表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/52

風魔法

緑色の大地が果てしなく続き、牛や羊がのんびり草を食んでいる美しいサンダース。

 ゆっくりこの風景を描きたかったし、あわよくば観光もしたかったが、時間的に厳しく出来なかったのが名残惜しい。


 ディルとザックさんの話では、ラストリアには順調に行くと夕方に着けるとのこと。

 わたしはディルの馬に2人乗りさせてもらっている。

 馬の左側に両足を置いて、横座りさせてもらい、包み込むようにディルが後ろに座って手綱を取っている。


 「レナ、落ちてはいけないから腰に手を回すよ」

 そう言うと、さっさとわたしの腰に手を回し頭の上にキスを落とす。


「ディルっ!!」

「レナが馬から落ちないおまじないだよ」

 ディルが弾けるような笑みを浮かべる。

 その笑顔を見ると何も言えなくなる。


 後ろのザックさんをチラリと見ると、ディルによろしくお付き合いくださいと言わんばかりに、愛想笑いをされ、ヒラヒラと手を振られる。

 

 ああ… もうっ!!



 牧草地も終わりいよいよ峠越えに入った。

 旅路は順調だと思われたその時。


 突然、熊が出たと思うようなガサガサと激しい音がして草が揺れると、木々の生い茂る脇から少年2人が勢いよく飛び出してきた。

 走ってきたのか息を相当切らしている。


「お姉さん達、助けて!!」

 叫ぶように助けを求める。


 ディルが慌てて馬の手綱を引き、馬を止めた。


「どうしたんだ」

 ディルが咄嗟に反応する。


 少年のひとりがすぐに答える。

「カナン… 友だちが崖から落ちそうなんだ」

「「!!!」」

「それはどこだ?」

「お兄さん、こっち!!」


 ディルが馬からひらりと降りると、後ろのザックさんに手を挙げる。

 行ってくるという合図らしい。

 そのまま、ディルは少年達と木々の生い茂るほうに駆けていった。


 わたしも慌てて馬から飛び降り、ディルを追いかける。


「レナ嬢はここでわたしと待っていてください」

「ザックさん、留守番よろしくお願いします。わたしも行ってきます!!」

「レナ嬢!!」


 ここで待っているなんて性分ではない。

 ザックさんの声を無視して、草が膝丈まで生い茂る木々の中をディルと少年達の後を追いながらガサガサと分け入る。


 前方でディルと少年ふたりがなにやら深刻そうに下を見ている。


「ディル!!」

「レナ、来たのか!!」


 やっと追いついて、ディルと少年達の下を見ている視線の先を追うと、崖に生えている細い木に少年がぶら下がっている。

 その下は深い谷だ。

 落ちたら、到底助からないだろう。


「ロープがいるが時間がないな」


 細い木にぶら下がっている少年はいまにも木を握っている腕の限界が来そうだ。


 「集落までは少し距離があるんだ」

 少年が泣き出しそうな声で言う。


「わかった。俺が助ける」


 ディルがなにかの詠唱を始めると、ディルの雰囲気が変わった。


 漆黒の髪が揺れ、ディルのまわりが煌めく。


 ふわっと風が舞った瞬間、


 ゴォォォォォ!!!!!


 谷から強い風が下から上に吹き、風が吹き抜けていった。



「「「!!!!!!」」」



一瞬のことだった。


すごい風が吹いて、そっと目を開ければ木にぶら下がっていた少年が目の前に驚いた顔で立っている。


「カナン!!!」


 少年達が駆け寄る。


 一体、何が起こったんだろう。


「風が…すごい風が僕を包んで上に押し上げてくれた!!」


 風が…


 ハッとしてディルを見ると目が合った。


「ディルの魔法…ね」

「ああ。風魔法だ。俺は風魔法が使えるんだ」


風魔法… 初めて見た。

ロン叔父さまから聞いたことはあったけど、本当に使える人がいるんだ。


「すごいわ。風魔法をあのように使って助けるなんて!」


 少年達がディルに気づき、こっちにやってきた。

「お兄ちゃん、助けてくれてありがとう」

「どういたしまして。助かってよかったな」

「うん!」

「おまえ、よくがんばったな」

「う…ん…」

 少年がディルの言葉に感極まって涙が溢れる。

 ディルが助かった少年の頭を愛おしそうに撫でている。

 少年を見つめるディルの黒い瞳が優しい。

 

 あの時、咄嗟に馬から降りて駆けていったディル。

 あの行動力と判断力。


 少年達と駆けて行くディルの背中は格好良かった。

 そして、頼もしかった。



「ところでどうして、あの状況になったんだ?」

「かみなりしいたけを探していたんだ」


「「かみなりしいたけ??」」

 ディルと声が重なる。


ディルもわたしも顔を見合わせ、知らないと首を振る。


 聞いたこともない単語だ。


読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ