立ち話
店の前にはアドレおばさんとザックが残された。
ザックはふたりになったこの時がチャンスとばかりにアドレおばさんに聞きたいことがある。
先ほどからのザックの話しかけたそうな雰囲気をアドレおばさんは察していたのだろう。
だから、レナとディルに部屋に荷物を持っていくように促したのだろう。
口火を切ったのはアドレおばさんだった。
「ザックもディカルトも元気そうで良かったよ。最近は王都も落ち着いているようだね」
「はい。あの時は本当にありがとうございました。陛下もディカルト殿下も日夜、この国の安寧のために邁進されていて、王都も王城もあの時とは比べものにならないぐらい平和です。ところであの…」
ザックは言いかけて息を呑む。
「ザックが言いたいことはわかっているよ。あの子のことだろう」
「さすがアドレさんですね。なんでもお見通しですね。そうです。レナ嬢のことです。レナ嬢はダズベル王国第三皇女のレナリーナ姫ですよね」
「わたしに聞かなくてもわかっているじゃないかい」
アドレおばさんがニヤッとザックを見る。
「それは様々な状況を総合的に考えてそう判断しました。ご存知だと思われますが先日わたしは陛下にある命を受けまして、ダズベル王国の…」
アドレおばさんに話を遮られる。
「ザックがわたしに聞きたいことはわかっているよ。でも、今はここで話す話でもない。なんせ、外だしね。」
アドレおばさんが辺りを見回してクックッと笑う。
「ーーあ、そうでした」
ここは店前だ。
ザックが失敗したという顔をするとそれを見たアドレおばさんは微笑んだ。
「いつも冷静なあんたもディカルトのことになると周りが見えなくなるんだね」
ザックが弾けるような笑顔で応える。
「ええ。大事な主ですから。それはもう可愛いくて」
「安心したよ。ザックのような者がディカルトの傍にいて。あまり時間がないから、端的に言うよ。わたしもダズベルにいるサナも陛下とザックの君たちの作戦に反対しない。むしろ、協力するよ。これでわかったかい?」
店の奥から、鞄を置いたディルとレナが楽しそうに喋りながらこちらに向かっているのが見えた。
「ありがとうございます。安心しました。わたしもふたりの幸せのためにガンガン奮闘しますよ」
話しきったところでふたりが外に出てきた。
「アドレおばさんもザックさんもお待たせしました。無事にお部屋に鞄を置いてきました。おふたりとも、なんだかすごく楽しそうですけどなにを話していたんですか?」
「あ、それは…」
ザックさんがチラッとアドレおばさんを見た。
「ディルが近いうちにまたレナ嬢に会いにラストリアに来ますのでその時はこちらに泊めていただこうとお願いをしていたんですよ」
「ちょいと、ザック!わたしはそこまで…」
アドレおばさんが慌てている。
ザックさんがすごい悪そうな笑みを浮かべ、ディルは目をキラキラさせている。
それを見たアドレおばさんはなにかを諦めたようだった。
「ディルもザックもいつでもおいで。賑やかになるのは大歓迎だよ!その代わり、あんた達にはしっかり働いてもらうよ!」
「ええーー!!」
ディルが抗議の声を上げ頭を抱える。
それを見て、みんなが声を上げて笑った。
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