その出店の傍らで、簡易的なテントも設置せず、ほぼ野ざらしの状態で、地面に一枚布を敷いた上に商品を並べて商いをする、所謂旅の商人が肩身狭そうに露店を出していたりもする。

ちなみに言うと、アリスの実家の商いも後者側の商売をしている。

毎日毎日、田舎の安っぽい乳製品を売りに訪れる訳でも無いのに、そこそこな見た目でもテントを置く訳には行かないから…。


「何だか今日は一段と賑わってますね」

「えぇ。三ヶ月後に第一王子クラウス殿下がリヒテンシュタイナー公爵令嬢様との婚礼の儀を執り行われますので、今から既に国民達が国を挙げての祝祭を行っているのですよ」

「第一王子様の婚礼ですか?」


この国の第一王子という事は、第三王子であるルークの兄だ。




―――三か月後にルークのお兄さんが結婚か。めでたいな。




 ルークに再会したら、お祝いの言葉も一緒に伝えよう。


「アリス様。間も無く騎士団の屯所に到着致します」

「あ、はい」


 馭者の言葉通り、馬車はセフィロード王国の国立学園に隣接された王都警備騎士団の屯所前に停車した。


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