表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/52

目的


 転移魔法はまたしても間違えてしまったようだ。

 そして、偶然にもまたディルのそばに転移した。

 こんな偶然って…


「ところでレナ、今回は本当はどこに行く予定だった?」

 不思議そうにディルが聞いてくる。


「今回も転移魔法を間違えてしまったようで… 驚かせてごめんなさい。本当はラストリアに行く予定だったの」

「ラストリアに?」

「先日、学校を卒業したので時間ができたから、ずっと前からラストリアに行きたかったし、今回ひとり旅を決行したの」


 本当は婚約させられそうで、もう自由な時間はなくなるから慌ててラストリアのひとり旅を決行したとは久しぶりに会ったディルには言えない。


「ラストリアになぜ?」

「実はディルを探すつもりだったの」

「俺を?」

 ディルは驚いた顔をした。


「早速、偶然にもディルに会えて、わたしの旅は終わりそうだけど」

「それはどういう意味?」

 ディルの瞳が真剣だ。


「ディルはあの時、わたしが描いたラストリアの湖の絵をまだ持ってる?」


それはもちろんだ。

レナのことは忘れたことがない。


「もちろん!」


「あの時、絵の色を塗るって約束したでしょう。あの約束を果たしにラストリアに来たの」


レナ…


「あの絵は大事に持っているよ。いまは寮の部屋に飾ってある」

「うれしいわ。飾ってくれているのね!今度、ディルの都合がいい時で良いからとは言っても1ヶ月もこちらにいられないから、近いうちに色を塗ってもいいかしら?今回の旅の目的はディルを探して、絵を完成させることだったの。出来れば、思い出にもう一枚絵を描けたら最高だけど…」


 ディルがうれしそうに笑った。


「うれしいよ。ぜひ、あの絵に色を塗ってくれ。あの時の約束を覚えていてくれてうれしいよ。ありがとう、レナ」

「実はわたしもあの半分の絵を持ってきているの。良かったわ。これで約束が果たせそうで、転移魔法を間違えて良かったわ」


 ふたりで思わず顔を見合わせ、笑ってしまった。


「レナ、聞かれる前に言うけど、ここがどこだかわかっている?」


 この牧歌的なこの場所…


「全く、わかっていなくて。ここはどこか教えてもらっていい?」

「ここはラストリアの手前のサンダースという村の近くだ。あの山を越えたら、ラストリアだけどね」


 ディルが指差す方向を見ると、遠くに山頂を白くした高い山々が見える。

 ラストリアはあの向こうか…


「ラストリアまではどれぐらいかかる?」

「あと1日だな。俺は今日はサンダースに泊まる予定だけど、レナは転移魔法でラストリアに行くのか?」

「そうね。ラストリアでお世話になる方も待っておられるだろうし、今日着かなかったら心配されると思うから転移魔法で行くわ」


 転移魔法の自信は脆くも崩れたが、やるしかない。


「レナ、本当に大丈夫か?ラストリアではどこに世話になるんだ?」

「ラストリアのアドレというパン屋さんよ」


!!!

アドレというパン屋だと!

魔女が正体を隠してやっているパン屋だ。

魔女であることはフラップ王国の王族しか知らないはず。


「…アドレって、またなぜそこに?」


 ディルは怪訝な表情だ。


「わたし、ベルではパン屋さんのお手伝いをしていて、そこの女将さんの紹介よ。女将さんの昔からの友達らしいわ」


「昔からの友達?」


昔からの魔女の友達… もきっと魔女だろう。

俺は辺りをキョロキョロ見回す。


いた… やっぱりいた。

予想通りだ。


黒猫。


あの黒猫はきっとアドレのパン屋の魔女の使いだな。

この状況を常に把握(監視?)しているんだろう。



「ディル、急にキョロキョロしてどうしたの?」

「いや、なんでもない。そうか、アドレで世話になるんだな。俺も行ったことはあるよ」

「そうなのね!そこに滞在する予定だから遊びにきてね」

「ああ、必ず行く」


 俺はレナのことをもう離さないから。

 必ず迎えに行くよ。


 ディルは先ほどレナが地面に置いた鞄を手に取り、土を払い手渡した。


「ディル、ありがとう。わたし、そろそろ行くね。あと少しで夕暮れになるだろうし」

「そうだな。急いだほうがいい。また必ず近いうちにアドレのパン屋に行くから」


「待っている…わっわっ!」


 会話が終わらないうちに、また急にディルに抱きしめられた。

 ディルがわたしの耳元で「心配だな」と小声で呟く。

 耳がくすぐったい。


「ディル、さっきからくっつき過ぎ!」

 赤面しながらも抗議するがディルは離してくれない。


「ごめん。ごめん。レナとまた離れるかと思うと心配で」

 頭上の髪にキスをされた。

「ディル… なにを!!」

「転移魔法の成功のおまじない。レナ、次は成功するといいな」


 やっと離してくれた。

 ディルから10歩ほど離れる。

 では、いざ。


「では、ディルまたね」


 ゆっくり、転移魔法の詠唱を始める。

 白い靄が出て、それに包まれる。

 一瞬、ほんの一瞬転移の気配がした。


 しかし…


 だんだん、白い靄が消えていく。

 そして、隣にディルがいる。

 さっき10歩ほど離れたのにディルのすぐそばに転移している。


「あれ、ディル?」

「そうだ」

「ディルは…双子じゃないよね」

「双子って…それどこかの国で流行っている恋愛小説だよ。俺だ。レナは10歩ほどだけ転移したようだ」


 またしても失敗してしまった。


読んでくださりありがとうございます。


黒猫

パン屋

魔女


このキーワード…

国民的魔女ですよね。


偶然… 偶然です!!

アドレのパン屋さんはちゃーんとオバチャンですから!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ