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最終話

とても豪華な顔ぶれのお茶会は和やかなムードで始まった。

 我が両親であるダズベル王国の王と王妃と姉の筆頭公爵夫人、ディルの兄夫妻のフラップ王国の王と王妃、そして両国の大切な相談役であり歴史学者でもある魔女。

 護衛騎士も近衛騎士もいない。

 アドレおばさんとサナさんによれば、防音魔法だの、防御魔法だのいろいろ展開しているらしい。

 ほぼ身内だけのお茶会。

 ザックさんだけがお茶やお菓子の給仕をして、なんだかとても忙しそうだ。


 ラストリアは冬は雪が降る地方だとはいえ、今日は夏の昼下がり。

 容赦なく照りつける太陽でそこそこ暑い。

 そこで、ディルがなにか呪文を唱えたかと思うと風魔法でそよそよと風が吹き始め、心地よい涼しさになった。


「…では、お父様たちは今日は転移魔法で来られたのですね」

「国家間の正式な訪問でもないし、今日はひとりの親として来てるからサナ殿に協力して頂いて、手っ取り早くね」

 父が茶目っ気たっぷりにパン屋の女将でもあるサナさんと目配せしている。

 血は争えない。

我が親ながら、サクッと転移魔法で来る辺り、さすがの行動力だ。


「わたしを迎えにですか?」

「それもある。なにせ、嘘をついて旅に出た娘が隣国で魔獣と闘い、魔力欠乏で3週間も意識不明だと聞けば、心配しないわけがないだろう」

 お父様、それは本当にすみません。

 思わず、肩をすぼめて小さくなる。


「…申し訳ありません。ところで…あの…わたしに政略結婚のお話が来ているんですよね?そのことでお話があります」

「全く、お前たちの友情は羨ましいよ。お前が城を飛び出た事情はサナ殿から聞いている。スカーレット嬢が情報源だったそうだね。お前が飛び出た原因の結婚のお話は間違いなく頂いているよ」


 やっぱり… そうだった。

 少し落ち込む気持ちを立て直し、わたしはグッと手に力を入れ、父を真っ直ぐに見る。


「…お父様、そのお話ですがお断りしても良いですか?」

 父は予想していたのか、表情を崩さない。


「レナリーナ、本当に断っていいのか?なにか大事なことを確認することをお前は忘れていないか?」

 父が真顔で尋ねてくる。


「???」

 父娘の話を一部始終、同じテーブルで静かに聞いていた皆様が、わたしを見て微笑む… いや、肩を揺らしながら笑いを必死で堪えている。

 ディルは気まずいような微妙な顔をしている。


「え…忘れるって、なにを…?」

「はぁ〜 1番大事なことだぞ」


 もう、アドレおばさんに至っては笑いを堪えきれず、お腹を抱えて笑い出している。


 みんながチラチラとディルを見る。

 やっとその様子で気づいた。


「あっ!!ええっ?」

 淑女らしからぬ、声を思わず上げてしまった。

 父はやれやれという顔をしている。


「政略結婚のお相手って…まさか!」

慌てて真正面に座っているディルの顔を見ると、満面の笑みで頷いている。


「…ディル…」


「そのまさかだ。やっとわかったか」

「レナリーナ、そうよ。お相手の名前ぐらい、しっかり確認しなさい。この子は本当にこういうところが…。そこにいらっしゃるディカルト殿下がお相手よ」

 母が少し呆れ気味だ。



 驚きすぎて声も出ない。

 わたしがこれまで散々悩んだのって…


 みんなはやっと笑っていいと思ったのか、ものすごい笑顔だ。


「レナリーナ姫、私が相手でも断られますか?」

 ディルが笑いを堪えて聞いてくる。


「ディルは…ディカルト殿下はご存知だったのですね!」

 わたしは思わず顔を真っ赤にしながら、ディルに突っかかる。


 ディルが笑いながら首を横に振っている。

「俺も寝耳に水だった。知った時はそれはすごい驚いたぞ。レナリーナが3週間、意識が戻らない時に俺も知ったんだからな」

 ディルが慌てて、これまで知らなかったと否定をする。


「そうだったの?」

「そうだよ。そこにいるザックやアドレさんはとっくに知っていたみたいだが」

 ディルがチラリとザックさんを見ると、ザックさんが申し訳なさそうにぺこりと会釈をする。


「だからザックが罪滅ぼしに今日のこの場をセッティングしたいと申し出てくれたんだ」

 そうだったんだ。

 だから、ザックさんがひとりであれやこれやと動いていたんだ。


「ザックさん、いろいろありがとうございます」

 気まずそうに端に立っていたザックさんが微笑む。


 そして、チラッとアドレおばさんを見る。

「黙っていて良かっただろう。ふたりは上手くいったじゃないか。レナちゃんはさっき、ディカルト殿下からプロポーズもされたんだろう」

 アドレおばさんは開き直ってニカッとしながら、さらりと爆弾発言をする。


「どうして…プロポーズのこと知っているのですか?」

「知るもなにも、毎日毎日お互いを熱い視線で見ているんだから、すぐわかるよ」

 アドレおばさん、もう本当にいろいろすみません。


「まぁ、プロポーズ!なんて素敵な!レナはなんてお返事したのかしら?」

 アンお姉様が答えはわかっているのに、ニヤニヤしながら聞いてくる。


「……もちろん、ディカルト殿下のプロポーズをお受けしました」

 もう、顔が熱い。

 そして、全員からの生温かい視線を一身に浴びる。


「申し出をした我が国としてはこんなにうれしいことはない。ダズベル王、我が愚弟のディカルトとの縁談を進めてよろしいですか?」

 ディルの兄、フラップ王が満面の笑顔で父に問いかける。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 父は神妙な面持ちだ。


「ありがとうございます」

 ディルがホッとしたような雰囲気で、しっかり父を見据えて返事をし、こちらを見た。


「レナリーナ姫、ここにおられる皆様に俺たちのことを認めてもらえた。紆余曲折あったがもう、憂いることは何もない」


 本当にいろいろあった。

 6年前にお互いの本当の名前を聞いておけば…

 政略結婚のお相手の名前ぐらい確認しておけば…


 後悔はいくつもあるけど、どれかひとつが欠けても、きっと今日の日が来ることはなかっただろう。


 ディルの綺麗な黒い瞳と目が合う。

 お互いに同じことを思ったのだろう。


 あなたに逢えて良かった。


いままで長い間、読んで頂き本当にありがとうございました。

ようやく、一つの形として、最終話を迎えることができました。

厚く御礼申し上げます。

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