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愛称

ディカルト殿下視点です。

 今日は朝から明後日から始まる魔獣探索と討伐に備えて野外訓練場で訓練の日だ。


 王都の本部から8名で来たので、ラストリアの支部から選抜された10名を加えて、結構な大所帯で魔獣探索に行くことになり、親睦を深めるためにも合同練習となった。


 いまは野外訓練場でペアになり模擬剣での打ち込み練習中だ。

 俺もザックとペアになり訓練中だ。


 剣は得意な方である。

 命を狙われてレナに防御魔法で助けられてからは、自分の不甲斐なさが悔しくて騎士団を志した。

 いまでは騎士団の3本の指には入る剣豪だが、団長とザックにはいつまでも勝てない。


「ディカルト殿下、気合いが入ってないですよ」

「ザックもな。昨夜はワインを飲み過ぎたんじゃないのか?」


 昨夜はひとりでワインをちびちび楽しんでいたのに、女に振られたザックが急に帰ってきて、最初は機嫌が悪かったものの、俺とレナが3週間だけ仮恋人として付き合うと報告してからは上機嫌になり、結局別荘に置いてあったワインまで飲みだして、気づけばふたりで床で朝まで寝ていた。


 お互い口には出さないが酷い二日酔いだ。

 朝からザックは死にそうな顔だった。

「いま、原因不明の病にかかっていますので俺はもう今日は帰っていいですか?」

「ザック、ずるいぞ。俺も原因不明の病だ」

「ディカルト殿下は恋の病でしょう」

「じゃあ、俺の方が重症だな。恋の病と原因不明の病だからな。…本当に帰りたいんだけど」

「副団長が真っ先に帰ってどうするんですか?どうせ、レナ嬢のとこに行くつもりだったんでしょう」


 打ち合いをしながらも言い合いだ。

 これはザックにはバレているな。

 二日酔いで頭がガンガンしても、レナのあの綺麗なタンザナイトのような紫色の瞳で見つめられて「ディル」と呼ばれるだけで二日酔いなんて吹っ飛ぶんだが。

 逢いに行きたい。

 俺は本当に帰りたいんだ。


「支部長がいるだろう。支部長に指揮を執ってもらったらいいじゃないか!」


 ザックと軽口を叩きながら剣の打ち合いをしているが、相当早い打ち合いをしていたらしく、隣で練習していた者が唖然と見ている。


 ふと、なにかの気配を感じ取り振り返ると、すぐそこに見たことのある黒猫がこちらをじっと見て座っていた。

 

「ザック!」

 ザックも気づいたらしく打ち合いをやめて、お互い黒猫に駆け寄る。

 アドレさんの使い猫だ。

 赤い首輪のところに小さく折り畳まれた紙が挟まっていた。


「姫、参上」

 

紙にはそれだけが書かれていた。

なんだこれは?

どこかの賊が使うような言葉だけが…


 ハッと気づいて、訓練場の観覧席でキャーキャー(ギャーギャー?)騒いでいる女たちの方を見る。

 ひときわ、ギャーギャーうるさくなるが無視をしておこう。

 レナの姿はない。


「レナ嬢が見学に来るってことですよね」

 ザックが小さな手紙を見ながら考えている。


「そうだよな。それしか思いつかない。アドレさんが黒猫を遣わすぐらいだから…

あっ!あっ!そういうことだ!」


 アドレさんの手紙の意に気づいた。

 慌てて支部長の元に走っていく。


「支部長!打ち合い中、済まない!緊急事態なんだよ」

 ラストリアの支部長は歳はそこそこ取っているが熊のように大きい男で威圧感が半端ない。


「副団長、どうされました?」

 打ち合いをやめて、怪訝な表情で俺を見てくる。


「申し訳ないが今日の訓練中だけでいいから俺を普通の団員として扱ってくれ!」

「はぁ???」


「俺をいまから愛称の「ディル」と呼んでくれ。頼む!!」


 本当はラストリアにいる間はずっと普通の団員として過ごしたいが、副団長の職務を放棄はできない。

 

 騒ぎを見ていた団員が打ち合いをやめて、集まってくる。


「副団長、どうされたんですか?」

 王都から一緒に来た者が心配そうに口々に聞いてくる。


 こうなったら仕方ない。皆に協力してもらうしかないと覚悟を決める。


「皆にお願いがある。俺は先日、初恋の女性に奇跡的に再会をして、3週間だけ仮恋人として付き合ってもらえることになったんだ。でも事情があって身分を明かしてない。だから皆に協力をして欲しいんだ」


 皆が沈黙をして、至極真面目な表情で俺の次の言葉を待っている。


「彼女に本気なんだ…。彼女しか考えられないんだ。だから、王弟ではない普通の男の俺を好きになって欲しいんだ。呼びづらいとは思うが俺を愛称の「ディル」と呼んでくれ。そして、いまだけでも王弟ではなく、普通の団員として扱ってくれ。頼む」


 皆、微動だにせず沈黙が続く。

 口火を切ったのはザックだった。


「俺からもお願いします。ディカルト殿下の恋が成就すれば、俺はようやく在らぬ噂から抜け出せて普通の恋愛ができるようになります」


 なぜか、ああ…という空気になる。

 その空気に便乗して、王都から一緒に来た者も発言をする。


「俺からもお願いします。例の王弟と騎士団の小説の所為で彼女から冷たい目で見られていまして… 副団長が女性と上手くいくなら、噂も一掃で助かります!」


 王都組が次々となにやら言い出した。

 みんな、大変だったんだ…。

 すまない。

 

満場一致で俺はいまだけ「ディル」認定をされた。


読んでいただきありがとうございます。

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