温かい気持ち
峠での1件で少し時間がかかってしまったが、日が暮れる寸前でラストリアになんとか着いた。
遠くに見える雄大な山々が夕焼けに染まり、その山々に見守られるようにあるラストリアの街も家々の白い壁が夕焼けに染まって美しい。
アドレのパン屋に行ったことがあるディルとザックさんのおかげで街でも迷わずにすんなりと店に着いた。
通りに面しているアドレのパン屋の前で黒猫がちょこんと座って待っていた。
ディルに馬から降ろしてもらっていると、黒猫のドアベルが付いている扉がチリンチリンと開く音がして、店から恰幅のいい白いエプロンをした中年の女性が出てきた。
王都ベルでお世話になっているパン屋の女将さんに雰囲気がよく似ている。
「レナちゃんだね。待っていたよ。無事に着いて良かったよ」
「初めてまして。ダズベル王国の王都ベルのパン屋の女将サナさんにお世話になっているレナです。到着が遅れてしまい申し訳ありません。これからしばらくお世話になります。よろしくお願いします」
ゆっくり丁寧にカーテシーをする。
「わたしはアドレ。アドレおばさんと呼んでくれるといいよ。サナからは事情は聞いているよ。それにしても、あらあらまぁ」
わたしの護衛のように立っているディルとザックさんの方にうれしそうに目を遣る。
「お二人ともご無沙汰だね。今日はレナちゃんの護衛かい?ここまでレナちゃんを送ってくれてありがとうね」
アドレおばさんはふたりをよく知っているようで親しげだ。
「「ご無沙汰しております」」
ディルもザックさんも少し緊張した面持ちで挨拶をする。
一体、どんな関係なのだろう。
「いやだね。ふたりともそんなに硬くならないでおくれ。レナちゃんがびっくりしているよ」
アドレおばさんがケラケラ笑う。
「ディル、レナちゃんの鞄を2階の部屋まで持っていってくれるかい?部屋はあの子が案内するから」
黒猫がこっちを見てニャーと返事をした。
「アドレさん、わかりました」
ディルは馬に積んでいた鞄を下ろすと黒猫に続く。
「レナちゃんも部屋の場所を確認しておいで」
「はい!わかりました!」
わたしもディルに続いて店に入った。
部屋はカントリー調とピンクのファブリックでまとまっていて、それは可愛いお部屋だった。
「女の子仕様の部屋だな」
「すごく可愛いわね!」
ディルが鞄を部屋に入れてくれる。
「ディル、鞄をここまでありがとうね。そして、ラストリアまで送ってくれてありがとうね」
そう言うと急に寂しく不安になった。
ここでディルとはお別れだ。
この2日間、いろいろあったがディルのおかげであまり不安にもならずにラストリアまで来られた。
ここからはひとりだ。
「俺の方こそ、レナにお礼を言いたい。レナが転移魔法で間違えて俺のそばに来てくれたから楽しい旅が出来たし、再び会うことが出来た」
ディルが優しい瞳をわたしに向ける。
そして、ふわっとディルに包まれ抱きしめられた。
「…ディル?」
「レナ、またすぐに会いに来るから待っていてくれる?今度、一緒に絵を塗ろう」
「…うん。ディル、ありがとう。待っているから」
ディルがさらにぎゅっと強く抱きしめてから、わたしを離すと、
「すぐに来るから」
と耳元で囁いて頭の上にキスを落とす。
「レナとすぐに再会できるおまじない」
優しく頭を撫でられた。
わたしはこの2日間、随分と気持ちもディルに頼っていたんだと改めて知った。
そして、すぐに会いに来てくれると言う言葉にうれしく温かいなにかを感じていた。
足元で黒猫がファァとあくびをしていた。
今回も読んでくださり、ありがとうございます。




