討伐へ
わたし達は、アーノルド支部長に促されて、再びソファに腰を下ろした。
「突然の話で驚かれたと思います。レナ嬢は我々騎士団が必ず守ります。だから、ぜひ安心して討伐に参加していただき、そのお力を貸して頂きたいのです。明日からの討伐はラストリアの中心地から北西の方角に5キロ程行った池の付近まで行う予定です」
わたしはチラリとディルを見た。
アーノルド支部長の話を聞きながら少し不機嫌そうな顔をしている。
そんなディルがわたしの視線に気づいて、申し訳なさそうな顔をした。
「レナ、本当にすまない。明日、絵を描く約束をしていたのに急遽、討伐になってしまった」
この状況下では討伐になるのは当然だ。
ディルが謝るようなことではない。
「大丈夫よ。とりあえず約束は中止ではなく、延期でお願いしますね。人々の命がかかっているのですから、ディルは騎士団のお仕事を優先させてください」
ゆっくり微笑みながら話す。
本当はすごく楽しみにしていたんだけど、こればっかりはどうしようもない。
それに絵を描くチャンスはまだある。
ダズベル王国に帰国するタイムリミットまではまだもう少し先だ。
「レナ、ありがとう。でも、レナが明日からの討伐に参加をするなんて、そんな危険なことはさせられない。支部長の話は断ってくれていいから」
ディルは自分の隣に座るアーノルド支部長をギロリと睨む。
「おおっ。ディルは怖いですね。レナ嬢を討伐に誘って怒っていますね。でも、レナ嬢のことはこのディルが守るので安心してください。彼は貴女の専属の護衛だと思ってください」
豊かな髭を撫でながら、アーノルド支部長は愉快そうにディルを見る。
「そうですね。ディルがレナ嬢の護衛につくなら、なんの心配もいりませんね」
ひとり掛けのソファに座っていたザックさんが身を乗り出して、賛成だと言わんばかりの破顔だ。
「ザックもなにを言っているんだ。もし、レナになにかあったらどうするんだ!」
ディルが慌てて大声を出して、反論をする。
「あれ、ディルはレナ嬢を守りきる自信がないのですか?」
ザックさんがニヤニヤしながらディルに問うている。
「…。レナを守るぐらい大丈夫だ」
ディルはわたしが討伐に参加するのは、危険が伴うので心配してくれているらしい。
でも、わたしもそこそこは剣の練習を重ねてきたので、自分の身は自分で守るぐらいはできるつもりだ。
あまり上手くはないが魔法も少しは役に立つかも知れない。
それになんと言っても騎士団と一緒に討伐に行ってみたいという好奇心がムクムクと湧く。
この騎士団の騎士様と王弟殿下の愛も気になる。
「レナちゃん、いいなぁ〜 わたしも出来るものなら騎士様と一緒に行きたいわ」
ノエルちゃんが羨ましそうにしている。
そうだよね。こんなチャンス、きっと二度とない。
それにわたしがディルや騎士様を守ることもできる。万一、なにかあった時はダズベル王国の王族だけが使える治癒魔法がある。
「あの、わたしで良ければ討伐に参加させてください。よろしくお願いします」
「レナっ!!」
ディルがこわい顔をしてわたしを見る。
「ディル、わたしは大丈夫よ。あまり上手くはないけど魔法が使えるし、剣も少しはできるつもり。自分の身は自分で守るから」
ディルは納得できない様子だ。
「レナ嬢、ありがとうございます。レナ嬢が一緒に討伐に来てくださると心強いです。こちらこそ、よろしくお願いします」
熊のように大きいアーノルド支部長が大きな手を差し出された。
わたしはその手を取り、強く握手をした。
「そういう訳でレナは明日から討伐に参加することになります。許可をいただけますか?」
あれから、アドレおばさんのパン屋に急ぎ帰り、報告することになった。
ディルがアドレさんには自分から説明したいからと一緒に来ている。
「アーヴァンクの急襲に防御魔法と雷魔法か。レナちゃんはがんばったね。本当に何もなくて良かったけど。まぁ、ディルが一緒なら討伐に行くことに心配はしないよ。ふたりとも気をつけて行っておいで」
アドレおばさんが少しも驚きもせず、あっさり許可をしてくれた。
ディルもその様子に驚いた顔をしている。
「ありがとうございます。必ず、レナを守りますので」
「アドレおばさん、ありがとうございます。絶対に無事に帰ってくるわ」
「当たり前だよ。無事に帰ってくるんだよ。でも、やっぱり運命とは抗えないもんなんだね」
アドレおばさんが少し考えながら、呟いた。
「「えっ?」」
ふたり同時の驚きの声にアドレおばさんが困った顔をする。
「アドレさん、ずっと気になっていたんですがやっぱりなにかをご存知なんですね。話してもらってもいいですか?」
ディルは以前からなにかに気づいていたらしい。
アドレおばさんがいつになく真剣な表情でなにか呪文を唱える。
「ディルやザックは気づいているとわかっていたよ。いま、防音魔法をかけた。少し話そうか」
ザック;「支部長、ナイス独断です。」
支部長:「だろ。レナ嬢はディカルト殿下の恋人なんだろう。」
ザック:「そうなんです。なんとしてもふたりにはくっついてもらわないと。」
支部長:「王都の騎士団の名誉のためにもな。俺、いい仕事したな。それにしてもレナ嬢、素敵な子だな。あんな子、ラストリアにいたっけ?」
ザック:「支部長の独断…国際問題にならないことを祈っています。」
支部長:「えっ?」
きっと、こんな薄黒い会話があったハズです。
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