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お詫び

 

 慌てて画材を片付ける。


「ディル、どこに行くの?」

「まずは陽が落ちる前にチャドワ湖だな。少し歩こう」


 ふたりで湖畔沿いにある遊歩道に歩いて向かうことにした。

 湖畔沿いに行く道にはいろいろな店が立ち並んでいる。


「ラストリアはさすが交通の要衝だけあって、いろいろなものがあるわね」

「そうだな。外国のものもたくさん入ってくるしな」


 ディルはラストリアの経済などにも詳しいらしい。事細かに数字を示して教えてくれる。

 わたしもその話を聞いていて、今まで受けた未来のお妃様教育なるものが役立つ。

 こんな経済の話など友人達とはしたことがない。お茶会での話は、ファッションと噂話と相場は決まっている。


 ディルと話すのは楽しい。


 ラストリアのお店は店構えも古く、見た目も趣きがあって素敵で、ウィンドウショッピングをしているだけでも楽しい。


「レナ、こっち」

 ディルが一軒の宝石店に入った。

 追うように入ると、店内はショーケースに高そうな指輪やネックレスがずらりと並んでいる。


「ディル、なにを見るの?」

「うん、ちょっとね」

 そう言うと、店員さんに声をかけてなにかを頼んでいる。

 店員さんが少しして奥から布張りのトレーに入れてなにかを出してきた。


「お待たせしました」

 出てきたのはインフィニティデザインの土台に小さい紫色の石がびっしり嵌め込まれたネックレスだった。


「いかがでしょうか?」

「ありがとう。注文どおりです」

 ディルがそのネックレスを手に取った。


「俺がレナにつけてもいい?」

「!!ええ!」


 突然のことで心の準備が出来ていない。

 ディルがわたしの後ろにまわり、ネックレスをつけてくれる。

 ディルの吐息が頭上でわかるぐらいの距離だ。

 ディルの手が首筋に当たり、そこから熱が広がる。


「レナ、鏡で見て。よく似合っている」

 店員が用意してくれた手鏡を受け取り、首元のネックレスを映す。


「素敵ね。この石はタンザナイトなのね」

「そうだよ。タンザナイト。レナの瞳と同じ色だから、またよく似合う」

 ディルが意味ありげに微笑む。


 とても高価なものであるのは一目でわかる。

 以前から注文をしていた?

 とにかく、わたしが持っているお小遣いでは到底買えそうもない。


「レナに似合っているし、今日はこのまま着けていこう」

「ちょっ…と??」


 ディルが頬を赤らめる。

「レナにプレゼントしたいんだ。お詫びも込めて」

 お詫び???


 ディルが支払いを済ませるのを茫然としながら見つめた。


 

「ディル、このタンザナイトのネックレス、とても高価なものでしょう。わたしが頂いてもいいの?」

 店を出て、歩きながら首元にあるネックレスに視線を落とす。

 タンザナイトが陽に当たり、パープル色がより澄んで綺麗だ。


「もちろん。レナが落としたと言っていた髪飾りとも合うと良いんだけど」

 ディルが少し心配そうだ。


「あの宿屋の食堂で話したことを覚えていてくれたのね!あの髪飾りもタンザナイトをあしらったものだったし、手元にあればデザイン的にもセットのようだったと思うわ!」


 ディルが満足そうに笑った。


 落としたおばあさまの髪飾りを思い出し、あれを落としていなければ…とまた胸が少しチクリとした。



「ディル、こんなに素敵なものをありがとう」

「俺がレナにプレゼントしたかっただけだし、それにお詫びだし気にしないで」


「さっきから、お詫びってなにの?」


  ディルが少し困ったような表情をする。

「とにかくいろいろ!あとでわかっても許せよ」


 横でディルが悪戯っ子のような瞳でわたしを見ている。

 このネックレスは注文していたようだし、なにかあるんだろうけど、今は追及しないほうがいいんだろう。

 

「わかったわ。よくわからないけどディルに気づかないうちになにかされたのね!怖いわ!」


 クスクス笑って、思いがけず目が合う。

 視線を外せない。

 沈黙が続く。


「さぁ、少し時間をかけてしまったし、チャドワ湖まで急ぐぞ」


 ディルがパッと視線を逸らし、わたしの手を取り、指と指を絡めて手を繋ぐ。


 ディルの指がぎゅっと力が入り握り締められるのがわかる。


 嫌じゃない。


 赤くなった頬を見られないように俯きながら、わたしも握り返す。


 チャドワ湖はもうすぐそこだ。


読んでいただきありがとうございます♪

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